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2020年は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大という不測の事態に見舞われ、2021年現在も、経済の先行きが不透明な状況が続いています。
リクルートエージェントの利用企業2,013社に聞いた採用活動調査
2020 年 7 月 13 日株式会社リクルート「News Letter」では、緊急事態宣言後に採用活動を依然継続または一度停止したが再開した企業の合計が2,013社中約8割と、コロナ収束後を見越して、採用活動を継続する企業が多数を占めており、2021年度も多数の企業が積極的に採用活動を続けることが予想されます。また緊急事態宣言の発出もあり観光業、飲食業など影響を受けている業種や職種がある一方で、インフラを支える物流・運輸、EC関連、ビジネスのオンライン化で注目されている「DX」「セキュリティ」に象徴されるIT企業は採用意欲が高い傾向にあり、採用市場はますます多様化しています。
「人手不足」の原因として第一に考えられているのが「人口減少」と「求人倍率の上昇」です。求人倍率は、新型コロナウイルスの影響で一時低くなったものの2020年(令和2年)10月時点で1.06倍と回復基調にあります。
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和2年10月分)について」
日本の総人口は2008年の1億2,806万人をピークに減少を続け、2019年には1億2,617万人と200万人ほど減少、2055年(令和37年)には1億人を割り込み、9,744万人になることが予想されています。
(出典:総務省統計局「人口の推移と将来人口」)
また一般的に企業が労働力として見込んでいる生産年齢人口(労働意欲の有無にかかわらず日本国内で労働に従事できる年齢の人口。日本では主に15歳から64歳の人口を指す)は、1995年より減少がはじまり、2025年には7,085万人と予想されていて、2010年の8,103万人から1,018万人が減少する想定です。
出典:総務省「平成28年版 情報通信白書 我が国の人口の推移」
一方で、興味深いデータは労働力人口と就業者人口です(就業者人口とは現在働いている就業者と休業者をあわせた数字。労働力人口とはこの就業者人口に完全失業者数をあわせた数字のこと)。
出典:厚生労働省「令和2年度版厚生労働白書 労働力人口・就業者数の推移」
労働力人口と就業者人口は多少の変動はあるものの1990年以降、上昇傾向にあり、働き手は増えていると考えられます。一方で非正規雇用の割合も増えており、企業は主に労働力が安定して見込めるフルタイムの正社員を求める傾向が強く、需要と供給のアンバランスが、人手不足を生み出していることが想定されます。
出典:厚生労働省 「非正規雇用」の現状と課題【正規雇用労働者と非正規雇用労働者の推移】
もう少し詳しくデータを見ていきましょう。
注目したいのは「従業員規模」です。リクルートワークス研究所の調査によると、企業規模別大卒求人倍率に代表されるように1,000人未満の企業は景気による影響を強く受けています。15~34歳の就業者数が減っているなかで大手企業と人材の争奪戦になり、より採用難易度が高まっていることが予想されます。
出典:リクルートワークス研究所「第37回 ワークス大卒求人倍率調査(2021年卒)」(2020年08月06日)
また中途採用市場では、リクルートワークス研究所の中途採用実態調査によると「20年度上半期、必要な人数を確保できた企業が、確保できなかった企業を4年ぶりに上回った」となっています。
2021年度の見通しについては、「以前も今後も採用しない」と回答した企業は5.6%。コロナ禍とはいえ将来的な人手不足の中、94.4%もの企業が中途採用を試みていることがわかります。また 従業員規模別に見ると、大手企業で採用予定人員を減らすと回答した企業の割合が大きくなっています。
出典: リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2020 年度上半期実績、2021 年度見通し 正規社員)」(2021 年2月5日)
業界別に見ても、人材確保ができている業界と、人材確保が難しい業界があり、建設業、情報通信業、医療・福祉業で人手不足感が強い傾向になっています。
出典: リクルートワークス研究所「中途採用実態調査(2020 年度上半期実績、2021 年度見通し 正規社員)」(2021 年2月5日)
人手不足(=求める人材を自社で雇用できない)の原因としては、「提示した条件で、求める人材が集まらない」と、「求めるスペックの人材が労働市場にいない・極端に少ない」の2つが考えられます。前者は求める人材の要件の見直しが解決に繋がる場合もあります。また、後者は採用によって課題解決することが難しいので、人手不足になっている業務そのものや、そこに関わる組織体制を抜本的に見直しする必要があります。後者の「求めるスペックの人材が労働市場にいない・極端に少ない」場合の解決策について、いくつか考えてみましょう。
2021年4月より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、65歳までの雇用確保(義務)に加え、70歳までの就業確保が努力義務となり、高年齢者の経験・能力を活用していくことは、人手不足を解決していく有効な手段となる可能性があります。女性や高齢者の働き手は増えていますので、正社員、フルタイム勤務にこだわらない人材を積極的に活用していく方法や、育児・介護と仕事を両立できるような分業体制をつくり、フルタイム以外の人材を確保する方法も考えられます。またリモートワークを積極的に活用し、今までは物理的に難しかったエリアの人材を雇用することや、副業を認める企業も増えていく傾向がありますので、専門性の高い業務を切り出して委託することも考えられます。
最近、注目されているテクノロジーの一つにRPA(Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション)があります。定型業務やルーティンワークなどを自動化するもので、人出不足の解消や作業の効率化に活用されています。人手が必須でない業務は、テクノロジーを導入し、人とテクノロジーを融合させ作業効率をあげていくことが、人手不足解消につながります。
現在の業務量に対する人員配置が適切か、部署により偏りがないか、今一度、社内の業務と人員のバランスを見直してみましょう。社内の異動により人手不足が解消される可能性もあります。
採用が難しい状況が続くことが予想されるなかでは、自社の社員にできるだけ長く働いてもらうための工夫が、さらに必要になってきます。給与アップ、労働時間の短縮、テレワークなど柔軟な働き方の導入、非正規から正規雇用への切り替えなど、労働条件を改善し働きやすい環境をつくることが定着率のアップにつながります。
リクナビNEXT編集部「転職理由・退職理由の本音ランキング Best10」(記事作成日:2007年6月15日)
によると、転職経験者の退職理由の本音ランキングの1位は、上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった(23%)。2位:労働時間・環境が不満だった(14%)。3位:同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった(13%)。4位:給与が低かった(12%)。5位:仕事内容が面白くなかった(9%)となっています。
給与、労働時間などの労働条件以外の職場のコミュニケーション、仕事に意義を見出してもらうためのマネジメント、評価制度の見直しなど、労働条件以外の要素も働きやすい環境をつくるうえでの大切な要素です。労働条件や職場環境を改善することは、採用力を高めることにもつながります。
IT人材など、もともと市場に自社が求めるスキルを持った労働者の絶対数が少なく採用が難しい場合は、時間はかかりますが、自社で育成することも選択肢の一つです。大学や外部専門機関の講座、大学院への派遣、研修プログラムを作成し自社で育成するなどの方法が考えられます。
人手不足は、深刻な問題ですぐに解決できるものではありませんが、自社の制度を
見直したり、人員配置を再検討したりするなど身近なところから改善していくことやテクノロジーをうまく活用することで、突破口を見つけられる可能性があります。人手不足の要因はさまざまです。常に情報収集し、人手不足の原因に応じた対策をとることが必要です。
参考:リクルートワークス研究所『Works』第149号(2018年8月発行)
参考:リクルートワークス研究所 「人手不足の実態と、その解消シナリオ」石原直子 Works Review 2019