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「ポテンシャル」とは、可能性や潜在的な力を意味する言葉です。中途採用の場合、既に経験やスキルを持った即戦力になれる「経験者」を募集するケースが多いです。一方でスキルよりも潜在能力を重視して「経験者かどうかは問わない」で募集するのが、ポテンシャル採用になります。
新卒扱いで未経験者を採用・育成する「第二新卒採用」もありますが、こちらは既卒3年以内の方を対象にする場合が多くなります。それと比べてポテンシャル採用では、社会人年数の制限はありません。ただ、今後の成長を期待できるかどうかが判断基準となります。
通常の新卒採用・中途採用とポテンシャル採用とは、採用時期、社会人経験、ターゲット人材の年齢に違いがあります。
採用時期に関しては、新卒採用は年に1、2回の定期実施、中途採用は随時の不定期実施ですが、ポテンシャル採用は不定期であるものの通年実施されています。
社会人経験に関しては、新卒採用は未経験者が対象、中途採用はキャリアを積んだ経験者が対象ですが、ポテンシャル採用は未経験者もしくは年数の短い経験者が対象となります。
ターゲット人材の年齢に関しては、新卒採用は3月末に学校を卒業する人間もしくは大学卒業後3年以内の人間(第二新卒)が対象、中途採用は年齢を問いませんが、ポテンシャル採用では一般的に20代、30代の若年層が対象となります。
新卒採用 | 中途採用 | ポテンシャル採用 | |
採用時期 | 定期(年に一、二回) | 不定期/随時 | 不定期/通年 |
社会人経験 | 未経験者 | 未経験者 経験者/キャリア重視 | 経験者/年数短い |
ターゲット人材 の年齢 | 3月末卒業生 大学卒業後3年以内 | 不問 | 20代、30代 (若年層) |
スキルよりも潜在能力を重視して行われるポテンシャル採用ですが、メリットとデメリットが存在します。それぞれ確認していきましょう。
ここではポテンシャル採用のメリットについて解説します。
ポテンシャル採用は、従来、新卒採用が想定通り進まなかった場合に、採用手法として取り入れることが多いものでした。しかし、ここ数年はよりポジティブなものへと変化し、将来活躍する可能性がある人材の獲得手段として導入する企業が増えています。
一度社会に出たうえで転職活動をする人は、「自分の適性や今後の目指すキャリアが見えた」「もっと成長できる環境に移りたい」といった要望を主体的に考え、自ら動ける人材だということもできます。そのような人を「伸びしろがある」と捉え、採用に前向きな企業が増えてきたといえるでしょう。
既に就業経験があるため、社会人としてのビジネスマナーやコミュニケーションスキルが備わっている人材を採用できることが多いのもポテンシャル採用のメリットです。中途採用における即戦力人材とは異なるため、一定の育成期間は必要になりますが、それでも新卒採用よりも初期の育成コストをおさえ、早期の戦力化を目指すことができる場合があります。
ポテンシャル採用では現在のスキル要件ではなく、たとえば学習習慣や成長意欲があるかどうか、自社の価値観に共感できるかどうかといったことが採用基準となります。そのため従来の採用とは異なるタイプの人材を採用するケースが増え、組織の活性化につなげることもできます。
ポテンシャル採用を導入する際のデメリットについて解説します。
スキルよりも潜在能力を重視して「未経験者」を募集するのがポテンシャル採用ですから、業界の理解や業務知識の習得に時間がかかります。企業側は長期的な視点で研修やOJTなどのプログラムを組み、サポートをしていくことが大切です。
※OJTに関しては、下記の記事をご参照ください
【人事必見】OJTとは?意味やメリット・デメリットと導入するポイントを解説
企業側は人材が活躍できるようになるまで、サポートを続ける必要があります。人事としてはポテンシャル採用1名あたりにどの程度の費用をかけるのか、事前に大枠を決めておくとよいかもしれません。
ポテンシャル採用で入社した人が、既に経験スキルを持った即戦力の「経験者」でない場合、将来の可能性に賭けている分、ミスマッチに繋がる可能性もあります。お互いに「こんなはずではなかった」とならないように、将来的な給与などの条件はもちろんのこと、企業風土などとの相性も採用時にしっかりと見極めておくことが重要です。
ここでは、ポテンシャル採用を成功に導くための方法を解説します。
「周囲からの協力を引き出しながら目標とすることを達成した経験がある」「自らの力で課題を解決しながら目標とすることを達成した経験がある」といった、自社が求めるポテンシャルの基準を明確にしておくことが大切です。基準を明確にしておくことで、「なんとなくよさそうだ」といった曖昧な判断で採用してしまうことを防止することができます。
自社が求める人材の要件やキャリアアップの内容を、SNSなどの幅広い層に伝わる方法で発信するとよいでしょう。こうした取り組みによって、ポテンシャル採用に興味を持つ人材からの応募を増やすことができます。
入社した人材にいち早く戦力となってもらうために、能力に磨きをかけるための育成や能力を仕事に発揮するためのサポートを積極的に行うことが重要です。計画的に経験を積ませることで戦力化する人材へと成長し、その後の定着も期待できます。
2020年に株式会社リクルートキャリア(現在は株式会社リクルート)が行った調査によると、20代の中途採用の伸びが過去5年で2.43倍になっており、20代の転職理由は「精神的なゆとりを求めて」が最多となっています。また、20代の転職先への入社の決め手で最も重視したことにおいては「やりたい仕事ができる」ということが傾向として見てとれます。これらのことからポテンシャル層は「ワーク(仕事)」と 「ライフ(生活)」のバランスが取れた状態を目指して転職を検討する方が多くいることが分かります。
出典:株式会社リクルートキャリア「若手の中途採用・転職意識の動向」
ワーク(仕事)に関する転職理由としては「キャリアアップをしたい」「もっと成長できる環境に身を置きたい」「自分にもっと合った仕事を探したい」といったものが考えられます。
実際に就業してはじめて自身の適性や目指すキャリアが明確になり、改めて自分に合った活躍の場を探す場合もあるでしょう。また、新卒採用では総合職として入社することも多くみられますが、その際、希望する部署や仕事につけず、異動できる可能性が少ないと分かった場合、転職を決意するケースも考えられます。
ライフ(生活)に関する転職理由としては「勤務条件(勤務時間・休日など)を改善したい」「過度なノルマなどによる職場での精神的なプレッシャーがつらい」といった理由で、特に営業職や販売職の方に多い傾向があります。
働き方改革が進むなか、ワークライフバランスを重視する人材が増えています。求人媒体『リクナビ NEXT』の検索傾向(※)を見ても、20代の特徴といえるのが、「完全週休2日」「土日祝休み」「残業なし」「有休消化率」「ワークライフバランス」といった「働き方ワード」の検索が多いことです。
ただしこれはプライベート重視ということではなく、「仕事」と「生活」のバランスを大切にする価値観が広がっているといえます。
※出典:リクナビ NEXT「検索ワード」調査(2014 年~2019 年)
ここでは、応募者のポテンシャルを見極める効果的な方法について解説します。
自ら学ぶ姿勢のある人材は、既に持っているスキルや経験を、今後の仕事に必要とされる内容へ柔軟に変化させていくことが期待できます。
そのため、過去の経験などの聞き取りから、自ら学ぶ姿勢があるかについて確認するとよいでしょう。
目的意識のある人材は、環境の変化に合わせて自ら成長し、能力を発揮することが期待できます。そのため、仕事の経験や自己成長への意欲、入社後のキャリアビジョンの有無などについて確認するとよいでしょう。
ポテンシャルを有していても自社の企業風土と合わない場合、早期退職されてしまうリスクが発生します。そのため、本人の性格や価値観などを基に、自社の企業風土とマッチしているかについて確認することが大切です。
ヤフー株式会社は2016年10月から「新卒一括採用」を廃止し、新卒、既卒、第二新卒など経歴にかかわらず30歳以下の方であれば応募できる「ポテンシャル採用」を開始しています。ヤフー株式会社では下記のようにメッセージを出しています。
「これまでの『新卒採用』と就業経験を重視する『中途採用』では、第二新卒や既卒などの方に対して平等な採用選考機会を提供できないこと、また昨今、海外留学生や博士号取得者など就職活動の時期が多様化していることから、従来よりも柔軟な採用の枠組みが必要であるとヤフーは考えています。」
出典:ヤフー株式会社
サイボウズは職種未経験でもIT業界に興味を持っていただける方に向けたチャレンジ採用枠としてポテンシャル採用を行っています。サイボウズ株式会社では下記のようにメッセージを出しています。
「『募集要項で求められた要件を満たしていないが、サイボウズに興味がある』『これまでの経験を生かして、別の職種にチャレンジしてみたい』『IT業界は未経験だが、さまざまな業界での経験を持っている』など、年齢や過去の経験に縛られず、さまざまな背景を持つ方をお待ちしています。一人ひとりの『やりたい』『できる』という気持ちが切り拓く新しい可能性を、サイボウズは応援します。」
出典:サイボウズ株式会社
生産年齢人口が減少し続ける現代では、高度なスキルや優秀な経歴を基準にした、採用活動は競争の激しさが増していくことが考えられます。そのため、求職者の潜在能力を見極めたうえで近い将来に戦力化する人材を確保するポテンシャル採用がさらに重要になっていくことが想定されます。今回ご紹介したポテンシャル採用のメリット・デメリットを考慮しながら、今後の採用活動への導入を検討してみてはいかがでしょうか。