転職活動では、前職・現職の「年収」を聞かれることがよくあります。
しかし、年収の出し方をきちんと把握せず、誤った金額を伝えてしまえば、内定後にトラブルになる可能性もあります。また、応募先企業の提示する年収額を見て、手取りでもらえる金額と勘違いしてしまうケースもあるでしょう。
そこで今回は、社会保険労務士の岡佳伸氏と、組織人事コンサルティングSeguros、代表コンサルタントの粟野友樹氏に、「年収」の出し方や、混同しやすい「手取り」「額面」「所得」との違いなどを教えてもらいました。年収から手取り額を計算する方法も紹介するので、参考にしてみましょう。
目次
「年収」とは?転職活動で「年収」を聞かれたらどう答えるのが正解?
まずは、「年収」とは何なのかを把握しましょう。また、「企業が年収を聞く理由」も紹介するので、正しく把握することの意味を知っておきましょう。
「年収」とは?
「年収」とは、その名の通り、年間の収入総額のことです。一般的に、税金(所得税や住民税など)や保険料(健康保険料、厚生年金保険料など)が差し引かれる前の「年間の総支給額」を指します。「税込年収」や「額面年収」と呼ばれることもありますが、「年収」と同じ意味です。
転職活動で「年収」を聞かれる理由とは?
企業は、一次面接で前職・現職の年収や希望年収などを聞くケースが多く、その理由は、「今回、募集する職種に合致するレベルであるのか」「自社の給与規定の幅にマッチするか」を確認するためです。
前職・現職の年収から、応募者の経験・スキル・実績が客観的にどう評価をされているのかを判断できます。募集要件よりも大幅に年収が低い場合は、「求めるレベルに合致しない」と判断される可能性もあります。また、自社の給与規定以上の年収だった場合、応募者自身が納得せず、ミスマッチとなったり、採用しても早期離職したりする可能性が想定されます。
ただし、企業から採用したい人材だと思われれば、現職・前職の年収と、希望年収を合わせて聞かれることが多いでしょう。その際、仮に現職の年収が募集要件より大幅に高くても、希望年収が自社の給与の幅に合致していれば選考を進めるケースもあります。
年収の金額を正しく回答した方がいいのはなぜ?
「年収」を正しく把握せず、「手取り」の金額を伝えてしまうケースもありますが、税金などの源泉徴収をされた後の金額のため、かなり減額された数字になります。また、住まいの自治体によって税率が変動したり、会社が加入している健康保険組合によって保険料の金額が違っていたりするケースもあるので、一律で比較できる「年収」を伝えることが大事です。応募先企業に正しい年収額を伝えて、自分の能力をきちんと判断してもらえるようにしましょう。
自分自身のためにも、年収を正しく理解しよう
企業が提示した「年収」を「手取り」の金額と勘違いしている場合、実際に支払われる金額が想定より低くなるため、正しく理解することが大事です。年収の内訳や手取り金額をきちんと把握しておくことで、自分の希望条件に合う企業を見つけやすくなりますし、勘違いや伝え間違いによるトラブルも避けられるでしょう。
求人情報で提示されている年収金額はもちろん、内定時に提示される労働条件通知書に記載された年収金額についても、「年収とは何か」を認識した上で確認するように注意しましょう。
「年収の出し方」を紹介。注意ポイントも把握しよう
ここでは、年収の出し方と、注意すべきポイントについて紹介します。
年収の出し方
前職・現職の会社から交付される源泉徴収票の「支給額」欄に書かれた金額が、「総支給額=年収」です。源泉徴収票は一般的に12月〜1月に交付されます。もしも紛失した場合は、企業に再発行の手続きを依頼しましょう。また、給与明細などをシステム上で確認できる会社の場合、源泉徴収票も自由にダウンロードできるケースがあります。
毎月の給与明細からの年収の出し方は、それぞれの「総支給額」や「支給額合計」の欄に記載されている金額を合算するといいでしょう。「1年分の総支給額=年収」を把握できます。
交通費、家族手当、出張経費などは含まれる?
通勤手当や家族手当、住宅手当などは、年収に含まれると考えましょう。毎月の給与に、固定の手当を含んで支払われている場合は、すべて課税対象として源泉徴収の計算にも含まれるため、年収に含まれていることになります。
ただし、通勤手当を交通費として支給する場合は、所得税法による規定により、月15万円までは非課税となるため、年収には含まれないのが通例となっています。また、イレギュラーに発生する出張で立て替えた交通費などの経費も年収に含まれません。ただし、インセンティブ(報奨金)、残業手当などは年収に含まれるので注意しましょう。
年収にボーナス(賞与)は含まれる?
ボーナスは年収に含まれるため、会社が作成する源泉徴収票の支払金額は、ボーナスも年収に含めて計算されています。しかし、会社によって支給の基準が違い、年間の業績によって支給額が大きく変動するケースもあります。また、労働基準法等にボーナスの支払い義務が記載されているわけではないため、ボーナスを支払うか支払わないかは企業側の裁量に任されています。そのため、年収にボーナスを含まずに提示する企業もあります。不明な場合は応募先企業に確認するといいでしょう。
固定の手当とボーナスにおける注意ポイント
賞与基礎算定額の出し方は企業によって異なり、基本給のみで算出するケースもあれば、手当を含めた金額で算出するケースもあります。そのため、転職先企業の賞与基礎算定額の出し方を確認しておくことも大事です。
例えば、現職・前職で賞与基礎算定額に手当も含んで算出していたために、転職先の賞与額も同じように算出・想定してしまう人もいるでしょう。しかし、もしも転職先が手当を含まず基本給のみで算出していた場合には、想定していた金額に対し、実際の賞与は大幅に低くなってしまいます。住宅ローンなどをボーナスで返済しようと考えている場合、「手当が多いために、基本給が低く、想定よりボーナスが少なくて支払いに困った」というケースもあるので、しっかり確認しましょう。
会社に1年間在籍せずに転職活動した場合は、どう回答すればいい?
例えば、前職・現職の会社に10カ月在籍していた場合は、毎月の支給額実績を基に、見込みの年収金額を算出して伝えるといいでしょう。逆に、「3カ月のみ」など、在籍期間が短い場合は、入社時にもらう労働条件通知書に提示された年収を回答するといいでしょう。
混同しやすい「手取り」「額面」「所得」「月給」とは?
「年収」と混同しやすい「手取り」「額面」「所得」「月給」について解説します。それぞれの出し方についても紹介するので、年収との違いを把握しておきましょう。
「手取り」とは?
手元に入ってくる金額のことを指します。税金や保険料などが差し引かれた後、実際に銀行口座に振り込まれる金額と考えましょう。会社規定による積立金や親睦会費なども引かれた金額になっているケースもあるので、こちらも確認しておきましょう。
「手取り」の出し方
給与明細に記載された「差引支給額」「銀行振込額」を見れば、毎月の手取り額を確認できます。また、実際に給与が振り込まれる銀行口座の取引明細を基に、12か月分の金額を合算することでも、1年間の手取り総額を算出できます。
「額面」とは?
「額面」は、年収と同じく総支給額のことを指します。ただし、「年収」は、1年間の総支給額を意味しますが、「額面」は年収だけでなく、月収などに使われるケースもあります。
「額面」の出し方
年収と同様に、源泉徴収票の「支給額」欄に書かれた金額を確認しましょう。月収として算出する場合は、毎月の給与明細の「総支給額」や「支給額合計」の欄を確認しましょう。
「所得」とは?
「所得」は、「年収」から必要経費を引いた金額のことを指します。しかし、会社員の場合は、必要経費などの控除がなく、それに代わるものとして「給与所得控除」という控除枠が設けられています。そのため、「年収」から給与所得控除額を引いたものが、「所得」になります。
ただし、税法上では、給与所得控除を超えた部分の支出のうち、特定の支出(通勤費、研修費、資格取得費など)については必要経費と認められています。
所得の出し方
源泉徴収票に記載された「給与所得控除後の金額」で確認できます。また、Web上で年収を入力すると自動で「簡易的な所得」を計算できるツールなどもあります。
「月給」とは? 「月収」との違いは?
「月給」は、基本給に加え、毎月、固定で支払われる手当を含んだ金額を指すことが一般的です。年収と同様に、税金や保険料などを差し引かない金額であり、インセンティブや残業手当などの金額が変動する手当や、立て替えた経費の払い戻し額も含まれません。
一方、「月収」には、基本給と固定手当に加え、変動する手当も含まれるという違いがあります。変動する手当を支給する会社の場合、「月収」と「月給」を比較すると、「月収」の方が金額も大きくなります。
「年収」から「手取り」の金額を算出するには?
求人情報などに記載された「年収」から、実際に手元に入る「手取り」の金額を知りたい人もいるでしょう。簡易的に算出する方法を紹介するので、参考にしてみましょう。
「年収」から「手取り」の金額を算出する方法
「年収」から「手取り」の金額をおおまかに把握したい人は、下記の計算方法を参考にしましょう。
<計算方法>
「年収」×0.8〜0.73÷12(カ月)=「手取り」の金額
(※ボーナスを考慮しない場合)
独身など、扶養家族がいないケースでは、「手取り」として手元に残る金額は、一般的に「年収の約8割」とされています。ただし、日本には、年収が高くなるほど税率が高くなる「累進課税」という仕組みがあります。地域によって異なる場合もありますが、年収が上がるほど手取り額の割合が少なくなるので、年収に合わせた数字で計算すると、より現実的な手取り金額を算出できるでしょう。下記を参考にしてみましょう。
<計算に使う“年収別”の数字>
・年収600万円まで「8割(×0.8)」
・700~800万円「7.5割(×0.75)」
・900万円「7.4割(×0.74)」
・1,000万円「7.3割(×0.73)」
社会保険労務士法人 岡佳伸事務所 岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。
記事更新日:2024年07月25日