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BPOとは「business process outsourcing」の略で、企業の業務の一部を専門業者に外部委託することを指します。企画・設計から業務遂行まで、最終的には業務全体の改善まで含めて外部に委託する点で、通常のアウトソーシングとは異なります。
BPOの目的は、企業全体の生産性と収益性を高めることにあると考えられます。BPOの採用によって戦略的に業務を効率化し、付加価値を向上させ生産性を高めることができれば、市場において自社の競争力がより高まるでしょう。
BPOと混同されがちなものに「アウトソーシング」や「BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)」などがあります。
アウトソーシングは、社内業務の一部を外部業者に委託し遂行させることです。
BPOもアウトソーシングの一種といえますが、BPOは業務全体の改善や付加価値の創出、収益性の向上などをより強くねらうものである点が異なるといえます。
では、BPRとBPOの違いは何でしょうか。両者は、業務改革に対する視点が異なるといえそうです。
BPRでは社内の業務内容や流れ、組織、情報システム、管理体制等を見直します。BPRは業務プロセスそのものを抜本的に見直して再構築することを目指すものです。
一方、BPOは社内業務のプロセスを切り取り、一括して外部に委託することで、全体業務の改善を目指します。
では、BPOの対象となる領域にはどのようなものがあるのでしょうか。活用例も含めて一例をご紹介します。
BPOの対象になり得る領域としては、まず、いわゆる間接業務や管理業務が考えられます。代表例は、「経理」「総務」「人事」などです。
これらは企業運営において非常に重要な業務ですが、反面、業務自体は煩雑で手間もかかるため、BPOの対象になりやすい業務といえるでしょう。
BPOの例の一つとして「経理」があります。専門業者にBPOすることにより、毎年改定される税制度に悩まされることも少なくなり、その労力を他のコア業務に振り分けることも可能になるでしょう。
「人材採用」もBPOの活用例の多い分野です。
近年では人材の採用全般を、経験とノウハウが豊富な専門業者に委託するケースが増えているようです。たとえばリクルートでは、人材採用に関わる豊富なノウハウと経験を活用し、企業の採用活動をサポートするサービスを提供しています。
BPOを活用することの多い領域としては、専門的知見を求められ、かつ多くの工数を要する業務があります。代表例は、「マーケティング」「システム開発」「営業」「物流」などです。
これらの業務は特に専門的知見を要し、社内での構築はハードルが高く、十分な人員の投入や確保についても困難な領域であると考えられます。
このような場合において、企業が弱みと認識している業務を、専門知識やノウハウが豊富なBPO業者に委託することは有効な手段の一つといえるでしょう。
BPOを導入するメリットとデメリットには、どのようなものが考えられるでしょうか。大きなメリットは、BPOをうまく活用することで自社のさまざまなリソースをコア業務に集中させることができる点でしょう。
メリット・デメリットの一例を詳しくご説明します。
BPOを導入することで得られるメリットは、主に以下の3つがあります。
・業務にかかる時間やコストの削減
・専門業者からの知見やアドバイス
・コア業務に集中することができる
特定業務をBPOすることにより、人材育成にかかるコストの削減、当該業務にかかる人件費等を変動費化あるいは人件費そのものを削減できる点は、大きなメリットになるでしょう。
ある業務に対して業務効率化を図ろうとしても、なかなかよい取り組みができない場合もあります。BPOであれば、専門業者としての知見やアドバイスが得られやすくなり、より業務がスピーディーとなり、品質も高まる可能性があります。
非コア業務をBPO業者に委託することで、企業は自社のコア・コンピタンスに経営資源を集中させやすくなります。そうなれば、自社の収益が大いに高まることが期待できるでしょう。
次に、BPOの導入によって考えられるデメリットを考えてみましょう。
特定の業務全体をBPO専門業者に委託するため、その業務に関するノウハウが社内共有されにくくなる可能性があります。
BPOの契約が終了となった際に、業務遂行が滞ってしまうかもしれません。
BPOを検討するにあたっては、この点を無視するわけにはいかないでしょう。
BPOに踏み切るにあたり、大規模な組織の変革がともなう可能性があります。場合によっては当該業務に従事する人員の削減という展開も考えられます。
従業員のモチベーションを低下させないためにも、BPOの目的や経営方針に関して従業員に丁寧に説明し、意見を伺いつつ計画・実行することも重要です。
BPOは、サービス事業者によって専門領域や対応業務もさまざまです。事業者を選ぶ際には自社の課題を解決してくれるかについて、慎重に検討する必要があります。以下に選定のポイントを5つご紹介します。
BPOサービス事業者もそれぞれに特徴があり、強みにしている専門領域があります。自社の解決したい課題がマッチしているかどうかは、サービス事業者を選ぶ上で大切なポイントです。その事業者は、自社が委託を検討している業務案件と同様の実績があるか、自社にないノウハウや業務プロセスを十分に提案してくれる事業者かを見極めていきましょう。
導入コストは安いに越したことはありませんが、それ以上に委託する業務量や業務の対応範囲がコストに見合っているのかについて検討することがより重要となります。
たとえば、双方の業務工数の認識が甘いがために、業務に見合わない低価格な見積りを提示されていた場合には問題が生じる可能性があります。結果的にBPOの運用に無理が生じ、かえって業務品質の低下を招く恐れもあるからです。場合によっては契約内容の見直し、最悪の場合はBPOそのものが継続できなくなる可能性もあります。
このようなミスマッチを防ぐためにも、業務工数や内容等の調査は事前にしっかりと行いましょう。
社内で業務のルールを定めても、実際にはその通りに運用されないケースはよく聞かれます。
経費の請求を例にあげてみましょう。
営業担当者が経費の精算をする場合に、経費伝票を起票して経理部門に提出し、万一起票した伝票に不備があれば、経理から営業部門に差し戻して修正対応をするというルールがあるとします。
しかし実際は、ルール通りに運用せずに経理部門が代わりに対応するケースもあるでしょう。
BPOを導入する際には、こうしたイレギュラーなケースが発生した場合の対応についても、踏み込んで検討する必要があります。
BPOサービス事業者と自社の業務をどうすみ分けていくか、上長が不在の場合の決裁方法についてどうするのか。そうしたイレギュラーケースも含めて依頼するのであれば、想定しうる業務について細分化し、個別に対応策を取り決めていく必要はあると思われます。
難しい問題が発生した場合に、BPO事業者がどこまで対応してくれるか、事前に確認しておくことは双方にとって重要なポイントになります。
上記の観点から、いきなり全業務を委託せずに、一部の業務からスタートし様子を見ることも一つの方法といえるでしょう。スムーズに進むようであれば、BPOに委託する範囲を広げていくケースも考えられます。将来的な委託範囲の対応可能性を想定しておくことも、選定基準を考えるうえで有効な手段といえるかもしれません。
BPOの業務によっては、個人情報や機密情報の取り扱いを行うこともあります。受託者のコンプライアンス・セキュリティ体制は事前に確認しておきましょう。たとえば、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証やプライバシーマーク等、第三者機関からの客観的な認証済みかどうかの確認もあわせて行っていくとよいと思われます。
サービス業者によって、BPO導入や立上げ後の安定運用までのスピードは異なります。自社が委託したい業務のひっ迫度に応じて、どれくらいの期間で導入できるか、安定運用できる予定かを確認しておきましょう。
では、BPOの導入効果を高めるためには、どのようなことに留意すればよいでしょうか。ここでは2つのポイントを取り上げて説明します。
自社の業務を細分化し、どの業務がボトルネックになっているのかを見極めることが重要になります。
十分に吟味せずに業務を丸投げしても、結果的によい成果をもたらさない可能性がありますので、注意が必要でしょう。
BPOを導入することにより、特定業務のコスト削減を図ることは重要な考え方です。
しかし、コスト削減はあくまで手段であり、真の目的は企業の生産性を高め、サービスや業務の付加価値を上げることではないでしょうか。
BPOにより、その企業の生産性や付加価値が高まり、結果としてコスト削減も実現できることが理想でしょう。
筆者は介護業界においてコンサルティングサービスを提供していますが、介護業界でもBPOは注目されています。現在は、介護事務全般や、後述する介護報酬の請求業務をBPOで委託するケースが多く、これまでに筆者にも多くの相談が寄せられました。
ここではBPOの導入の一例として、介護業界の状況をご紹介します。
現在、介護業界では、人手不足により現場スタッフが事務仕事といった間接業務を担わざるを得ない状況があります。その中で問題になることが多いのが、介護報酬の請求事務です。
訪問介護や訪問看護、デイサービスといった介護事業所は、都道府県や市区町村から指定を受けて運営しています。介護事業所の主たる収入は、国から給付される介護報酬とサービス利用者が負担する利用収入の2点ですが、国から給付を受けるには、毎月決まった期日までに煩雑なルールにのっとり複数の書類を提出する必要があります。
現場スタッフが日々の介護サービス提供の傍らでこれらの請求事務を行うのは、大きな負担になっているのが実情です。
そのため近年では、介護報酬の請求事務をBPOによって外部へ委託するケースがみられるようになってきました。
さらに事業所によっては、利用者へ毎月発送する請求書や各種書類の郵送等も、BPO事業者に委託するケースも増えてきています。
事務業務をBPOすることにより、事務員が急に退職しても業務が停滞することなく、毎月の人件費の削減も見込めるため、経営資源を介護サービスの質の向上に振り分ける効果が期待できます。
この介護業界の例をはじめ、BPO活用の動きは、今後ますます広がっていくのではないでしょうか。