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本章では、人事部について、下記3つの観点から解説します。
人事部とは、一般的に企業において人材管理を担う部門を指します。主な業務は企業によって異なりますが、従業員の採用や育成、人事評価制度の設計などを担います。
また、人事部は、経営陣と現場の間を取り持ちながら従業員のキャリア形成や組織の活性化にも取り組み、企業の持続的成長を支える役割を担う場合もあります。
人事部の業務は、自社にマッチする優秀な人材の採用から従業員1人ひとりが高いモチベーションを持って働けるような人員配置、評価制度の策定・運用、労務管理など多岐に渡ります。人事部のミッションの一つとして、従業員の能力を高め事業の成長を支えることが挙げられ、その目的は、人材によって組織を活性化させ、企業を成長させることだと言えるでしょう。
ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授は、人事部には下記4つの役割や機能があると提唱しています。
下記図は、デイビッド・ウルリッチ教授の提唱を参考にリクルートマネジメントソリューションズが作成したものです。
出典:リクルートマネジメントソリューションズ「人材マネジメント実態調査2010からの考察 「人事の役割」とは」
「戦略パートナー」とは、企業のビジネス戦略と人事戦略を連携させる役割を指します。具体的に人事部は、企業が定める事業目標達成のために、経営と連携しながら戦略的に人材を採用・育成し、事業が成長し続ける体制を整える役割を担います。
「管理のエキスパート」とは、企業の事業活動が円滑に運営されるよう、従業員の労働条件や就業規則の整備や改善、労働法の遵守など、労務に関連する業務を専門的に管理する役割を指します。
「従業員のチャンピオン」とは、従業員1人ひとりが安心して働ける職場環境を整えるために、メンタルヘルスケアやキャリア支援、モチベーション管理などに取り組む役割を指します。例えば、人事部が主導となり従業員の声を拾い上げ、制度に反映させることで、働く環境を改善し、従業員の満足度や定着率の向上を図ります。
「変革のエージェント」とは、技術の進化や市場の変動に対応できる、組織作りや人材採用を担う役割を指します。組織の変革を実現する取り組みや施策を先頭に立って推進します。
ここでは、人事部と混同されやすい下記4種について人事部との違いを解説します。
なお、各定義や違いについては、企業によって異なり、本章で紹介される役割などは一例となります。
「総務」は、一般的に会社全体の円滑な運営を支える業務を担います。具体的には、備品の管理や社内外で実施するイベントの企画・運営、代表電話の受付・来客応対、稟議書や契約書などの作成や処理などの業務が挙げられます。
このように総務は主に会社全体の運営や管理に関わる業務を担当しますが、人事部は従業員の採用や育成、評価など、人材に直接関わる業務が中心です。
「労務」は、従業員が適切な労働環境で働けるよう、主に労働条件に関連する管理業務を担います。多くの場合、就業規則の策定・見直しや勤怠管理、給与計算、社会保険の手続き、入社・退社手続き、福利厚生の制度設計・運用、安全・衛生管理などが労務の業務に該当します。
人事部が労務に関する業務を兼務する場合もありますが、労務は主に従業員の労働条件や法的な手続きに関する業務が中心です。一方人事部は、人材の採用や教育、評価など、事業運営に結び付いた人材管理を担うと言われています。
「管理部門」とは、一般的に企業の事業運営や経営管理をサポートする部門を総称する言葉として使用されています。一般的には、財務や経理、法務、総務、人事、労務など、バックオフィス業務を担当する部署のことを総じて管理部門と呼称します。
人事部は、管理部門に包括される部署(部門)と考えることができるでしょう。
「人材開発」とは、従業員のスキル向上やキャリア形成のための教育・研修を実施する部門もしくは業務を指します。企業の生産性や競争力を高めることを目的に、さまざまな教育施策を実施し、従業員の顕在的な能力を伸ばしたり、潜在的な能力を開発したりする役割を担います。
人材開発は人材の教育や育成に特化しているケースが多いようですが、人事部は人材の採用や評価制度の策定、労務管理まで幅広い業務を担います。
人事部が担う主な業務は、下記の通りです。
ただし、人事部が担う業務は、企業によって異なります。本章では、一例として上記6つの業務内容について解説します。
企業の経営戦略、事業目標を達成するために、経営戦略に沿って適切な部門構成や人員配置を行います。従業員1人ひとりのスキルや経験、志向を把握し、適材適所に配置することでパフォーマンスを最大化することにつながります。経営の意向と現場の状況を考慮しながら、最適な体制を考えることが求められます。
企業の経営戦略・事業計画に沿って年間の採用計画を策定し、採用充足に向けて人材紹介業者との連携や求人媒体への出稿、企業説明会のイベントの企画・運営、採用サイトやパンフレットの制作などあらゆる施策を行っていきます。採用候補者の選考、内定・採用後や入社後フォローなども行い、入社後の定着・活躍までをサポートします。
従業員1人ひとりの成長が、企業の成長につながります。従業員の成長を支援する教育・研修制度の策定も人事の重要な仕事です。今、自社が求めている能力はどのようなものか、経営や現場のニーズ・課題を把握し、新人・中堅職員・管理職など、それぞれの階層に合わせて適切なプランを策定・実行します。メンター制度の導入といったOJT研修の導入のほか、外部の研修サービスを提供する企業との連携を行います。また、研修の手法は対面だけではなくe-ラーニングなどのオンライン形式までさまざまなものがあるため、自社の目的に応じた研修のスタイルをつくっていくのも人事の仕事です。
従業員の業績や能力、企業への貢献を適正に評価し、成果を挙げた人が報われる評価制度の設計、運用も人事の大切な仕事です。目標管理制度や評価制度、昇格制度、給与体系づくりなど、従業員が高いモチベーションを維持し、成長し続けられるような、透明性・公平性を持った人事評価制度の構築、運用・改善を行います。
長時間労働是正のための残業削減の取り組み、従業員のワークライフバランス充実のためのフレックスタイム制の導入、テレワークといった新しい働き方の検討など、企業の実情や時代に応じた労務管理を行う必要があります。従業員が健全かつ安全に働ける環境づくりも人事の大切な役割です。
月ごとの従業員の給与計算、時間外労働を把握し割増賃金の計算、年末調整、源泉徴収票の発行などを担当します。
企業の事業年度や、職務分掌の定義によって違いはありますが、人事部が携わる業務の年間スケジュールとして、以下のような例を挙げることができます。
4月は新入社員の受け入れや人事異動、従業員の上半期の目標設定に向けた面談など、多様な業務が集中するため、人事部は繁忙期を迎える時期と言えるでしょう。5月は新卒採用の準備に入る企業や4月に入社した新入社員の配属先を調整する企業もあります。6月は1年の中で閑散期になる企業もありますが、キャリア採用を実施したり、新卒の夏インターンシップに向けて準備を進めたりする企業もあるでしょう。
そして7月から8月にかけては、企業によっては夏季賞与の支給が行われたり、長期休暇の取得に向けた業務調整が行われたりします。9月は下半期に向けて組織改編を検討する時期です。必要に応じて欠員が発生しているポジションの採用に取り組むこともあるかもしれません。
10月は多くの企業が次年度入社予定の新卒社員に対して内定者研修を開始します。また同時期に上半期開始に向けた人事異動の実施や上半期の評価を下半期の賞与へと反映する作業、下半期の目標設定面談の実施など、繁忙期に突入する企業が増えると考えられます。
11月から12月にかけては、労務も兼務している人事部の場合、年末調整にリソースが割かれることもあるでしょう。12月下旬から1月にかけては、繁忙状態が落ち着くものの、2月から3月にかけては、次期組織改編や昇給、昇格に関する検討・調整、新卒採用の広報解禁に向けた準備など多様な業務が平行して進められます。
人事部の役割や業務内容から、特に下記のような資質を持つ人が求められると考えられます。
本章では、上記4つの特徴について解説します。
人事部で特に求められる資質として、社内外の多くの人と関わるために高いコミュニケーション能力が考えられます。社内では経営層やマネジメント層、メンバー層などあらゆる従業員とコミュニケーションを取り、現場の声を聞いて、自社の方針や自分の意見をわかりやすく伝えることが求められると考えられます。
社外では社会保険労務士や産業医などのプロフェッショナルをはじめ、採用や研修サービスなどを提供する業者と協働する機会も多いため、バックグラウンドの異なる人たちとコミュニケーションを深め、異なる意見を調整していく力が求められるでしょう。
このようにさまざまな人と多様なコミュニケーションを取る機会が多いことから、コミュニケーション力が高い人材は人事部でも求められると考えられます。
人事部で特に求められる資質として、高い戦略構築力が考えられます。
企業が成果を出し続けるためには、自社の置かれているビジネス環境や法律の改正など、経済や社会の動きを把握し、時代に即した施策や制度を設計していく必要があります。
そのため、経営戦略を理解し、経営と現場の橋渡し役として従業員の想いや職場の課題など、現場の声を反映した施策・制度を構築していく力を持つ人材は、人事部に適している可能性があります。
人事部で特に求められる資質として、高い事務処理能力が考えられます。
人事部の業務は多岐に渡ることから、業務を進める上でさまざまな事務処理業務が発生します。さまざまな事務業務が平行する中でも的確に処理を進められる人は、人事部に配属されることで自身の能力をより発揮できたり高められたりできるかもしれません。
人事部で特に求められる資質として、コンプライアンスに対する高い意識が考えられます。人事部でコンプライアンスを遵守する姿勢が評価されることもあるでしょう。
コンプライアンス違反は企業の社会的価値や存続に大きな影響を与えます。そのため人事部は従業員1人ひとりがコンプライアンスを遵守するよう、従業員に対してコンプライアンスを遵守する姿勢を示したり、コンプライアンスを遵守する体制を整えたりする必要があります。
その点、コンプライアンスに対する意識が高い人は、コンプライアンス遵守に向けて中心的な役割を担ったり、自身の行動や姿勢からコンプライアンスを遵守する思想を浸透させたりできることが期待できます。
これからの時代、人事に対して求められると考える下記3つの項目について解説します。
従来の人事部は管理業務が中心でしたが、近年は経営的な視点を持った「戦略人事」が求められています。戦略人事とは、経営目標を達成するために、人材マネジメント・育成・組織開発など人材活用面から支援することです。適切に戦略人事を行っていくためには、経営目標を理解し、経営者と同じ視点で人事業務を行う必要があります。
「欠員があるから採用する」といった場当たり的な捉え方ではなく、自社の成長のために必要な人材要件や人数、入社後の育成方法、目標とする組織像などを明確にし、戦略的に対応していく必要があります。
また経営幹部の一員として経営視点で人事戦略を立案していくCHRO(Chief Human Resource Officer=最高人事責任者)を置き、改革を推進していく企業もあります。
2018年に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が施行されました。「働き方改革」は、働く人々が各人の状況に応じて、柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革です。長時間労働の是正や、正規雇用社員と非正規雇用社員の待遇格差を禁止する同一労働同一賃金の制度など法律に対応するほか、多様な能力・価値観、ライフスタイルを持つ従業員が自ら選択できる働き方を提供し、ライフイベントに左右されず望むキャリアプランを描けるような制度を設計していく必要があります。働きやすい環境を整えることが結果的に従業員のモチベーションを高め、離職防止につながると考えられます。
出典:厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/000335765.pdf)
オンライン面接や研修のように、人事部は時代に応じた新しい手法を取り入れて社内の仕組みや制度を常にアップデートすることが求められています。また採用、育成、評価、人員配置などの人事関連業務でも「HR テック(AIやビッグデータなどの最先端のテクノロジーを人事領域に活用することで、業務の効率や質を高めていくサービス全般)」の導入が進んでいます。テクノロジーを活用し、業務の効率化や質を向上させていくことも、これからの人事部には欠かせなくなってくるでしょう。
アドバイザー
組織人事コンサルティングSeguros / 代表コンサルタント
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。