コロナウイルス感染拡大の影響で、2019年から3年連続で早期・希望退職者への募集人数が1万人を超えていると言われています。
今後も、増加する可能性がある早期・希望退職。今回は、希望退職制度についての概要と、早期退職制度との違い、メリットやデメリット、自社で募集があった際の捉え方をお伝えします。
希望退職制度とは?
「希望退職制度」とは、自らの意志で退職を希望する従業員を募集する制度です。似た言葉で「早期退職制度」というものもあるので、違いを理解しておきましょう。
希望退職制度について
希望退職制度は時期を限定して、退職の希望を募る制度で、あくまでも従業員の意志を尊重し、従業員が自ら選びます。企業は従業員に有利な条件を提示しますが、背景には経営悪化によるリストラの前段階、合併等の組織再編により重複部署が生じた際の人件費削減、組織の若返りを狙ったものなど、企業側の経営方針の見直しに紐づく意図があり、制度が導入されます。
企業側が一方的に従業員を解雇することは、労働者保護の観点から非常に厳しく制限されていますので、法的拘束力はなく、企業が退職を強要することはできません。一方で、従業員側も、希望したら必ず退職になるわけではなく、人によっては、企業側から引き留めを受ける場合もあります。
企業側と従業員、双方の合意が必要とされています。このような希望退職への応募によって退職した場合には、失業保険の取り扱いは、自己都合退職ではなく、会社都合退職となりますが、引き留めを受けている状況で、無理に退職した場合は、自己都合での退職になる場合もあります。
早期退職制度について
早期退職制度は、定年前に従業員が退職を選べる制度のことです。恒常的に従業員が応募できる制度で、従業員のキャリアの選択肢を広げることを意図しています。一般的に応募者には「退職金の割り増し」や「再就職支援」などの優遇措置が用意されています。
一時的な人員整理を目的としている希望退職と異なり、タイミングを問わず誰でも利用できます。
希望退職制度応募のメリット、デメリット
実際に、希望退職制度の募集が始まったら、応募を検討する方がいいのでしょうか。メリット・デメリットについて、見てみましょう。
希望退職に応募するメリット
まず、応募するメリットは、主に次の3つが挙げられます。
- 退職金を多く受け取れる
- 失業保険を自己都合の場合より2ヶ月早く受け取れ、通常受給期間も長い
- 転職活動で次のステップへ進める
希望退職制度募集時には、退職金を割り増す優遇制度が取られることが一般的ですので、お金の心配をせず、次のキャリアをじっくり考えることができます。
また、雇用保険の失業保険の給付を受ける場合、希望退職は「会社都合」での退職となるため、待機期間7日の後すぐに受給可能です。「自己都合」の場合に比べて2ヶ月ほど早く、支給が始まります。受給期間については、「自己都合」の退職よりも、最長で2倍以上の期間受給することができます。(受給期間は年齢や勤務年数の条件によっても異なります)
さらに、退職後に転職活動をする場合、企業側の都合で設定された希望退職の機会を前向きに活用して、自らの意志で選択して退職していると受け取れるため、転職理由として伝えやすくなります。また、退職しているので、時間的な余裕もあり、企業研究や自己分析など、転職活動に時間をかけることができます。
希望退職に応募するデメリット
- 安定した収入がなくなる
- 納得できない転職活動となる可能性がある
- 年金の支給額が減る
まず、退職してしまうと、定期的に入ってきた給与がなくなりますので、生活費等の固定支出が負担になってきます。スマートフォンの代金など、定期的に支出していたものを見直すなど、支出に対して注意が必要です。
安定収入を得るためにも、積極的な転職活動を進め、自分に合った就職先を見つけることが大切ですが、景気動向などによって、思ったより転職活動が長引いてしまう場合もあります。転職先が見つかっていない状態で退職する場合、生活費が心配なあまり、納得しないまま就職することがないよう、注意が必要です。
また、国民年金への切り替えの時期が発生する場合、将来の話にはなりますが、年金の支給額が減る点も気をつけましょう。厚生年金加入期間中は国民年金にも加入しているため、将来の受給額が多くなっています。失業して国民年金だけの期間が長くなると、厚生年金からの支給がないので、将来の年金受給額が減ることになります。
他にも、社宅に住んでいた場合は引っ越しに費用が掛かるなど、生活環境の変更にコストがかかることも気になる点です。
在籍中企業が希望退職制度の募集を始めたら
希望退職を募る際は、要項を書面で公開することが一般的です。企業が出す募集要項について、次の点を確認しましょう。
募集対象
「年齢」「雇用形態」「勤続年数」「人数」などが決まっている場合があります。
例えば、「45歳~55歳の正社員(勤続10年以上)20名程度」などと、対象が限定される場合もあります。自分が対象になるのか確認しましょう。
応募フローの確認
募集告知から応募、申し込みの期限、応募後の面談、退職日までどのようなスケジュールで進むのか確認しましょう。場合によっては説明会や面談が設定されます。要項に記載がない場合は人事や上司へ確認をしておきましょう。
優遇措置の確認
募集要項で具体的な優遇措置を確認し、自分が当てはまる措置を把握しましょう。わかりにくい場合は、人事・上司へ確認してもいいでしょう。募集要項を確認し、納得して応募しても、面談で退職を引き留められることもあります。特に企業側が期待をかけている人材の場合は、面談で慰留されることもあるでしょう。
希望退職とはいえ、企業側と従業員、双方の合意があって成立となりますので、一方的に退職意向を伝えるだけでは、「自己都合」退職と取られることにもなりかねません。悩んでいる場合は、信頼できる上司に相談するなど、応募する前に情報収集してみるのも、一つの方法です。
(監修 社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡 佳伸氏)
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