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「RJP」とは「Realistic Job Preview」の略で、直訳すると「現実的な仕事情報の事前開示」です。1970年代にアメリカの産業心理学者であるジョン・ワナウスによって提唱された理論で、入社前にポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報も含めて、具体的な仕事内容や職場環境、社風などをありのままに伝え、納得して応募した人を選考するという採用理論です。「ありのままの仕事の情報を開示する」=「本音採用」と考えていただくとイメージしやすいのではないでしょうか。募集の段階ではどうしても、自社や仕事の良い面を強調した広報になりがちで、その結果「思っていた仕事内容ではなかった」「もっと自分のアイデアを活かせる仕事だと思っていた」「職場の雰囲気に馴染めない」など、入社後のミスマッチにつながる可能性があります。「RJP」は、企業と求職者のミスマッチをなくし、長く定着し活躍してくれる人材を採用する手法として知られています。
1970年代のアメリカにおける従来の採用は、企業ができるだけ多くの候補者を集め、その中から求める能力・スキルを持つ人材を選ぶ方法が主流であり、そのためにできるだけポジティブな情報を伝え、多くの母集団を形成す傾向にありました。この手法には、母集団を形成するための費用や多くの候補者の中から選考する費用や採用工数が発生するという課題がありました。この課題を解決するために、企業のありのままの情報を開示し、自社を理解し納得して応募・選考する「RJP理論」を導入する流れが生まれました。RJP理論の導入により、ポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報も候補者に伝わるため、母集団の数は減少するリスクが生じますが、一方で、より自社にマッチした応募者の母集団を形成し、採用コストの削減や安定的な人員を確保できるというメリットが生まれます。
実際にどれくらいの人が早期に離職しているのでしょうか。新規学卒者・大卒の離職率は、入社3年以内で32.8%
出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(平成29年3月卒業者の状況)」平成29年10月30日 別紙2
中途入社では、株式会社リクルートの企業の人事担当者向けアンケートによりますと、「過去3年と比較して入社半年以内に離職した社員数が増えた」と答えた企業の人事担当者は、実に2割にも及んでいます。
出典:株式会社リクルート「企業の人事担当者向けアンケート調査」2018年9月実施
新卒採用では入社3年以内で32.8%が離職、中途採用も早期離職が増えている傾向がみられます。
また各企業が採用にかける平均コストは、一人当たり新卒採用で93.6 万円、中途採用で103.3 万円というデータがあります。
早期離職が起きれば、上記のような採用コストや採用に掛けた労力が無駄になり、さらに計画していた人員が不足するため、安定的な事業運営が難しくなる可能性もあります。
早期離職する一つの要因として、入社後のイメージギャップが考えられます。
入社前後において、プラス・マイナスの両面でギャップがあった(「かなりあった」+「多少あった」)項目を見ると、ギャップがあった上位項目は、「担当する仕事の難易度」(68.5%)、「上司の能力や資質」(64.6%)、「担当する仕事内容」(64.0%)、「社内ルール・常識」(63.6%)、「教育研修」(63.1%)となっています。またギャップがあったうち、マイナスに働いた項目の上位を見ると、「勤務時間・休日」(24.5%)、「社内ルール・常識」(21.5%)、「給与・福利厚生」(21.4%)、「上司の能力や資質」(21.3%)と続いています。
出典:リクルート 就職みらい研究所『就職活動と入社後の就業に関する調査』2014年6月30日
マイナスに働いたイメージギャップを放置したままだと、早期離職につながりかねません。これらのギャップは、企業側がしっかり情報を開示することで防止できる可能性があります。例えば、年間休日125日の企業が、募集の段階で「年間休日125日で、ワークライフバランスも充実」とアピールしていたら、求職者側は「休みが多い企業」というイメージを持ち入社します。ところが、入社後すぐに休日出勤があると「イメージと違う」ということになりかねません。このケースは、最初から「業務の都合で休日出勤するケースはあるが、必ず代休を取得できる」と伝えておくことでギャップを少なくすることができます。
RJP理論を導入した場合、どのような効果が期待されるのでしょうか。期待される心理的効果としてはセルフ・スクリーニング効果、ワクチン効果、コミットメント効果、役割明確化効果の4つがあると考えられています。
事前にリアルな情報を開示されることで、求職者自身がその企業にマッチしているかを判断できます。企業に選ばれたのではなく、自分が選んだという意識が強くなり、入社後の定着にもつながります。
ポジティブな情報だけでなく、ネガティブな情報を事前に伝えることにより過剰期待を事前に緩和し、入社後に直面する、期待と現実のギャップをやわらげる効果があります。
ありのままの情報を開示することで、また自分に対して誠実に向き合ってくれる企業に愛着を持ち、入社後もこの会社で頑張りたいという意欲が高まる傾向があります。
入社後に、どんな役割を果たして欲しいかを本音で明確に伝えることで、その期待に応えたいという意欲が醸成され、入社後に活躍できるという効果も考えられます。
RJP理論には以上4つの効果があり、採用時のミスマッチを減らすだけでなく、入社後の定着、活躍にも役立ちます。
メリットの多いRJP理論ですが、まず自社でRJPを導入できるのか、どのようなRJPを行うのが良いかを判断できる「RJPの可否判別フローチャート」を参考に、どのようにRJPを導入するか検討してみてはいかがでしょうか。
出典: リクルートワークス研究所『Works』第48号(2001年10月発行)
実際に導入する際、どのような点に注意すべきか以下に整理しました。
ターゲットごとに、魅力に思うポイントも、ギャップを感じるポイントも異なります。採用に際して自社が求める人物像を明確にし、ターゲットを絞った上で情報を開示していきましょう。
ネガティブな情報をきちんと伝えるのは大切なことですが、それだけではなくポジティブな面も一緒に伝えていきましょう。例えば、新規開拓営業では「お客様から断られるケースが多く、アポイントをとるのが難しい」というネガティブ情報がある一方で、「自分でお客様を探し、自社の商品・サービスの良さを理解してもらえる喜びがある」など、厳しい面と良い面の両方を伝えることで、仕事の魅力が正しく伝わります。
人事と配属現場とで、仕事のやりがいや難易度、職場環境について認識のズレがあると正しい情報提供にはなりませんし、入社後のミスマッチにつながる場合があります。コミュニケーションを密に取り、認識を揃えていく必要があります。
人事や管理職発信の情報だけでなく、実際に働いている社員からのリアルな情報提供も有効です。例えば体験入社などのインターンシップを行うことで、企業側は求職者の適性を判断でき、求職者は仕事や社風、企業文化を実体験し、自分の適性を確認できる機会となります。またリファラル(知人紹介)も、有効な手段として活用できるでしょう。
現在、社員や元社員の声を共有する口コミサイトが多く存在しています。例えば、年間5000万ユーザーに利用されている「en Lighthouse」(サービスの詳細はこちら)や、会員数が700万を超える「転職会議」(サービスの詳細はこちら)があるなど、多くの求職者が口コミサイトなどを利用しています。求職者はリアルな情報を求めていますし、自分自身で情報収集できる手段を持っている時代です。だからこそ、企業自らがリアルな情報を開示すれば、誠実な採用活動を行っている企業と認知され、採用力が高まる場合があります。企業、求職者の双方にとってメリットのあるRJP理論の導入を検討してみてはいかがでしょうか。