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採用支援とは、企業の採用活動を支援するサービス全般を指す言葉です。具体的には、求人広告や人材紹介、ダイレクトリクルーティングなどの採用手法に関するサービスから、従業員のキャリアパスといった人材戦略にまつわる支援まで様々です。
この記事では採用支援について、以下の3つの観点から解説します。
なお、本稿では採用支援サービス=採用支援として解説します。
「採用支援サービス」とは、企業の採用活動を支援するサービスの総称です。一口に採用支援サービスと言っても、支援を受けられるフェーズは幅広く、採用計画の立案やターゲットの策定から母集団形成、選考、内定、入社後に至るまで、様々な採用支援サービスが展開されています。
利用する採用支援サービスによって受けられる支援内容は異なり、料金も依頼先や内容、支援ボリュームによって変わります。そのため、自社の採用目的や採用課題に合ったサービスを選ぶことが大切です。
採用支援サービスが注目される背景には、大きく次の3つ要因があると考えられます。
多くの企業が採用支援サービスを利用する要因として、適切な人材を効率的かつ迅速に採用することで、組織の成長を促進し、経営目標実現に向けた自社の競争力を高める狙いがあります。優れた才能を持つ人材を引き寄せ、組織にフィットする人材を確保するためには採用力の強化が不可欠です。より優秀な人材を採用するべく、採用支援サービスを利用する企業が増えたため、採用支援サービスへの注目も高まったと考えられます。
また最近では、人材定着のためオンボーディングプログラムの開発や実施、従業員のキャリアパス設計といった採用支援サービスを利用する企業も増えており、企業が高いパフォーマンスを持続し、競争力を保つ上で、極めて重要な役割を果たしています。
また、2つ目には、採用競争が激化している市場動向も要因にあると推察されます。
採用競争が激化する昨今においては、ただ求人を公開するだけでは人材の確保は困難になりつつあります。また採用手法も多様化していることから、採用自体も複雑化し、一定の採用ノウハウも求められるようになりました。
自社の採用力だけでは、求める人材の採用が実現しないことから、採用ノウハウに長けた採用支援サービスの力を借り、自社の採用力向上を狙うケースも増えつつあります。
3つ目の要因として、採用担当者の業務が増大している実態も挙げられます。前述の通り、採用手法は多様化しており、採用競争も激しさを増す中、一人あたりの採用にかかる工数は増大傾向にあります。採用担当者の負担を軽減し、採用担当者が本来注力したいコア業務に専念できる環境を作るために採用支援サービスを導入する企業も見られるようになりました。
ここでは、採用支援サービスの支援対象を新卒と中途に分けて紹介します。
新卒採用支援では、採用対象が学生である点が大きな特徴です。
新卒採用では、将来の幹部候補や企業の中核を担う人材の採用を目的にするケースが多い傾向があります。また、就業経験のない学生が採用対象になるため、ポテンシャルや自社へのフィット性を見極める選考が行われます。
しかし多くの企業では、年々変化する学生の動向に合った採用計画を立案できていない、学生の潜在力を見極める面接になっていない、学生の興味を喚起する自社の魅力訴求ができていない、などの悩みを抱えています。
このような採用課題を踏まえ、新卒採用支援では、政府が発表する就活・採用活動日程や学生の動向を考慮した採用スケジュールの策定、学生の特性を加味した採用手法・媒体の選定などの採用支援が提供されています。また、インターンシップのコンテンツ制作や説明会の運用サポート、内定者フォローといった、採用担当者の負担を軽減できるような採用支援も提供されています。
中途採用は、一般的に就業経験を持つ人材が採用対象になります。
企業としても即戦力採用を前提にしていることが多く、スキルマッチや求める経験の有無は重要な選考ポイントになる場合が多いでしょう。
しかし多くの企業では、スキルミスマッチや採用ターゲットからの応募が来ないといった課題を持っているようです。また、採用手法の多様化に伴い、採用担当者の負担が増大している点も課題視されています。
これらの企業の採用課題を踏まえ、中途採用支援では、採用目標達成に向けたコンサルティング要素の強い伴走型の支援や採用担当者の負担を軽減する代行サービス、企業が求める人材に対しピンポイントでアプローチできるダイレクトリクルーティング運用や人材紹介、ヘッドハンティングなどの支援が提供されています。
本章では、主な採用支援サービスの種類や内容を次の5つに分けて解説します。
採用支援サービスにおける求人広告の作成と配信は、企業の採用活動を大きく後押しする要素です。近年では、デジタル技術の進化が著しく、それに伴い求人広告の形式や配信方法も多様化してきています。
たとえば、従来の新聞や雑誌だけでなく、ウェブサイトやSNS、動画プラットフォームなど、様々なメディアを通じて広告を掲載することが可能となり、求職者との接触機会が格段に増えています。また、求職者の興味や行動履歴に基づいて、関心が高そうな層にピンポイントで求人広告を配信するターゲティング技術も進化を遂げており、効果的な応募者獲得が期待できます。さらに、企業のブランドや文化を反映させたクリエイティブな広告デザインも増えてきており、企業の魅力を一層強調することができます。デジタルメディアを利用することで、広告のクリック数や閲覧時間など、多くの指標から広告の効果を測定し、それを基に広告戦略の改善や最適化を進めることも可能となっています。
これらの最新のトレンドを取り入れた採用支援サービスは、企業が求めるニーズに応じて、最適な求人広告の作成と配信をサポートし、採用活動をサポートしています。
自社の求めるスキルを持った求職者を見つけるスキルマッチングと人材紹介サービスにおける採用支援サービスは、企業と求職者双方にメリットをもたらす重要なプロセスです。最新のトレンドでは、AI技術を活用したスキルマッチングが注目を集めています。これは、企業のニーズに精密に合った求職者を高速で見つけ出し、採用活動の時間とコストを大幅に削減するものです。また、人材紹介サービスでは、専門のコンサルタントが企業の文化や求めるスキルセットを深く理解し、長期的な成功を視野に入れたマッチングをサポートします。これにより、企業は真に必要な人材を確実に採用することができ、求職者も自身のスキルやキャリアを発展させるチャンスを得ることができます。このプロセスは、企業の成長と個々のキャリアの発展を同時に促進し、持続可能なビジネスの発展をサポートしています。
採用プロセスの最適化は、企業が求職者とのコミュニケーションをスムーズにし、適切な求職者を効率的に採用するための重要なステップです。最近では、テクノロジーの活用がこのプロセスを大きくサポートしています。また自動化された面接スケジューリングツールは、求職者と採用担当者双方の利便性を高め、時間のロスを最小限に抑えます。さらに、CRM(求職者関係管理)システムは、求職者とのコミュニケーションを一元管理し、適切なタイミングでアプローチできるようにします。これらのツールとシステムは、採用プロセスをスムーズにし、企業と求職者双方にとって価値ある経験を提供します。
採用ブランディングは、優秀な人材を引き寄せ、自社を選んでもらうための重要な戦略です。最近のトレンドとしては、多くの企業がSNSを利用して、企業の魅力や働く環境をアピールしています。特に、若い世代の求職者は企業のアカウントをチェックして、「従業員の雰囲気」を確認することがあります。また、企業の採用サイトの質も志望度に影響を与える可能性があります。「仕事内容」や「福利厚生」などについて具体的な情報が求められています。これらの情報から、採用ブランディングを強化するためには、SNSを活用した情報発信、採用サイトの質の向上、そして企業の「社会的責任」や「将来性」をアピールすることが重要となっています。
採用ブランディングに関しては、以下の記事をご参照ください。
オンボーディングプログラムは、新しいメンバーが組織にスムーズに適応し、早期に業務に貢献できるようサポートする重要なプロセスです。最近では、オンボーディングプログラムの開発と実施において、オンラインツールやリモートワークに対応したプログラムが増えています。また、メンターシップ制度を取り入れ、新しいメンバーが業務や組織文化に迅速に馴染む手助けをする取り組みも見られます。具体的には、新しいメンバーのスキルセットやキャリア目標を把握し、個別のニーズに対応したトレーニングやサポートを提供することで、彼らが組織の一員として早く活躍できる土壌を整えています。
オンボーディングに関しては、以下の記事をご参照ください。
本章では、新卒採用と中途採用それぞれで採用支援サービスを導入する場合の採用単価のシミュレーション例を紹介します。
まずは、新卒採用で採用支援サービスを導入する場合のシミュレーション例を紹介します。
【新卒採用に取り組む企業例】
採用期間:2年間(3年生4月~4年生3月まで)
採用目標人数:3名
採用課題:ダイレクトリクルーティングを新たに導入したいがノウハウがないため、これまで使用している新卒向け求人ナビサイトにあるスカウト機能を用いて、あらたにダイレクトリクルーティングを開始。スカウト送付に時間がかかる上、期待する成果が見込めない。
新たに導入した採用支援サービス:ダイレクトリクルーティングサービス及びスカウト配信代行
【利用する採用支援サービスを最適化していない場合】
スカウト配信スタッフ(アルバイト)を一人雇用し、新卒向け求人ナビサイトのスカウト機能を用いてダイレクトリクルーティングし、1名の採用に成功した場合、採用単価は次の通り試算できます。
※2年間:3年生4月~4年生3月までにかかった費用を想定。
■外部コスト(採用支援サービスに支払った費用)
・ 新卒向け求人ナビサイト掲載費(インターンシップ期):50万円
・ 新卒向け求人ナビサイト掲載費(本選考期):120万円
・ スカウト100万円/500通
■内部コスト(社内で採用にかけた人員・時間・費用など)
・ スカウト配信スタッフ(アルバイト)の人件費:230万円 /年間
※採用スタッフは時給1,200円、週5日8時間、月20日間勤務したと仮定。
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採用総額:730万円(50万円+120万円+100万円+230万円×2年)
採用単価:730万円/人
【利用する採用支援サービスを最適化した場合】
ダイレクトリクルーティングに強みを持つ採用支援サービスを利用し、3名の採用に成功した場合、次の通り試算できます。
■外部コスト(採用支援サービスに支払った費用)
・ ダイレクトリクルーティングサービスデータベース使用料:75万円/2年間
・ ダイレクトリクルーティング配信支援:40万円/月
■内部コスト(社内で採用にかけた人員・時間・費用など)
※ダイレクトリクルーティング配信支援に依頼したためなし
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採用総額:1,035万円(75万円+40万円×24か月)
採用単価:1,035万円÷3人=345万円/人
ここでは、中途採用で採用支援サービスを導入した場合の一例を紹介します。
【中途採用に取り組む企業例】
採用期間:半年間
採用目標人数:営業職5名
採用課題: 求人ナビサイトに求人情報を掲載しているものの、応募数が少ない上に採用ターゲットに近い人材からの応募が少ない。
新たに導入した採用支援サービス:採用コンサルティングサービス
【利用する採用支援サービスを最適化していない場合】
中途向け求人ナビサイトに半年間掲載し、2名の採用に成功した場合、次の通り試算できます。
■外部コスト(採用支援サービスに支払った費用)
・ 中途向け求人ナビサイト掲載費:20万円/月
■内部コスト(社内で採用にかけた人員・時間・費用など)
・ 採用担当者(正社員)の人件費:450万円 /年間
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採用総額:345万円(20万円×6か月+450万円÷0.5年)
採用単価:345万円÷2名=172.5万円/人
【利用する採用支援サービスを最適化した場合】
採用コンサルティングサービスに採用業務を代行してもらい、半年で5名の採用に成功した場合、次の通り試算できます。
■外部コスト(採用支援サービスに支払った費用)
・ 中途向け求人ナビサイト掲載費:20万円/月
・ 採用コンサルティングサービス利用費:200万円/半年
■内部コスト(社内で採用にかけた人員・時間・費用など)
※採用コンサルティングサービスに依頼したためなし
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採用総額:320万円(20万円×6+200万円)
採用単価:320万円÷5名=64万円/人
ここでは、採用支援サービスを選ぶ際の3つのポイントについて紹介します。
採用活動は、企業の成長と発展において極めて重要なプロセスです。適切な人材を確保することで、企業は新しいアイデアやスキルを取り入れ、競争力を高めることができます。しかし、採用活動は多くのリソースを要し、特にスモールビジネスやスタートアップにとっては、大きな負担となることも少なくありません。
そこで、採用支援サービスが重要な役割を果たします。これらのサービスは、企業が求職者と効果的にマッチングする手助けをし、採用プロセスをスムーズに進めるサポートを提供します。しかし、多種多様な採用支援サービスの中から、自社に最適なサービスを選ぶことは容易なことではありません。それぞれのサービスには特色があり、提供する内容やサポート体制が異なります。
本章で紹介する選び方のポイントを参考に、自社にとって適切なサービスを選択しましょう。
多様な採用支援サービスが存在する中で、企業のニーズに適したものを選ぶためには、各サービスが提供する具体的な内容とその実績を把握することが必要不可欠です。たとえば、自社の求めるスキルを持った求職者を紹介してもらう人材紹介の場合、どれほどの精度で求職者を紹介してくれるのか、その基準は何かも理解することが大切です。また、サービス提供企業の過去の実績やクライアントからのフィードバックも、サービスの品質を判断する上で参考になります。これらのポイントを基に、自社の採用課題を解決できるパートナーを選びましょう。
特定の業界や職種における深い知見や、多岐に渡る採用の実績は、サービスの質と効果を大きく左右します。たとえば、IT業界専門の採用支援サービスは、業界特有のスキルセットや求職者のニーズを熟知しており、その経験を基に効果的な採用戦略を提案することができます。また、過去の成功事例やクライアントの評価を参照することで、その企業の実績や信頼性を確認することができます。これらのポイントを押さえ、自社のニーズに最もマッチした採用支援サービスを選ぶことが、成功への第一歩となります。
サポート体制が整っている採用支援サービスでは、採用活動中に生じる多様な課題や突発的な問題にも迅速に対応してもらうことができるので、一般的に、採用企業側の業務負荷は大きく軽減されます。
また、コミュニケーションの取り方も重要です。定期的なフィードバックや進捗報告があるか、報告が自社のニーズに合っているか確認することで、サービスが自社の採用戦略に真にフィットしているかを判断できます。これらのポイントを押さえ、サービス提供者とのコミュニケーションが円滑であるかを評価し、長期的なパートナーシップを築く基盤を確認しておきましょう。
採用支援サービスは、企業が求職者を採用するプロセスをサポートするほか、採用後のスキルアップ・キャリアアップなどの支援サービスを提供する場合もあります。これには、求人広告の作成、スキルマッチング、面接の手配、採用プロセスの最適化、キャリアパス構築などが含まれ、多くの企業が採用支援サービスを活用しています。
特に最近ではリモートワークに適応した新しい採用スタイルなどが注目されています。採用支援サービスを上手く活用することで、適切な人材を効率的かつ迅速に採用でき、それが組織の成長を促進し、経営目標実現に向けた自社事業の競争力を高めることにつながります。
アドバイザー
組織人事コンサルティングSeguros / 代表コンサルタント
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。