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ジョハリの窓(Johari Window)とは、アメリカの心理学者ジョセフ・ルフト(Joseph Luft)とハリー・インガム(Harrington(Harry) Ingham)によって考案された、自己分析を行う際に使用する心理学モデルの1つです。自己分析を行い、同僚や顧客などの他者とコミュニケーションをとる場面で、自分がどのように反応し行動する傾向があるのかあらかじめ知っておくことは、日常生活や仕事に役に立つスキルを活用するための根幹となります。
※コミュニケーションについては、以下の記事もご参照ください。
コミュニケーション能力とは?高い人の特徴や低い原因、高める方法を解説
ジョハリの窓では、自己の中に「開放の窓」「盲点の窓」「秘密の窓」「未知の窓」という4つの窓が存在するといわれています。それぞれの定義は下記のとおりです。
開放の窓:自分も他者も知っている自己
盲点の窓:自分は気づいていないが、他者は知っている自己
秘密の窓:自分は知っているが、他者は気づいていない自己
未知の窓:誰からも知られていない自己
また、「自己開示」「フィードバック」「発見」の概念と機能があり、これらを活用することで客観的に見た自分を知り、これまで気づかなかった深い自己理解ができ、自身や他者とのコミュニケーション能力の発展に役立てることができるとされています。
ここでいう「自己開示」とは、自分では分かっているものの、他者に隠している、または隠れている自分の情報について提供することで、「開放の窓」が「秘密の窓」や「盲点の窓」へ拡がっていく働きを指します。
その一方で、「フィードバック」は、自分では分かっていない自分を他者から知らせてもらうことで、「開放の窓」が「秘密の窓」や「盲点の窓」へ拡がる働きを指します。
そして「発見」とは、「未知の窓」の領域にある自分も他者も知らない未知の部分です。双方がコミュニケーションを行うことで新たな知識が生まれる可能性、そこから潜在能力の発掘が行われる可能性があることを指します。
ジョハリの窓がビジネスで役立つシーンは色々と考えられますが、ここでは「社員同士をつなぐコミュニケーションツールとして使う」「企業と顧客をつなぐコミュニケーションツールとして使う」の2つを取り上げて解説します。
顧客の満足度を高めるための大切なことの1つに、社員全員が顧客に関する情報を「報告・連絡・相談」を通じて的確に共有していることが挙げられます。人は情報を提供するばかりではなく、他者からフィードバックされた情報を収集しながら新しい行動を模索していきます。つまり、「自己開示」という情報提供と「フィードバック」という他者からの客観的視点を持った情報をもらって共有することで、コミュニケーションを豊かに、密にしていくことができるのです。
たとえば、「その件について私は知りませんでした」「それは伝えきれていませんでした」というようなミスを防ぐためにも、自分の持つ情報と他者からの客観的な情報を共有するという、ジョハリの窓の「自己開示」と「フィードバック」が活用できるでしょう。
顧客から寄せられるものにクレームなどの意見があります。これらの意見をジョハリの窓の「盲点の窓」であると捉えることができれば、顧客からの意見は「フィードバック」であると理解することができ、今まで企業がなおざりにしてきたものを顕在化させることができます。そして、企業がこのフィードバックを真摯に受け止め、対応したことを「自己開示」すれば、顧客との相互理解は深まり、リピーターを獲得するチャンスになる可能性も高まります。
また、市場調査やアンケートの回答結果、注文状況などをデータとして蓄積・分析することは潜在的なニーズの発掘にもつながりますので、ここはジョハリの窓の「秘密の窓」にあたる部分と言えます。適切なタイミングを意識して顧客へ「自己開示」していけば、さらなる顧客の信用獲得に貢献することとなるでしょう。
ジョハリの窓を実践する方法の1つとして、誰かに自己紹介をして人間関係の改善に役立てるためのワークショップをご紹介します。
紙とペンを用意して4マスの方眼を書きます。
左上のマスを「開放の窓」とし、「こんな自分です」と他人に言っても問題ない個人情報を含めた自己紹介を箇条書きにして書きます。
右上のマスを「盲点の窓」とし、今まで周りの人から言われて「ちょっと違うな」と思った自分の印象を箇条書きにして書きます。
左下のマスを「秘密の窓」とし、人には知られたくない自分のことを箇条書きにして書きます。
「盲点の窓」に書いた項目について「なぜそのように周りから言われたのか」を考え、納得できそうなエピソードがなかったかどうかを自分に問いかけて探します。エピソードが見つかれば「自己開示」が拡がるので、人間関係を改善させる可能性が高まります。
「秘密の窓」に書いた項目について「本当は知られたくないけれど、あえて知らせるのなら」どのように言えばいいかを考えます。あえて知らせることができる言い回しが見つかれば「自己開示」が拡がるので、人間関係を改善させる可能性が高まります。
「未知の窓」の領域は自分も他者も知らない潜在能力の部分なので、それを開発するための教育・訓練・研修を受けることで顕在化させることができます。たとえば、盲点の窓の分析を行うためにはどのように自分のエピソードを探せばよいのかという方法や、秘密の窓の分析を行うために役立つ、他人に自分の内面を知らせるための意思表示の方法といった教育・訓練・研修を受けることで開発されていきます。
次に、ジョハリの窓をグループで実践する際の方法の1つとして、ワークショップの方法をご紹介します。
2人1組になり、「自己紹介をする側」と「自己紹介を聞く側」を決めます。
「自己紹介をする側」から「自己紹介を聞く側」へ一方的に1分程度の自己紹介をしてもらいます。このとき「自己紹介を聞く側」は一切質問をせず、「はい」や「そうなんですね」といった簡単なあいづちだけの反応をするようにします。
1分経ち自己紹介が終わったら、「自己紹介をする側」の人のことをどのような人だと感じたのか、発言された内容以外のことも含めた感想を「自己紹介を聞く側」の人が1分間で話します。
役割を交代して、2と3を行います。
紙とペンを用意して4マスの方眼を書きます。
左上のマスを「開放の窓」とし、「自己紹介をする側」のときに自分が語ったことと、もらった感想の内容と一致した項目を箇条書きにして書きます。
右上のマスを「盲点の窓」とし、自分が「自己紹介をする側」のときに語っていないのにもらえた感想を箇条書きにして書きます。
左下のマスを「秘密の窓」とし、自分が「自己紹介をする側」のときにあえて語らなかった項目を箇条書きにして書きます。
「盲点の窓」に書いた項目について、「なぜそのように言われた」のかを「自己紹介を聞く側」の人から教えてもらい、その理由に納得できるものがないかを自分に問いかけてみます。納得できるものがあれば「自己開示」が拡がるので、人間関係を改善させる可能性が高くなります。
「秘密の窓」に書いた項目について、どうして自分は語らなかったのかその理由を考えてみます。また、もし言ったとしたらどうなっていたのかも想像します。
語ることができたと思うなら、「自己開示」は拡がるので相互理解も進んで、人間関係が改善する可能性は高まります。
「盲点の窓」の「自己紹介を聞く側」の人から教えてもらった項目について納得できるものがあれば、その項目を身につけるための教育・訓練・研修の方法がないかどうかをお互いに話し合って探します。また、「秘密の窓」について自分があえて語らなかったことを語れるようにするための教育・訓練・研修の方法がないかどうかをお互いに話し合って探します。
ジョハリの窓を実践する際に注意したい点について、「社員同士」「企業とお客様」のケースに分けて紹介します。
フィードバックをする際は単に短所や欠点の指摘をするだけにとどまらず、お互いの長所を認めた上で気づきを高める機会となるようにしましょう。
「未知の窓」の領域は自分も他者も知らないところになるので、知識やスキルの向上へとつながる教育や訓練、研修などを行うことで未知への気づきを顕在化させられるようにしましょう。
「秘密の窓」の領域は、自社が知っていて顧客が知らない内容です。そのため、個人の偏った考えに陥らないよう、自社の経営理念や行動指針がどのようになっているのかを全社員で共有した上で集約し、集めたデータを活用するようにしましょう。
「秘密の窓」の領域から集まったデータは、自社の顧客の層や嗜好、自社商品の特性などを全社員が共有した上で、お互いにコミュニケーションを進化・深化させると効果的です。
「未知の窓」の領域は自分も他者も知らないところになるので、顧客への充実したサービスの提供につながる教育や訓練、研修などを行うことで未知への気づきを顕在化できるようにしましょう。
ジョハリの窓は人間関係を改善するためのツールです。ジョハリの窓を個人やグループで実践した結果、「未知の窓」は「盲点の窓」と「秘密の窓」を分析した上で開発を求められる窓となるので、そこは使用せず、「開放の窓」と「盲点の窓」、「秘密の窓」の3つの窓に記入された項目を使います。まず、3つの窓に書かれた項目を数えてください。そして、項目数の少ないものから1位、2位、3位と順位をつけてください。この順位は自己開示が進んでいないものの順番を表すので、客観的に自分のどこを改善し、開発すればよいのかを知ることができます。
もし、「開放の窓」の項目数が一番少ないなら、「秘密の窓」や「盲点の窓」に書かれた項目からフィードバックを得ると、よりよい人間関係を築けるようになる可能性が高まりますし、「秘密の窓」の項目数が一番少ないなら、もっと他人の意見を取り入れて「開放の窓」や「盲点の窓」を拡げるとよりよい人間関係を築けるようになる可能性が出てきます。「盲点の窓」の項目数が一番少ない場合には、自分の潜在的な性格や能力を把握することで、よりよい人間関係の構築につなげられる可能性が出てきます。
このようにジョハリの窓は自分と他人との認識のズレを洗い出して分析することで、どのようにしたらよりよい人間関係が築けるかを理解することに役立ちます。
企業には顧客をはじめとするステークホルダー(利害関係者)が存在しています。これらの方々へ充実したサービスを提供し続けるには、多様化が進んだ顧客ニーズに応える必要性の高まった現代において、社員ひとりひとりの価値観で問題解決をしていくには限界を感じることがあります。ジョハリの窓を用いて相手に自分の情報を開示したり相手からフィードバックを得たりすることは、社員同士の「共通概念」となる話題を探っていくこととなり、社員相互のコミュニケーションを活性化することにもつながります。
※ステークホルダーについては、以下の記事もご参照ください。
ステークホルダーとは?正しい意味と企業経営における重要性を解説
ジョハリの窓を使い、組織内の課題や目標を共有し、社員ひとり一人の自己理解を深め、組織全体のコミュニケーションの深まりや活性化を図ることで、大きな成果を出すきっかけをつかみましょう。