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カタルシスとは、心の中に溜まってしまったネガティブな感情を開放(解放)することで、心に存在する重苦しい嫌な気分が浄化されることを意味します。
語源はギリシア語の「katharsis」で、英語では「catharsis」と表記されます。古くは哲学者アリストテレスが「詩学」で用いた悲劇論に端を発する芸術的な言葉でしたが、転じて心理学や精神医学、カウンセリングなどでも使用されるようになり、現在では精神がスッキリして調子が整い、心が解放されている様子を表す言葉として使われています。
カタルシス効果とは、これまで自分の心の中に閉じ込めてきた「不平不満」や「悲痛」、誰にも打ち明けられないほど強くなってしまった「辛さ」や「苦しさ」などのネガティブな気持ちを吐露していくことで、安心感を得たり心にゆとりを取り戻したりすることです。
自分の心の内側を信頼できる他人に話すことによって、いったん自分が抱えている苦痛を手放し、自分に対して距離を置いた状態でその苦痛を客観視し、解放することによって浄化されていくと考えられています。心に負ったダメージをまるで薄皮を一枚一枚はがしていくかのようにひとつひとつゆっくりと言葉にしながら吐き出し、それを涙とともに表出させることで、本来の自分の感情を取り戻し、楽になっていく人もいます。
カタルシス効果は誰かと話すことで得られることが多いのですが、本を読んだり映画を見たりすることで自身の感情を整理し、折り合いがついたときに得られることもあります。
カタルシス効果によって「心のゆとり」を取り戻した人は、晴れやかでスッキリとした表情に変化し、前向きな気持ちで元気とやる気を取り戻していきます。
カタルシス効果には、「心にゆとり」を作るという目的があります。
現代社会では効率化や感染症対策などのため、テレワークやSNSが普及し、直接会って話さなくても簡単に代替手段を使ってコミュニケーションが取れるようになりました。その分、人と人との「ぬくもり」を感じながら意思疎通をはかるという機会が少なくなり、人間関係も希薄になったといわれます。その人ならではの個性や魅力に基づいた従来型の人間関係よりも、効率を優先させるために必要最小限のコミュニケーションが求められることも少なくありません。
人は必要最小限のコミュニケーションしか取れない状態が続くと、自分の感情や気持ちを外に出さずに抱え込み、ため込んでしまうことがよくあります。このような状態が長く続くと心の健康状態は悪化し、ストレス性の疾患やメンタル不調につながることもあります。
カタルシス効果にはこのような状態を予防し、心に安定をもたらすことやストレスを軽減するメリットがあります。
カタルシス効果は仕事をする上でも役立ちます。ビジネスにはさまざまな職種や部署がありますが、ここではそれぞれの職種の方に向けたカタルシス効果の具体的な活用例をご紹介します。
営業職で活躍している人は、お客様をよく観察して話を聴く能力に長けていることが多いです。これは、自分のペースにお客様を巻き込むよりも、お客様のペースに合わせることで信頼関係が築けるよう、あたたかい姿勢とともにお客様のお話に興味をもって聴こうとするからです。
自分を受け入れてくれると感じたお客様は、ネガティブな感情に基づく自身の悩みや不満も営業社員に伝えるようになります。その結果、誠実に向き合い続けてくれる営業社員に対してお客様にカタルシスが起こります。このことにより商談がよりスムーズに進むようになることもあります。
商品・サービスについての質問やクレームを伝えたいお客様にとって、コールセンターの担当者の態度は非常に重要です。自分の価値観は脇に置き、まずはお客様の「伝えたい」という気持ちを受け止め、それを理解することに努める必要があります。
お客様との対話の中で相手の気持ちを受け止めることができるようになってくると、次第にお客様の口調は落ち着き、本音を引き出せるタイミングが訪れます。担当者が誠実な態度で対応することで、「わかってもらえた」とお客様のカタルシスが起これば、お客様も冷静になり、こちらの立場も理解してもらえる可能性が高くなり、対応もスムーズになっていきます。
また担当者の態度が良いと評価を受けた場合には、お客様から口コミによる宣伝をしてもらえるチャンスが生まれることもあり、新たなビジネスチャンスの創出に役立つことがあります。
店舗を訪れたお客様は、都合を考えずに一方的に売りつけられることを嫌います。まずは自分のペースで商品を確かめ、必要があれば提案をもらいたいというお客様も少なくありません。かといって、販売担当者がいつまでも待ちの姿勢でいるというのは、お客様にとっても「自分のことを分かってもらえない」という不満につながります。
良い販売担当者とは、常にお客様の動きをよく見ており、適切なタイミングですぐに反応を返してくれる人です。お客様の伝えたい気持ちをいち早く察知して、こちらから伺う姿勢をもち、言葉にならないことまでをくみ取って理解することができると、お客様の心の中に「わかってもらえた」というカタルシスが起こり、信頼関係が生まれます。このことにより、販売をスムーズに展開していくことができます。
人事は自社に合った人を選ぶ側なので、こちらが聞きたいことだけを聞いて応募者を評価するというスタイルでも、もちろん問題ありません。ただし、ある企業では不採用とした応募者にも自社に対して良い印象をもってもらうため、面接中の応募者の話を丁寧に傾聴する姿勢を貫いています。面接官が言語だけでなく非言語においてもあたたかく、応募者を受け入れる雰囲気を出し、応募者の言い残しがないように最後まで話を聴く姿勢を持つことで、納得感のある選考だったという印象を持ってもらえます。また、SNS上での炎上を防ぐなどのリスクヘッジにもなります。
しっかりと話を聴いてもらえた応募者には、「言いたいことは言えた」という満足感とともにカタルシスが起こり、その企業に対してマイナスの印象は少なくなります。このことにより自社イメージの向上と維持をはかっていくことに役立てることができます。
カタルシス効果を引き出していくためには、環境面と心理面からアプローチすることが大切です。ここでは、「自分が話を聴いてカタルシス効果を引き出す場合」と「自分でカタルシス効果を得る場合」の2つに分けてそのポイントを解説していきます。
話している内容が他人に知られず、できるだけ対面で話を聴けるような時間や場所を設定します。ただし、話を聴くときにお酒の力を借りてしまうと気持ちが大きくなってしまい、思わぬ方向に気持ちが振れてしまう可能性が高まるので、避けたほうが無難です。
自分のことをいかに信頼してもらえるかがカギとなります。必要なことは、会話を通して話し手を助けたいと思う誠実さと、「あなたの話を聞きたい」「あなたの気持ちを分かりたい」という気持ちをもつこと。「相手のペースで話をしてもらう」「すぐに分かったつもりにならない」という話し手を尊重した行動ができると良いでしょう。
誰からも邪魔されず、たとえ泣いたとしても周りを気にする必要がないリラックスできる場所と時間を確保し、自分の世界に入っていける環境があると良いでしょう。
ありのままの自分を肯定できるかどうかがカギとなります。そのためには言葉だけでなく、全身から自分のすべてをさらけ出してもいいのだと感じることができると良いでしょう。
カタルシス効果を引き出すためにはスキルも必要です。ここでも「自分が話を聴いてカタルシス効果を引き出す場合」と「自分でカタルシス効果を得る場合」の2つに分けてそのポイントを解説していきます。
話し手がどのような感情や気持ちを表現しても受け止め、共感するように、相手の話に耳を傾ける(傾聴する)ことに努めます。また、事前に話し手が話したことは絶対に口外しないという約束をして、安心してもらうことも大切です。
話し手が話し始めると対話の途中で沈黙があるかもしれません。そのようなときでもあたたかい視線とゆったりとした気持ちで話し手が語り始めることを待ちましょう。話の途中で自分の意に反するような発言があったとしても中断せず、否定せず、まずはありのままの話し手を受け止めることが大切です。これを繰り返していくうちに聴き手と話し手の間には信頼関係が築かれていき、話し手はだんだんと自身の内面を語り始めていくことで浄化がなされていきます。
※傾聴に関しては、以下の記事をご参照ください
ビジネス力を高める「傾聴」とは?効果や種類など傾聴力を高めるトレーニング方法
自分の心がリラックスしていると感じた経験があれば、その感覚を再現できるようになると良いでしょう。たとえば、共感して思わず泣いてしまう映画、見ると必ず元気になれる動画、見るだけでいつもハッピーな気持ちになれる写真、心に響いて気持ちが明るくなる音楽、思い浮かべるだけで自然と涙があふれてきてしまう感動した出来事など、さまざまなモノや事柄から刺激を受けて、自分をポジティブに受け入れられる状態が再現できるようになると、今の自分を客観視するきっかけともなり、浄化がなされていきます。
さまざまなビジネスシーンで「カタルシス」をどのように活用するのかをご紹介してきました。仕事上でカタルシスを活用するためには、ご自身の心の状態が安定していることが大切です。必要最小限のコミュニケーションをとることに努めるのではなく、普段から自分の感情や気持ちを抱え込まないように注意しながら、カタルシスが目指す「ゆとりある心の状態」をもって業務にあたりたいものですね。