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採用計画とは、採用活動における指針を示すもの。「いつまでに」「どのような人を」「何人」採用するかといった目標を立てることはもちろん、「どのような手段で求職者を募るのか」「面接の回数や選考基準をどうするか」など、具体的な採用プロセスの設計も行います。
人材採用は、単に人を集める活動ではありません。自社が求める人材要件(スキル・経験・志向など)が合致する人であること、さらにいえば入社後に成果を発揮してはじめて、採用は成功したといえます。
そのため、企業の経営理念・ビジョンや事業戦略と採用を連動させ、活動の細部まで反映させることが必要です。採用計画を緻密に立てることは採用を円滑に進める効果があるだけではなく、採用が上手くいっていない場合に、どこに原因があるのか素早く課題を特定し解消する助けにもなります。
前述した通り、採用活動は自社の事業が目指す方向性と合致していなければ意味がありません。そのため、採用計画を立てるときのファーストステップは、事業戦略や事業計画を確認すること。言い換えるなら、「採用の背景・目的を明確にする」ことです。
例えば、今後3年間で売上を2倍にする事業計画だとすれば、この計画を実現するために、営業体制の増強が必要になるでしょう。そこで、営業1人当たりの売上目標なども勘案して採用人数を割り出し、入社後の育成期間を踏まえながら採用のスケジュールをつくることができます。同じように、事業戦略の柱にサービスのオンライン化を掲げているのであれば、エンジニアやデジタルマーケターなどの採用ニーズが見えてくるでしょう。このように、採用担当者は普段の仕事で見えている範囲で採用計画を考えるのではなく、経営や事業責任者の視座で採用活動をとらえることが求められます。
採用計画は、経営や事業の方針と連動していることが大前提である一方、配属予定部門の意向を疎かにすると、入社後に職場に馴染めなかったり上手く活躍できなかったりする原因になり、早期離職につながるリスクがあります。
採用計画を立てるときには、事前に各部門にニーズをヒアリングすることや、大まかに立てた採用計画を配属予定部門の責任者に見てもらい、部門の感覚とズレがないかを確認しながら微調整をしていきましょう。経営の視点と部門の視点、どちらの視点も反映させることが、採用計画をより強固なものにしていきます。
自社のニーズが確認できたら、次は視点を外に広げていきましょう。採用の難易度は、募集条件だけでなく採用環境にも大きく左右されます。人材要件にマッチする求職者が沢山いれば採用しやすく、少なければ採用は難しいでしょう。また、求人の数と求職者の数のバランス(=求人倍率)も目安となる指標です。求人倍率が高いほど採用は難しくなるといわれています(売り手市場)。
採用市場は景気の動向などに影響を受けやすく、常に変化しています。景気が悪くなれば企業は採用を控える一方で求職者が増えるため、採用する側にとっては有利な状況です。景気が良くなるとその逆の現象が起きるため、企業が求職者を取り合う状況になります。リーマンショック、東日本大震災、新型コロナウイルスの感染拡大など、社会で大きな出来事が起きたときも採用環境は急変しました。採用計画を立てるときは、過去の経験だけで判断せず今の環境を正しく把握しましょう。
社外の動きを知る上では、具体的な採用競合を想定しておくことも重要です。過去の採用時に求職者が併願していた企業や、自社を辞退して入社した企業を把握しておくと、採用競合を想定するヒントになります。そうした情報がない場合は、求人媒体などで自社の人材要件に合致する求人を調べてみるのも良いでしょう。
ポイントは、採用競合がどのような採用活動を展開しているか注目すること。「どのようなメッセージを発信しているか」「仕事内容や働き方、給与・待遇は自社の求人と比べてどうか」「採用手法や選考内容に特徴はないか」などを整理します。その上で、採用競合の動きに埋もれることなく求職者に振り向いてもらう活動を計画することが大切です。
効果的な採用計画を立てる上で、世の中のさまざまな採用手法を広く情報収集しておき、自社の採用ニーズに合わせて最適な手法を選択できるようにしておきましょう。人材紹介や求人媒体など、担当の営業やコンサルタントがつくサービスでは、マーケットや競合の動きなど、客観的な視点で自社に合った情報提供をしてくれるところもあります。採用ニーズが発生したときはもちろん、普段からお付き合いをしておくと良いでしょう。
採用計画を立てる際は、どのような採用であっても大まかに下図のような手順になります。
ただし、新卒採用と中途採用では求職者との接点の持ち方や採用のスピード感が異なるため、計画を立てる際も異なる観点を踏まえる必要があります。以下ではそれぞれのポイントについて解説します。
新卒採用のターゲットは、社会に出る前の学生です。そのため、会社や仕事のことを理解してもらうには、中途採用よりも丁寧で豊富な情報提供が必要です。職務経験がない学生たちの中から自社に合う人材を見つけるには、お互いを理解する機会が欠かせません。こうした側面から、中途採用よりも活動のプロセスが多く(長く)なる傾向にあります。
ただし、これまでは経団連が就活スケジュールの目安を定めていましたが、2021卒採用よりこの目安は廃止し、大学2年次に「就職・採用活動日程に関する考え方」をとりまとめ、就活・採用活動日程を決定することとしました。すでに通年採用や既卒者を含めた採用に切り替える動きも出始めており、採用活動は益々多様化することが予想されます。
出典:リクルート 就職みらい研究所「就職白書2019」
参考:内閣官房「2022 年度卒業・修了予定者の就職・採用活動日程に関する考え方」
中途採用の計画を立てる上で、新卒採用と異なるポイントのひとつが、入社時期です。新卒採用は、基本的に4月1日に一律で入社することが多いですが、中途の場合は1年のうちいつ入社するかは企業と求職者との間で個別に決定します。そのため、採用計画を立てるにあたっては、既存社員を含めた人員計画や配属予定部門の受け入れ体制を踏まえ、入社時期の目標を明確に定めておきましょう。
また、急な欠員が発生した場合など、スピーディーな採用が求められるのも中途採用のポイントですが、求職者は選考時点で、元の企業に在籍している場合が多いことも考慮が必要です。内定を得てから勤め先と退職交渉を行い、仕事の引き継ぎをしてから退職をする必要があるため、内定から1~2ヶ月程度かかるのが一般的です。採用スケジュールは、内定から入社までの期間も考慮しておきましょう。
※新卒・中途採用の活動全体の設計については、以下の記事もご覧ください。
新卒・中途採用の活動全体を設計するには?選考プロセスや人材要件の方法を解説
採用計画を一通りつくったら、全体の内容を俯瞰した目で見渡してみましょう。前述のように、「事業戦略から導き出した人材要件と部門の採用ニーズが乖離している」といったずれや矛盾が生じていたら、解消のために双方の意見を踏まえた調整が必要です。
他にも、採用目的と人材要件・採用メッセージがずれていないかを確認することも大切です。特に採用難易度が高い求人の場合、求職者に振り向いてもらおうとする余り、人材要件や採用メッセージを見直していくうちに本来の目的とずれてしまい、結局求める人材が集まらないといった結果を招きかねません。こうした事態を防ぐためにも個々の検討事項が全体を通して一貫しているか確認することが重要です。
活動全体の妥当性を確認する上では、母集団形成~選考~内定・入社までの歩留まり(ここでは、目標とする通過人数・採用人数を指します)をシミュレーションしてみることも大切です。入社目標人数から逆算し、合格率や辞退率を考慮しながら各プロセスの目安人数を割り出していきます。
すると、「二次面接官の役員が多忙で面接する日程をあまり確保できないので、一次面接でしっかり見極めておこう」「応募を100人集めるには、別の募集手段も検討した方が良いのではないか」と採用プロセスの精度を高めることができます。
以上のように、採用計画を立てる際は順序立てて考えることや、後で簡単に見直せるフレームにあてはめて考えることが大切です。ここまで図解したような採用計画立案のフレームや、採用歩留まりをシミュレーションするフレームなどを用いながら、視覚的に把握できるようにしておきましょう。
そうしておくと、採用に関わる人が増えたとしても計画が一目で把握しやすく、情報共有がスムーズになります。また、定期的な振り返りにも役立ちます。もし採用活動が不調なのであれば、計画と実績の差を分析することで課題がどこにあるのかを察知しやすくなります。課題を早期発見・早期解消すれば、それだけ採用成功の確度も上がっていきます。立てた計画をきちんと運用されているかマネジメントする上でも、フレームに沿って整理しておくことは有効です。