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職業安定法により、企業は求人情報や自社に関する情報の的確な表示が義務付けられています。求人広告を公開する時は、下記項目について明記するとともに、誤解を生じさせるような表記にならないよう、留意しましょう。
【求人広告への明記が義務付けられている項目】
項目 | 内容 |
---|---|
業務内容 | 入社後に従事する職種や業種、職務内容について記載する。 実際の業務の内容と著しく乖離する名称を用いてはならない。 将来的に配置転換などで業務内容が変わる可能性がある場合は、変更する範囲も明記する。 |
契約期間 | 無期雇用or有期雇用を明記する。 有期雇用の場合は、具体的な契約期間と更新の有無も記載する。更新の可能性がある場合は、更新条件のほか、更新限度期間・回数も明記する。 |
試用期間 | 採用後すぐに本採用(正式採用)となるのか、試用期間が設けられるのかを明記する。試用期間を設ける際は、試用期間の長さ・試用期間中の給与額・待遇も記載する。 |
就業場所 | 入社後に配置が予定されている事業所の名称や所在地を記載する。 将来的に配置転換などで勤務場所が変わる可能性がある場合は、変更する範囲も明記する。 |
就業時間 | 所定の始業時刻と終業時刻を記載する。 |
休憩時間 | 休憩の開始時刻と終了時刻を記載する。 1日あたりの労働が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩時間が与えられる旨を記載する。 |
休日 | 予定されている休日・曜日等を記載する。 完全週休二日制(毎週必ず2日間の休みが設けられている制度)と週休二日制(1カ月のうち2日間の休みが設けられている週が最低1回ある制度)の違いに注意する。 |
時間外労働 | 時間外労働の有無を記載する。 時間外労働がある場合は、月の平均時間外労働時間を明記する。 |
賃金 | 入社後の予定賃金額を記載する。 固定残業代を導入している場合は、「○時間分/月の時間外労働に対して毎月○円を支給」と、金額と根拠を記載する。 |
加入保険 | 採用後に加入する保険の種類(労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険)を記載する。 |
募集者の氏名又は名称 | 募集者の氏名もしくは企業名を記載する。 求人企業とグループ企業が混同される表記は避ける。 |
受動喫煙防止措置の状況 | 屋内での喫煙可否や社内の喫煙室設置状況を記載する。 |
派遣労働者として雇用する場合 | 派遣労働者として雇用を予定している場合は、「雇用形態:派遣労働者」と明記する。 |
参考:厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/001114155.pdf)
業務内容は、職種名を記載するとともに、求職者が入社後どのような業務を担うのか明記します。業務内容は仕事内容を具体的にイメージできる表記を心掛け、専門用語や企業独自の呼称を用いるのは避けましょう。適切な書き方例を紹介します。
なお、入社後しばらくして求人広告に記載の内容とは異なる職種や業務に異動する見込みがある場合は、異動後の業務(従事すべき業務の変更の範囲)も明示する必要があるため、注意しましょう。
ただし、広告スペースが足りず明記が難しい場合は、「詳細は面談時に伝えます」などと記載し、初回の面談時に伝える対応を取ることも可能です。
参考:厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/001183267.pdf)
契約期間は、求職者を雇用する期間のことを指します。定年までの雇用を予定している場合は、「期間の定めなし」と記載しましょう。一方、期間の定めがある場合は、具体的な雇用期間を明記します。
【契約期間 書き方例1】
また、契約期間の定めがある場合は、契約更新の可能性の有無も記載しましょう。更新する可能性がある場合は、「原則更新」もしくは「条件付きで更新する場合あり」のいずれかを記載します。条件付きで更新する場合は、「勤務態度により判断」「経営状況により判断」など、更新条件を明記するとともに、更新の上限期間・回数も併記しましょう。
もし、広告スペースが足りず更新条件の明記が難しい場合は、「詳細は面談時に伝えます」と記載し、初回の面談時に詳細を伝えるなどの対応を取ることも可能です。
【契約期間 書き方例2(契約期間の更新がある場合)】
試用期間とは、企業が採用者の適性や能力を確認する期間のことをいいます。試用期間を設ける際は、求人広告にも記載しなければならず、試用期間中の待遇についても明記が必要です。特に、試用期間中の待遇が本採用時と異なる場合は、試用期間中の条件をできる限り具体的に記載しましょう。
【試用期間 書き方例】
■試用期間を設けていない場合
■試用期間を設けている場合
なお、試用期間中の給料は、都道府県労働局に「試の使用期間中の者の最低賃金の減額の特例許可申請書」を提出し、都道府県労働局長の許可を受けた場合、最低賃金を下回る金額を設定できます。ただし、最低賃金法施行規則第5 条では、本採用時の給料の20%以上減額してはならないと定められています。
試用期間の長さについては、法で定められた期間はありません。しかし、試用期間は「業種・職種等の実情に照らし必要と認められる期間」であることを考慮する必要があります。一般的には6ヶ月程度を目安に、業種や職種に応じた適切な試用期間を設けることが多いようです。
就業場所には、入社後、実際に働く場所を記載します。
勤務地の住所および、事業所名を記載しましょう。ビル名だけの表記や「本社」「○○支店」など、勤務場所の特定が難しい表記は避け、ビル名、階数、部屋番号まで正確に記入します。本社住所など、実際に働く場所ではない事業所名や住所を記載すると、求職者の誤解を招く可能性も考えられます。必ず、実際に働く場所を明記しましょう。
【就業場所 書き方例】
■就業場所が1か所の場合
就業場所:東京都千代田区丸の内 XX – XX -XX ○○ビル
■就業場所が複数個所ある場合
配属先は、入社前に希望を確認の上、決定(原則、希望のエリアに配属)
また、雇入れ直後にとどまらず、将来的に配置転換などで勤務場所が変わる可能性がある場合は、変更の範囲も明示しましょう。就業場所も広告スペースが足りず明記が難しい場合は、「詳細は面談時に伝えます」と記載し、初回の面談に伝える対応を取ることが可能です。
就業時間は、始業から終業までの時間を指します。求職者と認識の相違が生じないよう、原則24時間表記で記載します。
【就業時間 書き方例1】
■原則就業時間に変動がない場合
就業時間 9:00〜18:00(うち1時間休憩)
特定曜日のみ就業時間が変動する場合や交替制、フレックスタイム制を導入している場合などは、下記例の通り記載します。
【就業時間 書き方例1】
■原則就業時間に変動がない場合
就業時間 9:00〜18:00(うち1時間休憩)
休憩時間の欄には、何時から何時まで休憩になるのか記載します。
【休憩時間 書き方例】
休憩時間:12時~13時(60分間)
休憩時間は、労働基準法第34条で就業時間に応じて下記の通り与えなければならない、と定めています。
求人広告に休憩時間を記載する際は、就業時間に適した休憩時間を記載しましょう。
参考: 厚生労働省のホームページ(
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoujouken02/jikan.html)
休日の欄には、募集対象に適応される休日を表記します。職種や業種、配属先エリアによって休日が変動する企業もありますが、求人広告に記載する休日は、募集対象の実情に即した内容を記載するようにしましょう。このとき、完全週休二日制(毎週必ず2日間の休みが設けられている制度)と週休二日制(1カ月のうち2日間の休みが設けられている週が最低1回ある制度)の違いに注意してください。
【休日 書き方例1】
休日:土日、祝祭日、夏季休暇、年末年始休暇、誕生日休暇
時期や職種によって休日が異なる場合は、下記例を参考に記載しましょう。
【休日 書き方例2】
■時期によって休日が変わる場合
・完全週休二日制(ただし、6月と12月は週休制)、GW、夏季休暇、年末年始休暇、慶弔
■複数職種を募集しており、かつ職種によって休日が異なる場合
・本社事務職:完全週休二日制(土日祝)
・店舗販売スタッフ:4週8休制(シフト制・原則祝日は勤務日)
時間外労働とは、労働基準法で原則1日8時間、1週40時間(常時10人未満雇用の特例事業場では週44時間)を超えた労働を指します。時間外労働の欄には、時間外労働の有無を明記するとともに、時間外労働がある場合は、月の平均時間もあわせて記載しましょう。
【時間外労働 書き方例】
時間外労働あり(月平均20時間程度、月上限時間45時間)
実態よりも時間外労働時間を少なく記載する行為は、虚偽の表現とみなされる可能性があります。実態に即した時間を記載するようにしましょう。
賃金の項目には、賃金形態(月給・日給・時給・年俸制)と基本給を記載します。基本給に幅がある場合は、下限金額と上限金額を記載しましょう。
また、募集対象に対して、時間外労働の有無に関わらず一定の手当を支給する制度(固定残業代など)が適応される場合は、下記3つの項目を明示する必要があります。
また、求人広告には、試用期間中で特例許可を受けた時などを除き、原則最低賃金を満たさない額を記載することはできません。最低賃金を下回る金額を記載しないよう、地域の最低賃金額を確認しておきましょう。
【賃金 書き方例】
※時間外労働の有無に関わらず、○時間分の時間外手当として△△円を支給
(○時間を超える時間外労働分についての割増賃金は、追加で支給)
各種保険についての明記も必要です。
採用後に加入する保険の種類を記載しましょう。
【加入保険 書き方例】
加入保険:労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険
募集者の氏名又は名称の欄には、募集者の氏名もしくは企業名を記載します。一般的には、雇用主となる事業者名を記載します。
下記例のように、系列企業の情報を大きく記載するなど、子会社B社の求人にも関わらず親会社A社の求人だと誤認・混同される恐れのある表記は避けましょう。
【×誤認の恐れがある表記例】
A株式会社(B株式会社)
・A社では、営業経験を持つ人材を求めています。職業安定法施行規則の一部が改正され、2020年4月1日から「就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項」の明示義務が課されています。改正健康増進法に規定する施設の類型に応じて、受動喫煙対策について明示しなければなりません。求人事業所の所在地と就業場所が異なる場合は、実際に就業する場所の対策を明記しましょう。
下記「第二種施設(事業所・飲食店・ホテル・旅館・鉄道・船舶・その他の施設」」の場合の書き方例を記載します。一般的なオフィスビルは、この第二種施設に含まれます。
【受動喫煙防止措置 書き方例】
■ 屋内禁煙の場合
■喫煙専用室または加熱式たばこ専用喫煙室設置している場合
■適用除外の場所がある場合
参考:厚生労働省のホームページ(https://www.hellowork.mhlw.go.jp/doc/leaflet_judoukitsuen202001.pdf)
募集対象を派遣労働者として雇用する場合は、下記の通り派遣労働者として雇用する旨を記載します。
【派遣労働者として雇用する場合 書き方例】
雇用形態:派遣労働者
ここでは、応募に繋がる求人広告の書き方について、下記3つのコツを紹介します。
求人のキャッチコピーとは、応募者を集めるために自社の訴求内容を印象強く伝え、求職者の興味を引く魅力的な言葉を指します。
「親近感を持てる」「安定している様子がうかがえる」など、求職者の応募動機を形成できる表現を意識することで効果的なキャッチコピーになるでしょう。
【○訴求内容が伝わりやすいキャッチコピー例】
【×訴求内容が伝わりにくいキャッチコピー例】
求人募集をする時にはなぜその職種で募集することになったのか、その具体的な理由を書くことが大切です。求人が増員なのか、欠員募集なのか、またその理由を可能な範囲で明らかにすることで、求職者の納得感が高まるでしょう。
【○募集背景が伝わりやすい表記例】
増員の場合:アジア市場への進出に伴い、人員を増やす必要があるため
欠員の場合:これまで担当していた社員が退職するため
【×募集背景が伝わりにくい表記例】
増員の場合:事業拡大のため
欠員の場合:欠員が発生したため
求人広告に書ききれなかった内容や応募上の注意事項、採用にあたって参考となる情報などを記載しておきましょう。企業の現状や今後の展開を情報として示すことは、応募を検討する上で大きな判断材料となるでしょう。
他の企業でも該当するような内容や抽象度の高い表記は、他社と魅力を差別化できないほか、採用意欲が低いと捉えられる可能性もあります。自社の独自性や魅力をアピールできる表現・内容を意識してみてください。
【○企業の現状や今後が伝わりやすい例】
国内では〇〇社などの企業と取引実績があり、安定した収益を上げています。現在、多彩なバックグラウンドの方が在籍し活躍しています。今後はアメリカ、オーストラリア、インドといった地域にも販路を拡大する予定です。
【×企業の現状や今後が伝わりにくい例】
中途採用実績あり。20代~30代の若手活躍中。風通しの良い社風が魅力!
ここでは、求人広告で避けるべき次の5つの表現について解説します。
性差別表現は「男女雇用機会均等法」によって禁止されています。
たとえば「主婦」は「主婦(夫)」に、「ウエイター、ウエイトレス」は「ホールスタッフ」にといった表記が求められます。
男女で異なる条件を記載したもの、たとえば「店舗スタッフ(男性:マネジメント経験あり、女性:未経験可)」なども記載できません。
年齢差別表現も禁止されています。特定の年齢に限って募集をすること(「募集年齢:40歳まで」など)、特定の年齢に対して条件をつけたような表現など(「40歳以上の方は適性による」など)は、認められていません。
ただし「若年者を採用し、(中略)キャリア形成を図る」ためや、深夜に行う業務の場合など、年齢制限が認められる「例外事由」を厚生労働省が整理しています。その場合も表記にはさまざまな注意が必要であり、詳しくは、厚生労働省のQ&Aなどで確認をしてください。
参考:厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/qa/koyou/kinshi/qa.html)
特定の人種や国籍を限定して、採用の対象外または対象とする差別や優遇措置のような表記をしてはいけません。
また、事業説明欄などを作成する際は、「外人」は差別用語に当りますので「外国人」に、「後進国」は「発展途上国」など、表記や表現に注意しましょう。
特定の人を差別・優遇する表現は労働基準法で禁止されています。居住地、身体的特徴や障害、性格などの表記をしてはいけません。
たとえば、「就業先近くにお住まいの方」→「土地勘のある方」、「ブラインドタッチ」→「タッチタイピングができる方」、「明るい方」→「接客に抵抗感のない方」、「体力に自信のある方」→「5kgの荷物を運ぶ仕事です」など、性格ではなく能力に関する表現、客観的に判断しやすい事実を記載するようにしましょう。
最低賃金法により使用者が労働者に支払う最低賃金を定めています。最低賃金は各都道府県別に定められており、最低賃金未満の募集を求人広告に表記できません。
たとえば、求人広告には「基本給25万円、残業代支給、年間休日115日」と記載されているのに、実際は給与の中にみなし残業代が含まれており、休日出勤分もみなし残業代に含まれているなど、虚偽の労働条件は職業安定法に抵触する可能性があります。
求人広告の表記には十分注意して、偽りのない内容にしましょう。
人材を募集することが決まったら、求人広告の作成を始める前に、どのような人材を採用したいのか明確にすることが大切です。
採用ターゲットの要件を定義する時は、配属予定部署の担当者とも求める人物像をすり合わせておきましょう。必要なスキル、技術、知識、実務経験は何か、任せる業務内容は何か等を話し合い、自社にとって必要な人材について、深く絞り込んでいくことで必要な人材像が明確になります。
さらに、明らかにした人材像を、採用に関わるメンバーで共有しておくことで、スムーズな採用につなげることができます。
監修者
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所
岡 佳伸氏(おか よしのぶ)氏
大手人材派遣会社、自動車部品メーカーなどで人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険給付業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として活躍。各種講演会講師および記事執筆、TV出演などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。
アドバイザー
組織人事コンサルティングSeguros / 代表コンサルタント
粟野 友樹(あわの ともき)氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。