「新たなステージでキャリアを高めたい」「今の会社とは別の可能性を探したい」…。そんな理由から、30代後半で初めて転職を考える方も少なくありません。「この年齢で望む転職は可能だろうか?」という不安を抱える求職者にありがちな「5つの疑問」に、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏が回答。現代の30代後半の転職事情を解説していただきました。
目次
【疑問1】30代後半に転職するのはやっぱり難しい?
求人数は年々増えてチャンスは広がっている
結論から言うと、30代後半の転職は簡単とは言えないものの、無謀でも無茶でもありません。確かに一昔前まで「転職は35歳が限界」と言われることもありました。しかし少子化に伴う社会の変化の中で、30代後半という年齢に対する転職市場の捉え方も「まだまだ、これから長く活躍できる人材」へと変化してきています。
例えば、厚生労働省が公表する「一般職業紹介状況」で2000年と2019年の年齢別の「有効求人件数」を比較してみると、25~29歳を対象とする求人数が約7.7%の増加だったのに対し、35~39歳は約28.1%と、この20年間で3割近くも増えています(いずれの年代も人口は減少)。このように、中途採用で30代後半を求める求人は増えているため、転職できるチャンスも以前よりグンと増えたと言えそうです。
出典:一般職業紹介状況(職業安定業務統計)「年齢別労働市場関係指標(実数)」(厚生労働省)
30代後半の強みを活かせる転職がカギになる
ただ、求人数が増えても、実際に採用に至るかどうかはまた別の問題です。ポテンシャルで採用される余地のある20代〜30代前半に比べて、30代後半の転職は即戦力性が高く、年齢に相応しい知識やスキルが求められます。求人数は多くなっても、企業側の求める基準が高く、採用に際しては慎重になる傾向があることに変わりはありません。
しかし裏を返せば、積み上げてきた経験・スキルがマッチすれば、希望に合った転職ができる可能性は十分にあります。例えば後輩や部下の育成、会社全体の組織戦略や事業計画、そして多くの社員を巻き込みながら目的達成を目指すには、豊富なビジネス経験や専門知識、実績に裏付けられた信頼が強みになります。こうした役割には20代の若手よりも、経験豊富な人材が求められることが多いはずです。30代後半という年齢に見合ったスキルをアピールできれば、転職において不利を感じることは少ないでしょう。
【疑問2】30代後半で未経験での転職はできる?
同業界・同職種なら転職しやすいとは限らない
前述のように20代の転職はポテンシャルが評価されるのに対し、経験を積んだ30代後半の場合は、即戦力になれることや、部下の指導・育成といったマネジメント経験を求められる傾向にあります。企業には30代の中途採用者を一から育成する余裕はないので、異業界・異職種を目指す「キャリアチェンジ」へのハードルは高くなります。もちろん不可能ではありませんが、「○○に挑戦したい」という純粋な興味関心のみで未経験の分野へ転職しようとすれば、苦戦する可能性は高いでしょう。
そうした理由により、30代後半の転職は同業界・同職種を選ぶ人が多いのは事実です。しかし逆に言えば、同業同職種の募集には自分と経験・スキルが似ている人が数多く集まるため、その中で「違い」を出していかなければなりません。特に管理職に近いポジションでは、企業風土や組織の構成員との相性、人柄も評価され、総合的に選考基準は高くなることでしょう。同業同職種であれば採用されやすいかというと、必ずしもそうとは限らないのです。
経験・スキルを分解して選択肢を広げよう
これはどの年代の転職にも言えますが、最初から同業同職種に絞って活動をするのではなく、今までの自分の仕事と接点のある異職種や異業種にも目を向けることで、新たな可能性が見つかることがあります。特に近年は業種や規模に関わらず、新規事業として異業種に乗り出す企業も増えており、リーダーやマネジメントの経験者を異業種から採用する動きも多く見られます。
転職先の選択肢を広げるためには、今までの経験・スキルを細かく洗い出してみましょう。取り組んで来た仕事を時系列で書き出し、「いつ」「どこで」「だれと」「何を」「なぜ」「どのように」と5W1Hで分解する方法もお勧めです。未経験分野の求人であっても、例えば「営業スタイル」「顧客の業界」「商品の価格帯」「マネジメントの対象者」といった接点や共通項を見いだすことができれば、「自分の経験やスキルが活かせるのではないか?」と目を向けることができます。今まで思いもよらなかった業界や業種に、選択肢が見つかるかもしれません。
【疑問3】実績やマネジメント経験がなくても転職できる?
再現性や創意工夫があるかどうかが重要
30代後半になると、現職で大きな実績を上げたかどうかや、マネジメントの経験があるかないかが、転職の選択肢に大きく影響するのは事実です。ただしこの場合も、単に実績やマネージャーの肩書きが「ある」というだけで有利になるとは限りません。
例えば、「優秀な営業成績を収めた」という人でも、その成果を出すために何を考え、どうアプローチしたのかを聞くと、理論的に説明できないことがあります。また、「マネージャーとして50人のスタッフをまとめてきました」と主張しても、自身に決定権がなく、上からの指示を下に下ろすだけの管理職だったというケースもあります。こうした場合、企業には「再現性がない」「スキルに繋がらない」と判断されてしまうかもしれません。逆に目覚ましい実績や役職がなくても、着実に成果を上げた独自の創意工夫や、何らかのプロジェクトのマネジメントでリーダーシップを発揮した経験は、評価の対象になるでしょう。
積み重ねてきたものの中に必ず強みがある
「転職でアピールできる実績や経験がない」と自信が持てない人の中には、本当は評価される強みがあるのに、自分が気づいていないだけというケースも少なくありません。そんなときは仕事の中で最も印象的だった経験や、人に語りたい経験を探してみましょう。よく自己分析に使われる「モチベーショングラフ」をイメージし、十数年のビジネス経験の中で、自分が何に取り組んでいたときにモチベーションが高かったかを振り返ってみてください。
たとえ「売上○%アップ」や「業務効率化○%」といった結果が出てなかったとしても、自分なりに仮説を持って取り組んだことや、失敗の中にこんな学びがあったなど、独自の成果を洗い出すと良いと思います。積み重ねてきたキャリアの中で、いちばん一生懸命取り組んだプロジェクトや活動には、必ずアピールポイントに繋がるものが見つかるでしょう。
【疑問4】30代後半に転職すると年収はどうなる?
「収入アップ」を実現している人が4割近くいる
2019年の厚生労働省の調査によると、35歳〜39歳の転職者のうち、前職よりも収入が「増加した」人が39.5%、「変わらない」人が30.2%、「減少した」人が29.6%。この年は収入増が全体の4割近くと多めでしたが、平均すると1:1:1くらいの比率になることが多いようです。その意味で、収入は必ず上がりはしませんが、さほど悲観することもないのではないでしょうか。
収入が上がるケースには、例えば事業会社からコンサル会社など、前職よりも年収水準が高い業種への転職も考えられます。ただ、未経験職種や業界を目指すキャリアチェンジ転職の場合、前職より収入が下がることも少なくないようです。
出典:平成30年雇用動向調査 「転職入職者の賃金変動状況別割合」(厚生労働省)
収入と転職満足度は必ずしも一致しない
一方で、たとえ年収が下がっても満足している方はたくさんいます。例えば、「転職先で役職が上がった」「経験できる業務内容が高度化し、キャリアの価値が高まった」「リモートワークができるようになった」「ノルマが楽になり、営業が楽しくなった」など、転職において優先していた条件が達成できた場合、特に満足度が高いようです。
ただこれは30代後半に限りませんが、ご家族がいる場合、基本的に転職活動をする際には独断で進めず、必ずご家族の同意を得ておくことが重要です。特に収入減も考えられる転職であれば、教育費や住宅ローンなど、支出の見通しをしっかり立てておくことをお勧めします。
【疑問5】転職活動にはどのくらい時間がかかる?
年齢が高いほど選考に時間がかかる傾向に
ケースバイケースではありますが、一般的に転職活動を始めてから新たな企業へ入社できるまでには、だいたい3カ月〜半年は必要だと言われています。
しかし前述したように、30代後半を想定した求人は選考基準が高くなるため、20代の転職に比べると、まず書類選考を通るのが難しくなります。面接に進んでからも、若手社員の採用なら部長クラスの人が最終面接をすることもありますが、課長職や部長職の採用になると、社長や役員が最終面接に対応する企業も多くなります。選考内容を慎重に検討されるうえ、度重なる日程調整が必要になるため、結果が出るまでには時間がかかる傾向があります。
長期戦も視野に入れながら慎重に進めよう
加えて転職活動では、必ずしも希望するタイミングで自分にマッチする求人が出るとは限りません。こうしたことから、少しでも時間に余裕があれば焦って決着させようとせず、半年くらいは時間をかけることも想定して転職活動をすることをお勧めします。
ただし注意したいのが、長期戦になって精神的・体力的に疲れてしまうと「取りあえず内定が出たところに決めてしまおう」という判断になりやすいことです。その転職がミスマッチに発展し、さらに転職を繰り返すことになれば、転職成功の難易度はもっと上がってしまうでしょう。30代後半の転職は「納得できるまで粘り強く続けよう」という姿勢も大切だと思います。
30代後半の転職は転職エージェントを有効活用しよう
情報の精度が高く、効率的に活動できる
30代後半は自身の業務範囲が広がり、部下や後輩の管理・指導も任されることが多いため、仕事と平行して転職活動をする時間を捻出するのが大変なケースもあるでしょう。そうした場合には、ぜひ転職エージェントの利用をお勧めします。転職エージェントを利用すると、求人の紹介だけでなく、応募書類のチェックや面接のアドバイス、さらに選考の日程調整や応募企業との条件交渉まで、転職活動全般のサポートを受けることができます。
また20代の転職に比べて、30代後半の転職では求人情報の精査が重要になります。その点、転職エージェントでは、各求人の募集背景や企業の内情、求人票からは読み取れない「真に求める人物像」についてなど、精度の高い情報をお伝えすることもできます。それによって面接に向けた準備や、面接で発揮できるパフォーマンスも上がり、企業からの評価を得やすいというメリットも得られることでしょう。
転職エージェントを活用するための3つのコツ
30代後半の求職者が、転職エージェントを利用する際の3つのポイントをご紹介します。有効活用して転職の可能性を広げてください。
1.条件に優先順位をつける
社会人経験が長くなるほど、転職に求める譲れない条件が増える傾向にありますが、「あれもこれも」と欲張ると、条件に合致した求人はなかなか見つからないものです。中途採用は枠が埋まればその時点で募集が終了してしまうので、応募するタイミングを逃さないためにも「譲れない条件」「望ましい条件」など優先順位を明確にすることが大切です。可能な範囲で間口を広げ、なるべく多くの選択肢を視野に入れれば、自分にマッチした求人に出会いやすくなるでしょう。
2.「強み」を誰にでも分かりやすく言語化する
30代後半になると担当業務やスキルが専門化していることも多いため、単純に自分の経歴を並べただけでは、どこがアピールポイントなのか、転職エージェントが十分に理解できない可能性があります。従って経験やスキルについて話す際には、専門外の人にも分かる言葉で伝えることが大切です。例えば「プロジェクトの立ち上げでこんなスキルを発揮してきました」「複数の事業の立て直しに成功した体験があります」など、具体的な場面を挙げ、ポイントを絞って説明できると良いでしょう。
3.能動的なスタンスで転職活動に臨む
実は、転職エージェントを利用する際に、業界や年収などの条件だけを伝えて「あとは求人探しをお任せします」という方も少なくありません。しかしそれだけではなく、今後のキャリアの方向性をどう考えているか伝えたり、求人探しの切り口を自分から転職エージェントに提案したりできれば、転職エージェントは適切なアドバイスやマッチングがしやすくなります。その結果、良い求人をより早く紹介してもらえる可能性も高まることでしょう。
30代の転職に関するQ&A
Q.30代で転職するなら「資格」はあったほうがいい?
A.30代以降は、マネジメントや経営判断、プロジェクトの運営を任されるケースが多いので、ビジネススキル全般をアップさせるような資格であれば、評価されやすいといえます。
ただし、資格はプラスアルファのアピール要素なので、あくまで求めている実務経験やスキルがあることが前提だと考えましょう。
Q.30代の職務経歴書、書き方のコツはありますか?
A.30代にもなると複数の部署や職務を経験しており、「どこが強みなのか」が伝わりづらくなります。アピールしたい経験は冒頭に【職務要約】、あるいは末尾に【自己PR】の欄を設け、強調するのもひとつの方法です。成果や業績だけを記すのではなく、その成果を挙げるためにどんな戦略を立て、どんな工夫をしてきたのか、「自分らしい」スタイルや手法を書き添えておくことをお勧めします。
Q.30代で未経験職種に挑戦する場合に重要な「ポータブルスキル」って何?
A.「ポータブルスキル(持ち運びできるスキル)」とは業種や業界を問わず活かせるスキルのことです。自分が強みとするポータブルスキルは何なのかを整理・認識し、それを活かせる業種や職種、企業を探していくことが大切です。
Q.「30代女性」は転職に不利?
A.現在の転職市場では、その職種やポジションにふさわしい能力があれば、男女を問わず採用したいという企業がほとんどです。十分なスキルや経験を持って組織に貢献できる人材なら、たとえワーキングマザーであっても不利になることはありません。
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
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