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トップマネジメントとは、企業において経営のトップに位置する人間が、経営に関する方針や計画、戦略を決定し、それらを企業全体で実践していくための管理を行うことを指します。
「経営のトップ」とする範囲は企業によって異なりますが、社長を中心とした上位の取締役が該当することが一般的です。
現代経営学の発明者であるピーター・ドラッカーは、著書である『ドラッカー名著集15 マネジメント[下]: 課題、責任、実践, 第3巻』のなかで、トップマネジメントを担う人間には組織としてのミッションを考え、組織全体の規範を定め、つくり上げた組織を維持し、次世代の人材を育成し、顧客や取引先との渉外役になり、公式行事などの儀礼的な場に参加し、重大な場には自ら出動するといった仕事がある、という主旨のことを述べています。
以下にドラッカーの著書をもとに、トップマネジメントを担う人間がすべき仕事について、7つに分けて解説します。
参考:ピーター・ドラッカー「ドラッカー名著集15 マネジメント[下]―課題、責任、実践」(ダイヤモンド社 2008年)
企業の共通の目的は利潤の獲得ですが、自己本位に利潤を追い求めるだけの姿勢は社会から受け入れられづらいといえます。企業活動を通じて果たすべき社会的使命や任務を明確にした「ミッション」が必要であり、それを決定するのが経営トップの役割です。
組織には複数の構成員が所属し、集団で行動します。そのため、組織としての規範(判断や行動の基準となる規則やルール)や価値基準(統一化された価値観)を経営トップが決定する必要があります。これらを決定するのが、トップマネジメントを担う人間の仕事です。
それぞれの組織には役割や目標があります。経営トップは、それらを実現させるために、組織に適正な人材を配置し、組織の機能を維持し続けるよう管理する必要があります。
企業として成長し続けるためには、道しるべとなる中長期的な計画や戦略が必要です。トップマネジメントを担う人間はそれらを実現させるために、組織に所属する人材が、計画や戦略の実践に必要となる能力を習得しながら成長し続けられるよう管理する必要があります。
企業には、株主や取引先、金融機関、従業員などのステークホルダー(利害関係者)が存在します。そして企業の経営を確実に実践していくためには、ステークホルダーからの理解や協力を得ることが重要であり、経営トップはそのための働きかけを行う必要があります。
※ステークホルダーに関しては、以下の記事をご参照ください
ステークホルダーとは?正しい意味と企業経営における重要性を解説
企業の経営を円滑に実践していくためには、経営トップが、ステークホルダーとの間で良好な関係を築く必要があります。そのために、業界の行事や従業員の冠婚葬祭などに経営トップ自らが参加することで信頼関係を構築することが重要です。
企業を取り巻く環境は日々変化しており、変化のなかには今後の企業の経営に重大な危機を及ぼす内容のものもあります。そのようなことが生じた場合、経営トップは現場に自ら出向いて、変化の内容を正確に認識し、今後の対応を決定する必要があります。
トップマネジメントは、(1)事業の方向性を明確化し、(2)あるべき方向に事業を推進するための体制を構築し、(3)事業を着実に推進し続けるためにリスクに対処し、(4)将来にわたって事業を継続するための仕組みを構築する、という4つの大きな役割を担っていと考えます。
世の中に存在しないことを一番手で行う事業は別にして、基本的に世の中には自社と同一の、もしくは類似した事業を営んでいる事業者が存在します。さらに、事業に対する市場や消費者からのニーズもさまざまです。そのような中で企業の経営トップは、市場における自社の立ち位置や差別化できるポイント、アピールすべきことやビジネスの仕組みなどを明らかにしたうえで、事業を推進していく必要があります。
企業が事業を推進していくため、経営トップは必要となる経営資源を揃えたうえで、効果的に稼働するよう体制を整える必要があります。具体的には資金を調達し、ヒトやモノなどに対する投資を行い、入手したヒトやモノなどの資源を適切に配置(投入)し、配置(投入)した資源が効果的に機能しているかどうかを管理するといった対応です。
事業を取り巻く環境は日々変化し続けています。そのなかには、世の中の仕組みや、ステークホルダー(利害関係者)との関係性、社内の事業体制に変化が生じるなど、今後の事業の推進に大きな影響を及ぼすものもあります。近い将来にそのような環境変化が生じることが想定できる場合、あるいは現実に直面した場合、経営トップは即座に対処したうえで、事業に与えるリスクを最小化させる必要があります。
企業は成長しながら継続し続けることを前提として事業を推進しています。それに対して経営トップは、ヒトが育ち優秀な人材が定着するなかで、企業が保有する技術やノウハウなどを効果的に活用し続けながら中身を成長させていき、新たな事業へのチャレンジが可能となる仕組みを築く必要があります。
企業には、職位の階層ごとに、求められる内容が異なるマネジメントが存在します。一般的には、「トップマネジメント」「ミドルマネジメント」「ロワーマネジメント」の3段階で構成されます。
ミドルマネジメントとは、組織に所属する従業員が最適な行動を取るように統率する役割のことを指します。そのために経営トップと組織内部の現場との中間に立ち、経営トップから与えられた目標や方針を現場に伝え、組織としての戦略を構築します。また、組織内での課題を解決し、組織としての成果や要望事項などを経営トップに報告する役割も担っています。一般的に、部長や課長といった組織全体を統率する立場にある人間がミドルマネジメント層に該当します。
ロワーマネジメントとは、組織の方針や戦略に従いながら、特定のチームに関して最適な行動が行えるようにチームに所属するメンバーの指導や管理を行う役割のことを指します。
また、チーム全体の業務の進捗やメンバーのモチベーションなどを管理する役割も担っています。一般的に、係長や主任などのチームの監督を行う立場にある人間がロワーマネジメント層に該当します。
企業の経営を管理するトップマネジメントにはさまざまなスキルが要求されますが、特に重要なスキルとして、「戦略的思考力」「意思決定力」「リーダーシップ力」が挙げられます。
トップマネジメントには、企業として進むべき道筋を明確化し、最適なプロセスや手段を選択することが求められています。そのため、企業を取り巻く環境や市場のニーズなどを的確に分析し、ローリスクかつハイパフォーマンスな成果を得るための戦略を構築する必要があります。こうした対応には、長期的な方向性を見極めながら最適な戦略を導き出す「戦略的思考力」が求められます。
トップマネジメントには、経営の方針や戦略を決定することに関して最終的な責任を負うことが求められています。そのため、必要な情報を収集・分析し、複数の選択肢の中から企業にとって最適なものを選択する必要があります。こうした対応には、冷静かつ客観的な判断を行い決定する「意思決定力」が求められます。
トップマネジメントには、企業の目標を組織全体で共有し、全従業員が目標達成のために各々に与えられたミッションを果たすよう統率することが求められています。そのため、従業員のモチベーションを高めながら行動力を高めていくための働きかけを行う必要があります。こうした対応には、組織を指導し組織の力を結集させる「リーダーシップ力」が求められます。
トップマネジメントに必要な力は一朝一夕に身につくものではなく、企業では、計画的に将来のトップマネジメントや経営層を育成することが求められます。しかし、トップマネジメントのスキルはいずれも高度であり、育成の難易度が高いのも事実です。
そこで多くの企業が利用しているのが、経営層育成のために用意された研修です。一般的に対象となるのは、将来の経営層候補となるミドルマネジメント以上の管理職者です。主に「経営者視点を身につけること」を目的とした研修であり、具体的には、以下のようなプログラムがあります。
現場の管理職者としての視点だけに留まることなく、時間、空間、組織、仕事、役割という5つの観点を基に自社や自部門の事業を分析したうえで、将来の事業や経営についてのビジョンを構想する力を磨くことを後押しする研修です。オンライン研修もあり、将来の幹部候補者や次世代のリーダー候補者などを対象としています。
出典:リクルートマネジメントスクール「構想力向上研修 ~経営的視点(経営者の視界・ものの見方)を磨く~【1日】」
組織のマネジメントを行ううえで直面するさまざまな課題を扱ったケースシミュレーションを題材にして、今現在の自分自身のマネジメントを振り返ります。今後組織のマネジメントにおいて実現したい志を明確にしたうえで、より高い視点・広い視野から自律的にマネジメントを実践していく能力を身に付けることを後押しする研修です。オンラインでの研修もあり、本部長や事業部長、複数組織を統括する部長を対象としています。
出典:リクルートマネジメントスクール「シニアマネジメント研修(MINE-SM)【2日】」
「戦略とは何なのか?」「どのような意義を持つものなのか?」といった戦略の本質に対する理解を深めます。そのうえで「3C分析」「SWOT分析」などの主要なマーケティング戦略の分析ツールを使って自らが中心となって実践する戦略を策定する能力を身に付けることを後押しする研修です。部長職者や課長職者、リーダー層、戦略支援スタッフを対象としています。
出典:リクルートマネジメントスクール「戦略シナリオのノウハウ・ドゥハウ(戦略の本質から考える、実践的戦略分析・策定スキル研修)【2日】」
企業は組織の集合体であり、組織としての活動による成果が企業としての成長の源泉になります。そのため、「何を目指してどのように活動していくのか」ということが組織の内部で共有された状態で、最適な資源配分や人の成長、成果のコントロールが行える仕組みを確立する必要があります。
そのことを実現するための総括的な管理を行うのがトップマネジメントなのです。