「もっとやり甲斐を求めたい」「未知の分野にチャレンジしたい」といった理由で未経験の業界・職種へ転職する場合、面接ではどのような質問をされることが多いのでしょうか。それに対してどのように理解し、回答すれば、企業から評価されるのでしょうか。未経験転職の面接対策のポイントについて、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏にうかがいました。
目次
【未経験者の面接対策】よくある質問・回答例と面接の流れ
面接での質問は、応募者が経験者でも未経験者でも基本的に変わることはありません。まず面接で良くある5つの質問と、未経験の応募者に質問する場合の意図、回答例をご紹介しましょう。
「自己紹介」
質問例:「簡単に自己紹介をお願いします」
「まずこれまでのご経歴を教えていただけますか」
【解説】
企業が自己紹介を求める意図は「緊張をほぐす」「印象を掴む」「プレゼン能力を見る」などさまざま。ここですべてを伝える必要はなく、下記項目を1分ほどで簡潔にまとめましょう。
1)面接に招いてもらった事へのお礼
2)氏名と略歴
3)これまで上げた成果、仕事へのこだわり
4)入社への意欲
未経験業界への転職では、業務内容や実績が異業界の採用担当者にイメージできるよう、略歴に「○社」「○人規模」などの具体的な数字を盛り込むのがポイント。また、転職理由にも軽く触れておくと、後の会話の展開がスムーズになるでしょう。
回答例:建設業界・営業→IT業界・営業の場合
「本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます。〇〇と申します。株式会社△△にて、建設業界の従業員1,000人規模の企業、10社を担当する法人営業を5年経験し、昨年は約500名の営業の中で成績○位を獲得いたしました。2年前に社内にSFA(営業支援)システムが導入され、営業活動の可視化が顧客の利益に直結すると実感したのがきっかけで、IT領域のビジネスで自分の力を試したいと考え、御社を志望しました。ぜひこれまでの経験を活かして貢献したいと考えております。どうぞよろしくお願いいたします」
「転職理由」
質問例:「なぜ転職しようと思いましたか」
「今回転職される理由を教えてください」
【解説】
転職理由によって企業が判断するのは、入社後の定着=「同じ理由でまたすぐに辞めてしまわないか」と、活躍の可能性=「転職理由を実現できそうか」です。業界や職種を変える未経験転職の場合は、特に納得感のある転職理由が求められる傾向があります。
転職理由をまとめる際は「退職理由:2割」+「転職で実現したいこと:8割」を意識して構成するのがお勧めです。退職理由はあくまできっかけ程度にとどめ、「転職で実現したいこと」を中心に構成するようにしましょう。
回答例:小売業・販売→消費財メーカー・商品企画の場合
「販売職として勤務する中で、お客様の要望を把握していても課題解決に繋げられない現在の仕事に限界を感じてきました。現職でも商品改善プロジェクトを提案したり、商品企画部への異動を願い出たりしましたが、実現しなかったため、直接ものづくりに関わりたいという思いが一層強くなり転職を決意しました。………商品企画の仕事は未経験ですが、きめ細かな顧客ニーズの評価や分析を得意とする強みを活かして、顧客本位の商品づくりに取り組みたいと考えております」
「志望動機」
質問例:「なぜご経験と異なる業界を希望され、当社にご応募いただいたのですか」
「業界・職種とも異なる当社を選ばれた理由を教えてください」
【解説】
企業は志望動機を聞くことによって自社や業務内容についての「理解度」をチェックし、「志望度の高さ」を確認しています。特に未経験転職の場合は、自社の募集内容と本人の理解との間にズレがないかを慎重に見極めようとするでしょう。
応募する業界について調べ、企業の採用情報などをしっかり読み込んだ上で、仕事内容や大切にしている理念、今後のビジョンなどについて、応募企業と自分との接点を見つけてアピールしましょう。
回答例:生命保険業界・営業管理職→人材業界・プロジェクトマネージャーの場合
「生命保険会社の営業管理として、50名規模の契約社員、パートの営業マネジメントを担当してきました。メンバーのモチベーションを上げ、1人ひとりが主体的に活躍することを大切にしてきた経験は、人材業界でプロジェクトを進行し、多様な雇用形態の人員を管理する業務に通じると考えています。………現職でも複数の領域でアウトソーシング化が進んでいますが、特に御社の顧客満足度の高さには注目しており、“1人ひとりの夢を実現する”という理念に深く共感しています。成長著しい御社で経験を積み、多様なPM力を磨きたいと考えて志望いたしました」
「自己PR」
質問例:「ご応募いただいた仕事でどのようにご経験が活かせると考えていますか?」
「ご自身の強みを教えてください」「成功体験を教えてください」
【解説】
自己PRを通じて企業が見ているのは、「強みを生かして自社にどんな貢献ができる人材か」「過去の実績を自社でも再現することができるか」という点です。未経験転職の場合、単純に前職での実績を伝えるだけではアピールにならないもの。応募企業の業界の特徴や、応募職種に求められている役割をしっかりくみ取り、自分の経験・スキルとの共通項をピックアップして伝えることが重要になります。以下のポイントを押さえると相手に伝わりやすいでしょう。
1) 最初に「結論=自分の強み」を端的に伝える
2) 根拠となる「理由・背景・エピソード」を伝える
3) 強みによる「成果や実績」を具体化・数値化して伝える
4)志望する企業・職種で「どう活かせるか」を伝える
回答例:食品メーカー・営業→コンサルティング業界・コンサルタントの場合
「活かせるのは流通業界の知識と課題発見力です。現職の食品メーカーでは、自社ブランドの認知度や流通量の向上を目指して、スーパーを対象に営業を行ってきました。そこで単に自社商品を案内するだけでなく、顧客の店舗のユーザー層や売れ筋を分析し、販売戦略についても積極的に提案した結果、顧客店舗で売上が○%伸び、信頼獲得に繋がりました。この経験を通じ、数値分析や課題発見が得意であることや、経営改善の提案でお客様に喜んでいただける仕事にやりがいを感じると実感しました。……食品・流通業界へのコンサルティングについては、こうした経験が活かせることも多いと考えています」
「逆質問」
質問例:「何かご不明な点はありますか?」
「仕事内容や選考の流れなどに関して、何か質問はありますか?」
【解説】
「相互理解を深めたい」「認識のずれを修正したい」という意図であることが多いので、解消できなかった疑問や興味関心を、率直に質問すればOKです。一方で、未経験の応募者にとっては「企業に対する興味関心の強さ」「入社意欲」をアピールするチャンスでもあります。応募企業についてよく調べた上で、仕事のスタイルや今後の事業展開などを、自分なりの仮説を交えて質問しても良いでしょう。次回の面接に備える意味でも、逆質問で企業に対する理解を深めることは有益でしょう。
回答例
「御社の売り上げ構成比では、現状○○の部分が最大ですが、今後の拡大計画の中で特に伸長を期待されている分野はどこになりますでしょうか」
「営業の新規開拓方法について、今の仕事では飛び込みの営業を行っているのですが、御社ではどのような手法を取っていらっしゃいますか」
未経験転職者の面接で企業は何を評価する?
上記の解説でも少しずつ触れましたが、業界・職種が未経験の応募者に対して、企業は特にどのようなことに注目しているのか、改めて確認しましょう。
経験に関わらず「定着性」「活躍の可能性」を重視
企業が中途採用の面接で見極めたいのは、主に「定着して働き続けられるか」「経験・スキルを活かして活躍できるか」の2点。これについては、応募者が経験者であっても、未経験者であっても変わることはありません。
ただ、とりわけ未経験者に対しては「なぜ会社を辞めて異業界・異職種を希望するのか」「なぜ自社なのか」という視点で、企業にとって十分に納得感のある説明が求められます。なぜなら、応募者が未経験の業界・職種、企業について十分に理解し、自分なりの目的を持って入社を希望していなければ、ミスマッチに繋がる可能性があるからです。
未経験者は育成期間も必要であるため、企業にとって定着性は特に重要です。従って、単純に「成長産業だから」「良い商品があるから」ではなく、応募者自身の経験と接点があり、オリジナルの言葉で語れる「転職理由」「志望動機」を企業は評価するでしょう。
活躍の可能性については、同業同職種でないことから「いかに求める経験・スキルとの間に共通点があるか」「未経験を補うための努力や取り組みをしているか」を、企業は「自己PR」などから読み取ろうとするでしょう。
若手社員の場合はポテンシャル採用もある
一方、主に20代の若手社会人をターゲットにした求人では「一から学ぶ意欲のある未経験者を積極的に採用したい」「経験・スキルよりもポテンシャルを重視したい」と企業が意図しているものも少なくはありません。
そうしたケースでは志望度の高さに加えて、仕事に対する価値観・考え方=「スタンス」や、業界や職種を問わず活かせるスキル=「ポータブルスキル(持ち運びできるスキル)」が企業の評価ポイントになります。例えば「課題分析力」「コミュニケーション力」「交渉力」「企画提案力」「調整力」など、自分が強みとするポータブルスキルは何なのかを整理・認識し、それによって活躍できると応募先企業に伝えることが大切です。
未経験転職の面接に向けて準備する時のポイント
未経験転職の面接対策として、自分の経験・スキルを整理する場合のポイントについてご紹介しましょう。
「3つの視点」から「5W1H」で共通項を見出そう
未経験転職では、業界や職種、応募企業が求める役割への理解を深めた上で、未経験者なりにすぐ貢献できるスキルをアピールすることが重要となります。そのためには、今までの経験・スキルと、応募先企業や志望職種との共通項を見つけるのがポイントです。
転職理由や志望動機を整理する際は「業界」「企業」「仕事内容」という3つの観点から考えてみると良いでしょう。どのポイントについても自分の過去の経験との接点を見つけ「○○の経験をしてきたので△△をしていきたい」と、理由や目的へと繋げていきます。
- 業界…なぜその業界に興味があるのか
- 企業…経営理念や事業内容、人や組織、評価など、どういう軸で興味があるのか
- 仕事内容…どういった業務内容で自分の経験・スキル、強みを発揮できるのか
自己PRでは、現職と応募先企業の業務との接点を探しましょう。その場合は、双方の特徴を以下の「5W1H」で整理すると見つけやすくなります。
- Who 「誰と」=仕事で関わる相手
- When「いつ」=1つ仕事に関わる期間
- What「何を」=扱う商材
- Why 「なぜ」=仕事のミッション
- Where「どこで」=働く場所が自社か顧客先か、グローバルかなど
- How 「どのように」=どのような方法で課題解決するか
例えば営業なら、異業界でも「営業スタイルが近い」「顧客が似ている」「商品の価格帯が近い」などの共通点が見つかることがあります。ITコンサルタントが事業会社の管理部門を目指す場合なら、担当していた業界や領域の知見を活かすことができるでしょう。
「自分が強みとしてきた〇〇が共通するので、御社でも活躍できます」と、未経験業界でもキャッチアップが早く、すぐに戦力になれることをアピールしましょう。
「転職理由」「志望動機」「自己PR」に一貫性を持たせよう
企業は、面接での回答に一貫性があるかどうかを見て「きちんと企業研究をした上で志望しているのか」「ミスマッチで早期離職する可能性があるか」を判断する材料としているものです。特に未経験転職の場合、経験のない業界や企業で求められるミッションへの掘り下げが足りないと「転職理由」「志望動機」「自己PR」に一貫性がなくなりがちです。
例えば転職理由を「自分をより正当に評価してくれる環境で働きたい」と伝えた後に、志望動機を「AIで成長性があるから」とすれば「理解が表面的なので、ギャップを感じたらすぐに辞めてしまうかもしれない」と思われる可能性があるでしょう。
自己分析と企業研究の結果を基に、退職理由も含めた「転職する理由」や志望動機、自分の強みなどを考え、一貫性と説得力のあるアピールができるようにしておきましょう。
未経験の面接対策は転職エージェントがお勧め
未経験分野への転職を希望しているものの、どのように企業へアピールをすれば良いかわからない人は、転職エージェントに相談するのも一つの方法です。転職エージェントでは、キャリアの棚卸しから転職の軸の整理、転職理由や志望動機、自己PRのプラッシュアップなど、転職活動に関する幅広いアドバイスが可能です。プロの視点で、新たなキャリアへの挑戦を後押ししてくれるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。