『リクナビNEXT』編集長
藤井 薫
『リクナビNEXT』編集長。1988年リクルート入社以来、人材事業のメディアプロデュースに従事。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長、リクルートワークス研究所Works編集部を歴任。
リクルート経営コンピタンス研究所兼務。
「技術」と「生身の人間」が共進化する時代へ
未来の「働く」を考える際、“避けられない質的な変化”があります。
一つ目は、「Technology(技術)」による産業構造の変化です。
過去、人類は3回の産業革命を経験しました。
18世紀に起こった第1次産業革命は、水力や蒸気機関による工場の機械化、19世紀の第2次産業革命は、分業に基づく電力を用いた大量生産、そして20世紀、1969年ごろに起こった第3次産業革命では、電子工学や情報技術を用いたオートメーション化が起こりました。
これらにより、機械による人間の力の「代替」や「拡張」が進み、人の力ではできなかったことがどんどん実現できるようになりました。
そして今、まさに始まりつつあるのが「第4次産業革命」。この第4次産業革命では、デジタルと物理、そして生物(人)が融合することで人間の能力が刷新される、と予測されています。
AIの世界的権威であり未来学者のレイ・カーツワイル氏は、「今後100 年の間に、これまでの2 万年分に相当する発展が起こり、人類は未踏の知性を得る時代になる」と語っています。
現時点でも、誰もがスマートフォンを手放せない時代になっています。黙っていてもスマホのOSはアップロードされていき、技術を否定したくても日常生活を送るうえで活用せざるを得ない。
こういう状態がさらに進展し、「技術」と「生身の人間」が切っても切り離せない時代になると見られています。
映画やアニメに登場する、まるで人間のように動き、話し、思考するロボットも、もはや空想科学の中のものではなく、私たちの生活に入り込み、人間と日常的に共進する世界が近づきつつあります。
デジタルと物理、そして人が融合すれば、仕事の定義やビジネスパーソンに求められる力や役割も変わるはず。そして早晩、「人間であることが何を意味するのか?」すら問われる時代がやってくるでしょう。
「こんなこと、現実に起こるのか?」と思われるかもしれませんが、振り返ってみてください。今や当たり前の技術となったホログラムやVRが、一般に浸透したのはここ数年です。
今、皆さんが日常的に使っているメルカリは、わずか5年前に創業したばかり。Uberも、アメリカで誕生したのは9年前ですが、日本に登場したのはわずか4年前です。
5年前、10年前に今の状態がまるで予測できなかったように、今後5年先、10年先を予測するのは難しく、その頃の仕事の大半はニュージョブ、ニューワークであるという可能性が大。こんな時代を生きていくのだということを、私たちはもっと認識したほうがいいでしょう。
キャリアの主権が「企業から個人」に移動する
もう一つの“避けられない質的な変化”は、「Society(社会構造)」の変化です。
日本では、超高齢化社会が進行し、逆ピラミッド型の人口構成が問題視されていますが、高齢者は以前に比べて確実に若返っています。
スポーツ庁が実施している「体力・運動能力調査」によると、高齢者の運動能力は年々向上し、今の70代前半の能力は、14年前の60代後半とほぼ同じ、つまり5歳若返っているそうです。経済産業省の調査でも、日本の健康寿命の長さは世界一であり、「健康に過ごせる老後の期間」がどんどん伸びていることがわかります。
つまり、70代、80代になっても働き続ける人が増えるということであり、一生涯において20歳ぐらいから80歳近くまで、60年間ぐらい働くのが当たり前になる、と予想されます。
一方で、企業の寿命は短命化しています。
ある格付け会社の調査によると、1960年代には約60年だった企業寿命が、現在では20年を切っているといいます。個人の「職業寿命」と「企業寿命」のバランスが崩れ、単純計算では一生のうちに4回は働く場所を変えないといけない、ということになります。
これらが意味しているのは、求人マーケットにおいて、「主権が企業から個人に移動する」ということ。
会社にしがみついていれば、会社が最後まで面倒を見てくれた時代は完全に終わり、個人のライフステージやライフワークにフィットした働き方を追求する時代がやってきます。会社に依存せず、個々が自分自身の力で輝ける時代とも言えます。
その際、Technologyと共進することも重要です。前述の通り、今後一段のTechnologyの進展は不可避。Technologyをうまく活用しつつ、自身の持ち味を活かしながらキャリアのオーナーシップを握ることが、個人がイキイキ働けるカギになると考えています。
今回紹介したこれらの「環境の変化」を踏まえ、今後は「企業と個人の関係はどう変わるのか」「具体的に個人は、どういう働き方を選択すればいいのか」についても解説していきます。お楽しみに。