目次
本章では、採用基準について下記2つの観点から解説します。
採用基準とは、人材を採用する際に、評価の統一を図ったり、目的の人材を採用したりするための指標を指します。
採用基準は、「何のために、どのような人材を採用するのか」といった採用目的を軸に設定します。たとえば、中途採用の目的を「即戦力獲得のために、スキルや実務経験が豊富な人材を採用する」と定めた場合、次のような採用基準の設定が必要になるとわかるでしょう。
選考において採用基準が必要な理由は、次の通りです。
採用基準を設けておくと、自社に必要な人材かどうかを選考の際に素早く見極められるようになります。採用競争が激化する中途採用においては、次のステップへの案内や内定出しが遅くなってしまうと、他社の内定を承諾してしまう応募者も少なくありません。優秀な人材を取り逃さないようにするためにも、自社に必要な人材かどうかを素早く見極められる基準の設定は不可欠と言えるでしょう。
また採用基準は、面接担当者の評価ズレ防止にも寄与します。採否の基準を定めておくと、面接担当者が変わっても、評価の整合性がとれるようになります。選考もより公正を期したものになるでしょう。
採用基準の決め方を5つのステップに分けて紹介します。
採用基準を決めるにあたっては、まず採用目的と目標を明確にしましょう。採用の目的と目標を決める際は、事業活動や中長期経営計画などを参考にすると良いでしょう。
【採用目的と目標の設定例1】
現在の主軸事業を拡大する場合、マネジメント層や現場を円滑に運営する新しいメンバーが必要になるでしょう。
主軸事業拡大の推進開始時期から逆算し、採用目標を定めます。
目的:主軸事業を拡大する
目標:マネジメント経験のある人材を〇人、現場運営に携われる人材を〇人、〇ヶ月後までに採用する
【採用目的と目標の設定例2】
中長期経営計画において、3年後に海外進出を目指す場合、グローバル展開の経験や知見を持つ人材が必要になるでしょう。
この場合、3年後に海外進出という目的達成を軸に採用目標を定めます。
目的:3年後に海外進出する
目標:グローバル展開の経験や知見を持つ人材を〇名、〇ヶ月後までに採用する
社内の情報を把握する工程では、下記2種に関する情報のキャッチアップに努めましょう。
採用基準を決める際には、現場の要望を把握するために現場担当者から要望や課題をヒアリングしましょう。下記は、現場担当者へのヒアリング項目一例です。
またスキルや経験においては、最低限求める水準も確認しておきましょう。
さらに、下記2点についても把握に努めましょう。
採用活動は、会社の成長や円滑な事業活動を実現することを目的に実施されます。そのため、採用基準を決める際は、経営方針に沿っている必要があると言えるでしょう。また、上層部の意見も把握し、理念や方針に合致する人材を採用できる基準へと形作っていきましょう。
自社のコンピテンシーを明確にし、採用基準に取り入れるのも有効と考えられます。ここでは、コンピテンシーを明確化する工程について、次の2点を解説します。
コンピテンシーを明確化する手順例は、次の通りです。
まずは、社内で高い成果や成績を残している社員数名にインタビューなどの調査を行い、成果につながっている行動特性を探し出してみましょう。この時、他の社員に対してもヒアリングを実施すると行動特性の違いが見えやすくなります。
続いて、収集した行動特性からコンピテンシー項目を抽出し、会社が定める企業理念やビジョンとすり合わせます。理想と現実の間に乖離が起こらないように調整しましょう。さらに、日頃の業務状況や社員の行動の様子などから、コンピテンシー項目ごとに自社に合ったレベルを設定します。最後に、策定したコンピテンシー項目を採用基準に反映させましょう。
コンピテンシー項目の一例として米国人のライル・M.スペンサーとシグネ・M.スペンサーによって提唱された「コンピテンシー・ディクショナリー」があります。コンピテンシー・ディクショナリーでは、下記図の通りコンピテンシーを6つの領域に分類し、さらに20個の定義を定めています。
『達成・行動』に関するコンピテンシーには、達成思考があるか、イニシアチブを発揮する(積極性のある)行動ができるか、などの項目が含まれます。また、『援助・対人支援』に関するコンピテンシーには、思いやり持った対応や他人の意見を尊重できるかなど、対人理解や顧客支援志向に関する項目が並びます。
他にも、『管理領域』においては、指導やチームリーダーシップ、他者育成やチームワークと協力といった統率力や組織を構築する力を中心とする項目があります。
このように、コンピテンシーの項目には様々なものがあり、採用基準を設計する際は、自社に適した項目・定義を策定しましょう。
コンピテンシーに関しては、以下の記事をご参照ください。
1~3で挙げられた情報をもとに採用基準の項目を設定します。
本章では、次の3種の採用基準の項目例を紹介します。
経験・スキルに関する採用基準には、次のような例が挙げられます。
思考特性・行動特性に関する採用基準には、次のような例が挙げられます。
業務における価値観に関する採用基準には、次のような例が挙げられます。
全体的な採用基準を設定できた後は、ターゲットや選考段階ごとの基準と項目を設定します。ここでは、下記2種の基準に分けて、項目を解説します。
採用基準を設定する時は、採用ターゲットに合った項目を設定することも大切です。
ここでは、新卒採用と中途採用を例に解説します。
新卒採用の基準を設定し、採用活動がより良い方向に進むと、将来の幹部候補として採用できたり社内の活性化につながったりすると考えられます。
新卒採用では主に、人柄や考え方を重視するポテンシャル採用となります。次のようなポイントを考慮すると良いでしょう。
採用基準の設定を的確に行い、中途採用に成功すれば、企業は最低限の教育訓練でその人材を戦力化することができると言えます。
中途採用の多くはスキル採用を取り入れています。採用基準は次のようなポイントも考慮すると良いでしょう。
ターゲットを明確にした採用戦略が可能であることから、企業が求める能力と求職者が有する能力のミスマッチが生じる可能性は低くなります。
中途採用の選考に関しては、以下の記事をご参照ください。
採用活動では、次のような場面でも採用基準を活用できるでしょう。
ここでは、各選考プロセスで設定するとよい項目などを解説します。
履歴書は、応募者の学歴や属性(中途採用の場合は職務経歴)を知るための重要な書類です。
履歴書の書き方に応募者の几帳面さや誠実さも表れるため、次の項目などを採用基準に設定することができます。
採用活動の一環としてSPIなどの適性検査を行います。
適性検査では、次の項目などを採用基準に設定することができます。
面接では、書類上では判断できないことを、直接の会話の中で判断することができます。
次の項目などを採用基準に設定することができます。また、回答の内容を点数化することも1つの方法です。
本章では、採用基準の見直しが必要なケースとして、筆者の経験から次の4つの例を紹介します。
応募者数を増やしたいと考える時は、採用基準の見直しを検討しましょう。採用競合と比較して求職者に対して高いレベルを求める場合、求職者はハードルの高さを感じてしまい、応募を見送ってしまう可能性があります。
なお、採用基準を見直す時は、条件や能力といった比較的数値化しやすい定量的な項目と価値観や性格といった数値化が難しい特性に分けると見直しやすくなります。定量的な条件や能力の項目とは、年齢や職務経歴、スキルや資格などを指します。競合企業の応募条件と比較して、緩和できる採用基準を探してみましょう。
一方、特性とは、価値観や性格など仕事への考え方や行動パターンなどを言います。特性に関しては、応募数に応じて募集要項への記載を控えるのも1つです。応募数を増やし、様々な応募者の中から採否を判断したいと考えるのであれば、面接時に価値観や性格などの特性を見極め、採否を判断するのも良いでしょう。
選考通過者が募集人数に対して少ない場合は、下記3つの要因があると考えられます。
そのため、選考通過者が募集人数に対して少ない場合は、次の3点の取り組みを実施してみましょう。
応募者に求める要求が多くなったり、基準が高くなったりすると、基準に達しない応募者が増えてしまい、募集人数に対して選考通過者が少なくなってしまいます。この場合は、各選考プロセスの評価項目の精査と優先順位を見直してみましょう。
選考プロセスごとに面接担当者が変わる場合、基準が擦り合っていないとそれぞれの基準で採否を決めてしまうため、選考を通過できる応募者が減ってしまう可能性が高まってしまいます。選考を実施する際は、どの選考プロセスでも一貫した採用基準を設け、面接担当者に共有し、評価にズレが生じないようにしましょう。
入社後の離職率が高い企業は、現場担当者からニーズや課題、新入社員に任せたい仕事などをヒアリングしましょう。採用基準が現場の求める人物像とズレが生じている場合、入社後にギャップやミスマッチが生じ、離職に至っている可能性があります。
たとえば、現場が求める以上に高いスキル基準を設けていた場合、新入社員は業務に物足りなさを感じてしまうかもしれません。反対に現場が求めるスキルよりも低い基準を設定していた場合、新入社員はスキル不足に悩み離職を考え始めるかもしれません。
入社後の離職率を低減するためには、改めて現場の担当者にヒアリングを試み、求める人材に即した採用基準に定め直しましょう。
禁止事項・配慮すべき事項に該当している場合は、早急に採用基準を定め直しましょう。
禁止事項・配慮すべき事項は、大きく次の2つに分けられます。
本人に責任のない事項には、本籍・出生地や家族、住宅状況などに関する事項が該当します。また、本来自由であるべき事項に関しては、宗教や支持政党、人生観、生活信条などに関連する事項が挙げられます。
具体的な項目は、厚生労働省のホームページに記載されているため、採用基準を見直す時は、参考にしてみてください。
アドバイザー
組織人事コンサルティングSeguros / 代表コンサルタント
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。