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パワハラとは?定義とすぐに確認できる方法を解説

パワハラとは

相手が嫌がる言動や行為を行うことの総称を「ハラスメント(Harassment)」といいます。その一つであるパワーハラスメント(以下パワハラという)とは、職場内での地位や立場を利用した嫌がらせのことであり、それにより相手が身体的・精神的苦痛を受け、あるいは職場環境を悪化させてしまう行為だと考えられます。
ほかの種類のハラスメントとしては、性的な嫌がらせである「セクシュアルハラスメント」、言葉や態度によるいじめや嫌がらせ、精神的暴力である「モラルハラスメント」などがあります。

厚生労働省「総合労働相談コーナー」での「いじめ・嫌がらせ」相談件数は年々、増えており、すべての相談の中で8年連続トップになるなど深刻な事態になっています。

出典:厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(2020年7月1日)

パワハラの定義と種類

パワハラは、同じ職場で働く者を対象としたハラスメントです。ここでいう職場とは、同じ会社に所属する人間同士とは限りません。取引先や顧客などの、業務を通じて接点のある社外の人間も対象になります。

厚生労働省は、以下の3つの要素を満たすものを、職場のパワーハラスメントと定義しています。

優位的な関係性に基づいて(優位性を背景に)行われること

職場内での地位や立場が強い、特定の人間関係における影響力が大きいなど、職場内の優越性を利用して相手に対して不利益を与える行為が、パワハラの要件となります。
同じ社内の人間同士の場合、部下が加害者で上司が被害者になることもあります。特定の部下が、自分が年上であることや職場内での人間関係を取り仕切っていることを背景に上司を圧迫する行為もあるからです。

立場の弱い取引先の担当者を圧迫する行為も、パワハラに該当します。

業務の適正な範囲を超えて行われること

業務上必要とは認められない行為や、業務の目的を逸脱した行為、度を超えたやり方による行為などが、パワハラの要件となります。

業務とは関係のない要求を押し付ける、度を超えた叱責を行うなどの行為も該当します。

身体的もしくは精神的苦痛を与えること、又は就業環境を害すること

相手に身体的・精神的な苦痛を感じさせたり、就業環境を害して仕事をやりにくくさせるような行為は、パワハラとなります。

出典:厚生労働省雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」(2018年10月17日)

パワハラの種類

パワハラの定義について説明してきましたが、具体的には、どのような行為がパワハラになるのでしょうか。主な行為は以下のものになります。

行為内容
身体的な攻撃身体に対する暴行など
精神的な攻撃脅迫や侮辱、暴言、名誉毀損など
人間関係からの切り離し仲間外れや無視、隔離など
過大な要求業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、
仕事の妨害など
過小な要求本人の能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えないなど
個の侵害私的なことに過度に立ち入るなど

出典:厚生労働省雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」(2018年10月17日)をもとに著者が作成

パワハラかどうかを確認できるチェック方法

職場でパワハラが行われていないかどうかをチェックする具体的な例を紹介します。

パワハラを行っていないか

以下のような行為が行われている場合、パワハラに該当する可能性が高くなります。

1.身体的な攻撃が行われていないか?

  • 小突く、胸ぐらをつかむなどの暴力を伴った叱責をする
  • 物を投げつける

2.精神的な攻撃が行われていないか?

  • 他人の見ている前で暴言を吐く
  • 他人の見ている前で些細なミスを大声で叱責する

3.人間関係からの切り離しが行われていないか?

  • 挨拶をしても返事をしないなどの特定の相手を無視する
  • 特定の相手を仲間はずれにする

4.過大な要求が行われていないか?

  • 達成不可能なノルマを与えている
  • 終業時間前に過大な仕事を押し付けている

5.過小な要求が行われていないか?

  • 意図的に仕事を与えない
  • 本来の業務をやらせずに雑用だけを命じる

6.個の侵害が行われていないか?

  • 休む理由をしつこく問い詰める
  • 家庭や恋人に関することをしつこく聞く

出典:厚生労働省雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」(2018年10月17日)および厚生労働省「あかるい職場応援団/どんなハラスメントかチェック」をもとに著者が作成

パワハラを受けていないか

パワハラの解決には、パワハラを受けている側ができるだけ早くそのことに気づくことも大切です。以下のような行為を受けていることが原因で、身体的・精神的な苦痛を感じている場合、パワハラに該当する可能性が高くなります。

1.身体的な攻撃

  • 日常的に暴力を振るわれている
  • 体に物を当てられたことがある

2.精神的な攻撃

  • 見せしめのような形で皆が見ている前で大声で叱責される
  • 人格を否定するような言葉や侮辱するような言葉を言われる

3.人間関係からの切り離し

  • 挨拶をしても無視をされ口をきいてもらえない
  • 他の社員と接触することを禁じられている

4.過大な要求

  • 一人では処理できない量の仕事を押し付けられている
  • 自分だけ終業時間前に過大な仕事を押し付けられている

5.過小な要求

  • 自分だけ仕事を与えられない
  • 本来の業務とは関係のない軽微な仕事だけを命じられる

6.個の侵害

  • 休む理由をしつこく聞かれる
  • プライベートに関することをしつこく聞かれる

出典:厚生労働省雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」(2018年10月17日)および厚生労働省「あかるい職場応援団/どんなハラスメントかチェック」をもとに著者が作成

パワハラの具体例

職場において、業務上の指示・指導とパワハラとの線引きは難しいかもしれません。では具体的には、どのような行為がパワハラに該当するのでしょうか。裁判において違法性等が認められた例をご紹介します。

業務上明らかに必要性のない行為に関する例(大分地裁 平成25年2月20日)

X氏は化粧品販売会社からY社に出向し、美容部員として勤務していた。X氏は、Y社の販売コンクールで販売目標数が未達であり、その後の研修会にてY社の従業員Y1らから「罰ゲーム」と称し、X氏の意に反したコスチュームの着用を強制された。また、別の研修会にて、コスチュームを着用したX氏のスライドが投影された。X氏は以上を原因に、休業を余儀なくされる精神的苦痛を被った。また、Y社の従業員Y2が「X氏と連絡が取れず、X氏の病状の把握ができなかった」ことを理由に、X氏が受診したクリニックに対して医療情報の照会を行った。X氏は、上記が不法行為に該当し、精神的苦痛を被ったとして、損害賠償を請求した。結果、Y社及び、Y社従業員Y1らに対する請求が一部認容され、Y2に対する請求が棄却された。

過大な要求が行為に含まれていた例 (横浜地裁 平成11年9月21日)

A社の営業所に所属する運転士であるZ氏が、駐車車両に路線バスを接触させた。A社の営業所所長A1氏は上記を理由に、Z氏に対して、下車勤務として「約1か月の同営業所構内除草」を命じ、さらに乗車勤務復帰後も「1か月以上の添乗指導」を受けることを命じた。Z氏は精神的損害を被ったとして、A社と営業所所長A1氏に対し、慰謝料の支払を求めた。結果、請求の一部が認容された。

出典:厚生労働省 雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」(2018年10月17日)

参考:厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」

パワハラを放置するリスク

ここまでパワハラについて解説してきましたが、企業がパワハラを放置することは、どのようなリスクがあるのでしょうか。主なリスクは以下の4つがあると考えられます。

人材の流出

パワハラにより身体的・精神的な苦痛を感じた従業員が離職することで、他の従業員の業務負担が増加し、さらなる離職を招くリスクがあります。

また、企業には、新たに人を採用し教育するためのコストが発生します。

生産性の低下

パワハラの横行は従業員のモチベーションを低下させ、さらには業務の生産性、企業の事業競争力や収益性の低下にもつながります。

企業イメージの低下

ネットやSNSなどを介してパワハラが横行していることが世の中に知れ渡ることで、企業イメージが低下します。

そして顧客離れによる売上の低下や、人材採用が困難になるといった弊害を生み出します。

訴訟リスク

企業がパワハラ防止のための措置を講じることは、法的な義務です。

したがって、特定の人間に身体的、精神的な苦痛を与えた場合、企業が法的義務を怠ったとして、損害賠償請求をされるリスクが高まります。

パワハラ相談を従業員から受けた場合

では、従業員からパワハラ相談を受けた場合はどうすればよいのでしょうか。まず、パワハラの内容を正確に把握することが大切だと考えられます。著者がこれまでの経験を踏まえて作成した、事実確認に役立つリストを紹介しましょう。

項目 確認すること
パワハラの内容パワハラを受けた相手や日時、場所、頻度など
相手との関係上下関係や私的関係の有無
被害の程度仕事に対する影響や身体的、精神的影響への程度
証拠の有無録音や書面での記録、目撃者の有無
ハラスメントへの対応上司や周囲に対する相談の有無、相談を受けた側の対応
職場内での認識周囲の人間がパワハラのあることを認識していたのかどうか
解決に対する希望どのような形での解決を望んでいるのか
(加害者の謝罪や処分、配置転換など)

相談者への確認を行う際には、以下のことに注意することが効果的です。

聴く姿勢を貫く

パワハラの被害者は精神的なダメージを抱えていることが多く、相互の信頼関係を深めた上でなければ客観的な事実確認を行うことが難しくなります。

そのため、一つ一つの言葉を丁寧に聴く姿勢を示すことが重要になります。

プライバシーには立ち入らないことを明言する

プライバシーに関係するパワハラであった場合、会社に私的なことを知られてしまうことを懸念することで相談者が話をしづらくなってしまうことがあります。

そのため、プライバシーには立ち入らないことを明言することが望ましいです。

不利益な取り扱いがないことを明言する

相談者が、パワハラに関する相談をしたことで自分自身に不利益が生じるのではないかと不安を抱くことがあります。

そのため、相談をしたことを理由として会社が相談者に対して不利益な取扱いをすることは一切ないと明言することが望ましいです。

報復防止への対応を行うことを明言する

相談者が、会社に対してパワハラの相談をしたことを知った加害者から報復されるのではないかと不安を抱くことがあります。

そのため、加害者に対して報復行為の禁止を指示することを明言した上で、報復行為があった場合はすぐに知らせるよう伝えることが望ましいです。

パワハラが起きた際の人事の対処・手順

従業員から「パワハラを受けた」と相談されたら、迅速かつ誠実に対処することが必要です。以下に具体的な手順をご紹介します。

事実関係の迅速・正確な確認

まずパワハラを受けた、パワハラ行為をした両方の当事者と同じ職場の従業員から事実関係のヒアリングを行います。もしハラスメントの担当部署および相談窓口が設置してある場合には、専門の担当者とともに行い、調査経過は相談者に随時報告しましょう。

調査結果の精査

総合的に情報収集し報告書を作成します。その上で、顧問弁護士など専門家を加えて、パワハラの有無を慎重に判断していきます。

適切な対応の実施

パワハラに該当すると判断した場合は、行為者に対して社内規定にそって戒告や減給あるいは降格などの適切な処分を行います。相談者(被害者)には経緯・結果を丁寧に説明し、再発防止策もあわせて伝えて、今後安心して働いてもらえるようサポートしていきます。

パワハラ社員への対応方法

改正労働施策総合推進法により、パワハラを防止するための措置を講じることが事業主の義務になりました。その一環として、「パワハラの行為者については、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知・啓発すること」も義務付けられました。

パワハラの加害者に対する処分は、処分を受けた従業員の側と紛争が起こりがちなため、慎重に進める必要があります。内容に応じて弁護士など専門家とも相談しながら行為者に対する適切な処置を検討しましょう。

パワハラの予防方法

以下の対策を講じることが、パワハラの発生予防に効果的です。

パワハラを発生させない職場環境を作ること

パワハラ問題に対して毅然とした態度で臨むという会社としての態度を示すことが、パワハラを発生させない職場環境を作ることにつながります。

具体的には以下のような対応が効果的です。

・アンケートなどを通じて、従業員のパワハラに関する意識の程度や職場におけるパワハラの発生状況などを確認する

・パワハラ問題に対して会社として毅然とした態度で臨むことを、従業員に公言する

・どのようなことがパワハラに該当するのかを、従業員に理解させる

・パワハラに対する懲罰の内容を、従業員に周知する

・パワハラ問題が発生したときの対応手順を明確にした上で、従業員に周知する

被害者が相談しやすい環境を作ること

パワハラを防止するには、パワハラが発生した際に被害者が躊躇なく相談できることが重要です。

そのためには、職場内に相談窓口を設けるなど、内密に相談できる環境づくりが必要だといえます。さらなる対策として、顧問の弁護士や社会保険労務士などに協力してもらい社外の相談窓口を設けることがあげられます。このように社内の人間には相談しづらいと感じる従業員に対しても配慮が必要です。

社内の風通しをよくすること

職場内の全ての人間が気兼ねなくコミュニケーションを図ることのできる環境では、パワハラ問題は発生しづらくなります。

職場内のコミュニケーションが良好な場合、パワハラが疑われる事態が発生したとしても、そのことを不快だと感じ、あるいは精神的・身体的苦痛を感じる人が少なくなることで、パワハラに関する問題が発生する可能性が低くなります。

良好なコミュニケーションは自発的には形成されないため、会社主導で実現していく必要があります。