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VUCAとは「Volatility:変動性」、「Uncertainty:不確実性」、「Complexity:複雑性」、「Ambiguity:曖昧性」の4つの単語の頭文字をとった造語であり、アメリカとロシアの冷戦が終結した1990年代以降、まずは軍事用語として使用され始めました。
当時の意味合いは、東西対立といった単純な構図を前提に考える軍事戦略から、不確実・不透明で曖昧な世界において、軍事戦略もより複雑なものへと変化することを表すものでした。これが2010年頃からは、経済分野においても使われはじめ、さらに人材育成の現場やマネジメントでも使用されるようになりました。
近年、感染症の世界的な流行、突発的な水害や地震といった自然災害、IT技術の進化による産業構造など、世界の構造はドラスティックな変化を起こしています。
こうした背景のなか、日本企業においても終身雇用や年功序列の崩壊などの変化が起きており、不確実で複雑、不透明で曖昧な社会情勢は、まさに「VUCA時代」ということができるでしょう。
以下に、VUCAの元となっている4つの単語について、説明します。
近年のITを通じたテクノロジーの進化はめまぐるしく、それにともなう新しい事業や価値やビジネスチャンスが生まれています。
たとえば感染症の影響によって、わたしたちのコミュニケーション方法や仕事の進め方が大きく変化しました。具体的には、現在ではすっかり一般化したオンラインミーティングやリモートワークは、ここ数年の間に登場し、瞬く間に浸透したもので、現在はこれまでになく「変動性の高い社会」であるといえるでしょう。
変動性の高い社会では、さまざまなものがあっという間に大きく変化する可能性があります。その変化はしばしば、予測の範囲をはるかに超える大きさとなります。変動性とは、価値観や社会構造の変化、テクノロジーの進化などによって、予測できないほどの大きな変化が起き得ることを意味します。
年功序列や終身雇用制度が崩壊し、能力主義や成果主義といった制度への移行が進んでいます。一部企業では副業も解禁となり、自由な働き方が浸透してきました。また、未知なる感染症や自然災害など、突然起こる予測困難な出来事も多数発生しています。
これまでの常識が過去のものとなり、変化する状況に柔軟に対応できるか否かが、企業にとって重要な課題の一つといえるでしょう。このように不確実性とは、将来の見通しを立てることが難しい状況を意味します。
経済のグローバル化によって社会情勢はより複雑になりました。
それぞれの国によって法律や文化が異なり、日本で成功した事例が海外で通用するとは限らず、逆に海外で成功した事例が日本でそのまま通用するとも限りません。また、紛争などの世界的な問題に対処するためには、国家間の連携も必要となっています。
こうした国家間の関わりの影響の一つとして、他国のインフレが日本へも影響を及ぼすといった事態が発生しています。複雑性とは、経済活動を中心としたグローバル化によって、地球規模で起こる課題が顕在化・複雑化していることを意味します。
納税や契約など、これまで紙媒体や印鑑を必要としていた商取引の世界でもオンライン化が進んでいます。オンライン化は時間効率や作業効率を各段に向上させました。また、広告においてもTVや新聞、雑誌だけでなく、SNSや検索サイトを利用したものなど、さまざまなメディアを活用するものが増えてきました。
これらの変化によって今までの常識が覆され、あらゆる事柄に「確実な最適解」がない状態が通常となっています。曖昧性とは、これまでの常識が通じない状態で、問題に対する絶対的な答えがなく、解釈の可能性が複数あることを意味します。
ここでは、VUCA時代、企業にとって何が必要なのか、3つご紹介します。
VUCA時代のような不確実で曖昧な環境では、企業として向かうべき方向を見失いがちです。そのため、企業は目指す目標を具体的に設定し、何をすべきかを企業全体で共有することが大切です。さらに、組織が追求するミッションが何であるかを明確にすることで、予測困難な時代であっても、各々のメンバーが目標に向かって行動できるようになると考えることができます。特にメンバーを指揮する中心である管理職は、経営層が掲げたビジョンを基にマネジメントすることが大切です。そのことで部下が方向性を見失うことなく、各人の力をチームとしてまとめ、ミッションを実現することが可能になります。
VUCA時代においては、予測不可能で複雑なリスクを管理する必要があるため、マネジメント手法を見直す必要があります。
現在の管理職には、多様なメンバーをマネジメントすることが求められています。部下のなかには、業務委託のスタッフや副業をしている従業員もいるでしょう。リモートワークやフレックス制の活用を促進して誰もが働きやすい環境を整え、さまざまなライフステージや年代の方に活躍してもらう必要があります。このようなメンバーをマネジメントするには、多様性を尊重するダイバーシティの観点をもつことが不可欠です。
こうした変化に富んだVUCA時代に必要なマネジメント手法とは、「信頼を得て主体的に協力してもらえる」サーバントリーダーシップだといえます。
サーバントリーダーシップは相手との信頼関係構築がまず必要であり、正直さと忍耐強さ、やさしさと謙虚さ、相手に対するアサーティブな行動と発言をもとに献身的な行動をすることが求められます。
※アサーティブに関しては、以下の記事をご参照ください
アサーティブコミュニケーションとは?ビジネスでの活用方法、具体例、やり方を解説
日本に浸透している身近なフレームワークの代表例といえばPDCAサイクルです。しかしPDCAサイクルは品質管理や生産管理など、決まった工程の中で生産性を高めることに適しています。変化の速いVUCA時代においては、Do(実行)をCheck(評価)してから、Action(改善)を行うPDCAサイクルでは対応が遅れてしまう恐れがあるでしょう。
そこで、VUCA時代に対応することを目的に開発されたフレームワーク「OODA(ウーダ)ループ」を紹介しましょう。OODAループは先が読めない状況で成果を出すことを目指す意思決定手法であり、アメリカの軍事戦略家・ジョン・ボイド氏が開発しました。OODAループは以下の4ステップで構成されています。
このステップの目的は情報収集です。ポイントは、現場を担当する者や意思決定をする者が置かれている状況、環境、市場動向といった事実だけではなく、関係者の気持ちや感情も、情報の一つとして収集することです。そのため観察をする場合には、先入観や常識に捕らわれずに、客観的に観察することが大切です。
観察によって集められたデータと自身の経験や知識を組み合わせ、今起こっていることを分析して解釈します。ここで重要なことは、前回の判断の誤りに気づくことだとされています。OODAループもPDCAと同様、1回で成功するのではなく、素早く何度もこのループを回すことで最終的に成功に至ります。そのため状況把握の段階で、前回の誤りを踏まえて新たな仮説を立て、次の行動を起こすことがポイントとなるのです。
意思決定には行動を起こすか否かといった判断が含まれます。
この判断は、どのような結果を求めるのかを確認し、取り得る行動の選択肢をできるだけ多く出し、最適で効果的であるものを選択するというプロセスを経ます。
意思決定した行動を実践します。実行した結果にとらわれることなく、ただ行動をやり抜くことだけに集中することがポイントです。行動をして得られた結果は次の観察の対象として評価され、状況把握を通して次の意思決定の判断材料となります。このようにOODAループは繰り返すことが特徴であり、OODAループを使うことで迅速な対応が可能になります。
予測困難な時代に組織として対応するためには、個人の情報収集能力、思考力、行動力のスキルを高めておくことが必要であり、迅速な決断につながるOODAループなどのフレームワークを活用していくことが有効です。また、人材活用をダイバーシティの観点から行うことができるよう、環境の整備に努める必要があります。ここでは、これらを満たすポイントを3つご紹介します。
活力のない組織は、メンバー同士がお互いのことを理解していない傾向にあります。メンバー同士でのランチ会や食事会、情報共有ミーティングなど、相互にサポートし合える環境づくりを進めましょう。また、上司と部下の関係では、定期的な1on1面談やキャリア面談などを通じた対話を行うことも効果的です。
自主性を重んじる組織の中では、部下が自己実現のために責任感を持って業務にあたっている傾向があります。
経営学者であるダグラス・マクレガー氏によって提唱されたY理論では、組織で働く人々の動機づけに関して、そもそも「部下は責任感をもって働くものだ」という認識のもとに、「仕事ぶりをしっかり見て積極的に褒める」ことで、自発的な部下が育ちやすくなり、組織の活性化にもつながるとしています。
組織としての積極性を引き出すためには、実際に困難に直面した際、それを成長の機会と捉えるような風土づくりを行っていくことが大切です。
そのためにはキャリアパスを明確化するだけでなく、専門家によるキャリア支援や、業務の棚卸しをして足りないスキルを身につける「学び直し」の機会の設定など、キャリア形成支援を行うことが重要です。
環境変化に迅速な対応をするためには、組織のメンバーによる自律的、自発的な行動が必要になってきます。常に当事者として与えられた役割以外に上司や職場に働きかけることができるフォロワーシップを育成しておくことがマネジメントを成功させることにつながります。ここでは組織のメンバーにフォロワーシップを身につけてもらうためのポイントを3つご紹介します。
組織に対して無関心な状態では、組織のメンバーからのフォロワーシップは期待できません。組織のメンバーと組織との心理的距離を縮めるためには、できる限り組織情報は公開するよう心がけましょう。管理職と一般従業員とでは、組織内で得られる情報に大きな隔たりがあります。この情報格差をできる限り解消することで、管理職が抱えている危機感、ミッションの重要性などを共有できるようになります。
組織のメンバーの裁量範囲を広げると、「自分の仕事」や「自分の組織」というオーナーシップを持ってもらいやすくなります。そして、仕事に対する自覚と責任が芽生え、組織内での自身の存在意義に気づくことにつながります。
業務遂行にはどのような行動が必要か、そしてその行動がどのような評価基準で評価されるかが明確になっていることが大切です。また、部下にスムーズに業務を遂行してもらうために必要な管理職のサポートについても、事前に明示しておくことで、部下の主体的行動が期待できます。
※リーダーシップに関しては、以下の記事をご参照ください
リーダーシップとは?<意味がわかる!>必要なスキル、理論をわかりやすく解説
変化の速いVUCA時代に求められる人材要件として、「これまでの価値観や知識だけでは対応できないことを前提に未来を創造できる」ことが挙げられます。
より具体的にいえば、複雑化した状況を肯定的に捉え「多様性を受け入れる」こと、自ら情報収集をして「分析できる能力がある」こと、時代に適応した能力やスキルを身につけるよう「学び続ける努力をする」こと、たとえ困難な状況であってもOODAループのような施策を使って「迅速な決定を下せる」こととなります。
現代に必要なマネジメントスキルとはどのようなものでしょうか。それを理解するには「カッツモデル」が役立ちます。カッツモデルとは「コンセプチュアルスキル」「ヒューマンスキル」「テクニカルスキル」という3つのスキルが、マネジメントの階層に応じて比重が変わることを示すモデルです。以下に各スキルの比重がどのように変化するか説明します。
コンセプチュアルスキルとは思考系のスキルです。具体的には、経験したことのない問題が発生した際に、冷静に分析し最適な判断を下すスキルを指します。このスキルを身につけるには、ロジカルシンキングや多面的視野、俯瞰力など複数の要素が必要であり、物事を戦略的に考えて課題を解決していく複合的なスキルとなります。
ヒューマンスキルとは人間関係をつくるうえで必要なものです。
具体的には、周囲とよい関係をつくり、それを維持し、業務をスムーズに遂行していくスキルを指します。指導・育成によって組織を変えていく能力、他人の考えを引き出し理解する能力、自分の考えをアサーティブ(相手を尊重しながら行う適切な自己表現)に伝えていく能力が求められます。
テクニカルスキルとは、業務に必要な知識やスキルのことです。またそうした知識や技術の熟練度を指します。現場に近ければ近いほど顧客への対応や商品開発などのスキルが求められ、ここには労務管理や会計・コンプライアンスといった業務スキルも含まれます。
日本は資源の大多数を海外に依存しており、自国で賄えるものに限りがあります。それだけに他国で起こったことの影響を受けやすく、迅速な判断と対応が求められやすい環境にあります。また、労働環境においても終身雇用や年功序列が崩壊し、能力型での就労や多様な人材の活用など複雑化が進んでいます。
VUCA時代という高い変動性を持ち不確実で複雑、不透明で曖昧な社会情勢を乗り切るためには、新たなマネジメントスキル、リーダーシップ像などを取り入れ、組織も変化していくことが必要です。本稿が自社を振り返るきっかけになれば幸いです。