永田 慶
コンサルタント
エージェント事業本部 ハイキャリア統括部
ハイキャリア・グローバルコンサルティング2部
【プロフィール】
理工学部機械工学科卒業後、モーターサイクルの生産技術者として、ラインの立ち上げや設備導入、工法開発に従事。2006年、リクルートエージェント(現リクルートキャリア)に入社。キャリアアドバイザーとして、製造業の技術者の転職支援を行う。2010年より、製造業のハイキャリア領域のコンサルタントとして企業の採用支援および個人のお客様の転職支援を手がける。得意分野は、機械・メカトロ・電気電子分野の研究、設計開発、生産技術、生産管理、品質管理、品質保証、工場長など。
「仕組み作り」「改善」のスキルを活かし、異業界へ
生産技術、工場マネジメント、品質管理――これらは経験と実績が重要な領域であり、転職市場では40~50代ミドル・シニア層の経験者が求められています。
「数々の問題や困難を乗り越えてきた人材に、課題を解決してほしい」という求人が数多くあります。
求人企業の業種は多様。近年勢いづいているのは電子部品業界や医療機器業界などです。
また、意外に思われるでしょうが、外食や小売業界でも、生産関連の管理や改善を手がけてきた人材のニーズがあります。外食チェーンでは店舗オペレーションの自動化、大手小売企業では自社ブランド品の開発・製造を背景に、技術系人材を求めているのです。
求職者の皆さんに求人をご紹介すると「私がこんな業界に行けるのですか?」と驚かれますが、製造現場における「仕組み作り」「QCD(Quality・Cost・Delivery)改善」のご経験は、異分野でも重宝されます。
実際の転職事例として、大手自動車部品メーカーで生産技術部長を務めた50代の方が、食品メーカーの工場マネジメントのポジションに迎えられました。その方は、役職定年が間近に迫り、「まだまだ最前線で働きたい」と、転職を決意。「生産性向上のための仕組み作り」「常に改善を目指す風土作り」というミッション、そして60歳を超えても活躍でき、役員への昇進可能性もあることにやりがいを感じて入社を決められました。
近年、製造業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)やロボット化が話題となっています。
「転職するには、それらの経験が必要なのでは」と考える方もいらっしゃいますが、多くの企業はそれ以前の課題を抱えているのが現実です。デジタル化の前に、現場のマネジメントを改善し、仕組みを整え、人材育成ができるリーダーが必要とされているのです。
そうした企業は中小企業が多く、大手出身の方は不安を口にされることもあります。しかしながら、「裁量権を持てる」「経営に近い」「自身の働きが業績に直結する」などの点は魅力と言えるでしょう。
また、中小規模ながら、特定分野ではトップシェアを誇る企業もあります。そうした企業がこの先グローバルで勝ち抜いていくための体制整備に貢献できるやりがいを感じられるのではないでしょうか。
一方、外食や小売などの企業には、技術者がいなかったり、ごく少数であったりします。メーカーから転職した方からは、「希少人材として頼られるのが嬉しい」という声が聞こえてきます。
先入観や固定観念を取り払い、可能性を広げる
このように、皆さんが思う以上に、生産関連のご経験を活かす選択肢は多様です。
だからこそ私は、皆さんと面談させていただく際、先入観を持たないように心がけています。
この分野の転職支援を長く経験しているため、「この企業のこの職種の方なら、こんな志向を持っているのでは。こんな求人が合うのでは」と、ある程度の想像がつきます。しかし、そうした先入観に縛られると、その方の可能性を狭めてしまうからです。
求職者の方が提示される希望条件に対しても同様です。例えば、「希望勤務地は○○」とおっしゃっていても、実は「面白い仕事ができるなら勤務地は二の次」というケースも多々あります。
ですから、想像の範囲を広げ、幅広い選択肢をご提供したい。求職者の方が気付きを得られる場面、さまざまな企業と出会える機会を生み出すことが、私の介在価値だと考えています。
同時に、求職者の方自身が持っている先入観や固定観念を取り除くお手伝いもしています。
ミドル・シニアの皆さんは、求人票の内容を見て「自分の経験に合わない」と判断したり、「うちの会社はこうだったから、この会社もこんな状況だろう」と解釈したりすることがあります。しかし、それはもったいないことです。
応募して会社を訪問すると、想像とまったく異なっていることはよくあります。また、「あなたの経験であれば、募集している部門ではなく、別の部門で活かせる」と、求人票とは異なるポジションで迎えられるケースもあるのです。
せっかくの可能性をご自身の固定観念によってつぶしてしまわないように、転職する・しないに関わらず、まずは行動を起こしてみてはいかがでしょうか。
「モノ作り」は奥深い。モノ作りを通じた「人作り」に貢献したい
私自身、エンジニア出身です。機械工学科を卒業後、輸送機器メーカーで生産技術を担当していました。
しかし、モノ作りは好きですが、技術を突き詰めていくタイプではないと気付き、エンジニアの人生や企業の成長に貢献できるこの仕事に転職しました。
技術や生産現場を理解していること、エンジニアの価値観や志向に共感できることが、転職コンサルタントとしての私の強みであると自負しています。
エンジニアの皆さんが置かれた立場がわかるので、「転職ではなく、社内異動で新たな経験を積む道もあるのでは」などとご提案することもあります。
私がこの仕事への想いを強くした、ある経験があります。
2016年から2年間、リクルートとトヨタの合弁企業へ出向。企業に向けた、トヨタ生産方式をベースとする生産性改善・組織変革・人材育成のコンサルティングに従事しました。
このとき、トヨタの現場で40年の経験を積んできた方との協業を通じ、「モノ作り」と、モノ作りを通した「人作り」の奥深さ、面白さを実感したのです。
「製造現場は、人によって強くなる」――そんな確信を持てたからこそ、私はこれからも技術者や製造業の発展のために貢献していきたいと考えています。