目次
フィードバックとは、個人・組織・商品・サービスのこれまでの行動や成果について、他者の評価を本人に伝えてアドバイスを行うことです。特に人事領域においては、人材育成や組織マネジメントを適切に行う意味でもフィードバックは欠かせません。多くの企業が人事考課面談や定期的な1on1ミーティングなどの機会を用いて、フィードバックを実施しています。
ビジネスシーンでフィードバックが盛んに行われているのは、組織や個人の成果を高めるためです。業務の途中段階や終了時点でこれまでのプロセスを振り返ることで本人の成長を促し、今後に活かしていくことが目的です。
フィードバックには、日々業務を進めていくだけでは見えづらい問題点を把握し、良かった点を明らかにする効果があります。業務やミッションに対するモチベーションを高めることもでき、フィードバック中の対話を通して相手との信頼関係を築くこともできるため、組織マネジメントにおいてもフィードバックは重視されています。
フィードバックは、上司・同僚・顧客など本人の仕事ぶりを知る人からの客観的な評価を伝えること自体に意味があります。他者からのアドバイスを得ることで、本人が自覚していないことに気づき、改善・進化させていくことができます。
効果的なフィードバックは、下図のように「フィードアップ」「フィードフォワード」を加えた3つの要素を意識すると良いでしょう。
そもそもフィードバックは、何らかの目標を実現するために実施されなければ意味がありません。また、目的が見えない状態で他者から一方的に意見を聞かされても、単なる好き嫌いの話にしか聞こえず納得度が低いという側面もあります。そのため、フィードバックは相手の目標やミッションを念頭に経過を振り返るのが大原則です。目的・目標を設定し、定期的に再確認する「フィードアップ」が、フィードバックの精度を高めるためには大切です。
フィードバック(feedback)とフィードフォワード(feedforward)は、言葉通り対照的な関係にあります。過去を振り返るフィードバックに対し、フィードフォワードがフォーカスしているのは未来です。フィードバックはあくまでもこれまでの行動や結果を評価するものですが、フィードフォワードでは「次回からはこうしたら良いのではないか?」といった視点でアドバイスしていきます。
上司や教育担当が育成目的でフィードバックを行う場合は、いかにタイムリーに実施できるかを意識すると良いでしょう。フィードバックの期間を空けると、その分だけ改善・進化が遅れ、成長が鈍化する恐れがあります。
フィードバックは、いわゆるPDCAサイクルのC(Check)にあたるプロセス。PDCAサイクルは早くまわすほど沢山の打ち手・改善を繰り返して成果を高める効果があるといわれていますから、フィードバックもタイムリーに数多く実施することが理想です。
人事考課は、個人に支給する給与・ボーナスにも影響しますし、昇進・昇格を判断する材料にもなるものです。日々の業務でおこなっているフィードバック以上に丁寧な伝え方をしないと、良い結果でも悪い結果でも本人に納得感がなく、仕事への向き合い方に悪影響が出るリスクを高めます。
そのため、今回の査定結果になった理由を事実ベースで丁寧に伝えて、次回に向けたアドバイスもあわせて行いましょう。
フィードバックは起きたことを振り返ってより良くしていくことが目的ですから、理想と現実を比べれば、自然と「できなかったこと」や「悪かったこと」に目が行きがちです。
もちろん、課題をみつけて解消していくことはフィードバックを実施する意義の一つですが、むやみに批判ばかり繰り返すフィードバックでは、本人の意欲をいたずらに下げてしまいかねません。
そこで、良かった点を意識的に探して指摘をするポジティブ・フィードバックをすることで、前向きにフィードバックを受け止めやすい環境をつくることが有効だといわれています。
ポジティブ・フィードバックとは逆に、問題点や懸念点にフォーカスしていくのがネガティブ・フィードバックです。
ネガティブ・フィードバックは、課題が生じた原因を深く掘り下げていく効果があるため、失敗や間違いの自覚を促し、繰り返さないための対策を立てるときに有効です。一方で、上述の通り伝え方次第では単に批判・叱責されただけだと受け止められてしまい、本人のモチベーションに悪影響を与える恐れがあります。リスクを認識し、受け手にあわせた伝え方の配慮をしましょう。
個人に対するフィードバックは、上司・部下や先輩・後輩による1対1で行われる場合が多いものの、上司・同僚・部下など自分を取り巻く人たちから評価される「360度フィードバック」を実施している企業もあります。
360度フィードバックの最大の効果は、多面的に自分を見つめ直すことが出来る点です。ひとりからの意見ではなく、それぞれの立場で評価されるため、多面的に自身の特徴や課題を把握することができます。
360度フィードバックのように、さまざまな立場の人から評価してもらうという意味では、顧客や取引先からの評価を取り入れることも手法のひとつです。直接意見を伺うだけでなく、顧客満足度調査やユーザーインタビューの結果をもとにしたフィードバックも有効です。
フィードバックの目的は単に評価を伝えることではなく、振り返りを通して成長を促し目標達成に導くことです。業績やプロジェクトの成果について言及するだけでは、学びを得ることは難しいでしょう。仕事が順調なのであれば、なぜその状態を実現できているのか。上手くいっていないのであれば、どんな行動が原因なのか。プロセスに注目しましょう。
【悪い例】
A社との取引が減っているので、次はもっと頑張ろう。
【良い例】
A社との取引が減っているけれど、訪問数も減っているね。担当者とリレーションは取れているかな?お客様のニーズを把握するためには、もう少し接点を増やしてみると良いのでは?
学びを最大化するには、フィードバックを受ける本人が気づきを得ることが大切です。特に人材育成を目的としたフィードバックの場合、、伝え手よりも受け手の方が業務の経験が浅いことが多いので、一方的に話すだけでは理解が追い付かないことも想定されます。「どう思う?」と受け手に投げかけて言葉を引き出す(アウトプットさせる)ことが大切です。
上司「プロジェクトの進捗が予定よりも少し遅れているね」
部下「すみません。関係部署との調整が難航していて…」
上司「合意が得られていないのはなぜだと思う?」
部下「前回の会議で提出した資料では判断できないとB部長に言われてしまいました」
上司「Bさんが結論を出せないのは、資料の問題なのかな?」
部下「いえ、○○について私が検討できていなかったからだと思います。今週中に検討してB部長に報告します」
フィードバックはやり方次第で相手のモチベーションを大きく左右する効果があります。意図せずモチベーションを下げることがないように、フィードバックをする場所を工夫するのもひとつの手段です。
ポジティブなフィードバックをするときは、他のメンバーもいる前で賞賛しても良いでしょう。本人のやる気を引き出すだけでなく周囲も学ぶことができ、組織全体にポジティブな風を吹かせる効果もあります。
反対に、厳しいことを言わねばならないときは、クローズドな空間を選択することも一つの手段です。相手の尊厳に配慮することはもちろん、周囲に邪魔されず真剣に話をしやすいため、相手を想う本気度を伝えやすいです。
前述の通り、フィードバックはなるべくタイムリーにおこなうことでより効果が高まります。企業で導入が進んでいる1on1ミーティングなども、フィードバックの数とスピードを上げる施策のひとつです。
率直に言ってくれた方が分かりやすい人もいれば、ストレートに指摘をすると自分を批判されたと落ち込んでしまう人もいます。どんなに正論のフィードバックをしても、正しく受け止められなければ意味がありません。相手にあったアプローチを意識しましょう。
フィードバックで大切なのは、客観的なアドバイスです。そのため、伝える側が漠然とした印象で話をしてしまうと、「それはあなたがそう思っているだけではないか」「この人は全然自分を分かっていない」と逆効果になってしまいます。振り返りの対象期間に起きた出来事や取った行動など、事実にもとづいた話をするようにしましょう。
人事施策としてのフィードバックは相手に学びや気づきを与えて成長を促すものですから、ただの批判の場になってしまっては意味がありません。この状態が続くとフィードバックを受ける側も過度に恐れてしまい、目的を果たせなくなります。
特に本人が簡単に変えられない性格や属性に言及したフィードバックは、相手の尊厳を傷つけることに直結します。個人の自由が尊重されるべき事柄をフィードバックの場に持ち込むのは絶対に避けましょう。
率直なアドバイスや厳しい意見は、相手との信頼関係があってこそ受け入れられるものであり、信頼がない状態では逆効果になってしまいます。そのため、新たに部下をマネジメントする際や教育担当に任命される際は、まずは対象のメンバーと腹を割って話し合えるような関係性をつくることからはじめるのが鉄則です。自分が話すだけでなく、相手の話に耳を傾けながら相互理解を深めていくことが大切です。