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アンガーマネジメントとは、「怒りの感情」を自分自身でコントロールするための技術のことを指します。
誰にでもある「怒りの感情」と上手に付き合うために、1970年代にアメリカで誕生した心理教育プログラムであるといわれています。
プログラムが開発された当初はDVや校内暴力などの矯正プログラムとして活用されていましたが、時代とともに一般化され、教育現場や企業の研修などにも広く導入されています。
ここで具体例をもとに、人が怒るメカニズムを考えてみましょう。
「客先に行ったらまず挨拶すべき」という考えの持ち主であるあなたが、ある日部下を連れて客先企業を訪問したとしましょう。
もし、同行した部下が担当者に挨拶をしなかったとしたらどうでしょうか。
ご自身の考えと現実とのギャップから、「挨拶をしないとは失礼だ」と憤るかもしれません。また訪問の目的が重要な商談で、結果として商談が失敗した場合、本当はほかに理由があるとしても「あのとき部下がしっかり挨拶をしなかったから、気を悪くしてうまくいかなかった」と考えてしまうかもしれません。
怒りのメカニズムを考えるとき、この「〇〇べき」というこだわりがカギになります。
そして「こだわり」と「マイナス感情や状態」の2つがそろうことで、人の怒りは発生するといわれています。
裏を返せば、上記2つのいずれかを減らすだけでも、怒りを小さくできる可能性が広がるということでしょう。
アンガーマネジメントが企業においてなぜ必要とされるのでしょうか?
筆者の経験より、理由は2つあると考えられます。
現代社会は、さまざまな価値観やライフスタイルを認め合う社会へと変革を遂げつつあります。
一方、自分の価値観以外を受け入れられないという人も一定数いるでしょう。異なる価値観と接する機会が増えたため、怒りやストレスが溜まりやすくなってしまっているのも事実でしょう。
企業においても同様に、価値観は多様化していると考えられるため、アンガーマネジメントが必要であるといえます。
※ダイバーシティについては、以下の記事をご参照ください。
ダイバーシティとは?意味や日本企業が重視すべき理由、企業の推進施策例を紹介
会社では、上司が部下を叱るというケースもあるかと思います。
ときには叱ることもやむを得ませんが、やり方を間違えて怒りの感情をぶつけると、上司本人は教育のつもりでも、部下や周囲からパワー・ハラスメント(パワハラ)とみなされかねません。
そうなると、部下のモチベーションが下がってチームの生産性が下がるなど、企業全体にとってもマイナスとなるでしょう。
企業として社員のモチベーションや生産性を上げるためにも、アンガーマネジメントは必要といえるでしょう。
※パワー・ハラスメントについては、下記をご参照ください。
パワハラとは?定義と種類や相談されたときのチェック方法と進め方を解説
アンガーマネジメントを身につけると、どのようなメリットがあるでしょうか?
筆者の経験をもとにいくつか挙げて解説します。
怒りの感情は、相手だけでなく自分にも強いストレスを与えるものであり、健康的とはいえないでしょう。
怒りの感情に対する理解を深めることで、ストレスを抱えにくくなり、ひいては精神面でも健康的になるでしょう。
怒りっぽい人には、どこか近寄りがたいオーラが出てしまう可能性があります。
「今話しかけたら怒られるのではないか」と思われているようでは、良好なコミュニケーションは期待できないでしょう。
アンガーマネジメントを身につけることにより、感情ではなく理性的な言葉で伝えられるようになり、円滑なコミュニケーションがとれる可能性が広がるでしょう。
前述でもお伝えした通り、怒りを相手にぶつけることにより生じる「パワー・ハラスメント」の防止にも、アンガーマネジメントは大きな効果が期待できるはずです。
部下に指導したいことがある場合は、一度怒りを鎮静化させることで冷静に意図を伝えられるため、パワハラの抑制につながるでしょう。
上司がいつも怒っていてギスギスした雰囲気の組織で、質の高い仕事ができるでしょうか?なかなか難しいといえるでしょう。
アンガーマネジメントを身につけることで、円滑なコミュニケーションをとりやすくなり職場内でも良好な人間関係が築けるでしょう。
よいチームワークで仕事ができ、生産性の向上につながりますし、離職の防止も期待できると考えられます。
怒りをコントロールするには、まず自分の性格を知ることが重要です。
具体的には「どのようなことを大切に考えるか」「何をされたら怒りが芽生えるのか」を知ることが大切でしょう。
ここでは、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会が公表している「アンガーマネジメント診断」より、6つの怒りタイプをご紹介します。
道徳⼼が強く、自身の正義を貫こうとするあまり、他人のマナーやルール違反が気になり、 ちょっとした⾏動にもイライラしやすいタイプです。
執着⼼が強く、⾃分できちんと物事を判断するタイプで、いわゆる「完璧主義」タイプです。
思い込みが強く、⽩⿊つけたがる傾向があるため、他人の意⾒を受け⼊れにくく、厳しくなりがちな⾯があります。
⾃尊⼼がある反⾯、他人からの評価を必要以上に気にするタイプです。軽く扱われたりしたときにイライラする傾向があります。
⾃⽴⼼が強く、⾃分を素直に表現するものの、他人に合わせることを嫌がる傾向があるタイプです。はっきりとものをいわない人にもイライラしがちです。
利⼰⼼があり、温厚で⾃分ルールや価値観を⼤切にしている反⾯、頑固な一⾯があるタイプです。 他人と意⾒が異なると⽿を貸そうとしない傾向もあります。
警戒⼼があり、冷静・慎重に物事をこなすが、人や物事を簡単には信じないタイプです。⼼を開くことや人間関係を築くことにストレスを感じることもあり、ちょっとしたことで傷つきやすいです。
実際に日常生活で怒りを感じたときには、どのように対処したらよいのでしょうか。
ここで大事になるのは、怒りは誰にでもあることで、完全になくすことはできないということです。
ここでは、人事院から公開されている「パワー・ハラスメント防止ハンドブック」に記載がある、アンガーマネジメントをいくつかご紹介します。
感情のピークは「最初の6秒」といわれています。その6秒間の間に怒ってしまうのではなく、一度大きく深呼吸したり、頭の中で6までの数字を数えたりすることで、怒りのピークをやり過ごしましょう。
怒りが芽生えた原因として、「ある人が」「ある出来事が」自分を怒らせたのだ、と人は考えがちです。しかし、実は本当の原因は「〇〇べき」という自分の考えにあると言われています。
「自分はこういう場面に遭遇すると怒るのだな」ということを知るだけで、怒る前に自分の怒りを察知できるようになり、怒りをコントロールできるようになるでしょう。
前述でもお伝えしたとおり、自分の中にある「○○べき」という考え方は、アンガーマネジメントの中でのキーポイントといえるでしょう。
「○○べき」の境界線は一つとは限りません。自分が考える「○○べき(OKゾーン)」と「○○べき(NGゾーン)」のほかに、自分とは違うが許してもよいという「中間(許容ゾーン)」を作り、境界線を広げることができれば、怒りに結びつきにくくなると考えられます。
近年、アンガーマネジメントの研修は各地で行われています。
一般にアンガーマネジメント研修では、個人別・階層別に行われることが多いようです。
個人的に「怒りのコントロールをしたい」という方向けの講座は、アンガーマネジメントの入門的な内容になっていたり、組織のリーダー向けに「部下をどう叱るか」「パワハラにならないようにするにはどうするか」といった内容の研修なども行われていたりします。
特に以下の研修では、怒りを完全に払拭する必要はなく、怒りと上手に付き合うことで自分自身の感情をコントロールし、職場・家庭等で良好なコミュニケーションが構築できるようになることを目指しています。
自社で研修を導入することもおすすめですので、一度検討されてみてはいかがでしょうか。
参考:リクルートマネジメントスクール
「アンガーマネジメント ~怒りを適切に表現するためのスキル~(160)」
アンガーマネジメント研修を受講したほうがよいと思われる社員とは、どのような人でしょうか。ここでは3つの例をご紹介します。
普段から些細なことですぐに怒ったり、怒りの持続時間が長かったりする社員がいたとしたら、アンガーマネジメントについて学ぶとよいかもしれません。
そういった社員がアンガーマネジメントを身につけることができれば、自身の精神的安定をもたらし、周囲と良好な関係が構築できる可能性が高まるでしょう。
普段から比較的大人しくて感情を表面化しないタイプの社員は、我慢に我慢を重ねている可能性があるので注意が必要でしょう。
このような社員もアンガーマネジメントを学ぶことで、セルフコントロールの一環にもつながりますし、内に秘めた気持ちが表面化されてコミュニケーションが図りやすくなるかもしれません。
前述のとおり、アンガーマネジメントは「パワハラ防止」と密接な関係があります。
上司がハラスメントの認識なく発した言葉であっても、部下の価値観によって認識が真逆になってしまうこともあるでしょう。
このようなギャップが生まれないようにするために、リーダーは相手の価値観や感情を理解して受け入れる力が求められます。
アンガーマネジメント研修は、既存のリーダーや次世代のリーダー候補にも有効となり得るでしょう。
ご自身の性格を変えることはできなくても、性格を知り、上手につきあうことはできるはずです。
皆さんが属する会社の組織内で良好なコミュニケーションを作っていくためにも、この機会にアンガーマネジメントを取り入れてみてはいかがでしょうか。