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HRテック(HR Tech)とは、「Human Resources=人事」と「Technology=技術」を掛け合わせた造語です。AI(人工知能)やビッグデータなど、最先端の技術を活用して、採用や評価、そのほか人事業務全般を行うツールやサービスのことを指します。
HRテクノロジーとは、人事関連業務に最先端技術を用いたツールやサービスです。そのテクノロジーを活用することで、人手不足や残業超過といった諸問題を解決できる可能性があります。また、データを蓄積することで物事や数字を分析し、それにより新たな課題を明確化することも可能です。このような技術は適切な部門において適切な運用ができれば、仕事を効率化することが可能であり、従業員のワーク・ライフ・バランスをよくするなどの効果も期待できます。
HRテックは人事関連業務全般に関わっており、その領域は多岐に渡ります。ここでは、大きく3つの領域に分けて、その導入メリットにも触れながら解説します。
人手不足が続く昨今、採用に関する業務の重要性が増すと同時に、工程も複雑化・高度化してきています。そのため、業務の効率化は、多くの企業が望んでいることでしょう。
HRテックの主なサービスは履歴書や職務経歴書といった書類や面接データなどの一元管理であり、導入することで情報の確認が容易になります。さらに、求人媒体ごとに応募状況などのデータを蓄積することで、広告分析・対策に活用することができます。
社内人材(従業員)のマネジメントや評価は、評価者(主に上司)の主観が入ってきやすいものです。一緒に働く評価者による評価だけではなく、客観的な評価も必要でしょう。HRテックの導入によって、評価や人事異動、新規プロジェクト立ち上げなどに際しての人選を、より適切・効率的に進めることが可能になります。毎期の評価や実績などに加え、個人の特性や仕事に対する姿勢、資格やスキルといった情報もデータベース化し、管理していくことで人材の適正な活用が期待できます。
※マネジメントに関しては、以下の記事をご参照ください
人材マネジメントの基本!必要性、行うプロセス、ポイントを解説
勤怠・労務・給与計算は、人事業務のなかでも定型の作業といえます。特に勤怠管理に関しては、裁量労働制やコロナ禍の影響によるテレワークの増加などで働き方が多様化しており、業務が煩雑になっていることは容易に想像できます。
勤怠管理にHRテックを導入すれば、従業員による社外からの打刻が可能になるだけでなく、一元的な管理や給与計算への紐づけも容易に行うことができます。また、労務管理として、従業員のストレスチェックなどの一元管理にも利用することができます。
冒頭で触れましたが、HRテックにはさまざまな最先端技術が活用されています。そのなかでも代表的なものをご紹介します。
日常生活においても身近となったAI(人工知能)は、HRテックにおいてもよく使用される技術です。特に人材マネジメントでは、営業実績や勤怠、面談記録などを総合して人事異動や採用に際してのマッチングや退職予測などへの利用が期待できます。このようなAIの活用によって、従業員一人ひとりにより活躍できる場を提供できるほか、人材が流出する前に対策を講じる可能性も高まります。
AIを利用するにおいて必要となるのがビッグデータです。先述したように、分析を行うためには、営業実績や勤怠などのほかにも従業員のスキルや資格など、あらゆる情報が必要になります。こうしたデータをビッグデータと呼びます。ビッグデータを基にAIによる処理が実施され、従業員管理はもちろん、採用活動にも利用できます。
「サース」または「サーズ」と呼ばれるもので、インターネット経由でソフトウェアを利用できるサービスです。インターネット環境があればいつでも使用することができるため、テレワークの増加も相まって、その注目度は増しています。また、社内のサーバーをクラウド上に置換することで、データの容量不可や動作遅延などの課題の解消にもつながります。
パソコンで行っている事務作業を、ロボットによって自動化・代行する技術を指します。特に、人がルーティンで行っている入力作業やデータの抽出といった事務作業に有効です。この技術によりデータ入力の労力を削減することができ、それまで担当していた従業員をほかのコア業務に充てることができます。そのため、人手不足の問題を解決に導けるツールの一つとして注目です。
HRテックは導入しただけでは、その効果を実感することはできません。ここでは、HRテックの導入方法について解説します。
HRテックを導入するにあたっては、導入の目的を明確にする必要があります。まずは、現在の業務を棚卸していきましょう。そのうえで、課題を明確にします。課題としては、「なぜ採用がうまくいかないのか」「なぜ残業が多くなっているのか」といったものが挙がるでしょう。課題は一つとは限らず、複数挙がることも考えられます。課題と課題の関係性を紐解き、課題の優先順位やボトルネックを明らかにします。
課題設定ができたら、その課題が改善された場合の指標となるKPIを設定します。このように導入目的・課題・KPIを明確化することで、その効果を実感できるとともに、業務改善につながってきます。
課題が明確になったところで、次は導入するHRテックの選定をします。HRテックは数多く存在し、さらにこれからも開発されていくと予想されます。そのため、自社の課題に合致したサービスを選定する必要があります。また、既存のシステムとの連携にも着目することも重要です。適切に連携することでより効率的なパフォーマンスが得られる可能性もあります。導入さえすればよいといった安易な考えで同じようなシステムを導入してしまうことで、入力が二重になった、管理が二元になったといった事態を招く可能性もあります。こうした事態を防ぐためにも、HRテックの選定は慎重に行いましょう。
HRテックの選定が終わったら、本格導入前にトライアルを行います。期間や適用範囲を決めて、実践さながらの運用をしていくことで効果測定や新たな課題の抽出が可能です。導入して効率が下がったといった事態を避けるためにも必ずトライアル実施を行いましょう。また、正式に導入する前に社内への周知が必要です。トライアルを実施し、改めて導入目的や運用ルールなどを周知しておくと良いでしょう。
利用するHRテックが決定し、トライアルを実施後に問題なしと判断すれば晴れて正式導入となります。しかし、トライアル時点では発覚しなかった問題点などが浮かび上がってくる可能性があるため、導入後であっても、その効果測定を行っていく必要があります。コストは削減できているか、業務を効率化できているか、メリットが実感されているかといった点に関して調査していくことで、さらなる課題を抽出していくことが可能です。
HRテックは「人」に関するデータを蓄積しながら利用します。採用・育成などに利用する際には個人情報の取り扱いに留意していく必要があります。ほかにも、注意すべき点がありますので以下に解説します。
導入方法でも述べたように、従来アナログで対応してきた分野にHRテックを導入するには、少なからず抵抗感を抱く従業員もいることが考えられます。特に採用や育成については、これまで以上にその成果が可視化されます。従業員が可視化された数字以上に成果を出していると感じるケースや、評価者が自身の評価に自信を持っており、評価にHRテックを導入することに抵抗するケースなどが考えられます。そのため、社内においてHRテックに対しての理解を深めることが大切です。
採用・育成の主役は「ヒト」です。そのため、HRテックに依存しすぎないよう注意が必要です。データに頼りすぎると、現場の見方や評価が軽視され、現場感覚とズレた評価や采配がなされるなどし、不満や不信感が芽生える危険性があります。
データのみを基にして評価を行わないことや定期面談と組み合わせての運用を考え、評価や異動などが機械的にならないようにしましょう。特に評価については、最終的に「人」が判断することを念頭におくとよいでしょう。また、いずれの場合も基となるデータは手作業で入力するため、ヒューマンエラーが起こらない工夫を施すこともポイントになります。
HRテックのサービス事例として、株式会社リクルートが提供しているHRテックをご紹介します。
『リクナビHRTech 転職スカウト』は、中途採用の業務のなかでも母集団形成(応募獲得)のプロセスを支援するHRテックです。『リクルートエージェント』と『リクナビNEXT』による業界最大級の人材データベースから、AIが利用企業にオススメの候補者を毎日紹介します。採用担当者は候補者のキャリア情報を見ながら「○△☓」ボタンで判定を行います。「○△」の場合はスカウトメールが自動送信される仕組みで、応募獲得の業務を効率化します。
出典:株式会社リクルート「リクナビHRTech 転職スカウト」
『リクナビHR Tech 採用管理』は、中途採用における候補者管理を一元化・効率化するHRテックです。人材を募集する際、複数の求人媒体から人材を紹介してもらうことは珍しくありませんが、複数のサービスを利用すると、候補者の管理や面接調整のやり取りなどが煩雑になり、連絡漏れや日程の重複が起きやすいといったリスクがあります。この仕組みでは、応募から入社までの選考状況を一元管理することで、今誰がどのような段階にいるのかを一目で把握できるようになります。また、分散していた情報を集約する利点を活かし、次回の採用に活用するための分析機能も有しています。
人手不足や技術の発達などを背景に、HRテックは人事関連業務に必要なものとなってきました。また、残業削減などの課題を抱える企業においては、業務の効率化にも効果を発揮することが期待できます。しかし、いずれの業務においても、技術だけに頼ることがないようにする必要があります。特に人事関連業務は「ヒト」が関わる業務です。HRテックはあくまでツールであり、導入することが目的になってはなりません。社内の適材適所を実現し、従業員一人ひとりがその力をより発揮できる環境を整えるためにHRテックを活用していくという目的を見失わず、適切に活用していきましょう。