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イノベーションとは、一般に「新しい価値や変革を生み出すこと」だといえます。
企業を取り巻く経営環境は、常に変化しています。そのため、企業が存続し成長し続けるためには、その変化に順応する必要があります。こうした変化に順応するための取り組みとして、ビジネスの構造や仕組み、内容などを最適な形に変革する(既存の内容を新たな内容に変化させる)ことが経営におけるイノベーションです。
イノベーションの直接的な定義は、「新しいものを生産する、あるいは既存のものを新しい方法で生産すること」です。
元々の語源であるinnovationを訳すと「技術革新」という言葉になりますが、ビジネスにおけるイノベーションは技術に限定されるものではなく、製品やサービス、市場、組織、制度などのビジネスの構造や仕組みの変革も含まれるという特徴があります。
参考:内閣府「平成29年度 年次経済財政報告」平成29年7月
ビジネスにおけるイノベーションはさまざまな種類がありますが、「イノベーションの対象」「イノベーションの市場への影響」「イノベーションを起こす手法」という3つの観点で分類すると理解しやすくなります。それぞれのイノベーションについて説明していきましょう。
「対象とするものは何か」という観点から、イノベーションは「プロダクトイノベーション」「プロセスイノベーション」「マーケットイノベーション」「サプライチェーンイノベーション」「オーガニゼーションイノベーション」の5種類に分類することができると考えます。
製品やサービスの変革に関するイノベーションです。
既存の製品には存在しない品質や機能を開発したうえで自社の製品やサービスに反映し、それにより顧客や消費者に対して新たな価値を提供する取り組みです。製品やサービスの機能を再定義し、活用方法や利便性などを新たな視点で考え直すことで生まれます。
たとえば従来型の携帯電話に、通信やアプリケーション利用などに関する新たな機能を搭載したスマートフォンを開発した例や、介護タクシーで要介護者を寝かせたまま運ぶ送迎サービスを新たに開始するといったこともプロダクトイノベーションといえます。
生産や業務の工程などの変革に関するイノベーションです。
既存の工程のなかに新たな技術や方法を取り入れることで、業務の効率化や生産性向上といった新たな価値を生み出す取り組みです。最適なビジネスの仕組みや構造について新たな視点で考え直すことで生まれてきます。
たとえば生産は外部に委託し自社のリソースは企画・開発・マーケティングといった分野に特化させ、総合的な事業競争力を高めるファブレス経営の導入や、AI技術を駆使することで業務の効率化や生産性を高めることなどが該当します。
市場や消費者などの変革に関するイノベーションです。
顧客や消費者に関する顕在化していないニーズを掘り起こすことで、新たな顧客や市場を開拓する取り組みです。既存の製品やサービスに関して、利用者が感じている不便な点やほしい機能などを新たな視点で考え直すことで生まれてきます。
具体例としては、専用のゲーム機がなくてもスマートフォンでゲームを楽しむことのできるゲームの開発、モノやサービスを購入しなくても料金の範囲内で一定期間使用し続けることのできるサブスクリプションの導入などが該当します。
資源の供給源や製品・サービスの流通ルートなどを変革するイノベーションです。
調達に関して安定性を実現しコストを下げるための新たな方法を生み出し、あるいは販売に関して新たな価値を生み出すことで、生産力や価格競争力の向上、他社との差別化を実現する取り組みです。効率的な資源確保の仕組みや顧客・取引先にとっての利便性について新たな視点で考え直すことで生まれてきます。
たとえばインターネット販売において顧客への配送スピードを高め、同時に物流コストを低減するための物流倉庫の設置や、注文から決済までをスマートフォンで完結できるモバイルオーダーサービスの導入などが挙げられます。
組織の構造や運営方法などの変革に関するイノベーションです。
一般的な組織変更を超えた組織のあり方そのものの変革を含む組織変更や、新たな仕組みや制度の導入などを通じて、従業員がより力を発揮しやすい環境をつくり、ひいては組織力の強化を目指す取り組みです。人的資源の効果的活用やコミュニケーションの円滑化について新たな視点で考え直すことで生まれてきます。
例としては、新たなビジネスモデルの創造を目的とした社内ベンチャー制度の導入、組織における上下間のコミュニケーションを円滑にして部下や従業員の意見を吸い上げるボトムアップ方式の導入などがあります。
「市場に対してどのような影響を与えるものか」という観点からイノベーションを論じたのが、アメリカの実業家・経営学者であったクレイトン・クリステンセンです。1997年に発表した著書“The Innovator’s Dilemma :When New Technologies Cause Great Firms to Fail”(邦題は『イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき』翔泳社)のなかで、破壊的イノベーション、持続的イノベーションについて述べ、ビジネス界に大きなインパクトを与えました。
破壊的イノベーションとは、既存商品やサービスの価値を低下させつつ既存のルールを破壊し、市場の構造を激変させるような画期的な変革を行うイノベーションだといえます。過剰供給に陥っている市場や成熟した市場において、競争優位に立つ手段として用いられることが多いでしょう。
破壊的イノベーションの例としては、必要最低限の品質が確保された商品を廉価な均一価格で販売する100円ショップ事業や、機能性に優れた高品質の衣類を廉価で販売する衣料事業などが挙げられます。
持続的イノベーションとは、既存の製品やサービスに対して新たな付加価値を加えることで、市場内における変革を行うイノベーションのことです。顧客の囲い込みを行うために、顧客満足度を高める機能を追加するといった取り組みがこれに該当します。具体例としては、保温性・保冷性の高い魔法瓶に湯沸かしや温度設定、省電機能などを加えた電気ポット、照明時間を格段に長時間化させたLED照明などが挙げられます。
「どのような手法で行われるものなのか」という観点からイノベーションを分類すると、「オープンイノベーション」と「クローズドイノベーション」に分けることができます。
オープンイノベーションとは、技術やアイデア、資金などの外部のリソースも取り込み、利用しながら、変革を起こしていくイノベーションのことです。変革を通じて、コスト低減や期間短縮、新たな技術の獲得、組織改革の実現といったさまざまなメリットが得られます。他社や大学との連携による共同研究や共同開発、国や地方公共団体が保有する技術の活用などが例として挙げられます。
クローズドイノベーションとは基礎研究や開発、製品化に至るまでのすべての過程を、自社内部のリソースを活用して新たな変革を起こすイノベーションのことです。機密情報の流出を防止したり、新技術を独占したいといった場合に用いられます。
クローズドイノベーションは実行に必要な時間的・資金的コストが大きくなるため、競争スピードの速い現代においては、フレキシブルな対応が可能なオープンイノベーションにシフトする企業が増加しています。
イノベーションに成功した日本企業の例を紹介しましょう。
株式会社セブン‐イレブン・ジャパン(当時 株式会社ヨークセブン)は、1974年5月に日本国内で初めて、本格的なフランチャイズ方式によるコンビニエンスストアをオープンいたしました。
しかし、開店当時の流通業界は、商品の供給側が優位でたとえば缶詰だと「48個が最小単位」など、大きなロットでしか商品を仕入れることが出来ませんでした。そのため、狭い店舗では多くの商品を品揃えすることが出来ず、売筋商品が欠品、あるいは商品が大量に売れ残るというリスクがありました。
そのため同社は、多くのお取引先様にご協力いただくことで、多品種・多頻度・小口配送する仕組みを作り上げました。
企業がイノベーションを起こすために必要な要素として、次の3つが挙げられます。
イノベーションはリスクや失敗を恐れる保守的な経営のもとでは生まれません。
経営や市場の環境を広い視野で見渡したうえで、事業の成長や収益拡大につながる可能性があると判断した場合、前向きに投資しチャレンジする姿勢を経営者が持つことが重要です。さらに、そのような姿勢を社内に示すことも必要です。
イノベーションは、常識にとらわれない柔軟な発想のもとで生み出された創造的なアイデアによってつくられます。そのようなアイデアを従業員が生み出すことのできる環境を整えることで、イノベーションが起こるチャンスが拡大します。従業員が自由に発言でき新しいことにチャレンジすることが歓迎される風土づくりや、従業員が社内外での交流機会を増やすことのできる仕組みづくりなどが求められます。
創造的なアイデアが生まれたとしても、それを変革につなげていくための行動がともなわなければイノベーションは起きません。行動を継続する実行力が重要であり、経営者がそのためのリーダーシップを発揮することが必要です。
※リーダーシップに関しては、以下の記事をご参照ください
リーダーシップとは?<意味がわかる!>必要なスキル、理論をわかりやすく解説
企業を取り巻く経営環境は、常に変化しています。そのため企業は、存続し成長を実現するための変革を自ら考え、実行し続ける必要があります。
今回解説したイノベーションは、こうした経営環境への対応を適切に行うための重要な要素といえるでしょう。