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ESGとは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもので、企業の財務情報以外の評価尺度や考え方を意味します。
これまで、企業の価値を測る尺度として財務情報が重視されてきました。しかし社会における持続可能性等を含めて企業経営を判断するには、従来の財務情報のみでは不十分と考えられるようになり、ESGという非財務情報を企業評価に取り入れようとする動きが世界的に拡大しています。
非財務情報の具体的な指標は定められてはいませんが、代表的なESG評価機関の評価分野としては、温室効果ガス排出、水資源枯渇、労働マネジメント、安全衛生、企業倫理などの項目が取り上げられています。
参考:経済産業省「ESG投資」
最近、目にする機会の多い言葉が「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能開発目標))です。SDGsとは、『「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする17の国際目標』のことです(※)。
※出典:外務省「持続可能な開発目標(SDGs)達成に向けて日本が果たす役割」(2022年4月)
SDGsは持続可能な社会を作るための目標を示しているのに対し、ESGは後述しますが、SDGsに取り組む企業を資金供給の側面から支援する役割を担っています。
CSRとは「Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)」の略で、企業が事業運営やステークホルダー(利害関係者)との関係性において、社会の課題や環境課題に取り組む経営理念のことです。企業のあらゆる活動(開発、生産、製造、販売など)は社会や環境と切り離して考えることはできず、企業の存在には社会・環境が必要であり、また企業がなければ社会の機能がうまく回りません。企業が社会や環境に責任を持つことは互いの存在のために必要であり、その企業がもつ責任がCSRであるといえます。
CSRもESG同様に環境や社会に配慮するものですが、CSRが企業とステークホルダーとの関係にあるのに対し、ESGは企業と投資家・金融機関との関係にあります。
※CSRに関しては、以下の記事をご参照ください
【事例つき】CSRとは?活動の種類や企業のメリット・デメリット、進め方を解説
SRI(Socially Responsible Investment:社会的責任投資)は、CSRを重視して社会に貢献する企業を選び、投資する手法です。SRIの目的はESG投資と同じですが、投資の利益よりも投資先のCSRを重視する点が、ESG投資と異なっています。
以上、ESGと似た言葉の意味とESGとの違いについて説明しましたが、ESG、SDGsおよびCSRはまったく違った土俵にあるわけではなく、それぞれが連動し、全体として持続可能な社会を目指し、社会および企業の持続性を高めるという共通目的を持って機能しているといえます。
ESGは、2006年に国連が発表した「責任投資原則」(PRI:Principles for Responsible Investment)を発端とし世界的に拡大することになりました。責任投資原則に署名している機関(企業)は、財務情報に加えて、環境、社会、ガバナンスに関する視点をその投資プロセスにおいて取り入れることなどが求められています。2006年時点では署名する機関は限定的でしたが、2015年のパリ協定(2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組み)を経てその機関数は急激に増え、2018年7月時点では世界の1965(うち、日本は63)の機関が署名するに至っています(※)。
※出典:経済産業省「ESG投資」
投資家が投資先の分析や決定にESGの考え方を取り入れることで、投資を受け入れる企業はESGへの取り組みを重視せざるを得なくなっています。また投資を受け入れる企業は取引先にもESGへの取り組みを求めることになり、結果的に多くの企業でESGを無視することができなくなり、取り組み企業数は急速に拡大しているものと考えられます。
なお、「責任投資原則」は6項目で構成されますが、その1には「私たちは、投資分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込みます」と記されています。
ESG投資とは、従来の投資判断の大半を占めていた財務情報(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書等)だけでなく、今日課題となっている環境、社会、ガバナンスといった非財務情報も考慮した投資のことを指しています。
年金基金等の巨大な資産を長期で運用する機関投資家においては、企業経営のサステナビリティ(永続性)を評価するという概念が普及しており、SDGsと合わせて評価の判断基準になっています。ESG投資は社会的な貢献(社会的なリターン)だけを考えた慈善事業ではなく、ESGへの取り組みを通じて長期的に得られる金銭的な収益(金銭的リターン)も求めています。
ESG経営とは、環境、社会、ガバナンスを重視した経営スタイルのことをいいます。企業がESG経営に取り組むことで、以下のような効果につながると期待されています。
・実施した施策を公表することで企業イメージ・ブランド力が向上し優秀な人材の確保、取引先の拡大、資金調達に貢献する
・長期的な経営リスクの軽減が図れる
・長期的な利益の確保が可能となる
国内においても既に多くの企業が、ESG(実際は、SDGs、CSRを含めた多面的な)活動に取り組んでいます。ここでは下記2社についてその取り組み状況を簡単に紹介します(2社とも実際は多面的な取り組みを行っており、下記はその一部分の紹介です)。
リコーグループでは、「気候変動」を世界的に直面する最も重要な課題の1つとしてとらえ、「2050年にバリューチェーン全体のGHG排出ゼロ」を長期環境目標とし、さらに「2030年にGHG63%削減」という中期的な具体的目標を定め、それまでのロードマップを策定し、徹底的な省エネ活動の実施と再生可能エネルギーの積極的活用を推進しています。この活動の特徴としては、以下のことがいえるでしょう。
・脱炭素分野の環境目標とその考え方を端的に示している。
・「気候関連財務情報開示タスクフォース提言」の開示項目ごとに内容を具体化している。
・気候変動リスクが自社のビジネスに与える影響の内容、財務影響度、緊急度および対処方法を具体的に分析している。
・気候変動がもたらす機会の内容や財務効果についても言及している。
・温室効果ガス排出量の推移状況を平易に記載している。
双日は、持続的成長にむけた取り組みにおいて、多様性と自律性を持つ人材の創出を取り上げて対応しています。そこにおける大きな目標としては、以下のことがいえるでしょう。
・ダイバーシティ(多様性)の推進~女性活躍関連目標を設定し中長期の定量的な目標を時系列で図示し分かりやすく提示している。
・柔軟で多様な働き方を実践する職場環境の整備~健康経営(健康経営優良法人に認定)を推進し、社員および家族を含めた健康の維持・増進に取り組んでいる。
・多様なキャリアパス・働き方を実現する取り組み~ジョブ型新会社の設立、独立・企業支援制度、双日アルムナイ設立に取り組み、社員の多様な働き方を支援している。
・経営人材の育成のための取り組み~人事制度や研修制度を通して個々の人材力の最大化を図っている。
出典:金融庁「記述情報の開示の好事例集2021」より抜粋し編集
ESGを導入してから情報の開示に至るまでのプロセスについては、日本取引所グループ・東京証券取引所が「ESG情報開示実践ハンドブック」で紹介しています。
主に次のような4つのステップになっています。
第一歩としてESG課題とESG投資の現状を理解する。
自社の戦略との関係で重要なESG課題(マテリアリティ)を特定する。
ESGに関する取り組みを着実に進めてゆくために、監督と執行に関する社内体制を構築し、指導・目標値を設定する。
ESG課題と企業価値の結び付きをふまえて、ESG情報を投資判断に有用な形で開示する。投資家等のステークホルダーとの対話を積極的に行うことで、中長期的な企業価値向上を目指す。
出典:日本取引所グループ・東京証券取引所「ESG情報開示実践ハンドブック」(2021年6月)
以上のことから、ESGを推進するにはまずESGの経営課題を自社の経営課題に組み込み、経営者の積極的な関与と社内体制の構築が必要といえます。
ESGの推進に関しては、環境、社会、ガバナンスについての知識・理解があり、それを推進できる人材が求められます。社会、ガバナンスに関しては社会的な体系、自社の現在の経営体制・統制状況等を理解でき、かつその解決にむけて取り組めるような人材です。
一方、環境に関しては環境負荷、CO2削減等専門性の高い対応能力を持つ人材が求められます。最終的には容易ではありませんが、全体をまとめ推進できる責任者(例えば、サステナビリティマネジャー)の確保が重要になってきます。
ESG経営においては、人事が中心になって推進できる施策が多くあります。具体的には、以下の4つが考えられます。
さまざまなバックグラウンドを持った従業員が、格差や不公平を感じることなく活躍できる環境を整える。
※ダイバーシティに関しては、以下の記事をご参照ください
ダイバーシティとは?意味や日本企業が重視すべき理由、企業の推進施策例を紹介
事故や不正のない、安全かつ健全な職場を保つ。
従業員に対して働きがいのある仕事や職場環境を提供する。
ESG経営に基づく非財務的な取り組みに関して、適切な情報開示を行う。
現在、企業はESG、SDGs、CSRなど多くの課題に対応することが求められています。これらには相互に関連すること、重複することなどがありますが、これらを行うことの意義、目的を良く理解したうえで、会社として具体的にどのように取り組むのか、取り組む意義、目標、役割分担、経営・組織としての意思を明確にし、従業員含め周知徹底して全員参加で対応することが求められています。