ハイキャリア領域 シニアコンサルタント(ニュービジネス領域専任)
新堂 尊康
大手電器部品メーカーにて営業実績を積んだ後、2008年にリクルート(旧:リクルートキャリア)へ入社。東海3県における製造業専任コンサルタントとして従事し、大手から中小企業まで幅広く担当。
2013年より、東海エリアの責任者として事業を推進。
2016年より、「宇宙・ロボティクス・AI/IoT」をはじめとしたニュービジネス領域のシニアコンサルタントとして従事。
政府も『宇宙戦略ビジョン2030』を掲げ、関連企業を支援
ファッション通販サイト『ZOZOTOWN』を運営するスタートトゥデイの前澤友作社長が、民間人で世界初となる月の周回旅行を2023年予定で計画していることを発表し、話題になっています。
宇宙関連事業といえば、これまではいわゆるBtoG……政府を相手に国策を支援するものであり、一部の重工・エレクトロニクスメーカーなどにしか縁のないものでした。
ところが、今では世界の宇宙ビジネスの市場規模は年間38兆円ともされ、高い成長を遂げています。
GoogleやAmazonも宇宙ビジネスに乗り出すなど、プレイヤーの業種の裾野が広がってきました。
それに伴い、宇宙ビジネスに関わる求人も増加。有効求人倍率で見ると、2014年6月には「1.00」だったのに対し2018年同月では「1.44」まで伸びているのです。
日本政府は2017年5月、『宇宙戦略ビジョン2030』を公表。2018年3月には宇宙ビジネスの開発に取り組むベンチャー企業向けに1000億円の支援枠を新設しました。
これからは宇宙関連ビジネスを巡り、人材流動が加速していくと思われます。その採用対象は、組込・制御・ソフトウェア開発エンジニア、SE、データサイエンティスト、電気エンジニアなど多様。一部企業では、ビジネス企画・開発に関わる人材のニーズも出てきています。
「自分には関係がない」と思っている方も、実は経験・スキルを活かせる可能性があります。このチャンスを見逃さないでいただきたいと思います。
ここからは、具体的な求人分野、活かせる経験、転職事例などをくわしくお伝えしていきます。
人工衛星や宇宙空間を利用するサービスが増加
宇宙に関わるビジネスといえば、これまでは主に「宇宙機器産業」でした。打ち上げ用ロケット、人工衛星やその部品の製造です。この分野の求人は機械エンジニアが中心で、重工メーカーやベンチャー企業が引き続き採用を行っています。
次に伸びてきたのが「宇宙利用産業」。人工衛星を利用してデータ の送受信を行い、通信・放送、リモートセンシング(遠隔からの測定)に活かすものです。衛星の小型化、打ち上げの低価格化によって利用度が高まり、関連事業が発展していることから求人も増加しています。
分野の一例を挙げると、
●地球を広範囲に調べる……「天気予報」「農作物の生育予測」「気候変動の監視」等
●時と場所を選ばずに通信を行う…… 「衛星通信の整備」「衛星放送」「災害時の通信」「移動通信」等
●高精度な位置情報を検出する……「現在地検索」「位置情報ゲーム」「郵送補助サービス」「効率的な測量」等
さらには、宇宙空間でサービスを行う新たな宇宙産業も登場しており、2017年頃から求人数が伸び始めました。例えば次のような分野です。
●地球とは異なる環境下で物を作る……「宇宙太陽光発電」「医薬品の開発」
●地球にない資源を獲得する……「資源探索」
●地球で出来ない体験をする……「宇宙旅行」「人工流れ星」等
「宇宙旅行」などはまだまだ遠い夢物語のように思えますが、実は大手ゼネコンでも月に宿泊施設を建てる構想を持ち、20年も前から部門を設置して取り組みを進めていたりもします。
今後、ロケット打ち上げなどのコスト削減が進めば、さらにビジネスの可能性が広がっていくでしょう。
組込・制御 ソフトエンジニア、データサイエンティストなどのニーズ大
では、今、宇宙関連ビジネスで活躍できるのはどんな職種分野の人材か。
宇宙関連の募集職種は、ここ数年で大きく変化しています。以前は募集職種のうち7割近くが機械エンジニアでしたが、現在は以下の職種の割合が高くなっています。
組込・制御 ソフトウェア開発エンジニア
人工衛星や資源探索機のソフトウェア開発・システム設計を担います。C/C++でのファームウエア開発の経験が主な採用ターゲット。自動車・電機・精密機械メーカーからファームウエア経験者が転職を果たしています。宇宙関連システムというと特殊な開発環境で行われていると思われがちですが、意外とオープンソースを使った開発も多いのです。
最近の転職事例では、大手エレクトロニクスメーカーのソフトウェアエンジニアの方が、自動車メーカーの内定を断って宇宙ベンチャーに入社されました。その方が言うには「大きな組織の中で、方針が決まったものをどう推進するかを考えるよりも、メンバー一人ひとりが『新しいものを自分の手で創る』という気概を持って取り組んでいる環境に魅力を感じた」とのことです。他にも、宇宙ビジネスに転身するエンジニアの皆さんからは「未知の領域なので、他分野以上に技術革新の可能性が広がっている。そこにチャレンジできるのはワクワクする」といった声が聞こえてきます。
SE/データサイエンティスト
衛星から取得される観測画像・データの解析を行います。大量の画像データの解析、統計学や機械学習、データ分析の経験を持つ人材が求められています。Webサービス、医療機器、カメラメーカー等での画像解析経験者が転職している事例が見られます。
電気エンジニア
電子回路開発 人工衛星の開発でニーズが増加。アナログ・デジタル混在回路や装置の設計・解析経験者が求められており、医療機器・半導体装置メーカー出身の方が採用されています。
ビジネス企画・開発
宇宙を利用した新たなビジネスを開発するポジションも、企業は限定されていますが求人があります。宇宙関連ベンチャーの社長にはコンサル出身者の方が多いということもあり、このポジションにはコンサルティングファーム出身者がマッチするようです。
宇宙ビジネスで得られる経験は汎用的。キャリアの広がりが期待できる
今、宇宙関連ビジネスに転職を図るとすると、大手企業、ベンチャー企業、いずれの選択肢もあります。
特に「データ活用」の領域に関しては大手の求人も多く見られます。
しかし、ベンチャー企業への転職を検討する価値も十分にあります。多くの方がベンチャーに対して抱く不安については、「実は心配無用」というものが多いのです。
例えば、「ベンチャーは潰れるかもしれない。特殊領域なのでその次につながらないのでは」「宇宙関連の経験を積んでも、つぶしがきかない」と思う方もいらっしゃいますが、実はこの開発環境で積む経験・スキルは皆さんが想像する以上に「汎用的」です。ソフトにしてもハードにしても、それなりに厳しい条件下でプロダクト開発を行うので、その経験は自動車、エレクトロニクス、家電など幅広い領域で活かせます。もちろん、宇宙ビジネス全般が衰退することは考えられませんので、他の宇宙ベンチャーに移る道もあるでしょう。
また、外国人スタッフが多い企業が多いため、語学力を磨ける環境でもあります。
宇宙ベンチャーの中でも、ひときわ存在感を強めている株式会社ispaceでは103億円の資金調達を実現しています。これはベンチャー企業の資金調達額として史上3番目の規模だそうです。
今後も技術革新や新しいビジネスモデルによって台頭してくるベンチャー企業が増える可能性があります。早い段階でこの業界に飛び込むことで、この先、思いがけないキャリアが広がるかもしれません。ぜひチャレンジしてみていただきたいと思います。