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エンプロイアビリティとは、個人の労働市場価値を含んだ就業能力を指す言葉で、日本語では「働き手が雇用され得る能力」と表現されます。
厚生労働省は、2001年に「エンプロイアビリティの判断基準に関する調査研究報告書」を公表。これによれば、「産業構造の変化、技術革新の進展や労働者の就業意識・就業形態の多様化に伴い、労働移動が増大しつつある」ことが指摘されています。つまり、さまざまな社会変化によって人々が仕事や会社を変えることが珍しくなくなりつつあり、今後の社会では1社のみで通用する能力だけでなく、企業を越えて通用する能力を身に着けることが必要になるということ。終身雇用が前提ではなく、人が何度も仕事や環境を変える時代だからこそ、個人の市場価値を意識しながら能力を高めていく必要があるのです。
出典:厚生労働省「エンプロイアビリティの判断基準等に関する調査研究報告書について」(2001年7月)
先に挙げた厚生労働省の調査では、エンプロイアビリティを考える前提として、労働者個人の能力(=企業が求める能力)を構造的に捉えています。それによれば、労働者個人の能力は下記3つから成るとされています。
A…職業遂行に必要となる特定の知識・技能などの顕在的なもの
B…協調性、積極性など、職務遂行にあたり、各個人が保持している思考特性や行動特性にかかるもの
C…動機、人柄、性格、信念、価値観などの潜在的な個人属性に関するもの
この3つのうち、Cの人柄や性格などは容易に変えられるものでも、身につけられるものでもありません。具体的・客観的に評価することも難しく、エンプロイアビリティの評価基準とすることは適切でないというのが厚生労働省の見解です。そのため、エンプロイアビリティとはAやBのような経験によって獲得され得るものとして考えられています。
エンプロイアビリティとは、具体的にはどのようなものを指すのでしょうか。ここで参考になるのが、厚生労働省が「平成29年度労働者等のキャリア形成における課題に応じたキャリアコンサルティング技法の開発に関する調査・研究事業」において公開している、エンプロイアビリティチェックシートです。
このチェックシートは、正規雇用で働くことに対して今一つ自信・意欲が持てない若者や、就職活動期の学生等を対象者として想定したものです。企業で雇用され活躍するために必要とされる能力を洗い出し、自身の持つ強みに気づいて採用面接等で自己PRする目的で開発されています。
出典:厚生労働省「エンプロイアビリティチェックシート(総合版)」
エンプロイアビリティチェックシートでは、大きくふたつの能力が示されており、そのひとつめが「就職基礎能力」です。この能力は以下の3つの力に分類されます。
ふたつめは、「社会人基礎力」です。こちらも大きく3つの力に分類され、さらに12の能力に細分化されています。
ここまでご紹介したように、エンプロイアビリティはあくまでも個人が身につける能力であり、個人のキャリアや就業をより良くすることに焦点があたっています。一方で、社会や組織にも一定の効果が期待されています。そこで、ここでは企業がエンプロイアビリティによる人材評価を行う場合のメリット・デメリットを紹介します。
まず採用のシーンにおいては、求職者の能力をフラットに評価するものさしの一つにすることもできます。特に中途採用では、求職者ごとにさまざまなバックグラウンドを持つため、履歴書や職務経歴書の内容だけでは、どの求職者が一番自社にマッチしているかを評価することは難しいでしょう。そこで、エンプロイアビリティのチェックシートのような指標に沿って、人材の能力を評価することも選択肢のひとつです。
また、就業中の従業員についても、エンプロイアビリティに沿った人材評価を行うことで、現在の職務・部署に限らず、他の役割や他部署で通用するかどうかの判断材料にもできます。昇進・昇格や部署異動など、配置転換の検討に役立つのもメリットのひとつです。
※配置転換については、以下の記事もご参照ください。
・配置転換とは?目的や手順と不当になる事例をわかりやすく紹介
国がエンプロイアビリティを推し進めた背景にあるのは、個人が労働市場での価値を意識しながら能力を高めていける未来像です。つまり、ひとりの人がそのキャリアの中で適宜仕事や会社を変えることが前提になっており、企業の立場からすると、他社でも通用する能力を向上させることは人材流出の可能性が高まることも意味します。ただし、そのような企業の方が採用活動時に希望者が増える可能性もあります。
組織が個人のエンプロイアビリティの向上を支援するためには、下記のようにいくつかの手段が考えられます。
エンプロイアビリティを高めることで自社での評価が上がり、報酬などで個人に還元される仕組みにすることで、従業員の意識をエンプロイアビリティに向けやすくします。
「ロジカルシンキング研修」「プレゼンテーション研修」など、エンプロイアビリティに沿った研修講座を用意するのも、ひとつの方法です。エンプロイアビリティは多くの企業で求められる能力であるため、このテーマで開発された外部の研修講座も多く、外部リソースの活用も選択肢の一つです。
従業員が中長期的に活躍するためには、将来的なキャリアを見据えた業務のアサインや成長機会の提供が欠かせません。しかし、個人が目指すゴールとは直結しないミッションのアサインもあるでしょうし、いくつかのステップを踏ませる場合もあるでしょう。その際に、エンプロイアビリティのような汎用性の高い能力と接続して会話することが有効です。個人が理想とするキャリアイメージと、実現のために向上させたい能力、今から任せたい仕事の機会をリンクさせて、意欲的に挑戦してもらうことも大切です。