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ここでは、“ポテンシャル採用”に関して、言葉だけ知っている、手法の基本を知りたい、といった採用担当者に向け、どのような手法なのか次の2つの項目について解説します。
ポテンシャル採用とは、スキルや経験よりも潜在能力や仕事へのやる気・モチベーションといったポテンシャルを重視する採用手法です。中途採用の場合、即戦力となる経験やスキルを持った人材を募集・採用するケースが見られます。しかし、ポテンシャル採用では、スキルや経験を不問、もしくは採用基準のハードルを下げ、人材の採用に取り組みます。
経験やスキル(学生時代の専攻も含む)を問わないため、母集団を形成しやすく、採用工数を削減できるといった利点が考えられます。また中途採用市場においては、経験やスキルを持つ人材ほど採用コストが高騰する可能性があります。その点ポテンシャル採用は、経験やスキルを持たない人材を雇用するため、スキルや経験を持つ人材を採用するよりも、1人あたりの採用単価を抑えられると考えられます。
下記は、ポテンシャル採用と新卒採用・中途採用を比較した表です。
それぞれターゲットが異なるだけではなく、メリットや注意点にも違いがあります。より有効性の高い採用活動を実現するためにも、それぞれの違いを理解しておきましょう。
採用手法 | ポテンシャル採用 | 新卒採用 | 中途採用 |
ターゲット | 即戦力として必要な経験やスキルを持たない就労経験者 | 就労経験のない卒業見込みの学生 | 即戦力となるスキル・経験を持つ就労経験者 |
メリット | ・経験者採用と比較して採用単価を抑えられることがある | ・自社文化の継承 ・吸収が比較的スムーズである | ・育成コストを削減できる場合がある ・即戦力としての活躍を期待できる |
注意点 | ・育成コストが掛かる場合がある ・即戦力としての活躍が難しい場合がある | ・育成コストが掛かる場合がある ・即戦力としての活躍が難しい場合がある | ・採用単価が高くなる傾向がある・採用工数が増える場合がある ・求める人材に出会えない可能性がある |
ポテンシャル採用が注目されるようになった背景には、異業種・異職種に転職する人が増えたことが要因にあると考えられます。
株式会社リクルートが『リクルートエージェント』経由の転職者を対象に実施した、越境転職割合に関する調査によると、2022年度の転職パターンは「異業種×異職種」が全体の約4割を占めました。またその割合は、増加傾向にあります。反対に「同業種×同職種」に転職する人の割合は、年々減少している様子が見て取れます。
異業種・異職種転職増加という転職市場動向の変化に伴い、ポテンシャルを重視する採用にシフトする企業が増えたと推察できるでしょう。
出典:株式会社リクルート『「異業種×異職種」転職が全体のおよそ4割、過去最多に業種や職種を越えた「越境転職」が加速』(2023年11月発表)
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/2023/1129_12773.html
実際にリクルートワークス研究所が実施した『中途採用実態調査(2023年度上半期実績・2024年度見通し)』によると、異業種・異職種の採用について「既に取り組んでいる」企業は31.9%、「今後取り組む予定である」企業は18.0%となり、合わせて49.9%の企業が異業種・異職種採用を実施、もしくは予定しているという回答になりました。前年度の調査から6.6ポイント増加していることから、異業種・異職種採用を推進する企業が増えていることが分かります。
出典:リクルートワークス研究所『中途採用実態調査(2023年度上半期実績・2024年度見通し)』 https://www.works-i.com/surveys/item/240118_midcareer.pdf
ポテンシャル採用に取り組むことで得られるメリットは、主に次の3点です。
ポテンシャル採用は、従来の中途採用と比較して採用単価を抑えられる可能性があります。従来の中途採用では、経験やスキルを重視するため、採用単価が高くなりがちでした。その点、ポテンシャル採用はスキルや経験よりも人柄や将来の伸びしろを重視するため、スキルや経験面の条件が緩和されます。候補者となり得る母数が増え人材を採用しやすくなると考えられることから、採用に掛かる期間や工数が減り、採用単価も削減できるでしょう。
一方で未経験であってもポテンシャルが高ければ、入社後の教育・育成を通じて活躍できる人材に育つことも十分に期待できます。このように、活躍する可能性のある人材を低コストで採用できる点は、ポテンシャル採用で得られる大きなメリットです。
人材の多様性が広がる可能性がある点もポテンシャル採用のメリットの1つです。
ポテンシャル採用は、経験やスキルに代わり、業務における価値観や理念のマッチ度、成長意欲の有無などが採用基準となります。従来の中途採用とは採用基準が異なるため、これまでとは違った人材の採用が実現するでしょう。
ポテンシャル採用では、価値観や理念のマッチ度や成長意欲の有無などを確認するケースもあります。「どれだけカルチャーにフィットするか」「一緒に働きたいと思えるか」「文化・風土に馴染むか」などを見極める採用になるため、自ずと理念やビジョンへの共感度が高い人材を採用することにもなるでしょう。
理念やビジョンへの共感度が高い人材を採用できれば、自社で長く活躍してくれる可能性も期待できるでしょう。
ここでは、ポテンシャル採用導入時の注意点を3つ例として紹介します。
スキルや経験を重視する採用と比較して、ポテンシャル採用は人材の見極めが難しい点に留意しなければなりません。ポテンシャル採用は、目に見えるスキル・提示できる経歴で採否を判断する採用ではないため、面接担当者によって評価がバラつくこともあるでしょう。
カルチャーや業務とのミスマッチを起こさないためにも、面談機会を多く設ける、試用期間を定めるなどの対策も検討してみるとよいでしょう。
ポテンシャル採用で採用した人材は、育成・教育の期間を必要とする場合もあります。そのため、配属先部署のメンバーや経営層に対して、即戦力としての活躍が難しい可能性がある旨を周知したり理解を求めたりする取り組みも必要になる場合があるでしょう。
ポテンシャル採用を実施する際は、応募者に対し職業・企業理解の推進が必要とも考えられます。その理由として、業界や職業についての理解が浅いまま入社に至るケースも珍しくないからです。
自身の思い描くイメージや理想だけで入社してしまうと「自分には合わなかった」「思っていた仕事と違う」と感じられてしまい、早期離職に至ることもあるでしょう。
ポテンシャル採用を実施するにあたって準備しておくとよいことに次の4つが例として考えられます。
ポテンシャル採用に取り組む際は、社内に未経験者を対象とした教育制度を設けることも有効です。その理由として、ポテンシャル採用は、即戦力となるスキルや経験を持たない人材を採用する手法だからです。せっかく入社に至ったものの、任せられる業務がなく、雇用コストだけが発生する事態は避けたいもの。
採用した人材が活躍できるよう、主体となる教育者を決め、どのようなスキルをいつまでに身に付けるべきか逆算しながら教育カリキュラムを策定しましょう。
まずは、ターゲット像を定義しましょう。また採用に携わるメンバーのターゲット像がブレないように、どのようなポテンシャルを有している人材を採用したいのかも擦り合わせておきましょう。
一口にポテンシャルと言っても様々な捉え方ができます。下記を参考にどのようなポテンシャルを求めているのか、考えてみましょう。
なお、ターゲット像を定める時は、配属予定先のリーダーやマネージャー層を交えることをおすすめします。現場のメンバーを交え求める人材を擦り合わせることで、より現場ニーズに即した人材の採用が叶うでしょう。
ポテンシャル採用に取り組む際は、採用基準を策定しておきましょう。モチベーションや伸びしろ、企業方針への共感など数字では表しにくい部分を評価するポテンシャル採用では、面接担当者によって評価がブレないよう、採用基準の策定・明確化が大切になります。
採用基準を策定する際は、先に定めたターゲット像に近い人物ほど評価が高くなるように項目・評価を定めます。またパソコンの基本スキル、電話応対スキルなど、職能に寄らないビジネススキルを評価する項目を含めるケースもあります。
他の手法と同様、採用計画も策定しておきましょう。採用計画を策定する際は、事業戦略や現場のニーズを汲みながら下記項目を定めます。
また同時に各採用プロセスの目標も定めましょう。プロセスごとに目標を定めることで、達成までの道筋が見えてくるでしょう。加えて、そもそも達成可能な計画なのかも見えてくるでしょう。
ポテンシャル採用に取り組む際のポイントとして、次に紹介する3点を意識して実施してみましょう。
ポテンシャル採用を実施する際、「ポテンシャル」という言葉を細かく定義付ける工程は必須と言えるでしょう。ただ単に「行動力がある」「コミュニケーション能力が高い」というだけでは、粒度が粗く、自社にマッチしない人材を採用してしまう可能性もあります。
「行動力がある」という項目においては、前職で行動力を評価できるエピソードを語ってもらうことで、行動力という強みをどのように活かしたのか分かるでしょう。また「コミュニケーション能力が高い」という項目においては、採用担当者だけではなく役員や社長とも円滑な会話ができるのか、さらには配属予定先部署のメンバーとの相性が良いかという点を図ってみましょう。
適性を数値で可視化したい場合は、適性検査を用いるのも1つです。データから客観的に図りたいポテンシャルの有無を判断できるでしょう。
先述の注意点でも紹介した通り、ポテンシャル採用で人材を募集する際は、応募者に対し、企業・業界理解を促す取り組みが有効な手立てとなるでしょう。
ポテンシャル採用では、異業種・異職種からの転職になるケースが多く、業界や職業について理解が乏しい人もいます。「稼げる」「華やか」「ワーク・ライフ・バランスを図りやすい」などのイメージだけで異業種・異職種転職を目指す人も少なくありません。入社後のミスマッチやミスマッチからの早期離職を防止するためにも、選考や面談などの過程で企業・業界理解を促しましょう。
企業・業界理解を促す方法としては、配属予定先の上司・先輩にあたる社員と面談機会を設ける、社内見学を実施する、などの方法があります。また異業種から転職した社員と対談の機会を設け、異業種・異職種転職の大変さや入社後に取り組まなければならない勉強などを伝えるのも良いでしょう。このように、入社後の環境や業務について理解・納得した上で選考・入社に臨めるフローを設けましょう。
ポテンシャル採用を経て入社した社員が今後活躍できるよう、教育体制の整備にも注力しましょう。新卒採用もポテンシャルを重視する採用ですが、中途採用におけるポテンシャル採用は、ビジネス経験に多少なりとも差異があります。1人ひとりの経験や強みに合った教育の実施を意識しましょう。
例えばスクール等に通い一定のスキルを身に付けた人と、全く知識を持たない人とでは、同じ実務未経験者でも必要となる教育の内容やレベルが異なるでしょう。ポテンシャル採用では、採用した人材によって必要となる教育の内容やレベルが変わることを理解した上で、教育体制を整備していきましょう。
アドバイザー
組織人事コンサルティングSeguros / 代表コンサルタント
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。