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中途採用者は、既に社会人経験があるため、入社後の研修は必要ないと考える人事担当者もいます。しかし、経験者といっても、企業や組織が変われば、仕事内容や求められる役割が異なるもの。実際にリクルートが行った調査「転職者の転職先でのとまどいランキング」によれば、「前職との仕事の進め方ややり方の違い」「社内や業界用語、専門知識が分からない」といった理由で戸惑う方が多く存在しています。
出典:株式会社リクルート「『リクルートエージェント』転職決定者アンケート集計結果」2017年9月実施
採用した人材にいち早く定着・活躍してもらえるよう支援することも、人事担当者にとって大切な業務の一つです。中途採用者が入社後に感じる戸惑いを解決し、早期戦力化を実現していく施策の一つが教育・研修になります。
中途採用者に行う教育・研修の目的はいくつかあります。
中途採用者の場合、これまで勤めてきた会社での経験やルールといったものが染みついているケースもあります。たとえ同業界であっても企業が変われば、仕事への考え方ややり方も変わるもの。社内が同じ方向を向いて一緒に仕事をしていくためにも、中途採用者にはまず自社の企業理念や目指すものを共有し、理解してもらうことが重要です。
自分に期待される役割やミッション、具体的な業務内容を理解した上で業務に臨むことで、その後の活躍は大きく変わります。正しく理解できていない状態で業務を進めてしまうと、周りとの摩擦がおきてしまうケースもありますので、業務の進め方やルールについても丁寧に説明をしましょう。
また、未経験者を対象とした中途採用の場合は、業務に関する研修がさらに重要となります。職種未経験の方には募集職種に必要な業務知識や技術、業界未経験の方には業界特有の専門用語や専門知識について学んでもらえると、より立ち上がりが早くなります。
中途採用者は、既にでき上がった組織の中に入ることが多いため、孤立しがちな傾向があります。周囲に馴染めずに離職してしまうということを防ぐためにも、コミュニケーションを取りやすい環境を意識して作ることが大切です。教育・研修は、そうした社内の交流促進の手段としても有効です。同時期に入社した中途採用者同士で支え合ったり、OJTなどを通して配属部署の上司や先輩たちと相談できたりと、人間関係を構築しやすく、新たな職場環境に馴染んでもらう一歩になります。
中途採用者向けの研修には、いくつかの種類があり、ここでは基本的なものをご紹介します。
経営理念やミッション、社内ルールなど、総合的・体系的に企業理解を深めて
もらうための研修です。一名または複数名の入社者が集まって講義形式で行い、一般的に数日から一週間ほどかけて実施するケースが多いようです。
スムーズに業務を行えるよう、配属部署にて実務を学ぶもので、OJT(On-the-job Training)研修と呼ばれます。配属先の上司や先輩が教育担当として、実際の業務を一緒に進めながら、必要となる知識やスキルを身につけていく実践的な内容です。中途入社者が独り立ちできるまで指導し、一般的に3ヵ月から半年、長いところでは1年ほど行う場合もあります。
※OJTに関しては下記記事をご参照ください
【人事必見】OJTとは?意味やメリット・デメリットと導入するポイントを解説
社内ルールや仕事の進め方、業務に必要な知識・技術を学ぶために、eラーニングシステムを活用している企業もあります。インターネットを使用できる環境が整っていれば、研修を受ける中途採用者の都合のよい時間と場所で受講ができるメリットがあります。また、eラーニングは反復学習にも向いているため、効果的・効率的に知識を定着させるのにも最適です。
中途採用者の教育・研修を行うにあたって重要なポイントをお伝えします。
中途採用者の教育・研修は、採用直後のスキル向上や定着だけでなく、中長期的な視点をもって育成していく観点が重要となります。そのためにも中途採用者がこれまでのどんなキャリアを活かし、今後どのようなキャリアを積んでいきたいのか、そのためにどのようなスキルや経験を得ていくべきか、などを計画します。中途採用者本人の意志はもちろんのこと、現場上司や人事担当者がアドバイスをしながら、より具体的な時系列と到達目標、それをクリアするための課題なども具体的に落とし込んでいくことが重要です。このキャリア目標と課題を元に長期的に育成を行い、定期的な面談で見直しを行います。
日々忙しさに追われていると、中途採用者個人ではなかなか振り返りの機会を設けることが難しいものです。そこで定期的にOJT担当者からのフィードバックの時間を作り、進捗状況の共有や振り返りを行うことで、中途採用者に自身の課題や成長に気づかせ、さらなる育成を促すことができます。
受け入れる組織側の意識や体制を事前に整えておくことで、中途採用者側の馴染みやすさは大きく変わってきます。OJT研修の仕組みづくりはもちろんのこと、OJT担当者や周囲のメンバーに質問・相談がしやすい組織風土づくりも大切です。
中途入社者に対して教育だけ行っていればよいかといえば、そうではありません。リクルートが行った「中途入社後活躍調査」によれば、中途入社者の「パフォーマンスの向上」には「人事との定期面談」、「離職意向度の低減」には「上司との定期面談」が有効であることがわかりました。
出典:株式会社リクルート「中途入社後活躍調査」2018年2月・3月実施
教育・研修を実施する以外にも、上司や人事担当者が日頃から中途採用者の状況を把握しながら、必要に応じて適切なサポートをしていくことが大切です。
特に注力すべき点は、中途採用者が新しい職場に馴染めず、孤立してしまう状況を防ぐことです。身近な存在である現場の上司が日々のコミュニケーションの中で状況を把握し、積極的にフォローをしていくようにしましょう。
また、配属部署の組織や人間関係で悩みを抱えている場合、同じ組織の方には相談しにくいという状況もありますので、採用担当者からコミュニケーションを取ることが有効な場合もあります。
特に忙しい職場の場合、急ぎの業務以外では相談がしにくいと感じている中途採用者も多くいます。そこで、あえて面談の時間を定期的に確保することで、小さなことでも相談がしやすい環境を作り、何らかの問題が起きる前に予防できるというメリットがあります。人材育成を目的として上司と部下が1対1で対話や面談を行う「1on1ミーティング」を実施する企業も増えています。部下の現状や悩みに寄り添いながら部下の能力を引き出していく、そんな双方向での密度の高いコミュニケーションが育成にもつながっていきます。
中途採用者がどのようなキャリアを積んでいくことを望むのかを把握し、会社の方向性と擦り合わせながら、一緒にキャリアプランニングを行っていきます。これを行うことで、中途採用者が目指すキャリアと現状とのギャップに悩むのを防ぐことができるとともに、仕事上の長期目標を明確にすることでモチベーション高く仕事に望めます。また、人事担当者もキャリアプランを把握することで、教育研修や人事制度の強化など、新たな人事施策につなげていくこともできます。