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マインドフルネス(mindfulness)とは、今の瞬間に集中できる状態を意図的に創り出すことによって、気づきの状態(アウェアネス)を導き出すことです。
そのための代表的な方法として、瞑想が挙げられます。
一般的に瞑想というとスピリチュアルな内容を思い浮かべる方も多いと思います。スピリチュアルな瞑想の最終目的は、東洋医学で「気」と言われているような、「エネルギー」が通る状態を意識し、リラックスしつつも満ち足りた状態を作ることです。
一方、マインドフルネスでの瞑想は、スピリチュアルな瞑想である「深い瞑想」になる前段階でありつつも、瞑想の効果が得られる状態のことを指しています。マインドフルネスの瞑想は「気」を通すまでには至る必要はなく、「集中」し心を平常な状態にすることで、やる気を満たし、行動に移せる状態にすることを目的としています。
最近の企業では、従業員の労働の質やパフォーマンスを向上させるために、働く時間以外の時間を充実させるような「ワークライフバランス」にも注力しています。
そのような中、厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針2014」によれば、「午後の早い時刻に30分以内の短い昼寝をすることが、眠気による作業能率の改善に効果的」と、昼食後の短時間睡眠を推奨しているように、海外企業がオフィス内に仮眠室を設置し、15~30分程度の短い仮眠をとることを推奨するなど、「休憩」する時間に着目する企業が増えています。
引用:厚生労働省「健康づくりのための睡眠指針2014」(平成26年3月)
このように休憩する時間に関心が集まるなか、マインドフルネス(瞑想)にも注目されるようになりました。
マインドフルネス(瞑想)の効果として一般的に言われているのは、「集中力」を高めることです。
マインドフルネス(瞑想)により余計なことを考えない状態を創り出すことができるため、結果的に「集中力」を高めることができるようになります。
もし、あなたが行動しようとしてもできなかったとき、「行動に移せない理由」は何だと思いますか。
たとえば、ある特定の期日までに企画書を作成しなければならない、そして企画書を作るための情報はすでに集めているとします。なのに、ついつい優先順位の低い別の業務を入れてしまい企画書自体を作成することに着手できない、結果的に先送りしてしまっている…このような状態を「行動に移せない状態」だとします。
では、この「行動に移せない状態」は、なぜ生じてしまうのでしょうか。
その理由として、大きく2つがあります。
1つは、過去の後悔や将来への不安があり、「今」に集中できないためです。
マインドフルネス(瞑想)によって「今」に集中できる状態を創り出すことで、結果的に行動力をつけることができるようになります。
もう1つは、自分に対して行動してよいという「許可」を出していないためです。
「許可」を出すための要素の一つは「安心」です。そして「安心」を得るには、先に述べた「今」に集中すること以外に、「自分を客観視する」ことで行動しても大丈夫な状態であることを認識することが必要です。
マインドフルネス(瞑想)によって今に集中した後、今の自分の状態について客観的に考えることで、行動しても大丈夫という「許可」が出せるようになります。
マインドフルネス(瞑想)によって呼吸に集中することで、自分の体に意識が向くようになります。その結果、体の中に生じている痛みや不調に意識が向くようになり、結果的に体の状態に敏感になります。
自分の体に敏感になることで、たとえば「上司に非難されたことで胃が痛くなっているんだ」とか、「会議で提案に対して攻撃を受けたことでムカムカしているんだ」というような、自分自身に対する認識(セルフアウェアネス)を高めることができるようになります。
マインドフルネス(瞑想)によって今の自分を客観的に見ることができるようになると、常に安心した状態を保つことができるようになります。それにより、自分の精神状態を安定させる力(セルフマネジメント力)を向上させることができるようになります。
ここからはマインドフルネス瞑想のやり方を紹介しましょう。瞑想は、次の手順で行います。
仮眠のときには仮眠室に行ったりするように、瞑想をするときは、瞑想に適した静かな環境に身を置きましょう。そして背筋を伸ばして座ります。
なおマインドフルネス(瞑想)では、スピリチュアルな瞑想のように座禅を組んだりする必要はありません。
目を閉じて、自分の呼吸に意識を向けます。
目を閉じるのは、外界から余計な刺激を受けないようにするためです。
呼吸に意識を向けた後、深い呼吸(肺の奥、腹式呼吸ができる方はお腹まで、空気を入れること)ができるように「ゆっくり」「大きな」呼吸をします。
交感神経が高ぶっていると浅い呼吸で呼吸数も早くなりがちです。深くゆっくりとした呼吸をすることで、副交感神経を優位な状態にします。
なお深い呼吸では、体操の後などに行う物理的な深呼吸とは異なり、普通に行う呼吸の間隔を長くして体の奥まで空気(酸素)をいきわたらせることを意識します。
瞑想で一番良いのは「何も考えない状態」を作ることです。しかし、詳しくは後述しますが、いきなり何も考えない状態を作ることは脳科学・心理学上難しいことです。
そこで意図的に呼吸に集中することで、結果的に呼吸以外のことを考えていない状態、すなわち「余計なことを考えてない状態」を作ります。
なお、ここでの「余計なことを考えてない状態」とは、激しいスポーツや楽しい趣味に没頭して「そのことだけに集中している状態」と同義に捉えてください。
マインドフルネス(瞑想)を習慣的に行うようになると、スピリチュアルな瞑想でいう「無の状態」を作れるようにもなります。ただしマインドフルネス(瞑想)の目的は無の状態を作ることではなく、あくまでも「余計なことを考えない状態」であると認識しておいてください。
仕事の休憩中などに行う場合は、アラームなどを使って、あらかじめ決めた時間で瞑想を終わらせます。「集中して気持ちが落ち着いたら終わらせよう」などと考えると、終わらせることに意識が向いてしまい、余計なことを考えない状態を作ることが難しくなるためです。
マインドフルネス(瞑想)に取り組む際に意識しておきたいことを3点ご説明します。
マインドフルネス(瞑想)の手順の中で、呼吸に集中することで何も考えない状態を作ると説明しましたが、人は「余計なことを考えないようにして、何も考えない状態を作る」ことはできません。
脳科学的には、「脳は否定的なことを理解できない」と言われています。
具体例を挙げてみましょう。「皆さん、決してピンクの象を思い浮かべないでください」と言われたとき、あなたの頭の中はどうなりますか。逆に頭の中がピンクの象でいっぱいになったのではないでしょうか。
つまり、脳は「~しないでください」は理解できないのです。そのため「余計なことは考えないでください」と言われたら「余計なこと」で頭がいっぱいになってしまいます。余計なことを考えないようにしようとすればするほど頭がグルグルしてしまうのは、脳科学上仕方がないことなのです。
心理学的には、「皮肉過程理論」と言われています。
これは簡単に言うと、「シロクマのことを覚えておいてください」と言われたAグループと「シロクマのことは覚えなくて良いです」と言われたBグループでは、結局Bグループの方がシロクマのことをしっかり覚えてしまっていた、というものです。
つまり、人は普段から「〇〇のことは気にしないでおこう」と決めれば決めるほど、気にしてしまうということです。
参考:National Library of Medicine 「Paradoxical effects of thought suppression」(1987年7月).
このように、意図的に「何も考えない状態を作る」ことは難しいものです。マインドフルネス(瞑想)では何も考えない状態を無理に作ろうとしないで、「呼吸に没頭した結果、呼吸以外のことは考えないで済んでいる状態」を作るようにします。
マインドフルネス(瞑想)の効果の1つとして「行動力がつく」を挙げましたが、その中で「行動に移せない状態」の一つは、過去の後悔や将来への不安を考えてしまう状態であることをお伝えしました。
「何も考えない状態は意図的に作れない」のと同じく、「過去を後悔しないようにしましょう」とか「将来の不安を考えないようにしましょう」といっても、それを実現することはできません。ですから、結果的に過去と将来を考えないようにするために、マインドフルネス(瞑想)を行った後(呼吸に集中して、呼吸以外のことを意識しなくなった後)は、「今に集中する」、「今に没頭する」ことを考えるようにします。
たとえば「企画書の作成に着手できない」というとき、過去に非難されたことを後悔したり、将来業務が忙しくなる不安を考えたりしないで、「今、資料は集まっているから大丈夫」とか「この資料はもっと充実させた方が良いかも」といった「今」のことだけを考えるようにします。
マインドフルネス(瞑想)中は呼吸に没頭するので、自分を客観視することは、実際にはマインドフルネス(瞑想)後に行うことになります。では、なぜ自分を客観視することが必要なのでしょうか。それは、せっかく頭の中が集中できたとしても、自分の今のありのままの状態を見る(すなわち、過去や未来の余計なことを考えなくて済むようになった今、行動を起こすことがとても大切な状態であることに気づく)ことができなければ、次の行動への「許可」を出しにくくなるため、普段から自分を客観視するクセをつけておく必要があるのです。
マインドフルネス(瞑想)の目的は、何か(呼吸)に集中することでそれ以外のことを考えない状態を作り出すことです。つまりマインドフルネス(瞑想)でなくても、何かに没頭することでその状態を作ることができます。
しかし業務の休憩時間中に何かに没頭することは難しいでしょう。代わりに次のような行動でも、疑似的にマインドフルネス(瞑想)に近い効果を得ることができます。
マインドフルネス(瞑想)を組織で実践するには、物理的には、仮眠室のような静かな空間を確保することが必要です。
加えて、マインドフルネス(瞑想)の方法を理解し各自が実践できるようにトレーニングをする必要があります。たとえば、従業員を対象としてマインドフルネスの手法を伝える研修などを受講してもらうことをお勧めします。
※リクルートマネジメントスクール「マインドフルネス入門 ~頭と心のコンディションを整え、集中力を高める~(154)」
この研修は、マインドフルネス(瞑想)の方法を学ぶだけでなく、マインドフルネス(瞑想)によって得られる効果を高めるために、今の自分の置かれている状態・環境を客観的に見る方法についても学ぶことが可能です。
※当ページに記載している内容は執筆者による見解です