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女性活躍推進法は、正式には「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」といいます。2015年8月に国会で成立したもので、対象となる組織に下記の3つを義務づけています。
もともとは国・地方公共団体、常時雇用する労働者数(常用労働者数)が301人以上の企業を対象に義務づけられ、常用労働者数300人未満の中小企業は努力義務とされていましたが、2019年5月に一部の改正が決定。2022年4月からは、常用労働者数101人以上300人以下の企業にも行動計画の策定・届出および情報公表が義務付けられることになり、より多くの企業に対し、女性活躍に取り組むことを求めています。
出典:厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」
そもそも日本は、女性活躍推進法の成立以前から男女共同参画社会を目指してきました。男女共同参画社会とは、「男女が、社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保され、もって男女が均等に政治的、経済的、社会的及び文化的利益を享受することができ、かつ、共に責任を担うべき社会」と定義されています。
しかし、実態としてはさまざまな制約や慣習がハードルとなり、女性が男性と同等に社会で活躍する機会が得られない状況が続いています。こうした男女の格差を埋めるための取り組みを、社会全体で積極的に行っていくことが女性活躍推進法の趣旨です。
女性活躍は、女性のためだけのものではありません。男性中心だった職場に女性が参画し、活躍することは、多様な個性を受け入れ・活かしあうダイバーシティ推進のひとつとも捉えられ、シニア・障がい者・外国人など多様な人々が企業で活躍する突破口にもなりえます。また、従来は活躍の場が少なかった人たちがさまざまな仕事で活躍することは、少子高齢化による労働人口の減少という日本の社会課題を解決するためにも重要です。女性活躍推進は、社会に属するすべての人たちのためのものです。
※ダイバーシティに関しては、下記の記事をご参照ください
ダイバーシティとは?意味や日本企業が重視すべき理由、企業の推進施策例を紹介
上述の通り、女性活躍推進法は企業に対して一定の取り組みを義務づけるものですが、国や自治体は女性活躍推進法に基づいて、女性を積極活用することが企業活動で有利になるようなさまざまな支援を行っています。各種制度を上手く活用しながら自社の人材採用や就労環境の整備を進められることは企業としての大きなメリットです。
厚生労働省では、行動計画を策定・届出した企業のうち、女性の活躍に関する取り組みの実施状況が優良な企業に対して、厚生労働大臣の認定を行っています。この「えるぼし」認定を受けることは、女性の活躍が進んでいる企業として企業イメージの向上、優秀な人材の確保などにつながるメリットがあります。
また、「えるぼし」認定企業は、国が行う公共調達の際に加点評価されることになっており、地方公共団体も国に準じた取り組みを実施するように努めることとされています。これはつまり、国が定める基準に沿って女性活躍を推進すると、公共事業の受託に有利になるということ。人事領域に留まらないビジネス上のメリットがあります。
では、企業は具体的に何に取り組めば良いのでしょうか。法基準に則って女性活躍を進めるという意味では、先ほどの「えるぼし」認定を受ける際の評価項目が参考になります。下記5つのテーマについて、取り組みを検討しましょう。
えるぼし認定では、採用における競争倍率(応募者数÷採用者数)が男女で同程度であることを基準としています。言い換えるならば、女性が採用されにくい状況を是正することです。本質的には単に採用人数を増やせば良いのではなく、性別を問わない公平公正な採用になる工夫が必要です。もし評価基準に性差が影響する観点があれば見直し、採用基準を満たす優秀な女性に応募してもらえるような環境の整備などを行うことが大切です。
この観点の一つの基準になっているのは、女性の平均勤続年数が男性の7割以上であることです。理想は同程度であることですが、平均勤続年数は短期間で大きく改善することが難しい性質の指標であるため、社会の実情に照らし合わせた現実的な数値目標が設定されていると考えられます。平均勤続年数を高めるとは、すなわち、離職率を下げること。何かひとつの取り組みで結果が出るというより、労働環境の改善、女性のロールモデルの育成、多様なキャリア・機会の提供など、自社で多い離職理由を中心にした複合的な取り組みが必要です。
えるぼし認定の基準では、「雇用管理区分ごとの労働者の法定時間外労働及び法定休日労働時間の合計時間数の平均が、直近の事業年度の各月ごとに45時間未満であること」としています。現状がこの数値を越えている場合は、業務の見直しや生産性改善に努める必要があります。フレックスタイム制や時短勤務制度の導入、ノー残業デーの設定など、働き方に関する人事制度の見直し・整備をおこなうことで、柔軟な働き方を実現することも効果的です。
管理職比率の基準は、「女性管理職の割合が産業ごとの平均値以上であること」もしくは「課長級より1つ下位の職階にある女性のうち課長級に昇進した人の割合(直近3事業年度平均)が男性の8割以上であること」です。実現するには企業が積極的に登用していくだけでなく「管理職を目指す女性」を増やしていくことも大切です。女性向けのキャリア研修などでスキル・意欲を高めることはもちろん、より責任の大きな仕事に挑戦したいと思える職場環境・風土の醸成も重要です。
えるぼし認定では、女性の多様なキャリアを促進するうえで以下の4つの実績を見ています。
A 女性の非正社員から正社員への転換
B 女性労働者のキャリアアップに資する雇用管理区分間の転換
C 過去に在籍した女性の正社員としての再雇用
D おおむね30歳以上の女性の正社員としての採用
国がこれらの事柄を重視していることから読み取れるのは、性別による正社員雇用の機会格差を是正しようとしていること。特にC・Dからは、結婚・出産・育児などで一度離職をすることが、正社員で仕事を再開するハードルとなっている現状を改善したいことがうかがえます。企業としても、ライフイベントが変化しても働き続けられる環境づくりや、活躍を続けられる仕組みづくりが求められているといえます。
厚生労働省では、女性社員の活躍推進に取り組み一定の基準を満たした中小企業(常時雇用する労働者が300人以下)を対象に、助成金を支給しています。
行動計画に盛り込んだ取組内容を実施し、3年以内に数値目標を達成した場合に47.5万円を支給
(上記に加え生産性要件を満たした場合の支給額は60万円)
※なお、2020年3月31日までに一般事業主行動計画を策定している場合は「加速化Aコース」「加速化Nコース」の助成金を受けることが可能です。詳しくは下記もご参照ください。
出典:厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」
旧来の男性中心の職場には、女性が積極的に発言することが歓迎されない雰囲気や、女性が補助的な役割に留まっている場合が多く見られました。こうした風土を引きずっていると、いくら制度や環境を整えたとしても肝心の女性の意欲が高まらず、活躍は実現できないでしょう。女性社員のチャレンジを企業が歓迎・応援し、たとえ小さくとも成功体験を重ねていくことが大切です。
企業の女性活躍推進で起こりがちなのは、女性だけにフォーカスして男性を置き去りにしてしまい、制度の背景や意義が正しく理解されないことです。格差を是正するために機会に恵まれなかった女性を手厚くフォローすることは間違ってはいないものの、当事者以外への配慮がないと不公平感や分断が生じるリスクがあります。これはたとえば産育休を取る社員の業務を社内で引き継ぐ際に、子どもがいない社員にしわ寄せが行く構図になってしまうことで、子どもの有無による不公平感を覚えてしまう人がいることもそのひとつです。当事者だけでなく、当事者以外の人たちの理解・協力が大前提です。
上記に関連して、みんなが納得感のある形で女性活躍を推進するには、女性活躍の先にある姿を示すことも必要でしょう。人事の立場からすれば、性別を問わず活躍してほしいのはいうまでもありません。「属性に関わらず誰もが活躍しやすい組織風土をつくる」という視点で、あらゆる立場の従業員の共感を得ながら推進することが大切でしょう。