目次
クリティカル・シンキングとは、物事を捉えるときにその前提条件となる考えや思考に対して、「本当にこれで正しいのか?」「考え方に偏りはないのか?」と疑問を持ち疑いながら、正しい理論を導いていく思考方法のことです。考え方の偏りや偏見を取り払い、妥当性(測定しようとしている検査がどれくらい正確に測定できているか)を含めて多角的に精査し検証を重ねていきます。
日本語では「批判的思考」と訳されるために否定的な意味合いで捉えられることもありますが、クリティカル・シンキングとは物事の本質を見極めるための思考方法のことです。
ビジネスの現場でなぜクリティカル・シンキングが必要とされているのでしょうか。
私たちを取り巻く環境は、短いサイクルで急激に目まぐるしく変化をしています。ビジネスの場においても今までの常識が通用しなくなったり、これまでのやり方を踏襲していては変化に対応できなくなったりする可能性があります。以前と比較して多様な価値観が存在する世の中へと変化し続けていることを踏まえて、そのスピードに伴う環境の変化に対応する必要性がでてきたのです。
そのため、物事を多角的に捉え、精査し、検証して本質を捉えるための思考方法、クリティカル・シンキングが求められているのです。
クリティカル・シンキングを身につけることでどのようなメリットがあるのでしょうか。5つのメリットをご紹介します。
(1)多角的に物事を捉え、本質を把握することができるようになるため、問題解決能力が培われます。
(2)これで本当に正しいのか、他に考えるべきことはないのか、など、これまでとは異なる視点や角度から物事を捉え考えるため、新しい解決方法が導き出せることがあります。
(3)自分や相手の考えは正しいのか、根拠はあるのか、目的は何か、などについて検証していくので、今まで気づくことがなかったリスク(危険性)を発見し、避けることができます。考えるべき項目の抜け漏れを発見できる点もメリットといえるでしょう。
(4)感情を交えることなく、事実に基づいて話を進めるため、円滑なコミュニケーションを取ることにも役立ちます。
(5)自身の思考の癖や気づかなかった考え方の偏り、バイアスなどを発見することができるため、新しい考え方を見つけることができます。
ここで、クリティカル・シンキングと似た言葉である「ロジカル・シンキング」との違いについて触れておきましょう。
ロジカル・シンキングは「論理的思考」と呼ばれ、課題や問題に対して筋道を立てて考え、主張と根拠を論理的に説明する思考方法のことです。対象の物事が起こった際に、その問題の発生原因を含め事情や原因の整理に役立てる能力となります。
ロジカル・シンキングを身につけることにより、物事を順序よく明確に把握できるため、問題解決能力が高まり説得力が増します。
クリティカル・シンキングとは、与えられた前提条件(特定の主張)の本質を見極めるために精査、検証し、自分の考え方に偏りがないのかを常に疑いながら「これで正しいのか?」「ほかに考えるべきことはないのか?」を検証していく思考方法のことです。
ロジカル・シンキングとクリティカル・シンキングはお互いに補完し合う思考方法ですので、両方を身につけることで効果を発揮することができます。
習得するとメリットが多いクリティカル・シンキングですが、具体的に身につけるためのステップをご紹介します。
何のために行うのか、目的を意識しながら課題を抽出することが必要です。正しい課題、目的を決めておかないと、意味のない議論や思考に時間を費やしてしまうことになりかねません。ゴール地点は明確に設定しておくことが大切です。
前提条件に対して、これは正しいのか、偏りはないのか、ほかに考えるべき点はないのかと常に疑いを持ちながら検証を進めることです。自分の経験則で物事を推測や判断したり、固定観念に囚われたりしてはいけません。すべて事実のみに基づき検証します。
感情を入れずに、事実に基づいたことを書き出します。具体的に見つかった課題や矛盾点について、項目別に分けておくとわかりやすいでしょう。具体的に書き出して、視覚化することでさらに思考が整理されます。
視覚化して把握できた現状の問題点を分析して、仮説を立てて検証していくことで、思わぬ矛盾や抜け漏れが見つかる場合があります。
(3)のステップで見つかった課題や矛盾を解決するためにはどうするべきかを決めて実践していきます。その際にはPDCAサイクルを使い、結果の検証を重ねましょう。
PDCAサイクルとは、計画から改善までを1つのサイクルとして行う業務の効率化を目指す手法のことを指します。
次にクリティカル・シンキングを行う際のポイントについて説明します。
答えが必ず1つであるとは限らないため、決めつけないように心がけることが重要です。
物事の見方、考え方について枠に囚われないで発想の転換に取り組むことで新しい発想が生まれます。
誰でも生まれ育った環境により影響を受けた思考パターンの偏りがあります。そのことを意識したうえで、クリティカル・シンキングを実践する習慣を作ることで、主観を取り除いた考え方が身についてきます。
同じことを表現する場合に、数字などの事実に基づいた発言内容と主観や経験値で行う発言内容とを、事実と意見との違いがあるため見分ける必要があります。
最後にクリティカル・シンキングを習得するためのトレーニング方法について、自分でできる方法をご紹介しましょう。
クリティカル・シンキングを身につけるためには、特別に難しいことをするわけではなく、日々の生活の中で少しずつ訓練していくこと、常に意識していくことが大切です。実際にクリティカル・シンキングを鍛える方法として3つをご紹介します。
物事を当然のように理解し、何も考えずに納得し受け取るのではなく、こういうものだという前提条件そのものを疑い、本当にそうなのか?なぜだろう?これで正しいの?これでいいの?と日々の事柄について自分に矢印を向けて問いかけます。事柄を深く考えることにより徐々に物事の本質を見極める眼と心が培われます。
根拠はなにか、課題はなにか、問題はないのか、正しいのかなど前提条件をそのまま正しいものとして受け入れずに疑いを持ち精査、検証することで、クリティカル・シンキングの思考プロセスが徐々に身についてきます。
つねにあらゆる物事に対して仮説を立て客観的に分析し、検証する作業を意識して生活することです。
この作業を繰り返すことで、思い込みや先入観など無意識に身についてしまっている自分の考え方の偏りや癖に気づくことができ、本質にたどり着くことができるでしょう。
クリティカル・シンキングをじっくり取り組み学べる研修も専門機関で開催されています。興味がある場合は、ネットなどで簡単に探すことができますので、実際に体験するのも良いかもしれません。
参考までにクリティカル・シンキングを鍛える方法について、以下の研修をご紹介します。
参考:リクルートマネジメントソリューションズ
「クリティカルシンキング入門~本質的に考え抜くための1stステップ:自分の思考のクセをつかみ、考え方・伝え方の正しい「型」を身につける~(209)」
「クリティカルシンキング実践~本質的に考え抜くための2ndステップ:思考のツールを使いこなし、説得力のあるわかりやすいストーリーを作る~(210)」
先に述べた通り、クリティカル・シンキングは「批判的思考」と訳されることが多いため、その客観的な意味を誤解されることが多いですが、実際はつねに問題意識と疑問を持ち続け、あらゆる物事の本質を自ら見極める思考方法です。
クリティカル・シンキングの目的を意識し、誰もが自身の思考の癖、偏りを持つことを認識し、あらゆる角度から客観的に分析し、検証することを繰り返して行えばより正しい結論にたどり着けるのです。
ビジネスの現場において、クリティカル・シンキングを身につければ、業務の最適化を促進することができ、さらなる自身の業務遂行能力を高めて活躍の場を広げることができるでしょう。