退職後、すぐに次の仕事に就かずに無職の期間(ブランク)が長くなり「転職活動で不利になるかも」と不安を抱く人は少なくありません。離職期間が半年〜1年にもなれば、多くの企業は「仕事への意欲が低いのでは」「ビジネス感覚が鈍っているかも」「他社に採用されない理由があるのでは」という懸念を抱くでしょう。ブランクの長い人は、面接でどのように理由を伝え、何をアピールすれば、マイナス印象がカバーできるのでしょうか。組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏にうかがいました。
ケース別「1年間無職だった理由」の伝え方
一般的に転職活動の期間は3カ月〜半年ほどと言われ、それ以上無職の期間が長い場合は、面接で注目されることが少なからずあります。「離職中に何をしていたのか」「どのような経緯があって長くなったのか」を知りたいと考える企業がほとんどでしょう。
無職の期間が長く続いている人は、ブランクについて応募企業から質問されることを想定し、自分の言葉で説明できるようにしておくことが大切です。面接における質問例と、それに対する回答例を、ケース別にご紹介します。
1.転職活動がうまくいかなかった
面接での質問例:「1年間転職活動をされていたとのことですが、具体的にどのような転職活動をされ、それについて現在はどのようにお考えですか?」
回答例:「新卒で希望していた大手製造業に再挑戦しようと、IT系企業を辞めて転職活動をしましたが、企業へのイメージが先行していたため内定を得ることができませんでした。半年経って、改めて自分のキャリアを見直して『製造業以外でも、自分が良いと思った製品を消費者に届ける仕事はできるはずだ』と考えました。その後は前職の経験を活かしてそうしたシステムを開発できるWeb企業に向けて転職活動に取り組んできました」
ポイント
長期にわたり内定が獲得できない場合、企業から「経験・スキルや人物などにおいて何か問題があるのでは?」と思われがちです。この場合は、転職活動に苦戦した理由を掘り下げ「目指す方向性が違った」「企業分析が足りなかった」など、自身の反省点を含めた自己認知を示すことが重要です。それを踏まえて、現在の希望や方向性に至ったことを志望動機に繋げて語り、漠然と転職活動をしていたのではないことを伝えるようにしましょう。
2.資格取得の勉強をしていた
面接での質問例:「資格取得の勉強で1年間離職されたとのことですが、資格取得を目指した理由と、それによって得られたものについて教えてください」
回答例:「経済学部を卒業して銀行に入りましたが、会計監査の専門性を身につけたい思いが強くなり、公認会計士の資格取得を目指して1年間頑張るつもりで退職しました。その過程で簿記2級を取得しましたが、公認会計士の試験のハードルは高く『このままで資格取得は難しい』と考えて、再就職を決意しました。現在は公認会計士になるために学んできた知識を活かして、資金調達やM&A支援等で専門性を磨いていきたいと考えています」
ポイント
資格取得の勉強や留学を理由とする場合、企業は「なぜそれを目指したのか」「勉強はどこまで進み、結果何を得られたか」を聞いて、本気度や努力する姿勢、計画性を確認したいと考えます。仕事を離れて勉強をした目的を整理し、得られたことは何か、その経験を仕事にどう活かしたいのかを言語化しましょう。「ダラダラと勉強していた」と思われてしまってはマイナス。目的意識を持ち、計画を立てて学んだことを伝えることが大切です。
3.フリーランスを目指していた
面接での質問例:「フリーランスとしてどのような活動をしていましたか?また、再び正社員に戻る決断をされた背景を教えてください」
回答例:「自分が身につけたスキルがどのくらい通用するか挑戦するため、コンサルタントとして独立しました。フリーランスとして全責任を持って仕事に取り組んだ経験は貴重でしたが、単発・短期的な案件が多くなることに行き詰まりを感じるようになりました。その時に自分を見つめ直し、正社員として中長期プロジェクトに携わっていた頃の方が自己成長を感じられ、組織力を活かしてクライアントにより高品質な提案ができていたと実感し、再度組織で働きたいと考えております」
ポイント
企業は「なぜフリーランスになったか」「なぜ再び会社員になるのか」の2点を重視します。ここが曖昧だと「組織に馴染まない人物ではないか」「また会社を辞めてフリーランスになるのではないか」という疑問が拭えないからです。フリーランスとしての実績や発揮したスキルと共に、理由や経緯までを説得力を持って語ることが重要。上のように「個人事業主としてうまくいかなかったこと」を「組織だからこそ得られる経験・成長の魅力」に転換して伝えても良いでしょう。
4.充電期間にあてていた
面接での質問例:「1年を充電期間にあてられていたそうですが、どういった背景や計画があったのでしょうか?」
回答例:「流通で店舗企画をしていましたが、事業撤退となり、それに伴う残務処理などを責任者として最後まで対応した後、退職しました。前職の最後が非常に多忙であったため、半年以上はリフレッシュしようと決めてのことでした。その間は、買い物や食事などでさまざまな店を見て歩いてトレンドを観察し、情報を集めてブログやSNSで発信したりしていました。その中で浮かんだアイデアを活かしたいと考えて、販売や外食も視野に入れ、2カ月ほど前から転職活動を開始しています」
ポイント
空白期間をどう過ごしたにしても、自分自身の意志で主体的に行動していた様子が見えれば、企業は評価してくれる可能性があります。自ら計画して充電期間を持ち、例えばボランティアや趣味、知人のビジネスの手伝いなど「失業期間を有意義に過ごし、プラスになった」と伝えられることが大切です。逆に「失業後、何となく時間が過ぎてしまった」というパターンは避けたいもの。また、転職活動を再開した時期も伝え、「自分は他社から求められない人ではない」ことをアピールしておきましょう。
離職期間が長引いた理由を面接で伝える時のポイント
無職の期間が長引いている人に向けて、理由を企業に伝える際のポイントをご紹介します。
本音ベースで誠実に答える
離職期間が長引いていること自体は変えられない事実ですから、理由については本音で誠実に回答することが大切です。ごまかそうとしたり、無理に言い繕ったりしては、逆にマイナス印象が強くなるでしょう。仮にうまく話ができたとしても、面接が進むにつれて辻褄が合わなくなり、深掘りされて答えに窮してしまうこともありがちです。
採用担当者が疑問に感じていることをクリアにできなければ、相手はいつまでも「長いブランクを持つ人である」という印象から頭を切り替えることができず、せっかく企業が求める経験・スキルや実績を持っていたとしても、その部分に注目できなくなってしまいます。相手の疑問を払拭し、これまでの紆余曲折や方向転換も含めて理解してもらい、納得してもらえるところまでしっかり伝えることを意識しましょう。
離職中のスキルアップや成長についても伝える
スキルアップのために勉強していたことがあれば、その期間を経て得たことは何か、その経験を仕事にどう活かしたいのかを言語化しておきましょう。資格取得に挑戦した結果として、合格に至らなかった場合でも、取り組んだプロセスと、その中で得た知識についてはアピールになります。勉強以外でも、例えば単発で仕事を経験したことや、アルバイトに従事したことなどが、自分の成長や気づきに繋がっていれば、合わせて伝えると良いでしょう。
ただ、あまりにそこを強調しすぎると「ブランクを無理にフォローしようとしている」といった印象を与えてしまう可能性もあります。あくまでも離職期間が長引いた理由に付随する要素として「今後に活かしていきたい」というアピールに留める方が良いでしょう。
「何も語れることがない」場合も自分なりに掘り下げる
中には「何となくズルズルと離職期間が長引いてしまった」「なかなか採用に至らず、その理由もよくわからない」という人もいるでしょう。こうした場合は自分なりに「なぜそうなったのか」を掘り下げて、具体的な改善策を考えて行動に移しましょう。そして、どのような取り組みをし、どのような変化を感じたかを面接で話してみましょう。
自分の問題点や課題をきちんと認知していることが伝われば、企業も「客観的に自分を分析できる」と捉え、「失敗してもそれを踏まえて成長していける人物」だという評価に繋がるでしょう。
離職期間のマイナスを挽回する面接のアピールポイント
職歴のブランクが長い人は、面接の質問の中でも企業にとって重要な「転職理由」「志望動機」「自己PR」について、どのように答えればアピールになるでしょうか。押さえておきたいポイントをご紹介しましょう。
「転職理由」には離職期間の変化を盛り込む
前職を辞めてから時間が経過し、その間の経験を通じて真摯に自分と向き合っている人であれば、転職の目的もより具体的なものに変化し、解像度が上がることが多いものです。離職期間中であった自分なりの「気づき」や「方向修正」を踏まえた転職理由を伝えると、応募企業への説得力も上がるでしょう。
例:慣例主義な前職の体質が合わず、学生時代の就活で入社が叶わなかった憧れの大手企業に再挑戦するため転職活動をしたが、内定を得られないまま時間が経過。不採用続きの現実に直面して自分の甘さに気づいた。それから自分が本当に実現したいことを考え直した結果「変化のスピードが速い成長業界で働きたい」という軸が見つかり、現在はWeb広告関連企業を中心に転職活動を行っている。
「志望動機」は企業研究を深めた上で熱意をアピール
ブランクの長い求職者に対して、企業は「仕事への意欲が低いのでは?」という印象を持つことがあります。「モチベーションが低い」=「早期離職の可能性」という懸念に繋がりやすいのです。こうした場合は、志望動機で自分の思いや熱意を伝え、志望度の高さや意欲の高さを理解してもらうことが非常に重要です。
志望動機についても、離職中の資格取得の勉強やフリーランスの経験などを通じて、得られたこと、成長したことを踏まえて語ると説得力のあるものになります。「勉強の過程で、○○の資格を取得したので、知識を活かして○○領域で貢献したいと考えています」といった形で、それを仕事にどう活かしたいのかを具体的に語りましょう。なお、ブランクの長い求職者は、それだけ企業研究を行う時間も十分にあると見なされます。従って、企業や職種への理解を十分に深めた上での志望動機でなければ、熱意も評価されないので注意が必要です。
「自己PR」は前職での経験・スキルに離職中の成果を+α
企業が人材を採用する場合はブランクあり・なしに関わらず「即戦力として活躍できるか」を見ています。従って1年程度の空白であれば、前職の経験・スキルはアピールするべきポイントになります。前職でのポジションや業務内容、経験、実績について、具体的な数字やエピソードを交えて伝えられるよう準備しましょう。
また、応募する企業や業務に関わる資格や、知識習得のために勉強していたこと、アルバイトなどの経験でも活かせることがあれば、合わせて伝えるようにしましょう。自己PRで評価されるような成果や実績があれば「ブランク期間を有効に活用していた」という印象をより強く与えることができるでしょう。
まとめ
企業が求める人材要件と経験・スキルとのマッチ度が非常に高い場合は別として、企業にとって1年のブランクがある求職者を採用することには一定のハードルがあります。企業によっては、書類選考の段階で「ブランク○カ月以内」と基準を設けていることもあるのです。
しかし逆に言うと、面接に呼ばれたということは、あなたの経験・スキルが高く評価されたか、経歴に対して企業が興味を持ったということ。ブランクを前向きに受け止め、今後の自分に活かそうとする態度で面接に臨めば、良い結果が出る可能性も高まるでしょう。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。