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労働生産性とは、労働者1人または時間当たりの労働で得られる成果を数値で表したものです。1人の労働者につきいくらの利益が得られたのかを数値で確認できます。
ヨーロッパ生産性本部は、「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」と定義しています。
引用:公益財団法人日本生産性本部「生産性の定義」
生産性とは、生産を行うために必要となるもの(生産諸要素)と、投入(消費)することでできる産出物(製品・サービスなどの生産物)との相対的な割合のことです。
生産諸要素とは、機械、土地、建物、エネルギー、原材料、または機械を操作する人・運搬する人など、有形・無形に限らず物を生産する際に必要なものすべてを指します。
生産性の高い組織には2つの特徴があると考えられます。
組織の一人ひとりが当事者意識を持ち、自ら課題を見つけて積極的に解決に向かって行動するため、労働生産性が向上する可能性が高まります。
社会的感受性とは他者の感情を察知する能力です。組織の中核となる社員が、相手の立場を理解して、感情を的確に察知できることで、組織内の適切なコミュニケーションが促進されるため、労働生産性が向上する可能性が高まります。
労働生産性が低い場合には、主に以下の3つの理由が考えられます。
上司や同僚が仕事をしているため帰れないなど、残業ありきの職場では、定時業務時間内に仕事をすべて終わらせるという意識が薄くなりやすいです。このような状態では時間効率が低くなり労働生産性も低くなってしまいます。
企業が年功序列の人事制度を採用しているかぎり、たとえ効率よく仕事を行い、生産性の向上に貢献していても、長い年数働いている人に比べて、給与や役職が低くなってしまいます。こうしたシステムは日本の労働生産性向上を阻害している一因と考えられます。
伝統的な日本企業の働き方の強みは、個人でなくチーム内で互いに助け合い、個々の能力を活かすことだといわれてきました。しかしこうした働き方では、他人の業務に時間を割くことになるため、個人の業務が滞り、結果的に労働生産性が低くなってしまうと考えられます。
日本生産性本部によると、OECDデータに基づく2020年の日本の時間当たり労働生産性は49.5ドル(5,086円)で、OECD加盟38カ国中23位でした。実質ベースでは前年から1.1%上昇していますが、1970年以降最も低い順位となっています。就業者一人当たり労働生産性は78,655ドル(809万円)で、OECD加盟38カ国中28位です。
出典:公益財団法人日本生産性本部「労働生産性の国際比較」
労働生産性は、労働時間と人員を数値化した「労働量」を用いて計算します。算出する労働生産性には、下記の2種類があります。
・物的労働生産性:成果に対しての生産量や金額などを表す
・付加価値労働生産性:生み出した成果に対しての付加価値を表す
物的労働生産性で算出する成果は、労働による「生産量」になります。
<計算例>
4人の従業員が100時間/月の労働時間で、1,000個の部品を生産した場合、労働量は400時間、物的労働生産性は2.5個となります。
付加価値労働生産性で算出する成果は、労働による「付加価値額」になります。
※製造業の場合…売上ー諸経費(燃料費、材料費、運搬費等)
※非製造業の場合…売上ー売上総利益
<計算例>
商店の従業員3人が8時間勤務で400,000円の売上をあげたとします。この商品仕入に100,000円かかっていた場合、非製造業の付加価値額には原材料費や運搬費などの諸経費は含まれないため、付加価値額は300,000円となります、ゆえに、付加価値労働生産性は12,500円です。
出典:公益財団法人日本生産性本部「生産性の定義」
人件費とは、現物給与総額と現物給与以外を足したものです。
・所定内賃金(基本給+各種手当)
・所定外賃金(残業時間)
・賞与・一時金
・退職金
・退職年金
・法定内福利費
・法定外福利費
企業によっては人材採用費や教育研修費を含める場合もあります。
労働生産性を向上させるメリットとして、「ワーク・ライフ・バランスの向上」「人材不足の解消」「コスト削減」「企業競争力の向上」という4つがあると著者は考えます。
労働生産性の向上によって社内全体の業務が効率化されると、労働時間が短縮されます。従業員のワーク・ライフ・バランスが向上し、生活に充てる時間をより多く確保できるため、心にゆとりができるでしょう。
労働生産性の向上によって魅力的な職場となれば、従業員の離職率を低下させ、優秀な人材の流出を防げる可能性が高まります。
※人手不足に関しては、以下の記事をご参照ください
日本はなぜ人手不足になるのか?根本的な原因と対策や解消法をわかりやすく解説
社員1人あたりの生産性が向上すると、残業代や電気代などが削減され、少ない投資でより多くの成果が得られやすくなります。
労働生産性の向上によって削減された人件費などの経費を、新たな価値の創出に投資することで、企業競争力の向上が期待できます。
では、実際に労働生産性を上げるためにはどうすればよいのでしょうか。ここでは著者が考えるさまざまな業種に共通する基本的な考え方を、4つのステップに整理してご紹介します。
労働生産性を向上するには、まずKPI(Key Performance Indicator)を設定しましょう。KPIとは重要業績評価指標などと訳され、現状を把握し、目標を達成するために不足している要素を明確にするうえで不可欠です。
KPIに使う指標は、売り上げ実績、顧客獲得コスト等、さまざまな数値を利用できます。たとえば人事部門のKPIであれば社員定着率なども、KPIとして活用できます。業務によって必要なKPIは異なるため、独自に設定することが大切です。
業務のなかで処理能力や効率の悪い部分、いわゆる「ボトルネック」を探します。詳細は後述します。
自分たちの問題点の改善に活用できる制度(税制優遇、補助金、助成金等)がないかを確認しましょう。
実際に目標達成に向けての行動を実行に移すために、ToDoリストに落とし込みましょう。
労働生産性向上のためには既存の業務を見直し、ボトルネックを洗い出すことが重要だといえます。
付加価値労働生産性をもとにしたとき、ボトルネックを洗い出す際のポイントは主に5つあると著者は考えます。そのポイントをご紹介します。
従業員別または職階別の標準的な労務単価に基づいて労務費を計算し、従業員への作業の振り分け(アサイン計画)の見直しを行います。
ここでは、理由なく簡単な案件に見合わない社員を配置していないか、過剰に人材を配置している案件がないかなどを確認しましょう。
各作業工程で発生する標準工数を定期的に見直し、見積精度を高めましょう。作業工程別の標準工数の定期的な確認により、業務内で改善ポイントの発見へとつながり、利益率向上が期待できます。
事務作業や会議などの現状を確認し、事務作業の自動化や情報共有の効率化を行うことで全体の労働時間を短縮させましょう。
案件別、クライアント別など、適宜損益を見える化し、適正な利益を確保できる業務を明確にしましょう。
定期的に発注先を見直し、同じものや似たシステムを別々の会社に発注している場合には、発注先を一本化することで外注費や連絡コストを削減できないか検討しましょう。
労働生産性は企業の利益向上に直結する重要な指標です。しかし、残業時間の短縮を迫るだけでは従業員が疲弊してしまいます。労働生産性を改善には、働き方改革や働きがい改革を行うことも有効です、検討しましょう。
DX(デジタルトランスフォーメーション)やITツールを活用することで、労働生産性が向上することもあります。労働生産性の向上を、働く人の企業に対する誇りや企業ブランド向上につなげようといった視点を忘れずに、検討を進めていきましょう。