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著者がこれまでアドバイスを行ってきた経験を踏まえ、採用がうまくいかない企業の特徴を整理しました。「採用がうまくいかない」とは、採用に至らない、せっかく採用できても定着しないといった状況です。
それぞれ事情が異なるものの、このような企業には主に次の5つの共通点があると考えられます。
意外と思われるかもしれませんが、企業が自社の事業内容や業務について明確に整理できていないケースは、しばしばあるものです。
求職者自身は、会社の事業の特徴や業務内容について、さまざまな手段を活用して確認します。転職先を決めることは、自身の一生をも左右しかねないわけですから、慎重になるのはごく自然なことです。
その結果、自社について求職者にわかりやすく説明できず、求職者がその企業で仕事をするイメージがつかみにくくなります。
採用がうまくいかないだけではなく、採用に結び付いたとしても、入社後に求職者に「思っていたイメージと違う」と思わせ、採用後のミスマッチが起こりやすくなります。
企業が広告や採用活動を行う場合、基本的には事業の魅力や働きやすさなどを伝えるでしょう。良い面を伝えるのは当然とはいえ、こだわり過ぎてしまうと「この会社は良いことばかり書いているが、本当にそうなのか」「悪い部分を隠しているのではないか」と求職者が不安を感じてしまう可能性もあります。
どのような企業でも、多少のマイナス面があるものです。企業はその事実を踏まえ、求職者と真摯に向き合う姿勢が求められます。
従業員を大切にする企業であれば、待遇を改善し働きやすい環境を整えようと努力するものです。経営者が「企業の発展は従業員あってのもの」といった言葉は使っていても、実際には利益を優先し、従業員に負担を強いるような場合、従業員は敏感に経営者の本音を感じ取り、早期離職につながる可能性があります。
そのことに経営者がしっかり向き合わなければ、人材獲得の機会を損失するだけでなく、従業員が定着しないという現象を生み、採用活動自体がうまくいかなくなるおそれがあります。
採用活動をしても採用に結びつきにくい企業は、自社が求める人材像が不明確なケースが多いようです。このような状態では、求職者に適切にアプローチすることができず、また「この会社に応募しても、自分のスキルや経験では難しいのではないか」と感じさせてしまう可能性が高いでしょう。その結果、応募に結びつかないという事態に陥りかねません。
手探りの状態で採用活動を続け、結果に結びつかないといったケースがあります。独自に試行錯誤することも大切ですが、求人媒体や転職エージェントなどの「外部環境」を上手に活用することも必要です。これらの外部環境からは、人材採用に関する知識や情報を得ることができ、具体的なアドバイスを提供してもらえるといったメリットがあります。
転職エージェントなども含め、活用できる手段を適切に活用し、第三者からアドバイスをもらうことは採用活動において有効な手段だといえます。
※転職エージェントに関しては、以下の記事をご参照ください
中途採用における人材紹介・転職エージェントサービスの特徴とメリットを解説
闇雲な活動が成果に結びつくほど、採用活動は簡単なものではありません。自社の採用課題を明確にして採用計画を立て、計画に基づいて実行し、改善して次に活かすというPDCAを継続的に回していくことが重要です。内定者に対しては、入社するまでしっかりフォローするだけでなく、入社後においても会社に定着してもらうための努力が必要です。
採用活動がうまくいっている企業は、あらゆる手段を講じて求職者に訴求しています。スカウトやエージェントの活用、自社のWebサイトなどへの掲載、求人媒体への掲載、採用イベントへの出展、ダイレクトリクルーティングサービスの利用、インターンシップの実施、会社説明会の開催などさまざまです。
自社の特性と照らし合わせながら、適切な手段を検討しましょう。採用活動を成功させるには、こうした応募者を集める努力が必要です。
採用活動においてまず重要なことは、「自社の求める人材を明確にする」ことです。よく「優秀な人材がほしい」といった声を耳にしますが、それだけでは抽象的でわかりにくいのが実情です。このような抽象的な状態から、求める人材を明確にし、採用計画に盛り込むことが必要です。こうした取り組みは、採用後のミスマッチを防ぐことにもつながります。
採用活動を行う際には、各部署との連携を強化し社内体制を整えることが必要です。しかし、通常の業務を複数抱えながら、同時に採用活動を行うのは簡単なことではありません。そのため、可能であれば採用に関する専門部署を設けるとよいでしょう。
専門部署を設けることで、部署内のコンフリクトを上手に調整することができます。また、専門部署は採用の窓口的な役割を果たすほか、前述の通り他部署との協力関係を構築する橋渡し役にもなります。たとえば会社説明会を開催する際に、現場担当者に出席してもらい、参加者に詳細な説明してもらったり、採用した人材が順調への入社前後のフォロー体制を構築するにあたっても、橋渡しとしての役割が重要になります。
さまざまな業界のなかでも、介護福祉業界は特に人材採用が困難な業種の一つといわれています。しかし、創意工夫を重ねることによって人材採用を成功させている企業も存在します。ここでは、筆者の実際の経験を基に人材採用に成功した事例をいくつかご紹介します。
元同僚であったケアマネジャーをしていたXさんと、訪問介護の管理者をしていたYさんが、退職後に設立したA社の事例です。
介護業界は他業種と比較して給与水準が高いとはいえず、そうした理由から人材確保に苦労する事業所が多いのが実情です。XさんとYさんも例外ではなく、起業前の企業では募集しても人材が集まらずに非常に苦労していました。
XさんとYさんは起業するにあたって、「スタッフが働きやすい職場環境をつくり、できる限り高い報酬を支払う」ことを一つの方針としました。
設立時はコロナ禍も相まって営業に苦戦しましたが、地道な努力により多くの顧客を集め、提供したサービスに対して高い評価を得るようになりました。
採用活動を行うにあたってA社が行った施策は、日々のサービスで心に残った事例をまとめ、ホームページや採用サイトで紹介したことです。嘘偽りのないサービス事例を紹介することで、企業として大切にしている理念を発信することができ、それに共感した求職者が多数応募するに至りました。採用にあたっては経営者であるXさんとYさんがこまめにフォローを行い、入職後の研修も怠りませんでした。設立当初は経営者2名とパート社員2名体制でしたが、2年目には従業員数が8名を超え、業績は初年度の5倍にまで成長しました。現在では、主要な社員に対しての給与は、他業種と引けを取らない水準にまで向上したそうです。設立3期目で、ケアマネジャー4名、訪問介護員12名の人員体制を構築できるようになっています。
介護サービスに対する熱い情熱や理念を、外部に広く発信することで求職者の共感を得て、細やかなフォローと待遇改善により、スタッフの定着化に成功した事例です。
東京と神奈川で訪問診療クリニックを展開するB法人では、理事長や幹部が全国各地に出向いて会社説明会を実施しています。この企業は新人教育に力を入れており、資格を必要とする職種でない限り「未経験者」を積極的に受け入れ、入職後は2カ月にわたる研修を実施しています。新人スタッフは研修の都度レポートを作成し、そのレポートに理事長をはじめとする上長がコメントを記載してフィードバックしています。
理事長いわく「未経験者であっても採用できるのは、どんなに人材難であっても教育研修を怠らない体制ができているからである。結果的にそのほうが定着率も上がる。『急がば回れ』です」とのことでした。「人材を育てるのは法人の使命」を具現化し、実際に成功している事例といえます。
D法人は、地域に根差した看護サービスを進めたいという代表者のもと、日々努力している法人です。TwitterやInstagramなどのSNSを駆使し、訪問看護サービスの魅力や日々の取り組みについて定期的に情報発信を行っています。
また、公式ホームページには最低でも週1回、介護関係者に興味深いテーマを掲げてコラムを公開しています。これを地道に継続することにより、半年で月の訪問者数が3倍、コラムの購読者数が4倍に増えました。このような取り組みが奏功し、短期間で看護師9名、療法士5名の採用に成功しています。
筆者がスタッフにインタビューした際にも、「代表者の心意気や理念に共感した」「ブログを見て訪問看護師の仕事に興味を持った」などといった声が聞かれました。こうしたスタッフのコメントからも、実際に施設の情報発信が、求職者に興味を持ってもらうきっかけとなっている様子が見受けられます。
当該法人の取り組みは、地道な日々の情報発信が人材採用を成功させた事例といえるでしょう。
介護業界だけでなく、保育業界も厳しい人材不足といわれるなかで、短期間で認可保育園・企業主導型保育園を開設し、必要な保育士の確保に成功した事例です。
この法人の保育方針は非常に明確で、開設準備にあたって開催された採用説明会では、法人代表者の理念に賛同した保育士が多く応募してきました。
この法人の特筆すべき点は、採用専用サイトを自社にて開設したことです。
そのサイトではE社が求める保育士像が明確にされており、先輩保育士のインタビューも掲載されています。このように、実際に現場で活躍している社員の顔が見えることは、求職者にとって安心材料になります。
また、この法人では希望者に対して「体験就業制度」を設けています。体験就業を通じて採用後のミスマッチを防ぐ狙いがあるとのことですが、実際に、この制度を活用した従業員を中心に、定着率は順調に上がっています。代表者が常日頃から「従業員と企業は『ご縁』で成り立っている。私たちはこの『ご縁』を大切にしたい」と話しており、従業員を大切にする姿勢が人材確保成功につながっている事例といえるでしょう。
採用活動は、自社の事業を継続していくために必要不可欠な活動です。よい人材の確保は、事業の成長に欠かせないからです。必要なポイントを押さえ、適切な手段によって採用活動を進めることで、成功の確率は大きく向上します。今回紹介した内容が、今後の採用活動の一助になれば幸いです。