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時代の変化と共に、“デザイン”の関わる領域がどんどん拡がっています。これまでは伝統的なグラフィックデザインに代表される、見た目の美しさや広告において人の目を止める力が求められるものが中心でした。
しかし、デジタル化が進むにつれ、消費者のニーズはモノからサービスへと変化。たとえばGoogle、Amazon、Facebook、Uber、Netflixなど世界を代表する企業の多くが、独自のプラットフォームを構築しています。
そこで重要な鍵となるのが、UI/UX。UI=見やすくわかりやすく、UX=ユーザー体験が優れていることが、サービスを選択する上での大前提となります。つまりUI/UXのデザインは、サービスそのものの設計に関わり、その品質や売上を左右する重要な存在といえます。また、プラットフォーム上でユーザーと接点を持つ際に、ポジティブな印象を持ってもらうためのブランディングデザインの要素も欠かせません。
こうしたビジネスに大きなインパクトを与える役割を担っているのがデザイナーです。職種名もグラフィックデザイナー、Webデザイナー、UIデザイナー、UXデザイナー、CGデザイナー、ブランディングデザイナーなど細分化が進んでおり、それだけデザイナーの役割が拡がっているといえます。
経済産業省の「デザイン政策ハンドブック2020」(※1)によると、デザイナー数は2015年の時点で19.4万人。2005年から10年で3万人近く増えるなど堅調に増加し続けていることから考えると、現在では20万人を超えていることが予想されます。しかし、現在の就業者数(※2)が6,666万人であることを考えると、デザイナーが占める割合は0.3%程度。非常に希少な人材といえます。
転職市場で見ると、どうでしょうか。厚生労働省発表のデータ(※3)によると、「美術家・デザイナー等」の職業における2020年12月時点での有効求人倍率は0.19倍であり、職種計1.04倍と比べてもかなり低くなっており、数値上は採用がしやすそうに見えます。ただ経験豊富な求職者数は少ないことから、優秀な人材の確保が難しい職種ともいえます。
また、デザイナーの場合、企業に属さないフリーランスを選択する方が多いのも特徴で、2015年の調査(※1)では全体の23.7%を占めています。クラウドソーシングの利用も進み、今後ますますフリーランスや副業など働き方の多様性が拡がっていくことも予想されますので、求職者のニーズに応じた採用を行うことが人材確保の鍵となります。
2.出典:総務省統計局「労働力調査(基本集計) 2020年(令和2年)12月分結果」
3.出典:厚生労働省「一般職業紹介状況」2020年12月調査
デザイナーと一口にいっても、業務内容や求められるスキルはさまざまです。まずはデザイナーを募集する前に、整理しておくべき情報や準備しておくべきことをご紹介します。
採用を行うための骨子となるのが「人材要件」です。デザイン責任者を中心に、デザイン組織方針を明確にし、その上で求められるスキル・経験・使用ツールなどの「MUST(必要条件)」「WANT(十分条件)」を決めます。さらに長く活躍してもらう上で重要となるのが人物面です。企業理念や社風とのマッチングなどを考慮しながら、人物像を設計していきます。
ただし、これらはあくまで企業として求める人材であり、条件を列挙しすぎると採用マーケットにほとんどいないということになりかねません。優秀なデザイナーの数は少なく、引く手あまたです。年収などの条件面が合わないということも想定されます。
また、前述したとおりデザイナーの役割や業務は日々拡がっていますので、これまでの経験スキルだけで評価するのは難しいケースもあります。経済産業省では、これから活躍するデザイナーのあるべき姿として「高度デザイン人材」の定義や育成のための具体的なカリキュラム等もまとめていますので、ぜひご参考ください。
参照:高度デザイン人材育成研究会 ガイドライン及び報告書(経済産業省)
採用競合と自社の違いを明確に把握することが、自社の採用力強化につながります。オープンになっている求人情報や求人広告など、研究材料は数多くありますので、給与、休日休暇、勤務時間、福利厚生などを比較分析してみてください。また、他社がデザイナーに対してどのような訴求をしているのかも参考になるはずです。採用市場における自社の強みと弱みを把握し、優秀なデザイナーに選ばれる企業を目指して、必要に応じて募集条件の改善も検討してみてください。
スキルアップを求めて転職する方も多いのが、デザイナーです。だからこそ、仕事内容を明確に記載することが重要になります。よくありがちなのが「Webサイトのデザイン・更新」といった抽象的な記載です。仕事の範囲が広すぎて、何をして欲しいのかが伝わりません。担当するサービスやサイトの内容、新規立ち上げor既存サイトの改修、チーム構成と自身の役割、仕事の進め方、業務範囲など、より具体的にイメージできる情報を伝えることで、「自分にとってスキルアップできそうだ」と感じてもらうことが大切です。
自社らしさとは何か?魅力とは何か?競合他社と差別化できるポイントはどこか?採用担当者や面接官がしっかり認識できていなければ、候補者に動機づけすることはできません。
事業の成長性・安定性など企業としての魅力、やりがいや喜びなど仕事の魅力、給与・休日休暇・福利厚生など待遇面の魅力、研修制度・評価制度・組織風土など環境の魅力など、多面的に検討してみてください。
もし自社の魅力が見つけられない場合は、社員にヒアリングしてみる方法もおすすめです。言語化できたら、求人情報に記載したり、面接で動機づけを行ったりする際の材料になります。
デザイナー採用が活発化する中で、その手法は拡がりを見せています。まず基本的なものとしては、プロの介在によって求める候補者に的を絞って募集できる人材紹介(転職エージェント)や、多くの求職者に募集をかけて適する人材を広く集められる求人媒体です。デザイナー採用を専門にしているサービスもあり、よりスキルレベルの高いデザイナーを集められる可能性があります。
また、デザイナーは横のつながりの強い職種なので、採用において効果的なのが、自社の社員に人材を紹介してもらう「リファラル採用」です。求めるスキルや任せる業務を明確にしておくことで、社員も紹介しやすくなります。他にも、SNSを活用した「ソーシャルリクルーティング」、スカウト型サイトを通して企業が直接求職者にアプローチする「ダイレクトリクルーティング」などの手法も主流になってきています。
デザイナーの場合、履歴書や職務経歴書だけではなかなかスキルレベルを判断しづらいため、これまで制作した作品をまとめた「ポートフォリオ」の提出を依頼するケースが多くあります。作品のクオリティやセンス、スキルを判断できるだけでなく、読み手を意識したポートフォリオになっているかというUIスキルの観点でも審査することができます。また募集や選考にあたっては、専門的な視点が求められますので、人事だけでなく現場のデザイン部門の人材に協力を仰ぎながら進めていくことで、入社後のアンマッチが防げます。
また、前述したとおり、特にデザイナーは働き方の多様性が拡がっており、副業、在宅勤務、フルタイム以外の働き方が可能な職場に魅力を感じる方も多くいます。デザイナーが働きたいと思える環境を整えていくことも、優秀な人材を採用する手段の一つです。