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人材確保とは、自社に必要な人材を採用し、その人材の定着を図ることです。採用しても短期で退職されてしまっては、「人材確保」できているとはいえないでしょう。採用と同様に大切なことは、採用した人材の能力などを鑑みて適切な配置を行い、納得のいく評価、教育訓練によって能力を伸ばし、自身のスキルや経験を活かして力を発揮してもらうことです。したがって人材確保を考える場合は、人材採用と定着の2つの面から、働きやすい職場環境作りを進めることが重要です。
企業が成長し発展を遂げていくためには、経営者が企業の成長・発展につながる経営方針を立てたうえで、従業員に経営方針に基づく業務の遂行を徹底させる必要があるといえるでしょう。企業はそのための人材を確保し続ける必要がありますが、近年そうした人材確保に頭を悩ませている企業が増加しています。
その理由としては、「人材の採用」と「人材の定着」が難しくなったことが挙げられます。
人材の採用が難しくなった背景には、まず、「生産年齢人口の減少」が挙げられます。生産年齢人口とは、国内の生産活動の中核の労働力となる年齢(15歳から64歳)の人口のことです。
この生産年齢人口は、日本において1990年代にピークを迎えた後に、総人口の減少と歩調を合わせるように減少し続けています。
こうした生産年齢人口の減少が人材の量に影響を与え、企業の人材採用を困難にする要因となっています。
参考:中小企業庁「日本の人口動態と労働者構成の変化/年齢別人口推計の推移/第2-1-9図(総務省国勢調査)」
※人手不足に関しては、以下の記事をご参照ください
【最新】人手不足の原因と影響とは?解消する3つの対策と理由を解説
人材の採用が難しくなった背景には、先述の生産年齢人口の減少と並んで「人材要件のミスマッチ」も考えられます。
著者が日々接する企業において感じると同時に、さまざまな経営者や人事担当者などとも意見を同じくするのが、今日のIT化やグローバル経済化の進展にともない、企業が新規の人材に求めるスキルや技術が高まっているということです。また同時に、企業にとっての悩みの種は、そうした最新スキルや技術を身につけた人材の数は少なく、採用競合が多いという事実です。
こういった企業の求める要件と実際の人材とのミスマッチが、人材採用における質の確保を困難にしています。
人材の採用が難しくなったことと並んで、人材が定着しにくくなったことが、企業の人材確保の難易度を上げていると考えられます。人材の定着が難しくなった理由としては、「働くことに対する意識の変化」と「終身雇用の崩壊」などが挙げられるでしょう。
採用した人材が働き方に関するミスマッチなどの理由で定着せず、離職してしまう事案が増加しており、人材定着を難しくさせる要因となっています。
働くことに対する意識は変化しており、従来から重視されてきた「福利厚生の充実」や「仕事のやりがい」に加え、「ワーク・ライフ・バランスの実現」などについても重要視する若者の数が増えてきています。
参考:アデコ株式会社「平成元年と平成30年の新卒社会人各1,000人を対象にした仕事観に関する調査/(3)就活中の会社選びで重視したこと」
厚生労働省は2020年時点で、企業規模にかかわらず入職者の半数以上が転職入職者だといった調査結果を発表しています。
このように、終身雇用の崩壊による労働力移動の割合も高まっており、人材の定着が困難になっているといえます。
参考:厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析」2022年9月
「人材採用」「人材定着」の両面から、人材確保を成功させるためのポイントを解説します。
生産年齢人口が減少し続ける現代、人材採用は企業間での競争が常に行われているともいえるでしょう。
こうした状況下で人材採用の成功率を高めるためには、「求職者に選ばれる採用体制」を構築する必要があるといえます。
求職者に選ばれる採用体制を構築するためには、たとえば以下のような対応が考えられます。
求人の募集手段は紙やインターネット、人材紹介会社からの紹介などさまざまな種類があります。そのなかで、企業が求める人材が集まりやすい(利用しやすい)手段を的確に選んで求人を行うことが効果的です。
たとえば、ターゲットとする求職者が、紙媒体を日常的に利用すると考えられる場合には、紙媒体を利用するとよいでしょう。
求職者によって集まりやすい手段が異なります。さらに、募集を行う際の手段を増やすことで応募者の数も増え、企業が必要な人材を確保できる可能性が高まります。
※求人媒体に関しては、以下の記事をご参照ください
求人媒体とは?求人媒体ごとの特長・違い・選び方をわかりやすく解説
求職者が重要視する労働条件の内容はさまざまです。
労働条件とは賃金に限らず、他社の労働条件と比較して自社の方が魅力的な要素をアピールすることで、魅力的に感じる求職者からの応募を促すことができます。
労働条件に関する魅力的な要素とは、たとえば「休日や休暇が多く取得率が高い」「福利厚生が充実している」「教育訓練体制が充実している」などがあります。
求職者は、掲載されている求人情報を見て入社後の就労に関するイメージを思い描き、応募する企業を決定します。
そのため、求人情報をわかりやすく説明することによって、就労イメージの合致した求職者からの応募を促すことができます。
説明すべき求人情報としては「立場や担当することになる業務内容」「発揮することが望まれる能力」「業務を通じてどのように成長することが期待されているか」などといったことが挙げられます。
求職者は面接時、入社後にどのように自分自身が活躍・成長していくことができるのか、自分自身が社内にうまく溶け込むことができるのかといった疑問や不安を持っています。
企業の方からこうした疑問に答え、自社の魅力を伝えることで、求職者の入社を後押しすることができます。
伝えるべき魅力とは「入社後の教育体制」「可能なキャリアアップの具体的な内容」「職場の雰囲気や社風」などのことです。
社風については、職場見学の実施などによって、より正確に伝えることができます。
内定を出したあとも、確実に入社してもらうためのフォローを行う必要があります。入社するまでの間の不安を解消し、あるいはほかに内定をもらった企業に入社してしまうことを防止するためです。
内定後のフォローというのは、入社までの手続きなどを詳しく説明したうえで、企業の方から内定者に対してこまめなコミュニケーションを取り、社内の状況や内定者の受け入れ態勢を着実に整えていることなどを伝えるといった対応を行うことです。
※フォローアップに関しては、以下の記事をご参照ください
フォローアップとは?具体的なやり方、タイミング、ポイントを解説
採用した人材が離職した場合、離職するまでの間に費やした教育コストが赤字となり、加えて新しい人材を採用するためのコストが新たに発生します。さらに、新しい人材が入社し機能するようになるまでの間、既存の従業員の負荷が高い状態が続いてしまいます。そのような事態を防止するために、「人材が定着する体制」を構築する必要があるでしょう。
人材が定着する体制を構築するためには、たとえば以下のような対応が考えられます。
1.教育訓練体制を充実化する
2.適正な人事評価制度を運用する
3.社内コミュニケーションを円滑化する
4.ハラスメントの防止を徹底する
5.柔軟な働き方への対応を行う
入社後に、あらたなスキルや能力を習得し、スキルや能力をさらに向上させながら業務の遂行に発揮させることが、従業員に仕事に対するやりがいを感じさせ、人材の定着を促すことにつながります。
そのために効果的なのが、教育訓練体制の充実化です。教育訓練体制には、日々の業務遂行を通じた上司などによる指導(OJT)や社外の教育研修の受講(Off-JT)、資格取得に対する支援などが考えられます。このような支援によって成長を実感し従業員自身のキャリアアップにつながることが、人材の定着へと結びつきます。
※OJTに関しては、以下の記事をご参照ください
OJTとは?<意味がわかる!>メリット・デメリット、導入するポイントを解説
※OFF-JTに関しては、以下の記事をご参照ください
OFF-JTとは?<意味がわかる!>OJTとの違い、成功させるポイントを紹介
能力や仕事の成果が適正に評価され、評価された結果が処遇の向上につながることが、従業員のモチベーションを向上させ、人材の定着を促すことになります。そのための仕組みとなるのが、人事評価制度です。適正な人事評価制度を運用するということは、どのようなことが評価の対象となりどうなれば高い評価が得られるのかが明確になっている状態です。さらに能力の向上や仕事の成果を客観的に評価し、その結果と昇給や昇格などの処遇を連動させる対応を行うことです。こうした制度の存在が周知され適切な運用がされることで、従業員の高いモチベーションに結びつきます。
※人事評価制度に関しては、以下の記事をご参照ください
組織の中で働くことに関する目的が共有化され、相互に協力し合う体制が存在することで、従業員が働くことへの楽しみや働きやすさを感じ、人材の定着を促すことができます。その鍵を握るのが、社内コミュニケーションです。風通しがよく、情報が的確に伝わり、誰に遠慮することなく言いたいことが言える職場の空気感は、従業員が人間関係に対する悩みを抱えるリスクを低減し、人材の定着に結びつくといえます。
セクハラ、パワハラといったハラスメントは、被害を受けた従業員のやる気を失わせ、離職するリスクを高めてしまいます。そうした事態を防ぐためには、ハラスメントを防止する対応を徹底することが効果的です。経営トップ自らがハラスメントを許さない姿勢を示したうえで、ハラスメントの防止に対する教育を実施することも企業によってはあるようです。また、相談窓口を設置し、ハラスメントが発生したときの対応体制を明らかにし、従業員に周知します。ハラスメントに対する不安が払しょくされることで従業員が安心して働けるようになり、人材の定着へと結びつくでしょう。
入社後に、子育てや介護、病気など従業員の生活環境が変化することがあります。それに対して従来の働き方を変えることができなかった場合、従業員が働きづらくなり、離職するリスクを高めてしまいます。そうしたことを防止するために、柔軟な働き方ができる体制を整えることが効果的です。短時間勤務制度やテレワークなどの対応を臨機応変に行うことで、育児や介護、病気などと仕事が両立できる状況を実現させます。
このような対応によって、従業員が無理なく働くことができるようになり、定着へと結びつくでしょう。良質な人材を採用し定着させることで、企業の事業競争力が強化され、企業の成長や発展につながっていきます。そのため人材確保が企業経営の結果を左右する最大の要素であるといっても過言ではありません。人材確保を実現するために工夫する姿勢を持ち続けることが、企業に求められているのです。
人材を確保するためには、採用に力を入れることはもちろんのこと、企業に利益をもたらす人材に育て、定着する仕組み作りも不可欠です。少子高齢化で生産年齢人口が減少している今日、多様性を重視するダイバーシティの考え方は、現在いる従業員の定着を進めるうえでも大きなメリットがあります。今回は人材確保を進めるための考え方を、多面的に整理しました。本稿が貴社の人材戦略を振り返る一助になれば幸いです。