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賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいいます。一般的には企業が多くの利益を上げたときに、従業員にその利益を還元するために支払われる一時金を意味します。
海外では、業績を上げた人に特別に支払われる一時金のイメージが強いのに対し、日本では金額に差はあるものの、定期的に与えられる給与の一つと捉えられるケースが多いようです。
定期的に支払われる賃金とは異なり、法的な規定がないため、就業規則などを基に企業が独自に支払回数や額などを決定することができます。
賞与とボーナスは、ほぼ同じ意味で使用されています。国税庁では、「賞与とは、定期の給与とは別に支払われる給与等で、賞与、ボーナス、夏期手当、年末手当、期末手当等の名目で支給されるものその他これらに類するもの」と意義付けられており、ほぼ同義で使われています。
正社員、契約社員、パートタイマーなど、どこまでを賞与の支給対象とするのかは、企業の裁量で決定することができます。
どれくらいの差があるのかは、厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査」による、雇用形態別にみた「年間賞与その他特別給与額」でわかります。企業規模10名以上の民間企業で働く人を対象とした調査では、正社員・正職員のボーナスの平均額は大学卒で年間約130万2,700円、高専・短大卒で102万1,200円。それに比べて、正社員・正職員以外で働く人のボーナスの平均額は、大学・大学院卒で年間約35万7,300円、高専・短大卒で23万7,800円と、数十万円〜100万円近い金額の差があることが見て取れます。
参考: 厚生労働省:「令和2年賃金構造基本統計調査」
賞与には、次のような例があります。
かつて日本では、「基本給の◯ヶ月分」といった計算により支払う基本給連動型の賞与が一般的でした。基本給は月給とは違い、手当などを除いた金額になりますので、同じ月給25万円でも基本給25万円の場合と、基本給20万円+手当5万円では、賞与の金額も変わってきます。
組織や部門、個人の業績に連動して支給される成果主義型の賞与です。成果主義へ移行する企業の多くが採用しています。業績に応じて支払われるため、企業にとっては経営の安定化を図ることができ、従業員にとってはモチベーションアップにつながりやすいという魅力があります。
決算月の前後に業績に応じて支給される賞与です。業績が好調な場合、社員に利益還元を行う目的で決算賞与が支給されます。
会社によって、賞与と月給のバランスはさまざまです。もし同じ年収であれば、賞与が多いのと月給が多いのとどちらが良いかは、個人の好みやマネープランの立て方などによって変わってきます。ちなみに社会保険料に関しては、「1年に賞与を4回以上支給する場合には、それは賞与ではなく報酬として月額賃金に加え、それをもとに保険料を計算する」という法律があります。つまり年間を通じた支給額が同じであっても、賞与の有無や回数によって社会保険料は変わってきますが、通常であればその差はそれほど大きいものではありません。若干差が出てくるのは、月給から算出される時間外手当や割増賃金です。月給に比例しますので、月給が多い方が年収金額も増えることになります。
賞与は、法律によって支給が義務づけられているものではありませんので、何ヶ月分払うべきか、各企業で決定できます。
厚生労働省の「平成30年賃金構造基本統計調査」によると、企業規模10名以上の民間企業で働く人の平均「年間賞与その他特別給与額」は104万2,100円、平均「所定内給与額」は32万円となりますので、算出すると年間で約3.2ヶ月、夏と冬の2回にわけると平均1.6ヶ月となります。大企業と中小企業では差があり、企業規模100名以上では年間で4.1ヶ月(半期で2.05ヶ月)、9名以下では年間1.6ヶ月(半期で0.8ヶ月)となりました。
「支給対象時期」「賞与の算定基準」「査定期間」「支払方法」は、就業規則や労働協約、労働契約などに記載し、それに従って支払いを行います。企業によってその計算方法が様々ですので、以下はあくまで一例としてご参考ください。
「基本給の◯ヶ月分」「基本給の◯%分」といった客観的な計算式で賞与額を決めるケースが多いです。
まず企業としての賞与総額を決めるために業績指標として以下がよく使われます。
この業績指標をベースに賞与総額を決定し、各個人への個別賞与額を算出していきます。
賞与総額の算出方法には大きく二つの方法があります。
一つは、業績指標に基づいて算出した利益比率とそれに連動した平均支給月数を決めておく方法です。たとえば、半期売上高対経常利益比率が〇%だった場合は、半期賞与支給月数は平均〇ヵ月といった形です。この方法の場合、半期の売上高経常利益比率が上がると、それに伴い半期賞与支給月数も上がりますので、業績を賞与に反映しやすいというメリットがあります。
もう一つは、業績指標にあらかじめ決めておいた一定の係数を乗じることによって賞与総額を算出する方法です。シンプルな方法ではあるものの、運用面では賞与額を柔軟に調整できないという部分もあり、前者の方法を使う企業が多い傾向にあります。
特に決まりはなく、各企業で査定期間と支払い時期を定めています。そのため会社によって異なりますが、6月または7月に夏の賞与支給、12月に冬の賞与支給が行われるケースが多いです。
その場合、夏のボーナス査定期間は前年10月〜3月まで、冬のボーナス査定期間は当年4月〜9月まで行われることが多いです。査定期間からボーナス支給月まで期間が空きますが、ボーナスの支給額の計算を行うための期間で、労働者数が多い大企業であるほど査定する期間が必要になります。 夏と冬の年2回支払う企業のほか、支給回数3回以上、年度末に1回支払うといった企業もあります。
賞与は、額面どおりに支給されるわけではありません。「社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料・介護保険料・雇用保険料)」と「所得税(源泉所得税)」が天引きされた金額が手取り額となりますので、以下で計算できます。
賞与(手取り額)= 総支給額-(社会保険料合計+源泉徴収税額)
社会保険料は、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上の場合)、雇用保険料の4つで構成されます。賞与額から1,000円未満の端数を切り捨てた金額(標準賞与額)に、それぞれ保険料率を掛けて計算します。
健康保険料=標準賞与額×保険料率
※健康保険料は、事業主と被保険者が半分ずつ負担します(労使折半)。
健康保険料の保険料率は加入している健康保険によって異なるので注意しましょう。たとえば中小企業の多くが加入している「協会けんぽ」は全国健康保険協会が運営しており、保険料は以下サイトよりご確認いただけます。
参考:「令和2年度保険料額表(令和2年9月分から)」全国健康保険協会
一方、大企業は自社やグループ会社全体で健康保険組合を設立している場合が多く、3.0%~13.0%の範囲内なら健保組合ごとに保険料率を決めることができます。また、事業主と被保険者の負担割合も、組合の実情により、自主的に決めることができます。
たとえば賞与50万円、保険料率が10%、事業主と被保険者が半分ずつ負担する場合は、以下のようになります。
50万円×10 %×1/2=2万5,000円
厚生年金保険料=標準賞与額×保険料率
※厚生年金保険料は事業主と被保険者が半分ずつ負担します(労使折半)。
厚生年金保険の保険料率は毎年改定されてきましたが、平成29年9月分(10月納付分)からは固定となっています(18.30%で固定。厚生年金基金加入員を除いた、一般・坑内員・船員に適用)。
たとえば賞与50万円の場合は、以下のようになります。
50万円×18.30%(一般の被保険者)×1/2=4万5,750円
出典:厚生年金保険「○令和2年9月分(10月納付分)からの厚生年金保険料額表(令和3年度版)」
介護保険料=標準賞与額×保険料率
※介護保険料は、原則として、事業主と被保険者が半分ずつ負担(労使折半)。
介護保険の第2号被保険者(40歳以上65歳未満)の資格取得日は40歳の誕生日の前日で、誕生日の前日が属する月から介護保険料が徴収されます。
協会けんぽの令和3年3月分(4月30日納付期限分)からの介護保険料率は「1.80%」です。
たとえば賞与50万円の場合は、以下のようになります。
50万円×1.79%×1/2=4,475円
雇用保険料=賞与額×保険料率
雇用保険料率は事業の種類のほか、事業主か被保険者であるかによっても異なり、保険料率は毎年見直されます。
令和2年4月1日~令和3年3月31日の保険料率は以下の通りです。
たとえば賞与50万円、一般の事業の労働者負担の場合は、以下のようになります。
50万円×0.3%=1,500円
保険料の計算は一見複雑そうに見えますが、仕組みを理解し、正確に計算をしていけば問題ありません。法的な規定がないため、企業の裁量で決定することのできる賞与。基礎知識を持って就業規則に正しく記載し、従業員との間のトラブルを未然に防ぎましょう。