目次
採⽤企画とは、明確に統一された定義がありません。そのため筆者の知見によりますが、一般的には企業が立案した中長期および年間の経営戦略や人事戦略に基づき、人材を採⽤、雇用する際の企画を検討、立案し、それらを実行していく一連の業務を指します。
人材採用においては、新卒採用と中途採用、正規従業員とパートなど、対象となる人材や雇用形態はさまざまであり、採用活動にかけられる予算やスケジュールなども、その時の状況によって大きく異なります。また、採用手法や広報の手段、求人媒体は多岐に渡り、採用を進めるプロセスにも工夫を要する場合があります。さらに、自社の業界、求める人材の職種やレベル、採用市場の動向なども、採用活動に影響を及ぼすため、採用企画ではこれらの事柄を個別にも総合的にも検討していくことが必要です。
以上のことを踏まえると、採用企画を進めるうえでのポイントは、自社を取り囲むさまざまな要素を適切に組み合わせ、採用活動を企画していくことだといえるでしょう。より結果につながりやすい採⽤活動全体の企画を構想し、具体的な実践方法をデザインしていくことが、採用企画の主な取り組みだと考えられます。
次に、採用企画の仕事内容について解説しましょう。一例として以下のようなことが挙げられます。
まず、採用企画を進めるために、必要な情報の収集および調査を行います。以下で具体的な内容について解説します。
採用企画を行うにあたり、自社の中長期の経営計画や年度の経営計画、事業計画の内容を十分に把握しておく必要があります。経営計画や事業計画を基にして、どの部門に、どのような人材が、どのくらいの人数必要になるのかなど、人材採用に関わる事項の全体像を洗い出していきます。
これまでの採用目標人数の達成率、内定辞退率、人材要件とのマッチング度合い、入社後の定着率、そのほか採用活動の状況や実績を振り返り、自社の採用活動における課題の抽出、把握を行います。必要に応じて社内でヒアリングを行い過去に採用した人材の入社後の状況についても確認しておくとよいでしょう。
自社の採用活動において、競合相手となる企業の調査分析を行います。ここでは同業他社に限らず、職種や募集条件、人材要件など、採用市場で競合する可能性がある他社の状況を調査し、自社との違いを確認していきます。調査方法としては、公開されている他社の求人情報やネット情報といった一般的なものだけではなく、たとえば自社に直近で入社した中途採用者から情報を得るという方法もあります。前職からの転職理由、応募先企業の選び方、転職活動で比較対象とした企業や併願した企業の状況、入社を決めたポイントなどをヒアリングすることで、参考にできる情報を得られるでしょう。
採用予算を検討するには、自社のこれまでの業績と今後の見通し、過去の採用活動における経費、離職者の状況と今後の見通しなど、人材採用に関わるさまざまな情報や過去実績を勘案して、採⽤活動に必要な費⽤を算出して予算を策定していきます。採用予算を作成するには、採用が必要になることが想定される関係各署との調整や、経営層からの許可、承認といった手続きも必要になってくるでしょう。具体的な企画の検討や採用の実施計画などは予算に基づいて検討されることになります。企画や計画の質を高めるためにも、予算は早めに確定しておくとよいでしょう。
事前の調査、情報収集と全体予算の策定を行ったうえで、具体的な採用計画を策定します。以下で採用計画を立てる際に必要な項目について解説します。
事業計画や今後の方向性、配属予定先の業務内容、想定している役割などを考慮し、採用する人材の要件を具体化します。
既存人材の人数、業務の適性や効率化、想定される業務量、人材採用による業績波及効果などを考慮し、必要な採用人数を決定します。
採用する人材に求める役割、入社後に想定される業務分担などを考慮し、募集にあたっての求人条件を明確なものにしていきます。
人材要件や雇用形態などを踏まえ、その内容に適した採用手法や求人媒体を決定します。有料媒体の場合は費用対効果を考慮していきます。
採用活動の開始から実際に入社確定するまでのスケジュールを確定します。採用フローごとの対応期限などについても具体的に決めておきます。
採用計画に関しては、以下の記事もご参照ください
採用計画の正しい立て方とは?具体的な手順、採用活動を成功させるポイントを紹介
策定した採用計画を実施していくなかで、採用人数や人材要件との整合などに関して事前に想定した通りの結果が得られないことがあります。このような場合、活動スケジュールや採用手法の見直し、使用する求人媒体の変更といった採用計画の見直しを行い、さらに市場動向や競合他社の採用状況の把握、新たな予算措置など、採用企画自体の見直し再検討が必要になる場合があります。採用活動の実施状況を踏まえて、必要に応じて企画を見直していきましょう。
採用企画を行ううえで必要なスキルとして、以下のようなものが挙げられます。
採用企画の担当者には、必要な情報を見極め、それらを効率的に収集していくことが求められます。採用企画に必要な情報は、採用市場の現況、競合他社や業界の動向、各種の求人媒体の実績状況、採用手法に関する情報など多岐に渡ります。新卒採用では政府推奨の就活スケジュールが毎年更新されるなど公的な情報もあります。これらの情報を適切に収集し自社の採用企画に反映していくことは、採用活動を成功させるうえで重要な要素の一つと考えられます。
採用企画には収集した情報を適切に分析する能力も必要です。情報を鵜呑みにするのではなく、自社の状況や課題、活動の方向性を踏まえて取捨選択し、分析を通じて対応策や解決策を見出していくことが求められます。
採用企画では、収集した情報や分析結果から、さまざまな企画のアイデアを生み出す発想力が求められます。採用市場や自社の業界の動向などに幅広く興味を持ち、そこから効果的な採用企画や手法を発想して組み立てていく力が必要です。
採用企画に限らず、企画を行う仕事では、情報を分析した結果や、企画意図や背景などをプレゼンテーションする機会が多くなります。そのため企画を論理的に組み立て、筋道を立てて説明できるような論理思考力が必要になります。
採用活動を効果的に進めていくためには、社内各署からの協力が必須です。必要な協力を得るためには、周囲と良好な関係を築き、採用企画の内容を関係者に理解、納得してもらうことが重要です。そのため、採用企画を進めていくためには高いコミュニケーション力が必要になるといえます。また採用活動を実施するなかでは、自身が⾯接官を担当する場合も考えられますが、ここでも同じようにコミュニケーション力が求められます。
採⽤企画は、⾃部署だけでは完結しない業務が多いため、他部署との連携を図って調整をしていく機会が非常に多くなります。社内での調整のみならず、社⻑をはじめとした経営幹部との調整が必要になることもあります。各部署への協⼒依頼や意見交換などをスムーズに進めることができる調整力が必要と考えられます。
採⽤企画の主要な役割は、幅広い知識と情報をもとに、自社が求める人材を効果的、効率的に集めることです。昨今では人材獲得競争が激化しているのに加え、環境変化も激しいことから、思うような結果を得ることが難しくなっています。さらに採用企画に必要な知識や情報は多岐に渡るため、それらを適切に処理することは、決して簡単ではありません。その一方で企画の良し悪しが採用活動の成否を左右する、重要かつ大きなやりがいのある仕事だということができます。少子高齢化が大きく改善される見通しが薄いことに加え、労働力人口や働き手の減少などを背景に、今後も難しい雇用環境が続くと考えられます。そのなかで採用企画の役割はますます大きくなっていくことでしょう。