社会人経験が長くなるに従って、中途採用では即戦力が求められる傾向があります。では、30代の転職で資格はアピールになるのでしょうか。また、職種によっては持っていれば有利になる資格などはあるのでしょうか。
そこで、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏が、30代の転職と資格についてお答えします。
30代の転職は資格を取った方が有利?
公認会計士や税理士、医師や看護師など、特定業務に携わるために必要な資格は「業務独占資格」と呼ばれ、業務独占資格が必要な仕事では資格が必須になります。また、不動産業界の宅地建物取引士(宅建)など、一定の割合で事業所に設置義務がある資格は、持っていると応募企業から評価される可能性があります。他にも、募集条件に特定の資格を「必須」にしている求人では、該当資格がないと書類選考を通過しないでしょう。
このように、業務独占資格や特定の資格を必須としている求人では資格を重視されますが、中途採用では基本的に実務経験への評価が高くなる傾向があります。特に社会人として経験を積んでいるケースが多い30代の転職では、未経験者の応募を受け付ける求人を除き、募集する職種の実務経験や活躍可能性の高いスキルを持っていることが重視されます。知識や専門性を客観的に確認できる指標として資格が考慮されますが、実務経験に比べると資格が選考に強く影響することは少ないでしょう。
30代の転職に役立つ資格はある?
実務経験を問われるケースが多い30代の転職ですが、持っていると転職に役立つ資格もあります。
業務独占資格
前述した通り、資格を持っていないと特定の業務に就けない業務独占資格は、転職で役に立つ可能性があります。ただし、業務独占資格の多くは難易度が高く、転職のためにすぐに取得できるとは限らないことに注意が必要です。また、30代の転職の場合は、業務独占資格を持っていることに加えて、実務経験を求められる可能性も考えられます。
実務経験を底上げする資格
実務経験の専門性を高める資格も、転職で役立つことがあります。例えば、情報システム担当者や社内SEが、「公認情報システム監査人」などのセキュリティ関連の資格を取ったり、経営企画が「中小企業診断士」や「MBA」を取得したりするといった例が挙げられます。実務経験を伴った需要の高い資格を保有することは、転職において即戦力に近い人材であることのアピールになり、他の求職者との差別化にもなるでしょう。
未経験分野の足掛かりになる資格
未経験業種や職種へ転職する際に、その分野への知識を備えていることを補完する資格が役に立つことがあります。例えば、「キャリアコンサルタント」を取って人材業界、「MOS」や「日商簿記」を取って事務職に転職、などが挙げられます。ただし、30代の転職はキャリアチェンジであっても、これまでの実務経験やスキルが活かせることをアピールする必要があります。資格は、新しい業種や職種への理解を深め、早期にキャッチアップするための足掛かりと捉えるのが良いでしょう。
30代に向いている資格の選び方
社会人経験が長くなるに従って、即戦力となる経験・スキルを求められるようになります。資格取得にはそれなりの時間や費用がかかるので、希望する職種・業種に転職するために、本当に資格が必要かどうかを確認するようにしましょう。未経験として転職し、実務経験を身につけながらプラスαになる資格を取得するという方法もあります。
なお、「特定領域を網羅的に理解したい」「所属企業や応募企業で資格手当が出る」といった資格は、転職活動に限らず取得しておくと役に立つかもしれません。
30代のキャリアの可能性を広げる資格
キャリアの価値を高め、転職に役立つ可能性のある資格を職種別にご紹介します。
職種を問わず活かせる資格
職種を問わずに活かせる可能性があるのが、運転免許とTOEIC®です。
普通自動車第一種免許
ドライバーや自動車関連の職種以外でも、ルートセールスなどで運転免許が求められることがあります。必須ではなくても、業務で自動車を使用する可能性がある仕事では、運転免許が評価に加味される可能性があるでしょう。
TOEIC® Listening & Reading Test
国際化が進む現代において、英語が使えることはプラスαのスキルとして評価する企業もあります。TOEIC®は外資系企業だけでなく、海外事業を展開する企業などで活用されています。
※ TOEICはETSの登録商標です。このウェブサイトはETSの検討を受けまたはその承認を得たものではありません。
事務・管理系職種で活かせる資格
基本的なPC技能や、経理、労務、人事の関連専門資格などがあります。下記以外では「中小企業診断士」「プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(PMP)」(後出)も経営やマネジメント知識の証明になるでしょう。
MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)
Word、Excel、PowerPointなどの、操作スキルを証明する資格です。一般事務を始めとしたパソコンを扱うあらゆる業務において、基本的なスキルを持ち合わせていることの証明になります。
日商簿記
経理や財務の仕事に必要な会計知識はもちろん、財務諸表を読む力や、基礎的な経営管理・分析のスキルが身につきます。経理や財務への転職で必要とされることが多く、2級以上の取得が望ましいです。
税理士(科目合格含む)
税理士は税務を行う国家資格で、日商簿記に加えて税理士免許もあれば、会計のスペシャリストとして評価されるでしょう。税理士法人、財務会計系のコンサル会社、事業会社の財務会計部門などでニーズの高い資格です。
公認会計士
財務諸表監査を独占業務とする、会計のための国家資格です。医師や弁護士と並ぶ最難関資格のひとつで、企業の評価も高く、監査法人、財務会計系のコンサル会社、事業会社の財務会計部門など幅広いニーズがあります。
社会保険労務士
雇用や労務に関する手続きやアドバイスを行うための国家資格です。人事・労務・社会保険に関する専門知識を持ち、就業規則の作成や労務管理を行うこともできるので、業種を問わずニーズのある資格です。人事労務の経験者が社会保険労務士も取得していると、プラスαの評価が期待できるでしょう。
衛生管理者
労働者の健康を守るため、衛生教育や職場の環境管理などを行う国家資格です。50人以上の労働者がいる職場には衛生管理者を選任する義務があるため、特に全業種が対象の「第一種免許」を取得した人事・総務経験者は、幅広い業界で活躍できる可能性があります。
キャリアコンサルタント
キャリアに関する課題や問題を相談者が自主的に解決できるように、カウンセリングを中心とした専門知識とスキルにより、支援を行う国家資格です。事業会社の人事のほか、大学や高校といった教育機関にも活躍の場があります。
MBA
資格ではなく、経営大学院の修士課程を修了すると授与される学位です。経営に関する高い知識やスキルを証明するもので、外資系企業や事業会社の経営企画、経営コンサルティングファームなどで活かせるでしょう。
営業職で活かせる資格
営業職の場合は顧客の問題解決に関する資格を取ると、実務や転職にも活かせる可能性があります。前出の「TOEIC®」で英語力が証明できれば海外営業の選択肢が広がり、「MOS」はプレゼンテーションスキルの向上に役立つでしょう。
※ TOEICはETSの登録商標です。このウェブサイトはETSの検討を受けまたはその承認を得たものではありません。
中小企業診断士
中小企業の経営課題を分析し、解決のためのアドバイスを行う国家資格です。経営コンサルティングファームはもちろん、企業の経営課題を解決する商品・サービスを提供する営業では、専門的な知識が活用できるでしょう。
宅地建物取引士(宅建)
不動産売買や賃貸契約において、重要事項の説明ができる国家資格です。不動産業では事業所ごとに有資格者が必須であり「宅建必須」という求人も多くあります。不動産、ハウスメーカー、ディベロッパーなどの業界で働くなら取得しておきたい資格です。
不動産鑑定士
地域の環境や条件を考慮して、不動産の有効利用を判定し、適正な地価を判断するための国家資格です。不動産の鑑定評価は不動産鑑定士の独占業務であり、資格がないと行うことができません。鑑定法人やディベロッパー、金融機関などで活かせる資格です。
ファイナンシャルプランニング技能士(FP)
個人の収入や家族構成、資産といった情報から、住居や老後といったライフプランに必要な資金計画の提案をするための国家資格です。銀行、証券、保険などの金融系や、不動産の営業などで活用できる資格です。
ITエンジニアで活かせる資格
ITエンジニアに関する資格は数多くありますが、未経験者の応募を受け付ける求人を除くと、転職では実務経験が重視されることに変わりはありません。有資格者であることで、客観的な能力を示すことができます。
基本情報技術者試験
ITに関する基本的な知識やスキルを認定する国家資格です。IT業界で実務を行うための基礎知識を習得できるので、ソフトウェア開発企業やコンピューターメーカー、Web系情報処理企業などでは社員に受験させることの多い資格です。
基本情報技術者試験の上位資格には「応用情報技術者」があります。ソフトウェア開発から管理、運営までの知識とスキルを持ち、IT基盤構築でも高いパフォーマンスを発揮できることの証明となります。
シスコ技術者認定資格
自社製品を使いこなす技術が一定水準以上であることを、企業が認定する「ベンダー資格」のひとつです。シスコシステムズ社製品に関する知識・スキルを認定するもので、ネットワークエンジニアとしての技術力を有する証明として世界的に認められているものです。
SAP認定コンサルタント
ドイツの大手ソフトウェア企業・SAP社が認定するコンサルタントの認定制度です。SAPシステムに関する専門知識を有し、システム導入に際して必要な知識とノウハウを持つことの証明になります。
オラクルマスター
日本オラクル社が公式に運営するデータベース認定試験で、データベースエンジニアとしてのスキルを証明できる資格です。DBAとSQLの2つに分かれており、DBAはBronze、Silver、Gold、Platinumの4ランク、SQLはSilverのみの1ランクから構成されています。
公認情報システム監査人(CISA)
アメリカに本部がある国際的団体ISACAが認定する、情報システムの監査、セキュリティ、コントロールに関わる専門家のための資格。監査法人やコンサル会社、外資系企業や金融機関、事業会社の情報システム、内部監査部門などでも需要が増えています。
プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(PMP)
PMI®(米国プロジェクトマネジメント協会)が主催するプロジェクトマネジメントに関する国際資格。さまざまな分野のマネジメント能力・専門知識を有していることを証明し、IT業界を始め、建設や製造など、幅広い業界・職種で活用できます。
認定スクラムマスター(CSM)
非営利団体Scrum Alliance®が認定する、システムやソフトウェアの「スクラム開発」をコントロールする「スクラムマスター」関連で最もメジャーな資格。スクラムマスターは近年IT業界において注目が集まるポジションであり、キャリアアップのために取得を目指す人も増えています。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルティングを行っている。