退職を決めるにあたり、可能な限り引き継ぎを十分に行い、完全に有給休暇を消化して、賞与をもらって円満に辞めたいものです。そこで、退職日の決め方や、考慮しておきたい要素について詳しく解説します。
退職日の決め方は、転職先の有無で異なる
会社員が加入する社会保険のうち、健康保険、厚生年金保険、介護保険の3つの保険は、会社と従業員で半分ずつ負担しています。もし会社を辞めた場合は、自身で国民健康保険や国民年金の手続きをしなければなりません。そのため、すでに転職先の入社日が決まっているのであれば、個人が払う費用と手間を減らすために、入社日の前日に退職日を設定するのが理想的です。
一方で、転職先が決まっていない場合は、引き継ぎ期間や有給休暇の残り日数なども考慮しながら、職場に迷惑が掛からない範囲で退職日を決めましょう。
転職先が決まっている場合
転職先が決まっている場合は、入社日が確定しているため退職日も決めやすくなります。社会保険を考慮した退職日の決め方をご紹介します。
退職日は入社日の前日がベストタイミング
先に述べたように、すでに転職先が決まっている場合の退職日は、入社日の前日であることが望ましいでしょう。空白期間があると、その間は自身で国民保健や国民年金に切り替えの手続きをする必要があります。また、会社に在籍している場合の、健康保険や厚生年金保険、介護保険の費用は会社が半額を負担するので、金銭面でも負担が軽減されます。
なお、厚生年金保険料は月で計算されるため、日割りはできません。月末に退職した場合は、退職月の保険料が給与から引かれますが、月末日以外に退職すると、退職月の保険料は引かれません。そのため、「月末日の1日前に退職するとお得」と言われることもあるようです。
ただし、実際は退職月も何らかの社会保険に加入している必要があるため、自身で国民年金や国民健康保険への加入手続きが必要となります。また、国民年金や国民健康保険料は、会社が半額を負担するわけではありません。結果的に負担が大きくなる可能性の方が高いので、社会保険料を考慮して退職日を月末日の前日などにコントロールするのは避けましょう
入社日よりも後に退職日を設定したい場合
多くの企業が就業規則に「退職の申し出は、退職希望日の○カ月前」など、申し出の期間が定められています。急に転職先が決まった場合、就業規則に定められている申し出期間を過ぎていたり、有給休暇をすべて消化できなかったりして、「転職先企業の入社日よりも後に現職の退職日を設定したい」と考える方もいるかもしれません。
転職先企業と在籍企業の2つの企業で働くことができるかどうかですが、双方が「二重就労禁止規定」を定めておらず、副業が認められている場合は可能です。ただし、雇用保険は二重加入ができないため、在籍企業に二重就労の旨を伝えて資格喪失手続きを行ってもらいましょう。また、健康保険や厚生年金は二重加入ができますが、二箇所からの不要な保険料の支払いを防ぐため、雇用保険同様に二重加入にならないように手続きをしてもらいましょう。
転職先が決まっていない場合
転職先が決まっていない場合は、退職日を自由に設定することができます。この時の退職日の決め方は、以下の要素を考慮して決めましょう。
就業規則に定められている退職の申し出期間
先に述べたように、就業規則には「退職の申し出は、退職希望日の○カ月前」など、申し出の期間が定められているのが一般的です。就業規則に定められている申し出期間によって、最短の退職日が明らかになります。
引き継ぎ
携わっている業務を引き継ぐのに、どの程度の日数がかかるかを明らかにしておきましょう。引き継ぎの目安を明らかにしておくと、退職までのスケジュールを考えるのにも役に立ちます。なお、退職を申し出てから後任が決まるまでに、1週間から1カ月程度かかることが一般的です。ポジションによっては、退職を申し出てから中途採用を始めるため、2カ月近くかかる可能性もあります。退職を相談する際は、後任が決まるタイミングや期間の目安を聞いておきましょう。
職場の業務量
経理であれば月末月初や期末、販売であれば年末など、業界や職種によって業務量が集中する時期があります。繁忙期に退職日を設定すると、引き継ぎに十分な時間を割くことができず、職場に迷惑を掛ける恐れがあります。「その時期は繁忙期なので退職されるのは困る」と引き止められる原因にもなるので、忙しい時期はできるだけ避けておきましょう。
また、4月や10月の人事発令よりも前に退職を申し出ておくと、欠員を考慮した人事異動を検討することができます。繁忙期や人事発令のタイミングを加味しておくと、円満退職を実現できるでしょう。
賞与(ボーナス)
賞与のタイミングも重要です。7月や12月頃に退職を検討している場合は、賞与の支給日を確認し、できるだけもらい損ねることがないようにしておきましょう。また、査定前に退職を申し出ると賞与が減らされる可能性もあります。就業規則や賃金規定などで賞与の支給日や査定基準などを確認しておきましょう。
退職金
退職金の支給には、勤続年数などの条件が定められていることが一般的です。「3年以上の勤務が支給条件だったのに、2年11カ月で退職してしまった…」など、退職金の支給条件を見逃して後悔することがないように、就業規則や退職金規定などを確認し、退職金の支給条件や計算方法を把握しておきましょう。
有給休暇の発生日や残日数
有給休暇は採用された日から原則6カ月後に10日分が付与され、それから1年ごとに勤続年数に応じた日数が付与されます。残っている有給休暇を消化する日数も考慮して退職日を決めましょう。なお、有給休暇の発生日が迫っている場合は、付与後に退職日を設定し、できるだけ有給休暇を消化して辞めるという方法もあります。
雇用保険の基本手当
雇用保険の基本手当(失業保険)には受給の要件が定められています。もし、退職後に雇用保険の基本手当を受給しながら仕事を見つけることを検討している場合は、被保険者期間が、原則離職の日以前2年間に通算して12カ月以上あるかどうかを確認してから退職日を決めましょう。
ただし、倒産・解雇等により離職した方(「特定受給資格者」又は「特定理由離職者」)については、離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上ある場合でも可となっています。
年末調整
年末に退職を検討しているのであれば、年末調整のタイミングも考慮しておきましょう。11月~12月の年末調整前に退職して、年内に年末調整が行われなかった場合は、自身で確定申告が必要になります。確定申告が面倒で、年末までに再就職の予定が無いのであれば所属企業で年末調整をしてもらいましょう。
※年末調整の対象となる人
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2665.htm
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社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所代表 岡 佳伸氏
アパレルメーカー、大手人材派遣会社などでマネジメントや人事労務管理業務に従事した後に、労働局職員(ハローワーク勤務)として求職者のキャリア支援や雇用保険給付業務に携わる。現在は、雇用保険を活用した人事設計やキャリアコンサルティング、ライフプラン設計などを幅広くサポート。特定社会保険労務士(第15970009号)、2級キャリアコンサルティング技能士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士など保有資格多数。