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帰属意識とは、自分が属する集団への一体感や愛着のことを示します。
帰属意識は、会社だけに留まりません。国や地域、社会や家庭においても帰属意識は存在し、自らが属する集団の中で位置づけられる自覚のことを指すといえます。
では、集団への愛着はどのような状態なのでしょうか。たとえば、「この会社にいると自分の力が発揮できる」「風通しがよく、仕事がしやすい」「この会社に貢献したい」「長くこの会社で働きたい」という状態が考えられます。
帰属意識に似た言葉として「従業員エンゲージメント」があります。従業員エンゲージメントとは、従業員が自身の属する会社や組織に対して「貢献しよう」という意欲のある状態のことです。
帰属意識が「組織への一体感」であるのに対し、従業員エンゲージメントは「貢献意欲」が中心であり、帰属意識からの具体的な行動指針であるという点で異なると考えられます。
※従業員エンゲージメントに関しては、以下の記事をご参照ください
エンゲージメントとは?高めるポイント、調査方法、向上させる施策を紹介
また「ES(従業員満足度)」という言葉もあります。ESとは、働きがい、給与、福利厚生、人間関係といった要素から測定される、従業員の会社に対する満足度のことであるといわれています。
帰属意識が会社への一体感を意味するのに対し、ESは働きがいや処遇等に対する「結果や評価」であるという点が異なるといえるでしょう。
※ESについては、下記の記事をご参照ください。
ES(従業員満足度)とは?向上のメリット、高めるための具体的な方法を解説
では、従業員の組織への帰属意識が高いと、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは一例として4つのメリットをご紹介します。
従業員が強い帰属意識を持つと、会社への関心が強まり、深く知ろうという意識が働きます。
会社がどのようなことを考え、行動し、どこを目指していくのかを示したものが「経営理念」「経営方針」ですが、従業員はそれをより深く意識し、理解するようにシフトしていくでしょう。
従業員の会社への帰属意識が高いと、さまざまなコミュニケーションが交わされるようになります。
帰属意識の高い集団は、お互いが仲間であることを強く意識し合い、尊重し、そしてチームとして高い成果を上げるために努力していくように進んでいくものです。現代ではICT(情報通信技術)やDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んでいますが、成果を上げるには、ツールを問わず従業員間で活発にコミュニケーションが行われることが重要です。
自分が所属する組織に愛着を持つと、「自分が好きなこの会社を良くしたい」という気持ちから、自然とより良い環境を求め、つくろうとしていくでしょう。
自分の置かれた環境を他人事と捉えずに積極的に意見を出し合い、改善に向けた議論が活発化していきます。
帰属意識を持つことにより「会社にもっと貢献したい」と思えるようになることもメリットの一つです。
「もっとこの会社で活躍したい」という気持ちが醸成されれば、自発的にスキルアップに取り組めるでしょう。
また、どのように活発で風通しのよい会社であっても、仕事は楽しいことばかりではありません。時には上司から叱られることもあるでしょうし、嫌なことも起こります。
しかし帰属意識の高い従業員は、たとえ嫌なことがあっても前向きに受け止め、また周囲からのアドバイスも素直に受け入れやすいでしょう。
結果としてスキルが上がることで、帰属意識が従業員自身の成長を促進させる原動力となるはずです。
次に、帰属意識が低いことのデメリットの一例を3つご紹介します。
帰属意識が低下している状態、つまり会社への愛着が低い状態を想像してみると、「自分はこんなつまらない会社で働いても楽しくない」「頑張っても評価されない会社にいても意味がない」などが例として挙げられるでしょう。
従業員はこのような状態で、果たして業務遂行への意識が高まるといえるでしょうか。モチベーションが保てず、会社で働く意義を失ってしまいがちになることは容易に推測できるはずです。
帰属意識が低くなると、会社の人たちへの関心も低下しがちです。情報を積極的に共有したいという意欲もなくなり、会話も最低限で済ませようとするかもしれません。
一緒に会社や組織を盛り上げようという姿勢が見られず、改善意欲も薄れてしまうでしょう。
活発なコミュニケーションが展開されない組織は、どことなく陰気でどんよりとしたものになる可能性があります。
また帰属意識の低い社員は、前述の通り会社や仲間への関心が薄くなりがちになることから、会社が伝える理念や方針も浸透しにくいかもしれません。組織が同じ方向で業務を進めていくことも困難になってしまい、業績の低迷にもつながりかねず、大きな経営リスクを招く可能性もゼロではありません。
従業員の帰属意識が低いことによる大きなデメリットの一つは「離職者の増加」ではないでしょうか。
帰属意識が低下することによって、より好条件の職場へと転職しようとする可能性が大きくなります。人材の流出は会社にとって大きな痛手になりかねず、特に優秀な従業員であるほどダメージが大きいことが想定されます。
では、帰属意識が低い、高まらない要因があるとしたらそれは何なのでしょうか。以下、その要因として考えられる点を2つご紹介します。
少子高齢化やコロナ禍による経済不安、諸外国の情勢や円安など、現代は日本だけでなく世界中で「不確実性の時代」といわれています。そのような中で「自分は定年まで今の会社で働き続けられるのか」と不安に思う従業員も少なくないのではないでしょうか。
一昔前までは当たり前とされた「終身雇用制」も崩れつつあり、将来の雇用不安を抱いている状況では、帰属意識を保つことは難しくなるでしょう。
新型コロナウイルスの感染拡大により、多くの会社がオンライン会議やテレワークを推進しています。これはある意味革命的であり、企業の働き方のパラダイムシフトであると考えられるでしょう。
しかし「効率化」「生産性」を優先しすぎると、同時にデメリットも生まれます。たとえばコロナ禍において採用された新入社員は入社直後からテレワーク状態となり、仕事で行き詰っても気軽に相談できる人が近くにいなくて悶々とするケースもあると聞きます。また既存の社員も、以前よりもコミュニケーションが減っている状況があるのではないでしょうか。
テレワークやオンラインのウエイトが偏り過ぎると、従業員の帰属意識を阻害しかねません。
※パラダイムシフトに関しては、以下の記事をご参照ください
パラダイムとは?パラダイムシフトの使い方、具体例をわかりやすく解説
帰属意識を高めるために、会社もさまざまな取り組みを実施していることでしょう。「こうすれば必ず高まる」という特効薬的なものはありませんが、ここでは筆者の経験をもとに具体的な方法について提案します。
「社内運動会」というのをお聞きになったことはありますか。以前はあちこちで行われていたようですが、時代の移り変わりや働き方に関する意識の変化とともにその数は減少し、コロナ禍も相まって自粛する動きがありました。
衰退したと思われた社内運動会が、今少しずつ見直されてきているようなのです。
社内運動会の目的は「チームビルディング」です。会社の構成員が一丸となっていろいろな競技に参加し、楽しく取り組むことによって一体感が生まれます。
この「チームビルディング」こそが、従業員の帰属意識を呼び起こす一つのきっかけになりうるのではないかと思われます。
ただ、社内運動会を開催するのは容易ではありません。時間の確保や費用の問題もあります。日常業務を行いながらこのような準備を行うことは現実的に困難であるという会社もあるでしょう。
社内運動会以外にも、チームビルディングを目指す取り組みとして、たとえば下記のようなものも考えられます。
会社の事情を勘案し、取り組めるものを積極的に検討・採用することが帰属意識の向上につながっていくのではないでしょうか。
※チームビルディングについては、下記の記事をご参照ください。
チームビルディングとは?目的と効果や自社に適した具体的な手法を解説
では、帰属意識を高めるために人事がすべきこと、できることは一体どのようなものでしょうか。
従業員の待遇をよくすることや、福利厚生を充実させることも有効かもしれません。しかしそれには限界があり、現実的な方策とはいい難い部分があります。
ここでは比較的簡単にできる手段を筆者からご提案します。
ここでは「気軽に発信できる」というのが非常に重要です。どんなに経営者や人事が「なんでも話してほしい」「どんどん相談してほしい」といっても、それだけでは従業員は身構えてしまいます。
従業員が会社に対してどう考えているのかを経営陣に気軽に発信できる環境が整っていれば、会社の問題点が可視化しやすくなります。そして従業員の意見が何らかの形で反映されれば、会社への帰属意識が高まることが期待できます。
経営者からの強いメッセージは、コミュニケーションが希薄になっている従業員にとって安心できる材料になりえます。社内SNSやWebによる社内報、オンラインイベントなどを行い、遠隔でも従業員を孤立させないための取り組みをする会社も増えています。
もちろんそれだけで不安が完全に払拭できるわけではありませんが、コロナ禍でも自社でできることは何かを考え、トップが実践してみせるという取り組みは、従業員の心を少なからず動かすでしょう。
本記事では、従業員の帰属意識を高めることが会社にとっていかに重要であるかについて解説しました。
帰属意識の醸成は、従業員任せにすべきではないと思います。人事担当者が率先して帰属意識の必要性を十分に理解し、日頃から従業員の立場に立ち、従業員目線で寄り添う姿勢が大切なのではないでしょうか。
そのために会社に何ができるか、本記事が多少なりともヒントになれば幸いです。