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「みなし労働時間制」とは、実際に働いた時間にかかわらず事前に決められた労働時間を働いたとみなす制度です。「みなし労働時間制」の適用対象としては、営業職など事業場外で業務することが多く正確な労働時間の算出が難しい場合や、専門性が高い仕事で労働者に時間管理を任せた方が高いパフォーマンスが期待できる場合が想定されています。
「みなし労働時間制」には、「事業場外みなし労働時間制」、「裁量労働制」があり、みなし労働時間制の適用をうける労働者の割合は平成29年は8.5%、平成30年は9.5%と微増傾向にあります。
「みなし労働時間制」と混同されがちなものに「みなし残業代制」があります。「みなし残業代制」は、「固定残業代制」とも呼ばれ、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことで「みなし労働時間制」とはまったく違うものです。
みなし残業については、以下の記事をご参照ください。
【弁護士監修】みなし残業とは?導入方法や違法にならないポイントを紹介
みなし労働時間制には、「事業場外みなし労働時間制」、「専門業務型裁量労働制」、「企画業務型裁量労働制」の3つの種類があります。
「事業場外みなし労働時間制」とは、営業職など事業場外で業務することが多く使用者の指揮監督が及ばないために正確な労働時間の算出が難しい場合に適用されます。
あくまで正確な労働時間の算出が困難な場合に限りますので、
など労働時間の把握が客観的に困難とはいえない場合には、事業場外みなし労働時間制は適用できませんので注意が必要です(外で勤務しているとの一事をもって、当然に事業場外みなし労働時間制の適用が認められるわけではありません)。
原則として所定労働時間(個別の労働契約や就業規則で定められた労働時間)が、みなし労働時間とされます。業務を遂行するために通常所定労働時間を超えて労働することが必要である場合には、当該業務の遂行に通常必要な時間労働したものとみなされます。当該業務を遂行するために通常必要な時間とは、①労使協定で定めている場合には、その定められた時間となり、②労使協定で定めていない場合には、当該業務の実情に応じて判断されることになります。なお、法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超過するみなし労働時間を設定する場合は、通常の労働時間制の場合と同様に「36協定の締結及び届出が必要」かつ「時間外割増賃金の支払いが必要」となります。また、この場合で、前述した①の労使協定があるときは、労使協定を様式第12号により所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。届け出は、様式第9号の2によって時間外労働・休日労働に関する協定届と併せて届け出ることが可能です。
出典:厚生労働省 栃木労働局「事業場外労働のみなし労働時間制」
「専門業務型裁量労働制」とは業務の専門性が高く、業務を遂行する方法や時間配分などについて大幅に労働者に委ねた方が成果を発揮できる業務に適用されるものです。研究職や情報処理システムの業務、デザインの考案業務、放送番組等のプロデューサー業務、記者・編集者の業務、弁護士の業務など、厚生労働省令及び大臣告示で規定される19の業務が対象となります。
「専門業務型裁量労働制」の場合は労使協定を締結し、その内容を所轄の労働基準監督署長へ届け出ることで適用できます。ただし、労使協定の締結は、専門業務型裁量労働制を労働基準法上適法とするためのものでしかありませんので、これを労働契約上有効なものとするためには、就業規則や個別労働契約において、労使協定の内容に従った規定を定める必要があることに留意が必要です。
「企画業務型裁量労働制」とは、企業の事業運営に関して企画、立案、調査および分析の業務を行う労働者に適用されます。企画業務については、労働者が自らの知識、技術や創造的な能力をいかし、仕事の進め方や時間配分に関し主体性をもって働きたいという意識が高まっています。
適用されるのは対象業務が存在する事業場でとなり、具体的には以下の事業所が該当します。
1).本社・本店である事業場
2) .1)のほか、次のいずれかに掲げる事業場
(1)当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行なわれる事業場
(2)本社・本店である事業場の具体的な指示を受けることなく独自に、当該事業場に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす事業計画や営業計画の決定を行っている
支社・支店等である事業場
したがって製造のみを行う事業場や本社の指示を受けて営業活動を行う事業場は適用外となります。
また対象業務(事業運営に関して企画、立案、調査および分析)に常態として従事し、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者に限られています。
まず、労使委員会を設置し決議した内容を、所轄の労働基準監督署長に届け出ることが必要となります。加えて、就業規則等において企画業務型裁量労働制を採用する旨定めるとともに、対象労働者から企画業務型裁量労働制が適用されることについて個別の同意を得ることが必要となります。
みなし労働時間制は「事前に決められた労働時間を働いたとみなす」制度であるため、みなし労働時間が法定労働時間を下回る1日8時間以下、週40時間以下の場合は原則として残業代は支給されません。ただしみなし労働時間が1日8時間、週40時間を超える場合は相当分の時間外手当が支給されます。たとえばみなし労働時間が9時間の場合は、企業は1時間分の残業手当を支給する必要があります。
また休日手当や深夜手当は、みなし労働時間制であっても支払われます。休日、深夜の労働については、みなし労働時間制を適用していても該当労働時間を正確に把握し、割増賃金の支給対象とする必要があります。
「みなし労働時間制」の場合も、割増賃金は以下となります。
時間外手当…1時間当たりの基礎賃金×時間外労働時間数×1.25倍
休日手当…1時間当たりの基礎賃金×休日労働時間数×1.35倍
深夜手当…1時間当たりの基礎賃金×深夜労働時間数×1.25倍
「みなし労働時間制」で働くメリットとして大きいのは、時間に縛られず自分のペースで仕事ができることです。実働時間にかかわらずみなし労働時間分働いたとみなされるため、始業や終業、休憩の時間を自分で自由に決められます。プライベートの予定に合わせて仕事のスケジュールを決められるので、生活の充実にもつながります。
また、効率よく仕事を進めてみなし労働時間よりも早く仕事を終えることできます。たとえばみなし労働時間が8時間の場合、6時間で業務が終了しても8時間分の給与が支払われることになります。
1日8時間以内、週40時間以内のみなし労働時間であれば、休日・深夜労働が発生しない限り割増賃金を支払うことはありませんので給与計算がしやすくなります。
みなし労働時間を超過した労働時間に対する残業代は、原則支払われませんので、効率よく仕事を進めていくことが大切です。
みなし労働時間制は適用される労働者が限定されていますので、注意することが必要です。また導入にあたっては労働基準監督署などへの届け出など手続きが発生するケースが多く、手間や時間がかかる可能性があります。
「みなし労働時間制」だからといって、従業員の勤務状況を把握・記録しなくてもよいわけではありません。
働き方改革関連法の一つとして労働安全衛生法が改正され、2019年4月から、「客観的方法による労働者の労働時間の状況を把握する義務」が定められました。(労働安全衛生法第66条の8の3)。
この法律によりこれまで労働時間規制の適用除外となっていた管理監督者や事業場外みなし労働時間制及び裁量労働制が適用されている労働者についても、労働者の健康を守るという観点から、労働時間の状況の把握が必要となっています。
労働時間の状況の把握は、タイムカードによる記録、PC等の使用時間の記録等の客観的な方法や使用者による現認が原則となります。これらの方法をとることができず、やむを得ない場合には、適正な申告を阻害しない等の適切な措置を講じた上で自⼰申告によることができます。 事業者は労働時間の状況の記録を作成し、3年間保存する必要があります。
出典:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
「みなし労働時間制」であっても、労働時間を適切に管理することは必要です。自社の実情に即した労働時間の把握方法を社内で検討してみてはいかがでしょうか。