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新入社員研修とは、その名の通り新しく学校を卒業し入社した社員を対象におこなう研修のことです。
即戦力が期待される中途採用とは異なり、中長期的に企業の中核を担う人材として新入社員に期待している企業は多いでしょう。新入社員研修は、時間をかけて社員をじっくり育成していくその第一歩という位置づけになります。
企業によって「新人研修」「新卒研修」など名称もさまざまで、また「内定者研修」「入社前研修」などとして入社式前に実施する場合もあります。研修期間も企業や職種などによって異なります。筆者の経験上、多くは1週間ほどの期間ですが、数日のところもあれば、一ヶ月以上の長期にわたる場合もあります。
新入社員研修は、新入社員が配属先での業務を円滑に行えるようにするため、必要な知識を身につけてもらうことを主たる目的としています。
新入社員研修の対象が新卒者の場合、社会人として働いた経験がほとんどありません。そのため研修の最大の目的は、社会人・ビジネスパーソンとしてスタートラインに立てるようにすることにあります。
新入社員研修の目的は、大きく分けて以下の4つに集約できるでしょう。
新入社員は、研修を通じて同期との一体感を深めながら、企業文化や必要な知識を学ぶことになります。その中には職場における独自の共通言語や組織内での価値観というものも含まれ、それにより同期だけでなく、職場の先輩社員とのコミュニケーションのベースができるでしょう。
これらは、孤立感や仕事上の不安の軽減/解消、悩みの相談といったことに役立ちます。仲間意識が醸成され、それが社員の職場満足度や定着率の向上にもつながっていくことは想像に難くありません。
※新入社員のスキルに関しては、以下の記事をご参照ください
新入社員が入社後すぐに役立つスキルとは?直面する問題や研修を紹介
新入社員研修に用いられる教育手法には、さまざまなものがあります。ここでは、主な9つの手法についてご説明します。
Off the Job Trainingの略称で、セミナーや講義など業務を離れておこなう研修のことです。仕事をする上で不可欠なビジネスマナーやITスキルなどの習得を目的としておこないます。
On the Job Training の略称で、実務を通じておこなう研修形態です。OFF-JTによって基礎的な知識を得た後で実施するのが効果的でしょう。研修でインプットしたことをアウトプットすることで、知識やスキルが定着することを目的としています。
※OJTに関しては、以下の記事をご参照ください
【人事必見】OJTとは?意味やメリット・デメリットと導入するポイントを解説
お客様役や店員役、営業役、サポート受付役などの役割を演じることを通して、実践的に学ぶための手法です。ロールプレイングによって疑似的な業務体験が得られるとともに、お客様目線など相手の立場で考える力をつけることができます。
実際の業務で起こり得るトラブルなどの事例をテーマに掲げ、その事例に対してどのように対応するのか、どのような解決方法があるのかを考えていく研修方法です。実務に結びつけることが目的なので、ロールプレイングと同時並行でおこなうと効果的でしょう。
簡単なゲームなどのレクリエーションによって、新入社員の緊張をほぐしながらコミュニケーションをとり、新入社員同士の関係構築やチームビルディングを目的として行われます。
少人数でグループをつくり、課題や目標に対して、他のメンバーと協力しながら、議論を重ね、意思決定、発表などを行います。グループ単位で課題に取り組ませることで、コミュニケーション能力や協調性、グループをまとめるリーダーシップ力などを見ることができ、チームワーク、ロジカルシンキング、課題解決能力などを向上させることができます。
ディスカッションとは、互いに意見を述べ合いチームで一つの結論を導き出すことをゴールとしていく討論会のことです。賛成と反対に分かれて議論によって勝敗をつけるディベートとは異なります。論理的考え方であるロジカルシンキングを身につけることができます。
新入社員研修後に振り返りをおこなうことで、課題や改善点を確認する研修です。研修で学んだことの定着率を高めることが目的です。定期的におこなうことで対象者の成長が期待でき、実際の業務に合わせて行えば、PDCAサイクルの実践にも役立ちます。また、フォローアップ研修を行うことで、配属後の職場で新入社員が抱える不安やストレスをフォローすることも可能となります。
新入社員それぞれに先輩社員がメンター(指導者、助言者)としてつき、サポートする制度のことです。メンターは他部署の社員があたるケースもよくあります(筆者の経験上、同じ部署であることによって利害関係や評価などが複雑に絡むことがあるため、直接的な利害関係のない他部署の社員をメンターとすることを個人的には推奨しています)。
メンター制度を取り入れることで、業務に関することから職場の人間関係や環境面にいたるまで、年齢の近い先輩社員に気軽に相談できる環境を作ることができます。新入社員の不安を取り除き、自身の経験も踏まえて助言・指導をすることで、個人の成長や精神的なサポートにつなげることが可能となります。
※メンター制度に関しては、以下の記事をご参照ください
【人事必見】メンターとは?OJTとの違い、導入ステップ、成功させるコツを紹介
研修カリキュラムを作成する上での重要なポイントは、研修を成功させるためにはどうすればよいかを考えるということでしょう。研修の成功とは、すなわち、当初の目的を十分に達成できたと思えるレベルで終えることです。
ともすれば多彩な研修カリキュラムやスケジュールに目を奪われ、本来は手段である「研修」を目的化してしまい、「実施」することがゴールになってはいけません。
また達成度を測るために、研修前の時点で受講者たちの個々の知識レベルやスキルレベルを把握しておくとよいでしょう。それがなければ、どれだけ成長したのか、スキルレベルがどの程度上がったのかを把握することはできません。
同時に、参加した新入社員が研修を通じて「大きな達成感」「自身の成長」を感じられたかどうかも重要な要素の1つです。参加する新入社員たち自身も成長を実感する必要があるのです。
研修が成功したかどうかは、当初定めたゴールの達成度や進捗を把握することで判断できるでしょう。つまり、最初に研修の目的やゴール、達成に向けた道筋が明確になっている必要があります。
会社として新入社員をどう育てるのかという方向性にもとづいて、研修の目的、ゴールなどを考えます。そしてその目的に沿ったカリキュラムを組みます。
具体的なカリキュラムを作成する際は、個々の研修カリキュラムだけでなく、全体の構成やフォローアップの方法、メンター制度なども含め総合的に検討するとよいでしょう。同時に進捗確認のタイミングと測定方法を決めておけば、その都度成果を測ることができるようになります。
外部の研修プログラムや外部講師などを活用する場合は、それが自社の研修やゴールに向け必要かどうか、一貫性が持てるのかをしっかり見極める必要があります。必要に応じて、外部の研修や外部講師の講義内容を自社向けにカスタマイズしてもらうことも検討するとよいでしょう。
そして、社内もしくは外部講師の予定、社内行事の日程のチェック、必要な研修施設の確保などを行い、具体的な日程計画に落とし込んでいくことになります。当然ですが、予算の確保は必須です。
では、具体的な研修内容はどのようなものにすべきなのでしょうか。企業の規模や業種などによっても内容は変わりますが、社会人である新入社員が組織で働く上で押えておいたほうがよい共通の項目がありますので、一例としてご紹介します。
新卒の新入社員の中には、電話のやり取り自体に慣れていない人もいます。SNSやメールでのやり取りが中心となり電話で話す経験が少ないと考えられます。ましてや見ず知らずの人間と電話で話をした経験がほとんどないという人もいるかもしれません。教える側は、その点を十分理解しておく必要があります。
新入社員のほとんどは名刺交換の経験がありません。経験のないことは怖いものですが、早い段階で慣れてもらえば、不安を軽減することができます。いきなり実践ではなく、繰り返し模擬的に経験してもらうようにしましょう。失敗する恐怖感を植えつけないように留意することも必要です。
仕事で頻繁に使用するツールとなるオフィスソフト(ワード・エクセル・パワーポイントなど)の研修も必ず実施しましょう。スマートフォンしか使っておらずパソコンの使い方に不慣れケースや、情報リテラシーが不十分でセキュリティ意識が高くないというケースもあり得ます。特にセキュリティに関しては、新入社員のうちにしっかり研修をしないと大きなトラブルにつながりかねないと認識しておきましょう。
新卒者の新入社員は経験不足から、敬語の使い方を含めたビジネスマナーについて課題を持っている人もいます。お客様に対して失礼がなければ問題とは認識されないかもしれませんが、新入社員自身がビジネスマナーが身についていないと感じることで接客に自信を持てなかったり、消極的になったりといったことにつながります。新入社員が自信をもって取り組めるよう、ある程度のマナー講習は必要だと理解してください。
SNSを中心とした会話ツールを使いこなしている若い世代はコミュニケーション能力が高いと錯覚されがちですが、仲間以外の人とのコミュニケーションが苦手で、対面でのコミュニケーションとなるとさらに腰が引けてしまうという人もいるようです。研修で上手に苦手意識の解消を図る必要があるでしょう。
仕事を進める上では、上司や先輩へのホウ・レン・ソウ(報告、連絡、相談)は欠かせません。新入社員研修では友人や仲間以外の人たちとも苦手意識を持たずにコミュニケーションが取れるような内容を準備するのが効果的です。
そして、何よりも大事なことは、参加者である新入社員が楽しめるカリキュラムや方法にすべきだということです。ゲーム性を持たせたり、達成度によって小さな褒美を用意したりするなど、前向きな気持ちで新入社員研修に取り組めるようなものに仕上げるとよいでしょう。入社して最初の仕事となる新入社員研修が苦痛でしかなければ、身が入らず、学んだことが身につかないということにもなりかねません。
新卒の新入社員研修の成果として、「対象者の成長」「社会人としてのマインドセット」は必須です。知識やスキルを身につけてもらうだけでなく、不得手なことを克服させる必要性もあるかもしれません。
そのためには、研修の前に新入社員一人一人の知識やスキルのレベル、得手不得手を把握しておく必要があるでしょう。そこをスタートラインとして、新入社員の成長を促すためのカリキュラムを作成し、実行していくことが求められます。試験の結果や自己申告だけでなく、インターンシップや入社前研修などの担当者や仮配属も含めた配属先からのフィードバックも重要となります。
※フィードバックについては、下記の記事をご参照ください。
フィードバックとフィードアップの違いは?ビジネスでの使い方を事例付きで紹介
また、コミュニケーション能力の向上も重要です。新入社員の中には根拠に基づかない自信を持っているケースも見受けられるかもしれませんが、実際にはまだまだ未熟であるということを前提に考えましょう。現実とのギャップが大きいほど、本人がそれに気づいた際の落胆や失望が大きく、それがきっかけとなり退職する人も出かねません。新入社員が自信を失った場合の備えも必要です。フォローアップやメンター制度などを有効に活用しましょう。
新人研修の成功は、講師にも大きく影響されます。特に従業員が講師役となる場合、講師という役割に不慣れな場合もあります。不慣れなままいきなり研修の場に立つのではなく、事前に講師としての役割や新入社員に伝えてもらいたいことを理解してもらい、どうしたら効果的に受講者に伝えることができるのかを講師役の社員の成長にも役立つよう、「教える技術」の向上についても手だてを準備すると良いでしょう。
繰り返しになりますが、研修の目的とゴールを明確にするということを忘れてはいけません。新入社員を取り巻く環境は時代とともに常に変化しています。過去のやり方を踏襲するのではなく、現代の若者の考え方や価値観に合うように変化させる必要があるでしょう。新入社員研修で学んだことが、彼ら・彼女らのその後の人生にプラスの影響を与えられるような、意味のあるものになるよう、研修の目標とゴールを定め、しっかりとしたカリキュラムと実施計画を作ることが不可欠です。
新入社員研修は、新入社員が配属先での仕事に支障なく取り掛かることができるようにするというだけでなく、活躍できるようにするための重要なものです。カリキュラムの内容は現場の意見を参考にして、実際に必要となるスキルと齟齬がないようにするとよいでしょう。
また成長度や進捗を正しく把握するために、研修のステップ毎に受講者の習熟度を測定できるように工夫する必要があり、同時に受講者自身も自己の成長を実感できるようにするのが理想的です。