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リファラル(referral)とは「紹介」「推薦」「委託」という意味の英語です。主にビジネス用語として使用されるケースが多く、経営者、社員、外部の専門家などから、何らかの情報や人材などの紹介・推薦を受けることを指します。
リファラルの活用例として、前述した人材採用手法のほか、商品やサービスの見込み客を自社に紹介するケースがあります。
知らない人からの話を聞くよりも、知人などからの紹介があった方が安心できるものです。
このようなケースにとどまらず、「紹介」や「委託」にかかわるものであれば、いろいろな場面で応用できると考えられます。
マーケティングとは、顧客や社会などにとって価値のあるものを創造し、流通させるための活動です。また、こうした価値の提供を実現するためにターゲットを絞りニーズを探ってアプローチする活動も含まれます。
しかし、こうしたマーケティング活動において、想定したターゲットへ適切にアプローチを行うことは容易ではありません。
そこで登場したのが、いわゆる「クチコミ」による拡散です。「あのお店いいよ」「あそこおいしかったよ」といったように、実際にサービスなどを使った人が周囲の人に伝えることで、その商品やサービスの価値が波及していくことを狙うもので、これを「リファラルマーケティング」と呼びます。
リファラルマーケティングは、社員やその家族などの企業関係者や既存顧客の紹介やネットワークをもとに、自社の商品やサービスの販売促進を進めていくことを前提にしています。
リファラルの事例として「紹介キャンペーン」があげられます。
顧客を紹介し成約した場合には、インセンティブの提供を確約し、紹介を促進する方法です。また近年では「バズ・マーケティング」にも注目が集まっています。
バズ・マーケティングの「バズ」とは、いわゆる「バズる」が語源です。あるサービスや商品に対して特定のセグメントに絞って情報を発信し、クチコミを生み出す手法といえます。
最近では、SNSに多くのフォロワーを持つ有名人や芸能人が発信することで周囲に影響を与えることがよくあります。このようなSNSのフォロワーの数の多いインフルエンサーの持つ影響力をマーケティングに利用するケースもあります。
リファラルという考え方は、近年人材採用において積極的に活用する企業も出てきており、「推薦」や「紹介」を前提とした採用手法を「リファラル採用」といいます。
リファラル採用とは、自社の従業員に、知人や関係者などを紹介・推薦してもらうことにより、採用につなげる方法のことです。
自社の採用ページや人材紹介会社を活用して募集する採用方法とは異なり、社員などからの紹介が前提となります。こうした紹介を通じて採用に至った場合、紹介元の社員に対して報奨金などのインセンティブが支給されるケースもあります。
リファラル採用の事例として、社員が紹介した人材が入社し一定期間雇用が継続した場合に報奨するというものがあります。リファラル採用を実施している企業の一部で導入されている制度です。著者が見てきた企業においても、企業が採用したい人物像を社員が理解したうえで紹介した人材は、スムーズに組織に馴染み、定着しやすい傾向があるといえます。詳しくは後述します。
※リファラル採用の概要に関しては、以下の記事をご参照ください
【人事必見!】リファラル採用とは?メリットや定着・促進させる方法を解説
リファラルという考え方は、採用活動だけでなく営業活動にも活用されています。これが「リファラル営業」です。
リファラル営業は、社員や関係者からいわゆる「見込み客」を紹介してもらう営業手法になります。
一般的な飛び込み営業やテレアポに比べて、人件費や広告費などのコスト削減が期待できるだけでなく、ある程度の信頼関係がある状態から営業活動をすることができるので、結果的に成約に結びつく可能性が高いことがメリットといえます。
紹介先の自社に対するモチベーションにバラつきがある、場合によっては営業先を紹介してくれる第三者を見つける必要があるなど、問題点もありますが、うまく活用すれば、営業活動の効率化を図ることが期待できます。
リファラル営業の事例としてよく知られるものの一つは、生命保険の営業です。生命保険商品は、顧客のライフプランに沿って提供されます。そのため、全く知らない人に飛び込み営業を行うよりも、既に一定の関係性のある知人などに対して、就職や結婚、住宅購入などのタイミングで適切な保険を紹介するほうが成約しやすい傾向があります。著者が実際に目にした例でも、それまでは保険に興味のなかった人が、子供が生まれたタイミングで営業を受けたことで保険について考えるようになり、成約に至ったといったケースを数多く見てきました。
さまざまな場面で活用されているリファラルですが、メリットとデメリットが存在します。ここでは、リファラル採用を取り上げ、メリットとデメリットの例について解説します。
リファラル採用のメリットの一つは、採用コストが削減できる点です。求人媒体や人材紹介会社を活用しない手法であるため、これらの費用を考慮しなくてすみます。
また採用コストだけでなく、採用に関わる工数や人事部門の負担を減らすことも期待できます。リファラル採用では、採用後に就くことになる業務や企業風土といった仕事の概要については、まず紹介者となる社員が候補者に伝えたうえで人事部門に引き継ぐことができます。そのため採用対象者を広く集めたり、応募から面談に至るまでの働きかけを行うなど、採用活動の初期の工程を人事部門が担う必要がなくなることが期待できるのです。
このようにリファラル採用は、採用コストや工数の短縮が可能となる点でも、企業の注目が高まっているといえます。
自社の採用ページや求人媒体、あるいは人材紹介会社を活用しても、自社に合った人材を採用するのは決して簡単なことではありません。人手不足の昨今、同業他社と同じような手法で人材獲得を目指してもうまくいかない可能性があります。
しかし、リファラル採用であれば、転職市場にはいない人材にアプローチすることも可能です。その人材に直接アプローチすることにより、他社と競合するのを回避しつつ自社に合った人材を獲得できる可能性が高まります。
前述したように、求人媒体や人材紹介会社の活用には一定のコストがかかるものです。もちろんこのような媒体は必要ではありますが、自社にとって理想となる人材が確実に獲得できるとは限りません。
リファラル採用のよい点は、これらの採用媒体に比べ、社員からの紹介という「フィルタ」をかけることで採用精度を高めることが期待できる点にあります。
特に自分の知人を紹介してくれるような社員は、企業に対するエンゲージメントが高く、企業文化や理念に対しても共感度が高いのが一般的です(なかにはそうではない例もありますが)。そのため、その社員が選んだという時点で、ある程度の絞り込みがなされており、不特定多数からの応募に比べ、企業の意向に合った人材が確保しやすくなります。実際、著者の経験からも、リファラル採用によって入社した人材は入社後のミスマッチが少なく、定着しやすいという傾向があります。
リファラル採用は、社員などからの紹介に基づくものになります。このような個人的なつながりによる採用では、どうしても人材が同質化しやすくなり、偏った人材が集まりやすくなる傾向があります。リファラル採用を進めるにあたっては、多様な人材をバランスよく採用することも視野に入れることが大切です。
また、特定の社員の知り合いが複数集まることで、紹介者を中心とした非公式のグループができる可能性もあります。そのグループが組織運営に対してよい影響を与える一方、悪い影響を与える可能性もあることを、人事部門は心に留めておく必要があるでしょう。
前述したように、採用コストが抑えられることがメリットである反面、人材を紹介した社員に対してインセンティブを与える場合には、その分の費用がかかります。
ただしインセンティブの活用には注意が必要です。ケースによっては国の認可が必要な「職業紹介業」にあたる行為とみなされ、状況によっては企業・社員の違法性を指摘されるおそれがあります。そのため、社労士や労務担当と相談のうえ、法に則った形でインセンティブの支給について就業規則に盛り込むようにしましょう。
社員から紹介を受けた候補者が、万一不採用となった場合には丁寧なフォローが必要となります。紹介した社員としては、せっかく紹介したのに採用されなかったとすれば、少なからず不満を持つ可能性があります。また、紹介元の社員と不採用となった候補者との関係性も悪化してしまいかねません。
このような事態を回避するには、事前に紹介者から候補者に「採用されない可能性もある」ことを伝えておくことが大切です。また、不採用となった場合は、候補者に応募してくれたことへの謝意と不採用の理由を丁寧に伝えるとともに、紹介者に対しても納得できる理由を説明することを忘れないようにしましょう。
もちろん、社員が紹介したからといって100%採用される保証はありません。しかし、説明不足によって紹介者となる社員の企業に対するエンゲージメントが低下するなどのリスクがある場合、リファラル採用は思うように進まず、結果的に形骸化しかねませんので注意が必要です。
※リファラル採用を成功させるポイントに関しては、以下の記事をご参照ください
リファラル採用が失敗する、ありがちな理由。成功させるポイントを紹介
今回は、リファラルの概要や特長、リファラル採用のメリットやデメリットについて解説しました。
リファラル採用は、ベンチャー企業を中心に多くの企業で採用されています。前述したように従来の求人媒体や人材紹介会社と比べても採用コストが抑えられ、ミスマッチのリスクも軽減し得る可能性があります。
ただし、導入にあたっては注意も必要な部分があります。前述した「人材の偏り」や「違法性などに配慮したインセンティブの設定」には気をつけるべきでしょう。また、紹介した人材が採用に至らなかった場合の配慮も重要です。
リファラル採用を闇雲に実施するのではなく、自社の特性や実態に合致しているのかについては留意する必要があります。本記事が、自社の人材採用に関して多少なりとも参考になれば幸いです。