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メタ認知(metacognition メタコグニション)は、メタ(meta 高次)+認知(cognition認識、認知、知識)の組み合わせからできた“高次の認識”という意味で、自分自身の知覚(※)および読む、書く、話す、記憶する、思い出す、理解する、知識を得る、推測する、行動する、考える、などにおいて、感情をともなった思い込みではなく、客観的かつ冷静に判断できる状態のことをいいます。
(※…視覚、聴覚、嗅覚(きゅうかく)、味覚、触覚などを通して、自分自身の内側および外側の様子を感じとること)
自分とは違った立場にいる相手に対して「この人はこのような気持ちだろう」「この人はこのように感じているだろう」と想像できる力は、メタ認知と深く関係しています。
メタ認知は、人が何かを学習するための時間ややり方にも影響を与えているといわれています。そして、学習意欲はメタ認知とつながっているとされています。
幼少期は、自分が実際に持っている知識以上に、自分の言葉が的を射ていると感じたり運動能力があると過信したりする傾向があります。たとえば3歳児に“知らない物”を見せ、「これを知っている?」とたずねるテストを行えば「知っている」と答える傾向があるそうです。
とはいえ、自分自身の才能を過信することは幼少期にとって役に立つことであり、そのような自己肯定感は、たとえ挫折に陥っても何度もチャレンジし続ける原動力となります。
一方で、人は年を重ねると、自らの記憶や知識を得る能力について否定的な考えを持つといった一例もあります。実際に、多くの人は高齢化につれ記憶力および学習能力が、極端ではないものの緩やかに低下するケースが多いといわれています。
「ステレオタイプ脅威」とは1995年当時、スタンフォード大学に在籍していた心理学者・スティール(Claude Steele)とアロンソン(Joshua Aronson)によって生み出された言葉であり、思い込みの劣等感が生み出す悲劇のことを指します。
たとえば、学生らに単語の暗記テストを受けてもらったケースでは「男性と女性では記憶力に生まれつき、違いがあるかもしれない」と説明したところ、女子学生は男子学生よりも覚えることができた単語の数が少なくなったそうです。努力している人ほど自己否定の思い込みにとらわれやすく、実力が発揮できかねないケースが多いとされています。
このような、思い込みの劣等感によって本来の能力が失われる「ステレオタイプ脅威」は多くの研究により、立証されています。
メタ認知が低下して、物事を客観的にとらえずに、自分の思い込みのコンプレックスにとらわれ過ぎれば、「ステレオタイプ脅威の罠」にはまる状態になってしまいます。そうならないようにするために、メタ認知力を高めて、多面的な視点で物事を冷静に判断していきましょう。
「メタ認知を構成する4つの要素」は、自分自身の価値観を深掘りし、客観視するためのものです。
「意見、経験、感情、価値観」の4つの視点から自分自身を探求することで、メタ認知力(自分自身を客観視する力)を高めることにつなげます。
例えば、
・意見:私の意見
例)私は犬が苦手である。
・経験:その感情を持っている背景には、どのような経験があったのか
例)幼少期に犬にかまれた経験があるから、私は犬が苦手である。
・感情:経験したとき、どのような気持ちだったのか
例)犬にかまれて、とても痛い目に遭い、怖かった。
・価値観:意見、経験、感情から、他者とは必ずしも一致しない“私の価値観”を明確化する
例)私の価値観として、犬が好きではない。理由は、幼少期に犬にかまれて、とても痛い目に遭い、怖かったからだ。しかしながら、かまれた経験がない人にとっては、犬はかわいい存在であるかもしれない。(客観視)
以上のケースであれば「犬が嫌いである理由」を他者に説明することができたならば、犬にエサを与える役割を他者に任せることができ、自分はほかの用事に没頭することができます。
これを業務に置き換えると仕事が効率よく分担でき、他者理解および協調性につながるのです。
しかし、自分自身が「犬が嫌いである理由」を客観視できないと、犬が好きな人と自分を比較して、恥ずかしさを感じ、主観的かつ自分の感情に入り込みすぎている状態になるかもしれません。すると、犬にエサを与える役割を誰にもお願いすることができず、エサを待つ犬にキャンキャンと吠えられ、ますます犬が嫌いになる可能性もあるのです。
メタ認知の高い人・低い人に見られる特徴について一例を紹介します(下記はあくまでも例であり、人それぞれ個性があります)。
メタ認知の高い人は、自分自身を客観視できたり、多面的に考察できたりすることで物事をスムーズに進めることができます。多面的に考察できることで、自分以外の他者の意見を受容できることも特徴です。
メタ認知が低い人は、物事を客観的に見ることができないため、気持ちにとらわれてしまい、「どうせ、今も将来も同じで…上手くはいかないだろう」と考え、行動することを渋ったり、自分の考え方に入り込んで「これは悪い発言に違いない」と決めつけてしまったりする行動などが特徴となります。
メタ認知を高めることでどのようなメリット・デメリットがあるのか、考えられる例をまとめました。
メタ認知を高めるメリットは以下のとおりです。
・社内外における円滑なやり取りが期待できる
・トラブル時にも焦らず冷静に仕事を進められる
・気持ちに振り回されず目標や計画を立てやすくなる
メタ認知を高めることによって、仕事や人間関係においても「他者の考え方は自分とまるで違う」と客観的にとらえることができます。それによって、より良いコミュニケーションにつながり、冷静な判断ができることでスムーズに仕事を進めることができるでしょう。
メタ認知を高めるデメリットは以下のとおりです。
・話し相手の気持ちを考慮することで、話す言葉を考えすぎて、返答が遅くなってしまう
・コミュニケーション能力は高くなるが、自分の心が空回りしてしまう
・空気を読み考えすぎて、自分のアイディアを押し通せなくなり、疲れてしまう
メタ認知を高めることで自分自身を客観視できたり、多面的に考察できたりする一方で、相手の気持ちを考慮しすぎてしまう可能性があることがデメリットとして挙げられるのではないでしょうか。そのような場合は周りの人に相談するなどのコミュニケーションをとる必要が出てくるかもしれません。
メタ認知を高める方法について、2つの例を紹介します。
自分の好き嫌いについて考察し、客観的に「他者の考え方はそうとは限らない」と知ることは、メタ認知を高めることにつながるといえるでしょう。
たとえば、「平和」という言葉が好きで、真逆の「争い」という言葉が嫌いな人がいるとします。そのような価値観はあくまでも1つの考え方であり、同調できない人にとっては「平和主義は誰にでもいい顔をすることではないか?」と、ネガティブな印象としてとらえることもあります。
そこで、自分の「好きな言葉」と「嫌いな言葉」についてじっくり考えると、自分が「そう感じる理由」が解ってくるのです。そうして、自分の好き嫌いの理由や思考を知ることで、自分の感情がどのような状態にあるのかとメタ認知を意識でき、高めることにつながっていくでしょう。
自分とは違う考え方や立場の人と接することで、「さまざまなものの見方」を知り、自分主体な考え方に偏らないようになり、メタ認知的な視点で、物事を客観的にとらえるように意識することも一つの方法といえるでしょう。
自分の感情にとらわれすぎずに「さまざまなものの見方」や「さまざまな人の考え方」を知り、自分の中に取り入れることは、物事を冷静にとらえる判断力を得、自分の考え方の幅を広げ、人間関係を良くしたり、実現したいプランを叶えたりするための一助となります。
そのような意識を常に心がけることは、メタ認知を高めることにつながるといえるでしょう。