会社を辞める決心をしたものの、「初めてで何から手を付けて良いかわからない」人もいるでしょう。退職意思の伝え方や、退職交渉の進め方を誤ると、希望のスケジュール通りに退職できなかったり、トラブルが発生したりする可能性もあります。そこで、円滑に退職するための「会社の辞め方」について、組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタントの粟野友樹氏に解説していただきました。
会社の辞め方の基本的な流れとポイント
最初に、会社に退職の意思を伝えてから退職までの基本的な流れを把握しましょう。一般的には1カ月半〜2カ月ほどの期間を要することが多いようです。
退職の意思を伝える(2カ月〜1カ月半前)
退職の意思は、遅くとも退職希望日の1カ月半前には伝えるのがベストです。最初は必ず「直属の上司」に対して、感謝の気持ちを示しながら、丁重な姿勢で伝えることが大切です。転職理由で批判や不満を述べるのは避け、転職先企業についても触れないこと、退職希望日時を明確に伝えることもポイントです。
退職願・退職届を提出する(2カ月〜1カ月前)
「退職願」は、「○月○日に退職したい」と退職の意思を会社に願い出る書類です。必ずしも準備する必要はなく、口頭で伝えるのみで提出しないケースも多いようです。「退職届」は退職の申し出が受理され、退職日が確定した後に事務手続きとして届け出る書類です。書式や提出先などは、会社の規定に準じます。
業務の引き継ぎをする(1カ月前〜最終出社日)
退職が決まったら、担当業務の後任への引き継ぎを行います。リストアップした業務と引き継ぎスケジュールを後任者や上司と共有し、密にコミュニケーションを取りながら進めましょう。後任が決まる前から自分のできる範囲で進めておき、できるだけスケジュールに余裕を持たせることが大切です。
社内外への挨拶をする(1カ月前〜最終出社日)
退職の承諾を受けて退職願が受理された後、社内外の人に退職の挨拶をします。社外向けには必要に応じて取引先や得意先に挨拶をし、自分の後任者を紹介します。社内向けの挨拶は、最終出社日に行うのが一般的。いずれの場合も、挨拶のタイミングは上司や人事の指示に従うようにしましょう。
返却物・受け取る物の確認(退職1週間前〜最終出社日)
退職する際、会社に返却するものや会社から受け取るものがあります。返却物は、健康保険証などの書類のほか、社員証や名刺、会社から貸与されたパソコン、業務で使用したデータや書類など。受け取るものには、離職票や源泉徴収票などがあります。会社の指示に従い、漏れのないようにしましょう。
会社を円満退職するための準備と注意点
会社を円満退職するには、最初の話の切り出し方やタイミングが重要になります。その意味では、転職活動のスケジュールも含めて考える必要があるでしょう。退職の意思を伝えて退職交渉を始める前に、準備しておきたいことや注意点について解説します。
円満退職のポイントは、切り出す時期とタイミング
円満に退職するポイントの一つは、自分がいなくなることでチームや同僚にかける負担を最小限に抑えること。例えば、次のようなポイントに留意しましょう。
- 担当プロジェクトが完了、あるいは一区切りがついたタイミングを選ぶ
- 繁忙期の真っ只中での離脱はできるだけ避ける
- 後任者の選定や業務の引き継ぎを、余裕を持って行えるだけの期間をとる
- 期末など、定期の組織変更のタイミングを踏まえ、組織改編や人事異動が決定する前に退職意思を告げる
とはいえ、会社の事情に考慮するあまり、せっかく訪れたチャンスを逃すことは避けたいものです。なるべく自分にとって最適なタイミングで辞められるようにするためには、転職先の入社日が決まって退職の意思を伝える前までに、就業規則の確認や以前退職した人の傾向を把握しておくなど、準備をしておくことをおすすめします。
退職することが具体的に決まった際には、上長と相談しながら、引き継ぎに必要な資料を用意したり、社外への挨拶などを進めたりしていきましょう。
辞める理由や覚悟を再確認する
今の会社に退職意思を告げる前に、まずは自分の意思がしっかり固まっているのかどうかを見つめ直してみてください。
退職を申し出ると、会社側から強く引き止められる可能性があります。それによって気持ちが揺らいてしまい「とりあえず今の会社に残ろう」という選択をしたものの、不満点は改善されず、しかも一度退職を伝えたことで職場に気まずい雰囲気が漂うケースも少なくありません。
自分自身が覚悟を決め、強い意思があることを会社に伝えれば、強引に引き止められたり 、退職願の受理を拒まれたりする事態を防げるかもしれません。
逆に、自分の中で今ひとつ覚悟が決まらないのであれば、今は転職すべきタイミングではないことも考えられます。現状への不満など一時的な感情に流されず、転職する目的を整理してみましょう。
退職意思の表示から退職までのスケジュール
民法上では、退職意思を表示してから2週間が経てば、いつでも辞めることができます。
しかしながら、原則としては会社の「就業規則」に従うようにしましょう。就業規則には、「退職は1カ月前に申し出る」などの規定が設けられていることがあります。就業規則を確認し、それに沿って退職手続きを進めていきましょう。
また、「退職前に有給休暇を消化したい」「後任者の選定や引き継ぎに時間がかかりそう」といった場合には、就業規則に関わらず、早めに退職意思を伝えておきましょう。
会社を辞める際の円満な伝え方
「病気でどうしても会社に行けなくなった」などの例外的なケースを除き、会社を辞める意思は、直属の上司に直接伝えることが基本です。電話やメールのみの報告では、決して円満退職にはならないことを心得ておきましょう。
また、会社を辞める決意は固くても、いきなり「退職します」と切り出したり、退職願を提出したりするのではなく、「相談がしたい」という形でワンクッション置き、時間を取ってもらうようにするとスムーズです。
直接伝える場合
上司が忙しくしていない時間を見計らい、「大切なお話があるので、別室で○分ほどお話しさせていただけないでしょうか?」と告げて、周囲に人のいない環境で場を設けてもらうか、すぐに時間を取るのが難しければ、面談のアポを取っておくと良いでしょう。くれぐれも、周囲に人のいる場所でいきなり退職について話をすることは避けましょう。
電話やメールで伝える場合
上司が常に忙しく、なかなか話すきっかけがないという場合は、電話やメールで最初の連絡をしても構いません。その際は、「お話ししたいことがあるので、都合の良い日に○分程度、お時間をいただけないでしょうか?」と簡潔に伝えてアポを取ると良いでしょう。あらかじめ退職の相談であることを伝えておきたい場合も、「退職のご相談につきまして」などと表記するに留め、詳しい理由は直接会って話すようにしましょう。
なお、上司への伝え方については、以下の記事も参考にしてください。
退職時に起きがちなトラブルとその回避法
退職にあたって起こりがちなトラブルをご紹介します。注意すべきことや、やってはいけないことを心得ておくようにしましょう
退職を「最初に告げる相手」を間違え、関係が悪化
最初に退職意思を告げるときは、必ず「直属の上司」に話しましょう。その上の上長、社長などに先に話してしまうと、直属の上司は管理能力を問われてしまうかもしれません。また、同僚・先輩・後輩に先に話し、後から上司の耳に入る…という事態も避けなければなりません。直属の上司との関係が悪化すると、退職手続きがスムーズに進まなかったり、後味悪く会社を去る結果になったりする可能性があります。くれぐれも礼儀を大切にしましょう。
退職願を出したのに、勝手に保留にされていた
「就業規則に従い、退社希望日の1カ月前 に直属の上司である課長に退職願を提出。しかし課長は渋い顔で『考えておく』と言ったきり。次の会社への入社日が迫ってきたので状況を確認したら、部長や人事に話が通っていなかった」――そんなケースも実際に起きています。
上司が退職を認めたくないがために、退職願を正式に受理せず、話を先送りにしてしまうことがあります。この場合、上司とじっくり話をして納得してもらうに越したことはありませんが、次の会社への入社日が決まっていると、そんな時間もありません。部門長や人事部門に相談し、解決を図りましょう。
こうした事態を防ぐためには、退職交渉のやりとりや行動記録を残しておくのが得策です。
退職願には、希望退職日、提出日を明記し、コピーを取っておきます。処理状況の確認をする際には、口頭だけでなくメールも送付し「確かに申請した」という証拠の履歴を残しておくといいでしょう。
強い引き留めに合い、キツイ言葉で責められた
「退職を申し出たら、上司や役員が代わる代わる説得に来た。あるときは、終業後2時間も役員室に閉じ込められ、『恩を仇で返すつもりか』と責められた」などという話も耳にします。
たとえ強い説得に折れて会社に残っても、一度会社を辞めようとした事実は残ります。上層部や同僚との信頼関係が崩れ、後々の昇進・昇格にマイナスに響くこともあるようです。
こうした局面で重要なのは、強い意思を表明することでしょう。
退職理由をあいまいに伝えると、相手は「説得の余地がある」と考え、待遇改善などを条件に引き止めに合う可能性も高くなります。退職交渉の際には「そういう理由や目的があるなら仕方ない」と思わせるような、確固たる退職理由を述べましょう。このときは、今の会社への不平不満ではなく、将来の夢やキャリアビジョンを語ることをおすすめします。
また、転職活動中から引き継ぎのためのマニュアルや計画表をしっかり作っておくことも、強い意思を表明する手段の一つとして有効です。退職交渉は、「退職を認めていただく」のではなく、「なるべく会社に迷惑をかけずに済む退職スケジュールを相談する」というタンスで臨むことが大切です。
組織人事コンサルティングSeguros 代表コンサルタント 粟野友樹氏
約500名の転職成功を実現してきたキャリアアドバイザー経験と、複数企業での採用人事経験をもとに、個人の転職支援や企業の採用支援コンサルを行っている。