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アセスメントとは、「調査に基づいた客観的な評価・査定・分析」という意味の言葉です。英語で評価や査定を指す「assessment」がその語源です。アセスメントにはさまざまな種類がありますが、最初に人事人材分野で採用活動に利用されることの多い「採用アセスメント」について説明しましょう。
採用アセスメントとは、人材アセスメントを利用して応募者の適性を客観的に評価する採用手法のことで、「アセスメント採用」と呼ばれることもあります(本稿では人材アセスメントを利用した採用活動および採用に利用するアセスメント自体を「採用アセスメント」と呼称します)。面接や応募書類では見えない部分である特徴や能力を数値化して客観的に評価することで、採用ミスマッチを防ぐことを目的としています。
※採用ミスマッチについては、こちらもご覧ください。
【徹底解説】採用ミスマッチによるリスクと原因・理由や防ぐ方法
採用アセスメントは応募者を一定の基準によって数値化するものです。面接などの人による評価とは異なる観点からの比較となるため、選考結果がよりバランスの取れたものになる可能性が高まります。ここでは、採用アセスメントのメリット・デメリットについて解説しましょう。
アセスメントを通して人材の能力や資質を数値化することで、面接や応募書類だけでは分からない項目に関して客観的に評価することが可能になるため、採用ミスマッチのリスク低減が期待できます。
アセスメントを通して、スキルや経験ではなく応募者の特徴や潜在的な能力を数値化するため、従来の評価基準では見つけることのできなかった人材を発見できる可能性があります。
アセスメントを通して、人材の特徴や潜在的な能力を数値化して評価することで、人材それぞれの適性に合わせた人材配置をすることが可能になると考えられます。適切な人材配置によって、人材に「仕事が合わない」といった不満が生まれにくくなり、職場への定着率の向上が期待できる可能性があります。
アセスメントを通して自身の強みや弱みを把握することは、早い段階から自身のキャリア形成を考えるきっかけとなることが考えられます。キャリア教育の必要性が叫ばれている現在において、早期から自身のキャリア形成について考えることは、自身の人生設計において大きな手助けとなるといえます。
アセスメントを実施するには、外部機関に委託したり、アセスメントツールを導入したりする必要があります。このような依頼や導入のコストがかかることは、デメリットの一つです。
採用アセスメントを導入するにあたっては、測定項目を検討したうえで、その項目にふさわしいアセスメントツールを選択し、査定を実施して分析するなど導入には手間がかかります。外部委託をする場合であっても、委託先の窓口となり、同時に社内の先導役を務める人事部門に、相応の負担がかかることは避けられません。そのため人事部門のマンパワーが不足している場合などは、人員配置も含めて検討する必要が出てくることも少なくないことを踏まえておくとよいでしょう。
採用アセスメントと並んで企業の人材・組織分野における代表的なアセスメントとして、「組織アセスメント」と「人材アセスメント」があります。ここでは次に、組織アセスメントについて説明します。
組織アセスメントは、対象の組織の構成員に対して幅広くサーベイ(調査)の形で実施されるものです。
たとえば、勤務先で「ストレスチェック」を受けたことがある方もいると思います。これは2015年12月の労働安全衛生法の改定によって、労働者が50名以上の事業所で実施が義務付けられた制度ですが、これも「組織アセスメント」の一つです。
組織アセスメントの主目的は、職場のコミュニケーションの活性度合いやモチベーションの維持・向上の判定など、その組織の状態を把握することです。手段として個々人へアンケートを行うものの、個々人へのフィードバックが主目的ではありません。
さらに企業としては、組織の状態を把握するだけでなく結果に応じた施策を実施し、あるべき状態に組織を変化させることが最終目的になります。場合によっては組織開発もできる外部機関(コンサルティング)などを利用することも方法のひとつでしょう。
欲しい結果を導き出せる調査ツール、施策を打ち出せる機関の選定がポイントとなります。
ここからは人材アセスメントを導入する目的やメリットについて詳しくご紹介します。
人材アセスメントには大きく2つの特徴があります。
人材アセスメントでは、特定の候補者選定のために、その基準・水準に達しているかどうかを評価・確認します。そのため採用、昇格、管理職登用、各種選抜など、対象者によってアセスメント項目が異なることが、まず大きな特徴として挙げられます。
具体的には、採用の場合はSPIと言われる適性検査目などが、昇格の場合はビジョンの設定力といったリーダーシップ要素などが、管理職登用の場合は業務の処理能力、部下の評価能力、課題の設定力や、人材の育成力といったマネジメント能力などが、それぞれアセスメント項目として設定されています。
企業人事では、毎年(あるいは特定の周期で)特定の階層の昇格者、管理職やリーダー、次世代リーダーなどの候補者を育成しておく必要があります。
そこで特にこの点に問題意識を持っている企業では、目的に応じた人材アセスメントを定期的に実施しています。これにより毎年それぞれの候補者が確認できますし、アセスメント結果に応じた人材育成プログラムを実施することで候補者の育成もできます。
このように人材アセスメントは、対象者によってアセスメント項目が異なりつつも、毎年(あるいは特定の周期で)実施されるという、継続的な運用が求められることが特徴として挙げられます。
人材アセスメントを導入する目的の代表的なものは、以下の2つです。
著者が関わってきた企業の多くで、ある特定の能力やスキルを保有している人材を確保する際に人材アセスメントを活用するのは、非常に多く見られる活用法です。特に管理職やリーダーを選定する場合には、社内での選考基準や評価に加えて、人材アセスメントによってより客観的な評価を組み合わせ、検討するのが一般的だと考えられます。
一方、研究者や社内固有の専門家などの選定にあたっては、社内で独自のアセスメント項目を設計し、評価を行っている企業もあります。
人材アセスメントは、従業員一人ひとりの能力開発の重点ポイントを把握することを目的に実施されるケースもあると考えられます。従業員の能力開発は「OJT(On the Job Training)」(現場で実務に従事することで知識やスキルを身に付ける手法)と「OFF-JT(Off-the-Job Training)」(特別に時間や場所を取って教育・学習をする方法)による研修プログラムを組み合わせて進めていくのが一般的です。
これらの育成に際しては、従業員のレベルを正しく把握し、適切な研修を提供していくことが欠かせません。人材アセスメントによって人材を評価し、その評価をもとに研修プログラムを設計していきます。
※OJTについては、こちらもご覧ください。
OJTとは?<意味がわかる!>メリット・デメリット、導入するポイントを解説
人材アセスメントはいくつかの目的をもって、対象者をさまざまな形で分析するものです。さまざまなメリットがありますが、活用の目的やポイント押さえないと逆効果になりかねません。ここでは人材アセスメントのメリットと、デメリットを回避するための導入時の注意点を解説します。
人材アセスメントは業務上の上長が行うことはまれで、人事部門や外部機関が実施するのが一般的です。先入観を持たない評価者が基準に沿って評価するため、日常の業務内では発見しづらい項目についても評価が可能になるというメリットがあります。
また人材アセスメントでは能力を数値化して評価するため、上長の主観が入ってしまいがちな通常の人事評価と比べ、より客観的な評価が期待できます。こうした客観的な評価の実施は、従業員のモチベーションアップにつなげることが可能です。
さらに、人材アセスメントによって従業員の特徴や能力などが分かるため、その今後のキャリア形成を考えるにあたり、適切な育成プログラムの検討の助けとなるのも見逃せないメリットでしょう。外部機関で評価を行う場合は、ほかの企業と比べた水準を確認できるという利点もあります。
人材アセスメントを導入する場合、特に人材アセスメント結果を昇格や登用に用いる際には、留意しなければならないことが2つあります。
アセスメント結果を昇格候補者選定の基準などに用いる場合、極端なケースですが、従業員のなかにアセスメント結果がよければ必ず昇格できるという誤解や、昇格のためにはアセスメントさえ高評価であればよいといった誤解が生じかねないことがあります。これは、人材アセスメントのデメリットともいえるでしょう。
このような誤解を解消するためにも、アセスメント結果を昇格候補者選定の基準などに用いる場合、アセスメント結果だけではなく、通常の人事評価やその他の審査項目などと組み合わせた昇格基準を明確にしておき、その活用法を評価者はもちろん従業員に周知しておく必要があります。
※人事評価に関しては、以下の記事をご参照ください
人事評価制度とは?種類や基準の作り方など、コツを詳しく解説
被アセスメント者からすると、アセスメント結果が悪かった場合、今後の開発項目とその開発方法がわからなければ、悪かった結果だけが記録として残ることになりモチベーションが下がってしまいます。
人材アセスメントを組織の人材活用の目的で導入する場合は、アセスメントによる評価を行うだけでなく、的確なフィードバック、さらには研修などのその後のフォローアップ手段の提供も不可欠です。そのためには、評価が低かった場合の対策としての育成プログラムを準備したり、フィードバックの際に今後重点的に開発すべきスキルやその方法についてコメントしたり、といった工夫も必要です。
人材アセスメントは、単にアセスメントとして利用するだけでなく、その結果を基にその後の人材開発につなげる方法としての活用も期待されます。
アセスメントの実施と活用は、大まかに以下のような手順で実施していきます。
それぞれについて詳しく説明しましょう。
アセスメントをすることを通じて、あるいはアセスメントの結果から何を評価したいのかを明確にします。
目的が漫然としていると、アセスメントを行ったのに期待していた成果が得られないことがあります。自社でアセスメントを実施するときも、外部機関を使って行うときも、目的の明確化は必須です。
目的に沿って、得たい情報(アセスメント項目)を決めます。
現状の問題を明確にしたい場合は、現時点で感じている問題を洗い出して項目化します。
あるべき状態に近づけたい場合は、あるべき状態を想定しながら、実態と対比させることで、これから補っていく・改善していきたい内容を項目化します。
そして、それぞれの項目に対する基準を設定します。
定量的に評価できるものは、値に応じた基準を設定していきます。定性的なものについては、大きく3段階や5段階などの評価数を決め、許容範囲・許容範囲を超えた場合・許容範囲に満たない場合、などで評価基準を設定していきます。
さらに複数の項目をくくってカテゴリごとにまとめたり、(総合的な判定を行う場合は)総合評価を行うためのロジックを作成したりします。
アセスメント結果に基づく判定と、それに対する施策を結びつけることができる場合は、基準の設定段階で判定結果に応じた施策も検討しておきます。
アセスメント対象について、アセスメント項目を測定するための情報を収集します。
具体的には、(人材アセスメントの場合)試験の受験や報告書の提出、面談の実施の他に、これまでの経歴を調べたりすることが挙げられます。
設定したアセスメント項目・基準に沿って、評価をします。
項目毎に評価した結果を集約し、カテゴリ別の評価、さらに総合評価を行います。
たとえば管理職登用のためのアセスメントの場合、業務の処理能力、マネジメント能力、問題解決力、リーダーシップ能力、部下の評価能力など、カテゴリ別に評価を行い、それぞれが狙いとする水準に達しているのかどうか判定を行います。加えて総合的な評価も行います。
そして総合的な評価によって、管理職登用の候補者にするか否かといった、アセスメントを利用した判定を行います。
また採用アセスメントの場合は、同様のプロセスでカテゴリ別の評価を行い、総合的な評価によって誰を採用するかについて決定します。
※リーダーシップ能力に関しては、以下の記事をご参照ください
【人事必見】リーダーシップとは?種類や高める方法、研修を紹介」をリンク挿入してください。
評価結果が許容範囲に収まり、特に今後の施策を検討しなくて良い場合は、深い分析は必要ありません。しかし許容範囲を下回ったり上回ったりした場合は、許容範囲に収めるための施策を導き出せるよう、評価結果を分析します。
アセスメント項目・基準の作成時に、判定に応じた対策を設定している場合は、判定結果に応じた施策を実施します。
分析結果の裏返しがそのまま施策になる場合は、すぐに対策をとることができますが、多くの場合新たな対策を別途検討する必要があります。
社内外の有識者に相談して、それぞれの分野・業界に求められる施策を検討します。特に企業人事・組織においては、人事・組織の開発項目として施策を検討することになります。
ここまで主に企業の人事分野で利用されているアセスメントについて紹介してきましたが、アセスメントはさまざまな分野において多くの種類があります。ここでは、他の分野のアセスメントとしてよく耳にするものについて、概要を説明します。
「環境アセスメント」とは、開発事業の検討時に、その開発事業が環境にどのような影響を及ぼすかについて調査、予測、評価を行うことです。
たとえば、公共事業で産業廃棄物の処理施設の新設などの検討を行う際に、公共機関が環境への影響を把握しておくだけでなく、住民への説明などにも用いることで関係者の理解・納得が得やすくなります。
「リスクアセスメント」とは、職場の潜在的な危険性または有害性を見つけ出し、リスクを低滅することです。
たとえば、企業活動において薬品や燃料などの危険物を扱っている場合に、どのような管理方法が適切なのかを検討するため、危険物の程度や現在の管理状況を把握するために行います。
介護・保育現場のアセスメントとして「要介護認定」「保育の必要性の認定」について紹介します。この2つの認定には直接「アセスメント」という言葉は使われていませんが、介護が必要とされる人の日常生活における言動や健康状態を評価する、保育が必要とされる乳幼児の生活環境などを評価する、という点では、一般的に行われている「アセスメント」と同義と捉えることができます。
「要介護認定」とは、介護が必要かどうか、必要な場合はどの程度かを客観的に判定することです。
主に介護現場で新たに介護サービスを受ける、また介護施設に入所または入居する際に、日常生活の中でどれくらいの介護を必要とするかを測定し、その方に合ったサービスを検討する際に行われます。
(2)保育の必要性の認定
「保育の必要性の認定」とは、乳幼児を保育する支援策を確定させるために、保護者の経済環境や生活環境などを客観的に評価し、保育の必要性を認定することです。
主に公的機関での保育現場で、保育に必要な時間や支援策を検討する際に行われます。