退職には自己都合退職と会社都合退職があります。これは主に雇用保険の基本手当(失業手当)の支給時期などに影響します。これから退職を検討していて、自己都合退職と会社都合退職の違いを知りたい方向けに、社会保険労務士の岡氏が解説します。
自己都合退職と会社都合退職の違い
まず、自己都合退職と会社都合退職の違いについて理解しておきましょう。それぞれ解説します。
自己都合退職
自己都合退職とは、言葉の通り自分の都合で退職を申し出るケースを指します。例えば、キャリアチェンジのために退職したり、結婚や育児、介護など家族などの事情で退職したりするケースが自己都合退職に該当します。
会社都合退職
会社都合退職とは、会社の都合で退職となるケースを指します。例えば、経営不振による倒産、事業撤退による事業所の整理、パワーハラスメント、給与の未払い、長時間残業などによる退職が会社都合退職に該当します。
退職後に雇用保険の基本手当(失業手当)を受給する予定で、自分の退職が自己都合退職と会社都合退職のどちらに該当するのか判断ができない場合は、退職前に人事部に相談してみましょう。
懲戒解雇で退職した場合は?
就業規則に違反したり、法令違反で処罰を受けたり、機密情報を漏洩したりして、所属企業から懲戒解雇された場合は、労働者側の事由で解雇されているため、自己都合退職となります。この場合は、雇用保険の基本手当を受給するまでの給付制限期間が3カ月になる点に注意が必要です。
自己都合退職のデメリット
自己都合退職にデメリットはあるのでしょうか。代表的な3つのデメリットを解説します。
雇用保険の基本手当(失業手当)の支給が遅くなる
自己都合退職になると、雇用保険の基本手当(失業手当)の支給が遅くなります。ハローワークに行って失業保険の手続きをすると、受給資格が決定し雇用保険受給資格者証が交付されます。
会社都合退職であれば、約1週間で雇用保険の基本手当が支給されますが、自己都合退職では原則として7日経過した日の翌日から、2カ月間の給付制限期間があります。
つまり、自己都合退職は、会社都合と比べてすぐに雇用保険の基本手当を受給することができません。ただし、病気や育児、介護等のやむを得ない正当なる理由により退職した場合は特定理由離職者になり、給付制限期間が無い取扱いになります。
場合によっては選考で不利になる可能性がある
短期間で転職をしている場合、採用担当者は在籍期間の短さを懸念します。その際に、事業撤退など会社都合退職だった場合は、「致し方ない」という判断をされることもありますが、すべて自己都合で退職を繰り返している場合は、「入社してもすぐに辞めてしまうのでは」と判断されて、選考で不利になる可能性があります。
なお、履歴書には「一身上の都合により退職」と記載していたとしても、選考中に応募企業がリファレンスチェックなどを行い、就業規則などの違反行為があって所属企業から解雇されたことが判明した場合も、選考で不利になるでしょう。
退職金が減額になる可能性がある
一般的に、自己都合退職の場合、退職金は会社都合退職よりも低くなる傾向があります。中央労働委員会が発表している「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査」でも、会社都合退職に比べて、自己都合退職の退職金額は半分以下という結果になっています。
出典:令和3年賃金事情等総合調査(中央労働委員会)
出典:令和3年賃金事情等総合調査_「令和3年退職金、年金及び定年制事情調査」(中央労働委員会)
退職金は法的に義務付けられている制度ではないので、金額は企業によって異なりますが、自己都合よりも会社都合の方が退職金が大きい理由のひとつとして、業績不振などから希望退職を募るケースが挙げられます。希望退職制度を通じて退職した場合は会社都合退職になり、退職金も割り増しして支払われるケースが一般的です。このような背景から、自己都合退職よりも会社都合退職の方が割高になる傾向があります。
自己都合退職から会社都合退職への変更は可能?
自己都合退職ではなく、会社都合退職に変更することは可能なのでしょうか。2つのケースを解説します。
会社から自己都合退職を打診された場合
会社から「自己都合退職にしてもらえないか?」と打診されるケースです。企業としては、会社都合退職にすることによって訴訟などのリスクや助成金の減額など、いくつかのデメリットが生じます。そのため、会社都合退職にも関わらず自己都合退職を打診するケースがあるようですが、雇用保険の受給や退職金、選考への影響など、従業員側があえて自己都合退職にするメリットは多くはありません。打診された時点で冷静に判断して回答しましょう。
会社都合退職だと感じている場合
所属企業からは自己都合退職とされているものの、給与ダウンや長時間残業などでやむなく退職するなど、「会社都合なのでは?」と違和感を覚えるケースです。厚生労働省は、会社都合(特定受給資格者)の定義として「特定受給資格者及び特定理由離職者の判断基準」という資料を掲示しています。該当するか確認し、該当する場合は給与明細やタイムカードなど退職理由を裏付ける資料があれば準備して、ハローワークに相談してみましょう。
出典:特定受給資格者及び特定理由離職者の判断基準(厚生労働省)
自己都合退職の場合の雇用保険の手続き方法
自己都合退職の場合の、雇用保険の手続き方法について解説します。
雇用保険受給の条件
雇用保険の基本手当の受給資格は、原則として、離職前の2年間に被保険者になっていた期間が12カ月以上必要です。ただし、倒産や解雇、雇止めによって労働契約が更新されないなど、病気や介護により退職などやむを得ない理由により退職した場合は、離職前の1年間に被保険者期間が通算して6カ月あれば受給することができます。
なお、離職前2年間(倒産や解雇などの場合は1年間)の間に病気や怪我、出産や育児などの理由によって30日以上給与を受け取れなかった場合は、4年間を最長として給与を受け取れなかった日数を加算して受給の要件を満たしているか判断されます。
雇用保険受給までの流れ
自己都合退職の場合、待期期間が7日経過した日の翌日から、原則2カ月間の給付制限期間があります。認定対象期間中は、原則2回以上の求職活動実績が必要です。
会社都合退職 | 自己都合退職 |
ハローワークに申し込み(資格決定) | |
待期期間(7日間) | |
雇用保険受給説明会 | |
失業認定日 | |
基本手当振込 | 給付制限 |
失業認定日(2回目) | |
基本手当振込 | |
失業認定日(3回目) | 失業認定日(2回目) |
基本手当振込 | 基本手当振込 |
給付日数や給付額の目安
自己都合退職の場合の給付日数
被保険者期間 | 10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 |
給付日数 | 90日 | 120日 | 150日 |
基本手当の日額は、原則として、退職直前の6カ月間に支払われた給与の合計金額を、180で割った金額のおよそ80%~45%です。基本手当の日額については、別途上限が定められています。
できるだけ転職先を見つけてから退職しよう
転職先を見つけずに退職した場合、雇用保険を受給することができます。働いていないため転職活動に時間を割くことができ、面接の日程調整も容易です。ただし、求職中は空白期間になってしまうため、長引くと選考に不利に働く可能性があります。
また、雇用保険の給付日数にも限りがあるため、仕事が決まらないと不安が募り、意に沿わない条件でも妥協して入社を決めてしまう可能性もあります。
できるだけ現職と転職活動は並行して行い、転職先を見つけてから退職した方がストレスを軽減し、納得できる企業を選択することができるでしょう。
社会保険労務士法人 岡 佳伸事務所 岡 佳伸氏
大手人材派遣会社にて1万人規模の派遣社員給与計算及び社会保険手続きに携わる。自動車部品メーカーなどで総務人事労務を担当した後に、労働局職員(ハローワーク勤務・厚生労働事務官)としてキャリア支援や雇用保険適用、給付の窓口業務、助成金関連業務に携わる。現在は開業社会保険労務士として複数の顧問先の給与計算及び社会保険手続きの事務を担当。各種実務講演会講師および社会保険・労務関連記事執筆・監修、TV出演、新聞記事取材などの実績多数。特定社会保険労務士、キャリアコンサルタント、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。