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休職とは会社の判断で特定の従業員に対して、雇用関係を維持したまま労働する義務を長期間免除することを指します。
休職と欠勤や休業との違いは、労働義務免除の有無と理由にあります。
休職とは、従業員の自己都合での理由、あるいは必要に応じて会社が命令する理由に対して会社が労働の義務を免除し、従業員が長期間就労しないことです。
一方、欠勤は会社から労働の義務を免除されていないのに、従業員の自己都合で一定期間就労しないことを指します。有給休暇の取得によらない休みなどがこれに該当します。
また休業とは、年末年始の一斉休業や業績悪化にともなう一時休業のように、会社の制度あるいは会社都合で会社から労働の義務を免除し一定期間就労しないことを指します。またそのほかに育児・介護休業など会社都合ではない休業も存在します。
代表的な休職理由として、留学休職、自己都合休職、傷病休職、事故欠勤休職などがあると考えられます。
留学休職とは、海外への留学が理由で長期間就労することができない状態となった従業員を休職させることです。経済のグローバル化の進展にともない、海外への留学を希望する人が増えています。著者の経験上、そのような人は向上心が高く、会社にとっては貴重な戦力となっている場合も多いようです。そのため留学を理由とした休職を、あらかじめ就業規則などで認めている会社も少なくありません。
自己都合休職とは、自己の都合で長期間就労することができない状態となった従業員を休職させることです。ボランティア活動への従事なども該当します。
傷病休職とは業務外の傷病が理由で、長期間就労することができない状態となった従業員を休職させることです。休職制度を設けている会社において、最も多く見られる休職理由です。ただし傷病の理由が業務によるものである場合は、休職ではなく労災扱いとなります。
事故欠勤休職とは傷病以外の理由で、物理的に就労できなくなった場合や、就労することがふさわしくない状態となった場合に従業員を休職させることです。
刑事事件の容疑を掛けられ逮捕、拘留された場合なども該当します。
休職は特定の理由に該当した従業員が会社に申し出、会社がその申し出を受領したうえで実施するのが一般的な流れですが、会社から従業員に休職を命じることも可能です。
会社のほうから休職を命令する場合は、理由が合理的である必要があります。
合理的な理由とは就業規則で定められ、全従業員に周知されている理由に該当し、世間的にみても妥当だと判断されるものです。
会社が休職命令を出す際の理由としては、「従業員の心身の健康に対する配慮」「ほかの従業員への悪影響の回避」などが考えられます。
従業員の心身の健康に対する配慮とは、傷病を抱えている従業員を就労させ続けることで本人の心身の安全を確保することが難しくなる(労働契約法第5条の安全配慮義務を履行することが困難になる)場合のことなどです。
ほかの従業員への悪影響の回避とは、不正行為や職務怠慢、ハラスメント行為などを行った従業員がそのまま就労し続けることでほかの従業員の士気が低下し、あるいは職場環境が悪化することを防止する場合のことなどです。
休職中の従業員に対する給与や賞与の扱いに関しては、会社が任意に決定することができます。そのことが労働組合との間で締結された労働協約や全従業員に周知された就業規則のなかで定められている場合は、その内容に従う必要があります。
労働基準法第24条で定められたノーワークノーペイの原則(労働者が労務を提供していない場合使用者はその部分に対する賃金を支払う義務はない)に基づき、休職期間中は給与を支給しない対応が一般的です。
なお、休職理由が私傷病である場合、休職開始日の4日目から健康保険の傷病手当金が支給されるため、会社がその手続きを行うのが一般的です。
傷病手当金は最大1年6カ月間、就労できない日ごとに平均賃金の2/3が支給されます。
一度復職して再度同じ理由で休職した場合も、通算して1年6カ月間は傷病手当金を受給することができます。
賞与に関しても、給与と同様に休職期間中は支給しない対応が一般的です。
ただし、就業規則で賞与の査定期間と査定根拠が定められている場合で、休職している従業員が査定期間内の一部を就労していた場合は、就労期間中の評価に基づく賞与を支給することが望ましいでしょう。
※賞与に関しては、以下の記事をご参照ください
賞与(ボーナス)とは?<意味がわかる!>時期や計算方法、平均額を解説
法律上、休職に関する根拠が規定されているわけではないため、休職は義務ではなく、会社が任意に設けることのできる制度です。
しかし、あらかじめすべての従業員に適用される制度として休職に関するルールを就業規則に明記し、そのことが全従業員に周知されている場合は、該当する理由が発生した場合に休職制度を適用することが会社に義務づけられます。
今後新たに休職制度を策定する場合、以下のフローで制度の内容を明らかにしたうえで就業規則に規定し、全従業員に周知することが望ましいと著者は考えます。
まず、どのようなケースで休職が認められるのか、休職の理由を設定します。従業員からの申し出によって休職を認める場合にも、会社から休職を命じる場合にも適用されるものです。
休職制度を運用するメリットとして、特定のスキルや業務経験のある従業員との雇用を維持できることが挙げられます。一方でデメリットとしては、特定の従業員が長期間就労しないことで生産性が低下し、あるいは代替要員の確保が必要になる可能性があることなどが挙げられます。こうしたメリット・デメリットを考慮したうえで、合理的な休職理由を設定しておく必要があります。
次に、最大どれだけの期間休職を認めるのかを決定します。休職期間に関しては、極端に短すぎても意味がない一方、長すぎると生産性の低下といった会社のリスクが大きくなります。著者の経験上、勤続年数の長さに応じて休職期間を設定し、最大休職期間を1年間程度とする会社が多いようです。
さらに、休職期間中の給与や賞与支給の有無について決めましょう。また退職金の計算などで勤続年数が基準となっている場合、休職期間を勤続年数に含めるのかについても決めておきます。
復職を認める要件や復職時の手続き内容、復職後の業務配置に対する判断基準などについても定めておく必要があります。著者の経験上、復職時に医師の診断を必要とし、書面(復職願い)の提出でもって復職の申し出を行うことを義務づけ、復職後は原則休職前の業務に配置する場合が多いようです。
所定の休職期間を満了したものの復職できないケースもあります。このような場合の対応も忘れずに決めておきましょう。自然退職扱いにするのか会社から解雇する形にするのかを明確にします。
休職開始から復職するまでの、一般的な会社の対応の流れは以下の通りです。
従業員から休職の申し出があった場合、休職の手続きの説明を行います。
その際、以下のことを記載した書面を休職者に配付し、その内容を理解した旨の確認を取っておきましょう。書面を2部作成し、従業員が署名のうえ1部は会社の保管用として受け取っておくなどするのが一般的です。
・休職時の給与などの取り扱い
・社会保険料の負担方法
・傷病手当金の申請に対する必要事項
・休職期間中の会社からの連絡体制
・復職時の手続き内容
休職期間中は、以下の目的で休職者に対して定期連絡を取ることが望ましいです。
・業務に関する情報共有
・休職者の状態確認
復職時に休職前の業務に配置することが想定される場合、休職期間中の該当業務の状況などを休職者との間で共有することも大切です。また、復職が予定される時期を事前に認識するために、定期的に休職者の状態を確認することが望ましいです。
なお、休職期間中の連絡に関しては、休職者にプレッシャーを与えないためにも頻繁に行うことは避けるほうがよいでしょう。著者の経験上、1カ月に1回ほど連絡する場合が多いようです。また、復職を急がせるような対応も慎む必要があります。
休職者から復職の申し出があった場合、以下の対応を行っていきましょう。
・復職をさせても問題がないかどうかの確認
・復職日の決定
・復職後の業務配置の準備
休職理由が終了する目処が立っているのかの確認を行ったうえで、休職者との間で復職日を決定します。私傷病休職の場合は、医師の診断書を提出してもらうことが望ましいといえます。そのうえで、復職後の業務に休職者を配置する体制を整えます。
所定の休職期間満了時に復職できなかった従業員を退職扱い、あるいは解雇する場合、以下のことに注意する必要があります。
所定の休職期間満了時に復職できない従業員への取り扱いについては、就業規則上で定めることで、自然退職もしくは解雇という手続きを行うことが可能な可能性もあります。ただし、ハラスメントや長時間労働など休職に至った原因が会社側にある場合、休職期間満了でもって離職扱いとすることが不当解雇であると判断された判例もあります。そのため、こうしたケースでは対応を慎重に決定する必要があります。また、医師が復職可能であると診断しているにもかかわらず、会社の判断で離職させたケースに関しても不当解雇であると判断された判例があるため注意が必要です。
所定の休職期間満了時に復職できない従業員を離職扱いにする場合は、休職者とのトラブルを防止するためにも、書面での通知を行うことが望ましいです。
その場合の書面には、以下のことを記載するとよいでしょう。
・休職期間の満了日
・休職期間の満了でもって自然退職もしくは解雇となることの根拠(就業規則第〇条〇項)
・退職もしくは解雇の日
就業規則もしくは退職金規程の規定に基づいて計算した退職金を所定の支払時期までに支給する必要があります。これに関して、休職期間を勤続年数に反映するのかしないのか、休職期間満了による退職が自己都合理由に該当するのか会社都合理由に該当するのかについても、従業員と合意しておく必要があります。スムーズな合意を目指すには、これらのことについても、あらかじめ就業規則に定めておくようにしましょう。
退職する従業員が雇用保険の受給を希望する場合、会社は離職証明書を作成する必要があります。その時の離職理由に関しては、自然退職なのか解雇なのかで証明を行う箇所が異なるため、該当する理由に○をしたうえで具体的な内容を記載する必要があります。
特定の理由で長期間就労不能な状態になることは、どの従業員にも起こり得ることです。そのような従業員がそのまま離職してしまうことは、会社にとっての損失にもつながります。そのような会社側のリスクを回避するための対策の一環として、休職制度が存在します。休職制度は会社と従業員双方にメリットがあるため、今一度自社の制度について見直してみてはいかがでしょうか。