あらゆる業種・職種に「IT」が関わってくる時代。「ITの基礎知識を身に付けよう」と考え、その手段として「ITパスポート」資格の取得を考える方も多いようです。ITパスポート資格は、転職活動で役に立つのか、履歴書に書く場合はどのように記せばいいのか、人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント粟野友樹氏がアドバイスします。
ITパスポートとは
「ITパスポート」は、ITに関する基礎的な知識を証明する国家試験です。略して「iパス(アイパス)」とも呼ばれます。情報処理推進機構(IPA)が実施しており、試験合格率は例年40~50%ほど。情報処理技術者試験の中でもっとも難易度が低い「入門レベル」の資格とされています。
学ぶ内容は幅広く、次のような項目があります。
●ITの最新技術の概要に関する知識(AI・ビッグデータ・IoT など)
●新しい開発手法の概要に関する知識(アジャイルなど)
●経営全般の知識(経営戦略・マーケティング・財務・法務など)
●ITの知識(セキュリティ・ネットワークなど)
●プロジェクトマネジメントの知識
転職におけるITパスポート取得のメリット
かつてITの知識を必要とするのは、IT業界で働く人のほか、事業会社の情報システム担当者など一部に限られていました。しかし最近では、あらゆる企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みを強化しています。
経理・人事・企画・マーケティング・営業・生産など、あらゆる部門でデジタルの導入が進んでいます。業務オペレーションのデジタル化・運用、さらにはデジタルを活用した新たなビジネスモデルを生み出していくために、あらゆる職種の人にITの知識・リテラシーが求められるようになってきました。
つまり、転職においてどのような業界・職種を目指す人にとっても、ITの基礎知識があることを証明する「ITパスポート」は、プラスの評価につながる可能性があります。
デメリット:転職活動でアピールしてもプラス評価を得にくい
ITパスポートを取得することがデメリットになることはありません。持っていて損のない資格と言えます。ただし、ITエンジニア経験者に関しては、転職活動でアピールしてもプラス評価を得にくいといえます。IT資格として難易度が低いため、履歴書などでアピールすると、逆に「ITエンジニアとして知識レベルが高くないのでは」というマイナス印象を与える可能性があります。
ITパスポートの履歴書への書き方・記入例
履歴書の「免許・資格欄」にITパスポートを記載する場合、次のポイントに注意して正しく記載しましょう。
正式名称を書く
資格名を履歴書に書く場合、必ず正式名称を記載します。ITパスポートの正式名称は「ITパスポート試験」です。略称である「iパス」と書くのはNGです。
資格名の後には「合格」と書いておきます。
主催団体を書く
資格の主催団体を履歴書に記入する場合も、正式名称で記載します。ITパスポートの主催団体は「情報処理推進機構」です。略称である「IPA」と書くのはNGです。
取得日付を書く
履歴書の「免許・資格欄」には、左側に資格取得日を記入する欄があります。ここに書く日付は、「合格証書に記載されている日付」です。試験実施日や合格発表日の日付を書かないようにしましょう。
表記は、西暦と和暦(平成・令和)、どちらでも構いません。他の欄の日付表記と統一しておいてください。
書く位置
複数の資格を記載する場合、一般的には取得した年月日順に、上から記載します。ただし、応募先企業の業種・職種に関係がない資格が並ぶ場合、アピール度が高いものを優先して上部に書く手もあります。応募先の求人で、ITの活用も期待されている場合は、上の位置に書いてもいいでしょう。
ITパスポート取得を転職活動に活かすには
ITパスポートは、転職活動において「アピール力が弱い」と考えている人も多いようです。しかしながら、採用ポジションによって、あるいは使い方によって、選考で効力を発揮する可能性があります。
例えば、次のように活用することができます。
「ITパスポート」保有者を優遇する求人を狙う
転職サイトで、「ITパスポート」と入力して検索すると、有資格者を優遇する求人がヒットします。例えば、未経験者を歓迎しているインフラエンジニアやITコンサルタントの求人などがあります。それらの求人を狙う手もあるでしょう。
未経験からITエンジニアを目指す場合、「学習意欲」をアピールできる
ITエンジニアは人材不足であるため、未経験者を歓迎している求人は多数あります。例えば、SIer(システムインテグレーター)、SES(システムエンジニアリングサービス)と呼ばれる技術者派遣企業などでは、未経験者を積極採用し、自社の研修プログラムによってITエンジニアを育成しています。
このような未経験者採用の選考では、「学習意欲があるか」が見られています。技術がどんどん進化していくIT業界において、エンジニアには自ら学習し続ける意欲と姿勢が欠かせないからです。
つまり、「入社後、研修でIT知識を学びます」という応募者よりも、すでに独自でIT知識を学び、資格を取得している応募者のほうが高く評価され、採用に至りやすいのです。
異業界からIT業界を目指す場合、「ITの基礎知識」をアピールできる
エンジニア以外の職種でも、異業界からIT業界への転職を目指す場合、ITの基礎知識があることはプラス評価につながる可能性があります。
例えば、販売職の方などは「ITの知識・スキルが乏しいのではないか」というイメージを持たれがちで、入社後にスムーズにキャッチアップできるかどうか不安視されることもあります。
ITパスポート資格を取得していることにより、「基礎を理解している」「すでに一定のITリテラシーを持っている」と、企業側の懸念を払しょくできるかもしれません。
事業会社への転職を目指す場合、「システム活用力」をアピールできる
冒頭でもお話ししたとおり、昨今はあらゆる業種・部門でIT導入が進んでいます。これからIT化を進めていく企業も少なくありません。その点で、ITパスポートを取得している応募者であれば、「ITに抵抗感がない」と思われるでしょう。
「システム導入プロジェクトの戦力になってくれるかもしれない」「システム導入後、部門の運用担当を任せられるかもしれない」など、期待を持ってもらえる可能性もあります。
特に、総務・経理・人事といった管理部門職の求人では、ITの知識はプラス評価される傾向が見られます。経営に近いポジションでも、今後はITの知見がより求められるようになると見込まれます。履歴書に書くというより、これからITの知識を付けていく上で、ITパスポートを足掛かりにしてもいいかもしれません。
ITパスポート以外にも、転職で役立つIT系資格には多くの種類があります。今後目指すキャリアに合わせて、学んでみてはいかがでしょうか。
IT資格の活かし方、IT業界への転職を成功させるポイントを知るためには、転職エージェントのサポートもぜひご活用ください。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。